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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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前夜祭のさなか

「狩った獲物の判定は、王家の狩猟係が行う。皆競い合ってよい獲物を探してくれ。優勝者には私から、この月桂冠を授与する」


 そう言って王が掲げたのは銀細工にシスリーが散らされた月桂冠だった。

 それは松明の火に照らされ、鋭く光っている。


 わあーっと声が上がる。


「シスリーをあんなに使ってあるなんて。今回の狩りは本気でやってもらわなくては」


「皆、目の色が変わったわね。私も夫と家臣団に気合を入れに行くわ」


 周囲の声を拾って母が、「あの石、綺麗ね。見たことがないけど何なの?」と聞いてきた。


「シスリーという石で、この国でしか採れないそうです。貴重で高価な石です。私はお土産に小さいのを買いました」


「まあ」と言って母は目を瞠った。


「いつの間に?」


 エマが一歩前に出て、剣を指さした。


「私も剣飾りを買いましたので、ごらんになりますか? 街歩きに出たときに買ったのです。エリック様も剣飾りを購入されていました」


 母は羨ましそうに石を見ている。


「素敵だわ。マリアったら気か利かないわね。教えてくれたら私も買いに行ったのに」


 母とノエルが揃って口を尖らせている。

 やはりこの二人は似ている。


「もう一度店に行く予定だから、一緒にいきましょうか」


 その時、横で話す夫人たちが声を少し潜めた。


「シスリー鉱山が王のものになったら、安くなると思う?」


「無理ね。マーカス様だから私たちも買える値段だったのよ。きっと倍どころじゃなく跳ね上がるわね」


 その会話が引っかかった。

 確か領地には鉱山があると、ニコラスが言っていた。

 私はベルの方を向いて、まさかねと唇だけ動かした。

 ベルはエマの剣を見たあと、自分の胸元からペンダントを引っ張り出して、しげしげと見る。


「まあ、ベルも買ったの? すごく洒落ているわ。私たちもぜひ買いに行かなくちゃ」


 母が目ざとくそれに目をつける。

 そして夫人たちに話しかけに行った。


「シスリーをお土産に購入したいのですけど、少し教えていただけません?」


 そしてしばらくコソコソ話した後、戻ってきた。


「この付近にある鉱山でしか採れない石ですって。今まではマーカス様個人の所有だったけど、もうすぐ王が相続するそうよ。そうしたら価格が吊り上がるだろうから、買うなら早めにって言われたわ」


 嫌な予感が当たってしまったようだ。それを相続したら大事になる。

 ベルが私の袖を掴む。


「お嬢様……」


 そこに兄が駆け寄ってきた。顔付きが怖い。たぶん兄もこの話を聞いたのだろう。


「おい、マリア。ちょっと来てくれ」


 そう言って腕を引っ張った。

 ブライアン様がムッとしたように、「乱暴だな」と言ってその手を弾く。


 王は狩りの説明を終え、最後に再び冠を高く掲げた。


「勝者にこの月桂樹の冠を被せよう。各チームとも頑張ってくれ」


 歓声が沸き上がり、それは長く続いた。


「おい、ちょっと来てくれ」


 兄が再び急かす。

 私は兄に引かれるまま歩いた。もちろんブライアン様とエマとベルが付いてくる。

 その後ろ姿に、母が声をかけた。


「明日の朝は早いのだから、すぐ戻っていらっしゃい。明日は本気を出してもらうわよ」


 その言葉を無視して、兄は黙ってズンズン歩いていく。


 人気が無い所まで来ると、クルリと振り返り、「ニコラスに連絡が付くか?」と聞いてきた。


「こっちに来ているし、キャロルに頼めば、会う段取りをつけてくれると思うわ」


「会おう。そして万が一鉱山が含まれていたら、それは断ろう。あんなデッカイ爆弾を背負わされたら、たまったもんじゃない。いいか?」


「ええ、もちろんだわ」


 ブライアン様とエマには、領地を譲り受けることは話したが、鉱山の話はしていない。特別なものとは思っていなかったから。


「その希少な石が採れる鉱山も、遺産に含まれるということですか?」


 そうブライアン様が私に聞いてきたので、私は彼を振り返った。


「確認しないと分からないけど、もしそうなら恐ろしいわ」


 不安になって訴えかける私に、ブライアン様が切れそうな笑みを向ける。


「貰っておいたらいい。何か言ってきたら公爵家の騎士団で一蹴してやりましょう」


 ブライアン様の怒りは、収まっていないらしい。

 兄はブライアン様の言葉を聞いて一拍置いてから、「おー」と言った。そしてパチンと手を打った。


「そう言えば……いい気味だな! さぞ慌てるだろう」


 さっきまでと真逆な事を言いだした。


「二人とも、無茶なことを言わないで。まったく騎士っていうのは」


「騎士ではないけど賛成します」とベルが言い出した。


「ベル?」


「仕返ししたいです」


 きっぱり言う。エマはベルの肩をバシバシ叩き笑っている。


「ニコラスと話がしたいな。見通しを聞いておきたい。全く策もなく踏み切ったわけではあるまい」


 ブライアン様がそう言い出したので、私たちはテントの方に戻って行った。皆、かなり勢い付いている。私以外はだけれど。

 案の定キャロルはすぐに姿を現した。

 

「キャロル、ニコラスさんと話したいの。連絡がつくかしら」


「聞いてまいります。テントにいていただけますか?」


「わかったわ」


 キャロルが音を立てずに去っていった。


「わかりやすい密偵ですね」


 その後ろ姿を見送り、ブライアン様が私に向かって少し笑った。

 気持ちがほぐれたのか、言葉遣いも柔らかいものに戻っている。


 私もキャロルは少し未熟だと思っているが、かばいたくなってしまった。


「まだ若いですもの。少し分かりやすいのは仕方ないわ」


 私たちはとりあえず男性用のテントに入った。

 そこには父とロイド、ダリルの三人がいた。


「エリック、ダリルをほっぽってどこかへ走って行ったそうだな。落ち着きがなさすぎるぞ」


 父の叱責に無言で頷き、ダリルには「急いでいたんだ」と言い訳をした。


 この兄の従者をするのは大変だろう。

 ブライアン様は自分の従者を休ませている、と言って連れて来ていない。

 秘密を守るため遠ざけているのだろうけれど、彼の従者も、そう言えばもの静かだ。


「お邪魔してもよろしいでしょうか」


 そうブライアン様が声をかけると、父は立って彼を迎えた。

 テントの中はロウソクやランタンで明るく、周囲に椅子やベッドが置かれていて快適そうだ。

 父はニコニコしながらブライアン様に椅子の一つを勧めた。


「ブライアン殿がいらっしゃってから、とても気が楽になりました。やはり頼もしいですね。マリアは幸せ者だ」


 父はいつもよりずっと気楽な感じでブライアン様に接している。やはり野外での催し物は気構えがいつもとは違うのだろう。開放的になり、何事も少し気楽になる。

 和やかな雰囲気に癒されながら、のんびりとした父の話を聞いていると、ニコラスがやってきた。

 

 ニコラスは部屋に集まった人々を見て、まずは父に挨拶をした。


「遺贈の手続きで相談に伺いました。帰国される前にご確認したいことが何点かございます」


「おお、それはご足労いただき申し訳ございません」


 父もニコラスを一介の従者とは思わなかったようだ。丁寧に対応している。


「マーカス様の別荘までご同行いただいてよろしいでしょうか。すぐ近い場所なので、二時間はかからないと思います」


 父は少し驚いたようだが、「もうすぐ帰国ですからな。必要なことならお願いします」と認めた。


 父とロイドを残し、私たちは揃ってテントを出た。


「マリア様。奥様とノエル様はテントにお戻りです。お二人には私からお伝えしておきます」


 ロイドが出掛けに声をかけてくれた。

 ノエル周辺に異常はないようだ。





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― 新着の感想 ―
お願いだから王太后ノエルを巻き込まないでほしい。ノエルが何か誘導されてやらかしてしまい裁かれてもう家族とは一緒にいられないみたいな苦い展開は避けたい、、
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