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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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狩猟祭1


「さあて、腕が鳴るな。ブライアン殿のチームには負けないぞ」


 兄が叫ぶ。

 

「はいっ」


 クルス家騎士団が元気に答えた。皆やる気満々だ。久しぶりの狩りに向けて張り切っている。

 今私たちはマーカス様の狩場に向かう道中だ。


 狩猟祭は明日が本番。今夜は前夜祭が行われる。

 会場は、マーカス様の別荘近くの狩場があてられている。王がマーカス様の追悼で、そこを使おうと言い出したのだ。

 没後半年まではマーカス様の個人資産なので拒否できるのだが、ニコラスはそれを受け入れたと言う。


「私たちのホームグラウンドです。その方が王太后の仕掛けることに備えられる。ごく自然に私も、手の者たちも全員で警護に当たれますから」


 事前に報告に来たニコラスは、開始二日前には全ての準備を整え、客を迎えられるように準備をすると言っていた。


 現地まで王宮から一日かかるので、気の早い者たちはもう現地に向かっている。

 

「準備が大変でしょう」 


 心配になって言った私に、「長く、そういう仕事をしてきています。王に仕えてきたおかげで、経験の幅が広がりました」と笑った。


「狩猟祭は隙ができやすいので心配しています。現地に入るのはいつを予定されていますか?」


「前日の午後に到着するよう予定しています。テントでの生活は不便だし無防備だから」


 ニコラスはニコッとした。


「キャロルが先に現地に入って、クルス家のテント周辺の確認を行います。ご安心を」


 そう言ってから申し訳なさそうな表情でうつむいた。


「別荘での暗殺未遂は、私の油断でした。招待主としての面目があるから、あからさまなことは出来ないだろうと思っていたのです」


「私たちもそうです。この様子だと毒殺の線もあるかもしれない。狩猟祭には食料も持参します。それと薬も」


 私の顔をしみじみと眺め、柔らかく笑う。


「エリス様も似たような方だったのでしょうか。頼もしいですね」


 そう言ってから声を出して笑った。


「婚約者のブライアン様は、雰囲気が変わられましたね。いや、頼もしい」


 

 私はその会話を思い出して、複雑な気分になった。ブライアン様には、色々と抑えてもらわなければ。

 夜会では、あの後誰ともダンスどころか話もできなかった。


 ブライアン様がダンスを許したのはエマだけだった。

 踊ってみて、エマが素晴らしいダンスパートナーなのがわかったのは、良かったけど。

 周囲の人々にも楽しんでもらえたようだ。女性方が目をキラキラさせてエマを見ていた。



 午後遅くにキャンプ地に着くと、転々と配置されたテントでは既に灯が灯されていた。

 まだ使用人たちが忙しく出入りをしている所も有れば、もうすっかり落ち着いているところもある。

 テントの前に椅子を出して、そういった様子を眺めている人々は、少し自慢げにワインやビールを傾けている。


 王宮の社交界がそのまま移動したこの場は、野趣がありながら優雅でもある。そして人々の興奮がこの場を満たしている。


 この後、前夜祭がある。

 私は到着後からずっと、ブライアン様とエマとベルに囲まれている。

 片手はずっとブライアン様に握られたままだ。警戒のためだし、もう慣れたけど、周囲からどう見られているのだろう。

 

「エマ、私たちの様子は周囲にはどう見えていると思う?」


 エマが手を繋いだ私たちから少し離れ、じっくりと見る。それから周囲の様子も見回す。


「熱々のカップルですね。周囲の人々は、あまり見ないようにしている感じです。ブライアン様が睨むから」

 

 アハハと軽く笑っているけど、それで良いのだろうか。私は恥ずかしい。


 我が家のテントは二つで男女に分かれる。近くに騎士と使用人用のテントが張られている。

 ブライアン様たちのテントはその横。

 安心感のある布陣で、うれしい反面不安になる。


 王太后が諦めるはずがないのに、これはおかしい。何か見落としているような不安が、ずっと心に引っ掛かっている。


 ブライアン様が手に力を込めた。

 

「マリア嬢、怖がることはありません。何かあれば周囲のものを叩き伏せて、リース国まで駆け戻ります」

 

 彼ならできそう。二人きりならそれでいいのだけど……

 彼を見上げた私は困った表情をしたのだろう。


「もちろん最後の手段ですが、あなたを助けるためなら、なんでもします」

 

「駄目」 


「は?」


「駄目です。嫌です」


 ブライアン様だけでなく、エマもベルも言葉を探しあぐねている。

 言った私も同じ。言葉が思わず出てしまったが、何を言いたいのか自分でもわからない。


「みんなで一緒に頑張って、一緒に帰りたいの」


 おろおろしながら言ってから、自分でも戸惑った。


「ごめんなさい。理想を言ったようなものよね。でも極力そういう気持ちでいて欲しいわ」


 ブライアン様たち三人は黙ってうなずいてくれた。

 

 ぶらぶら歩いているうちに、キャンプの中央広場方向から角笛の音が鳴り響いた。前夜祭の開始合図だ。


 そちらに人々が集まっていく。

 大きなたいまつがいくつも並べられ、周辺はとても明るくなっている。たいまつに照らされた顔は、楽しそうで浮き浮きした様子だ。しゃべり合う声は興奮していて、次第に高くなっていく。


 歩いている人たちの中に両親たちの姿を見つけ、寄って行った。


「明日の狩りが楽しみね。皆に頑張ってもらわなくては。マリアはブライアン様に何か贈るの?」


 すぐに母が気付き、声をかけてくる。狩猟の前に、ハンカチなどの小物を意中の人に贈るのが慣習になっているのだ。

 私はイニシャルを刺繍したハンカチを用意している。

 もちろんブライアン様にだけど、兄の分も作った。誰からも貰えないとかわいそうだから。


「もちろん、用意してきました」


「私も作ったわよ」


 そう言って、ノエルがハンカチを一枚見せてくれた。ちょっと引きつっているけど、ノエルにしては頑張った方だろう。


「上手にできたわね。誰にあげるの?」


「内緒」


 誰かお目当てがいるようだ。


 明日の狩りはグループに分かれて獲物の数と質を競うもので、クルス家は父と兄、クルス家の騎士たちで一つのグループになっている。

 ブライアン様は、近衛騎士たちとグループになった。


 エマは狩りをあきらめて、私の護衛に付いてくれる。ブライアン様は、早めにたくさん獲物をしとめて戻ると言っている。

 そんな彼に、私は微笑んで見せたが、本当のところ無理だと思っている。それくらい、きっと想定内に違いない。


 私は私自身で自分を守らないといけない。だから狩猟祭の間はなるべく人が多いところに陣取って、動かないようにするつもりだ。

 食料品も携帯用を用意した。解毒剤もリース国から持参したものを全部持ってきている。

 

 王が晴れやかに前夜祭の宣言をした。

 その横に立ち、手を振るのは王太后。三歩下がったところに王妃と王太子がひっそりと立っている。

 今の王家の構成が、その立ち位置に現れているようだ。


 王妃は、それで納得しているのだろうか。うつむきがちな顔を見つめると、彼女が突然顔を上げた。

 そして偶然私と目が合うと、すっと視線を外した。


 何か知っている? 彼女もやはり敵なのだろうか。それなら王太子もそうなのかもしれない。




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― 新着の感想 ―
>何か見落としているような お子ちゃま妹、忘れ去られてますよー。
ノエルのハンカチは誰に渡すのでしょう。そのハンカチには王太后に何か仕掛けられてそうですよね。ワクワクドキドキです。皆が無事に帰れますように。
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