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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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密談


 王太后のプレゼントに問題は見つからなかったし、お礼の訪問は母とロイドが同行し、事なく済んでいる。

 相変わらずノエルは王太后に良い印象しかないようだが、接点がなければ問題も起こらない。


 私たちは、馬車に乗り、兄とダリルは馬で別荘に向かった。

 別荘は気持ちよく整えられ、すぐにでも使える様子だった。使用人が常駐しているのだろう。

 白水宮と似た雰囲気があり、既に懐かしくさえ感じた。


「なんだか懐しいような気分になる。おかしいな」


 兄が私の思ったことをそのまま口にする。

 

 ニコラスは私たちを居心地のよい部屋に通してくれた。

 全員が座ると、すぐにお茶が出された。


「王太后の動きを調べていますが、一番深く潜っていた者を失ったので、難航しています」


「ああ、あの男か」 


 兄がそう呟き、ブライアン様に何か耳打ちした。

 その様子を見て、ニコラスがぴくっと眉を動かす。


「何も漏れて来ないところを見ると、動かしているのはごく少人数でしょう。大がかりな工作ではないはずです」


「一体何を企んでいるやら」


 兄が唸りながら、「ここからならリース国も近いし、いっそこのまま帰っちまおうか」と言う。

 本当に、そうできたらどんなにいいか。

 ため息を隠すように、カップに顔を伏せてお茶を飲んでいたら、ニコラスが「そうしましょうか」と言い出した。


「マリア嬢が持病で倒れた事にして、帰国してはどうでしょう。ご挨拶はブライアン様とエリック様にお任せして」


 私は、はじかれたようにカップから顔を上げた。


「そんなこと......」


「できますよ。かかりつけの医者の薬が必要だと言い張ればいいのです」


 ブライアン様が微笑む。やはりその微笑みには怒りが滲んでいる。

 

「でもブライアン様たちが危険です」


「いいえ、国境付近の街に、公爵家の騎士団を待機させてあります。彼らを呼ぶから大丈夫」


 口が開いたままになってしまった。何て手回しのよいこと。


「あなたを救い出しに来たのですよ。できる限りの手を講じています」


 ニコラスが快活に笑い出した。


「ではこのまま発ちますか?」


 そんなわけにはいかない。両親とノエルと他の者たちは、キャンプ場にいる。

 離宮に残った者もいる。置いていけない。


「残ったものが危険です。何とか一緒に出たいけど、手はないでしょうか」


 そう言って皆を見回したら、まず兄が口火を切った。


「マリアの具合が悪くなって、ここで静養させてもらうという筋書きはどうだろう。この国での滞在も後わずかだし、帰国の準備で、明日にでもこちらに全てを移動させる。数日間静養させて貰って、その後帰国」


「いいですね。それを明日の開会宣言直前に報告すれば、それまでに色々と準備ができる」


 ニコラスが賛成した。

 ブライアン様もその案に乗り気のようだ。


「私たちは狩猟祭に出よう。そうすれば王太后たちは時間があると思うだろう。マリア嬢たちは朝のうちに、リース国に向かって出発すればいい。残りの者たちは、私が率いて帰る」



「ここの使用人たちに箝口令が敷けますか?」


 兄が聞くと、ニコラスが渋面を作った。


「ここにも王家側の手の者はいます。追い出すのは相続後でいいと思って放っていました。今日は非番ですが、明日の朝早くにやって来ます」


「捕まえて閉じ込めておくか? それより明日の朝、マリア嬢が体調を崩して寝込んでいると、報告に行かせるのもいいな。報告に出なければ捕まえよう」


 ブライアン様は簡単に言う。


「では、離宮に連絡を送らなければ。誰を向かわせたらいいかな」


 兄の言葉にダリルが立ち上がったが、ベルも立ち上がった。


「女性の荷には女性の指示が必要です。あちらに7割方の荷が残っています。帰国に向けてマリア嬢の荷はまとめてありますが、奥様とノエル様は多分まだでしょう。半分積めればいいところです」


 ニコラスが、「この屋敷の者数人と、キャロルを迎わせます」と言い、後ろに立っていたキャロルに何事か伝えている。


「大事な物だけ運んでください。物が残っていた方がそれらしいでしょう。積み残した物の運搬は、私どもが頼まれたことにしておきます」


 ニコラスが請け負ってくれた。

 ブライアン様がまとめるように言う。


 「ダリルとベルは、持ち帰る品を選んで積み込みを指示してくれ。私とエマはここでマリア嬢に付いておく。エリックはキャンプに戻って、こっちに泊まらせてもらうと伝えてくれ。そして狩猟後すぐに発てるよう、周囲の者に根回しを頼む」


 そう言うと、明日の段取りの相談にかかった。

 その始めに、兄が大声を上げた。


「待った。シスリーの件を忘れていた。ニコラス殿、鉱山は遺贈に含まれるのですか?」


「含まれますよ」とあっさりした答えが返ってくる。

 

「それはいい。発表される時に私も立ち会いたいな」


 ブライアン様が、また怖い笑顔を浮かべる。

 私以外の皆がそうだ。ベルまでが似たような表情を浮かべている。

 

「ベル、落ち着いて。いつもと違うわよ」


 ベルがこっちを向いた。


「今まで、何とかこの場を凌ごうと思ってきました。でも相手は本気も本気。大して取り繕おうともしていません。ブライアン様を見て、受け身では負けると悟ったのです」


 キッパリしたベルの言葉に、「頼もしい」とエマが叫び、男たちは感心したようにベルを見る。

 そんな様子を、キャロルは羨ましげに見ている。

 もしかしたらキャロルは騎士志望なのだろうか。


 ニコラスはキャロルを見て、何事かを考える様子だ。


 明日一日の予定が組み上がり、それぞれの役割を果たしに皆が散って行った。

 残ったのは私とブライアン様とエマ、それにニコラス。


「今のうちに聞いておきたい。遺言の発表で騒ぎが起きるだろう。抑え込めるのか?」


 ブライアン様が切り出すと、ニコラスは、「はい」と答えた。


「完璧にマーカス様個人の資産です。どう扱おうが文句は言えない。しかも恩人への遺贈を王太后本人も認め、周囲にも広めている。今更ひっくり返すのはメンツにかかわります。だが、それでもごねるでしょうね。その場合は、今までの事故の記録を公開すると脅します」


「ほう、できたら共有させていただきたいものだ。切り札に使えるな」


 二人は密やかに話し合っている。

 私は先ほどから、こちらが悪者のような錯覚を覚え、落ち着かない。


「さあ、マリア嬢。今日は早く寝てしっかり休養を取ってください。明日は朝から馬車の旅だ。リース国に入るまでは、強行軍になります」


 ブライアン様に手を取られ、使用人に案内されて寝室に向かう。エマは続きの間で休むことになっている。

 そしてブライアン様は寝ずの番をするという。


「ここなら安全ではないでしょうか。少し寝ていただかないと、お体に触ります」


「一緒に寝たいところですが、そうもいかない。明日からの旅に支障が出てしまいますから」


「はあ、一緒に?」


 エマがブライアン様を引き離し、「油断もスキもあったもんじゃない」と言いながら引っ張って行く。

 そしてドアからポイっと彼を放り出すと、「では寝ずの番をよろしくお願いします」と言ってドアを閉めた。

 

「エマ、せめて椅子や毛布を渡さないと、廊下に立っていてもらうわけにはいかないわ」


「いいのですよ、自分でどうにかするでしょう。情けは無用です」


 心配そうな私を見て、エマは優しく微笑んだ。


「騎士は慣れているから大丈夫です。野営中に歩哨をしたりしますから」


 ブライアン様がドアを少し開けて覗き込んできた。


「マリア嬢、再会のキスは? もしくは寝ずの番へのご褒美は?」


「未練がましいですよ。ブライアン様」


 エマが叱りに行くのを止め、私はドアのところに向かった。

 ドアから顔を出しているブライアン様の唇に、軽いキスを与え、「寂しかったです」と告げた。

 ブライアン様は珍しく固まっている。


 エマが私を少し下がらせ、そっとドアを閉めた。

 そして髪をかき上げながら首を振って言った。

「さすがに、ちょっと気の毒かしら」


 



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― 新着の感想 ―
すばらしい生殺しw ノエルの危うい行動をまだ知らないところにハラハラしたり、ベルの腹くくった感じのするセリフにぐっときたり、エマのブライアン様に対する雑な扱いとかもいろいろおもしろかったです。 けど最…
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