皇女の帰郷と賑やかな再会
大帝国の父様とは、年に四回会いに行く約束を交わしている。
和平が正式に締結され、私が皇女としてグリースフォールド公爵家に嫁いだことが公表されたあと、私とユリアスはさっそく大帝国へと足を運んだ。
そこでも大々的に結婚の報告が行われ、国中が祝賀ムードに包まれた。
ちょっと怖いイメージのあった大帝国は、実際に馬車で大通りを進んでみると、エキゾチックで美しい街並みが広がり、平穏だった。
沿道を埋め尽くす人々が笑顔で手を振って歓迎してくれた光景は、一生忘れられないだろう。
数日の滞在の間、父様はいろいろな場所へ私を連れ出し、国の文化や名産品を熱心に教えてくれた。
「ありすぎて語り尽くせないな」
そう笑う父様は、心から国を愛する立派な皇帝の顔をしていた。
サバルビン国に帰国したあと、私はすっかり帝国の魅力に取り憑かれ、すぐに次回の訪問計画を立て始めた。
今回はユリアスだけでなく、親友のナターシャとサミュエル、そして護衛のブルースも一緒だ。
ナターシャとサミュエルに再会したのは、偶然が重なった結果だった。
ユリアスの親戚の館で開催された夜会。
豪華なドレスに身を包み、ユリアスにエスコートされて現れた私を待っていたのは。
「……えっ、リゼ!?」
「えええええ!?」
銀のトレイを持って控えていたメイドと、会場を駆け回っていた給仕の少年。その館で働いていたナターシャとサミュエルだったのだ。
混乱する二人に、私は大慌てで事情を説明した。
私が実は帝国の皇女だったこと、そして隣にいるユリアスと結婚したこと。
ユリアスも最初こそ驚いていたが、私の大切な友人だと知ると、完璧な貴族の微笑みを浮かべて二人をスカウトしてくれた。
「リゼの友人なら、ぜひ我が家へ来てください。給料は今の五倍出しましょう」
「ご、五倍!?行きます!!」
こうして、二人は今ではユリアスの屋敷で衣食住付きで働いている。
友達がメイドになってしまったのは少し不思議な気分だけれど、二人は私が皇女になっても態度を変えず、昔のままの空気感でいてくれるのが、何より嬉しかった。
そして現在、帝国へ向かう馬車の中。
車内は王族の移動とは思えないほど賑やかだ。
「見てよこれ! 新作の『聖騎士と暗黒騎士の禁じられた愛』、最高に尊いの!」
ナターシャは人目も気にせず、巷で大流行している『騎士同士のカップリング物語』の冊子をガバッと開いた。
王都での生活を謳歌している彼女は、すっかりこの手の界隈にハマり、夜な夜な交流会に出没しているらしい。
隣のサミュエルは「また始まったよ……」と呆れたように溜息をついている。
けれど、ナターシャの隣に座るブルースは違った。
彼は身を乗り出し、食い入るようにページを見つめている。
「……ほう。この場面、陣形としては不自然ですが、心理描写としては理にかなっていますね。実は本当の騎士団では……」
「すごーい!ブルースさん、詳しい!さすが現役!」
ブルースのガチすぎる解説に、ナターシャは尊敬の眼差し。ブルースもまんざらでもなさそうだ。
すると、サミュエルがふと冊子の文章を見てツッコんだ。
「っていうかブルースさん、このキャラのあなたじゃないですか!!」
「な、なななっ…、なんてことだ!こんな破廉恥な妄想本、即刻禁止にすべきだ!」
今さら顔を真っ赤にして怒るブルース。
すると、サミュエルがポツリと呟いた。
「……俺なら、王宮に住むメイド同士の密やかな物語が読みたいなぁ」
その瞬間、車内に沈黙が流れた。
ナターシャとブルースが顔を見合わせ、同時に小さく頷く。
「「……それも悪くない」」
この三人の中で、新しい世界の扉が開き始めていることだけは、確信を持って分かった。
賑やかな議論を眺めて微笑んでいると、隣のユリアスがそっと私の手を包み込んだ。
「やはり、二人きりの馬車にすべきでしたね」
冗談めかしているようで、その眼差しは柔らかい。
私が「賑やかで楽しいですよ」と笑うと、彼は愛おしそうに私の指先へ唇を寄せた。
「君が笑うなら、私もそれが一番幸せです。……ですが、このまま攫ってしまいたいという衝動を抑えるのは、なかなか骨が折れますよ」
相変わらず空気をメロくするのが上手である。
私は気恥ずかしくなりながらもうんと頷き、逞しい硬さがあり、心地よい体温が伝わる彼の肩にそっと頭を預けた。
車内に溢れる賑やかな笑い声と、隣にある確かな安心。
幸せだな。
満たされる気持ち味わいながら青空を見上げると、ケラケラと笑う母の顔が浮かんで、私はにっこりと微笑みを返すのだった。
完結です。
最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。
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