表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

皇女の帰郷と賑やかな再会

 


 大帝国の父様とは、年に四回会いに行く約束を交わしている。

 和平が正式に締結され、私が皇女としてグリースフォールド公爵家に嫁いだことが公表されたあと、私とユリアスはさっそく大帝国へと足を運んだ。

 そこでも大々的に結婚の報告が行われ、国中が祝賀ムードに包まれた。

 ちょっと怖いイメージのあった大帝国は、実際に馬車で大通りを進んでみると、エキゾチックで美しい街並みが広がり、平穏だった。

 沿道を埋め尽くす人々が笑顔で手を振って歓迎してくれた光景は、一生忘れられないだろう。

 数日の滞在の間、父様はいろいろな場所へ私を連れ出し、国の文化や名産品を熱心に教えてくれた。


「ありすぎて語り尽くせないな」


 そう笑う父様は、心から国を愛する立派な皇帝の顔をしていた。


 サバルビン国に帰国したあと、私はすっかり帝国の魅力に取り憑かれ、すぐに次回の訪問計画を立て始めた。

 今回はユリアスだけでなく、親友のナターシャとサミュエル、そして護衛のブルースも一緒だ。

 ナターシャとサミュエルに再会したのは、偶然が重なった結果だった。


 ユリアスの親戚の館で開催された夜会。

 豪華なドレスに身を包み、ユリアスにエスコートされて現れた私を待っていたのは。


「……えっ、リゼ!?」

「えええええ!?」


 銀のトレイを持って控えていたメイドと、会場を駆け回っていた給仕の少年。その館で働いていたナターシャとサミュエルだったのだ。

 混乱する二人に、私は大慌てで事情を説明した。

 私が実は帝国の皇女だったこと、そして隣にいるユリアスと結婚したこと。

 ユリアスも最初こそ驚いていたが、私の大切な友人だと知ると、完璧な貴族の微笑みを浮かべて二人をスカウトしてくれた。


「リゼの友人なら、ぜひ我が家へ来てください。給料は今の五倍出しましょう」

「ご、五倍!?行きます!!」


 こうして、二人は今ではユリアスの屋敷で衣食住付きで働いている。

 友達がメイドになってしまったのは少し不思議な気分だけれど、二人は私が皇女になっても態度を変えず、昔のままの空気感でいてくれるのが、何より嬉しかった。




 そして現在、帝国へ向かう馬車の中。

 車内は王族の移動とは思えないほど賑やかだ。


「見てよこれ! 新作の『聖騎士と暗黒騎士の禁じられた愛』、最高に尊いの!」


 ナターシャは人目も気にせず、巷で大流行している『騎士同士のカップリング物語』の冊子をガバッと開いた。

 王都での生活を謳歌している彼女は、すっかりこの手の界隈にハマり、夜な夜な交流会に出没しているらしい。


 隣のサミュエルは「また始まったよ……」と呆れたように溜息をついている。

 けれど、ナターシャの隣に座るブルースは違った。

 彼は身を乗り出し、食い入るようにページを見つめている。


「……ほう。この場面、陣形としては不自然ですが、心理描写としては理にかなっていますね。実は本当の騎士団では……」

「すごーい!ブルースさん、詳しい!さすが現役!」


 ブルースのガチすぎる解説に、ナターシャは尊敬の眼差し。ブルースもまんざらでもなさそうだ。

 すると、サミュエルがふと冊子の文章を見てツッコんだ。


「っていうかブルースさん、このキャラのあなたじゃないですか!!」

「な、なななっ…、なんてことだ!こんな破廉恥な妄想本、即刻禁止にすべきだ!」


 今さら顔を真っ赤にして怒るブルース。

 すると、サミュエルがポツリと呟いた。


「……俺なら、王宮に住むメイド同士の密やかな物語が読みたいなぁ」


 その瞬間、車内に沈黙が流れた。

 ナターシャとブルースが顔を見合わせ、同時に小さく頷く。


「「……それも悪くない」」


 この三人の中で、新しい世界の扉が開き始めていることだけは、確信を持って分かった。

 賑やかな議論を眺めて微笑んでいると、隣のユリアスがそっと私の手を包み込んだ。


「やはり、二人きりの馬車にすべきでしたね」


 冗談めかしているようで、その眼差しは柔らかい。

 私が「賑やかで楽しいですよ」と笑うと、彼は愛おしそうに私の指先へ唇を寄せた。


「君が笑うなら、私もそれが一番幸せです。……ですが、このまま攫ってしまいたいという衝動を抑えるのは、なかなか骨が折れますよ」


 相変わらず空気をメロくするのが上手である。

 私は気恥ずかしくなりながらもうんと頷き、逞しい硬さがあり、心地よい体温が伝わる彼の肩にそっと頭を預けた。


 車内に溢れる賑やかな笑い声と、隣にある確かな安心。

 幸せだな。

 満たされる気持ち味わいながら青空を見上げると、ケラケラと笑う母の顔が浮かんで、私はにっこりと微笑みを返すのだった。




















完結です。

最後まで読んでくださいまして、ありがとうございました。

少しでもお楽しみいただけたなら、嬉しい限りです♡

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ