表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 暗殺未遂

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/94

上機嫌な王太后


 お誘いに応じて王太后宮にやってきた私は、話題の中心になっていた。


 いつも嫌味を言うボア伯爵夫人が、目をキラキラさせている。


「私ね、怖くて震えていたのよ。だってあんなに長いこと水に沈んでいたのですもの。てっきり、もう駄目なのじゃないかと思ってね。それがまあ、たった今目が覚めたかのようにムクッと起き上がるのだもの。びっくりして、倒れこみそうだったわ」


 ――起き上がっていないけど......まあ、言いたいことはわかる。


「私も、何が何だか。すぐに気を失って、暴れなかったのがよかったようです。何が幸いするかわかりませんね」


 替わって、いつも文句ばかり言っているシリー伯爵夫人が兄とエマを褒める。


「エリック様は、すぐに飛び込んだのですって? 妹思いなのね。私の夫は、私のために飛び込んでくれるとは思えないわ。それに護衛の方も、さすが王宮の女性護衛騎士だわ。優秀なのね」


 兄は苦笑している。

 エマは、「お褒めにあずかり光栄です」ときれいにほほ笑んでいる。


「暗殺者は捕まらなかったのよね。腹立たしいわね」 


 これにはエマが答えた。


「マリア嬢を助け出した後、私が追ったのですが見失いました。なぜか浮き上がっても来なくて、どこに逃げたのやら。あの湖をよく知っている者かもしれません」


 二人の婦人は、「やっぱり計画的なのね。きっと王太后様を狙ったのだわ。恐ろしい」と言って騒ぐ。

 

 王太后も、「まったくね。私の身代わりで、あわや命に関わることになるなんて、申し訳ないわ。何かお詫びの品を贈らせてちょうだい」


 私は先程からずっと、居心地の悪さを感じている。

 王太后は、私が石の加護を持っていることに気づいているはずなのに、そんなそぶりを全く見せない。それどころか不思議なことに上機嫌だ。


 そのせいで、なんとも落ち着かない気分でいる。

 その私の隣でノエルはわかりやすく口をとがらせている。話題に加わることができずふてくされているようだ。


 私は、扇子で軽くノエルの膝を叩き、ニコッと微笑んで見せた。

 合図を理解したようで、ノエルは不器用に微笑んだ。

 まだまだね。


 母や兄のレベルは無理としても、一般的なレディのレベルまでは引き上げないと、大層困ることになる。

 社交界デビューまでに特訓が必要だわ。


「まあ、ノエル嬢を置き去りにしてしまったわね。ごめんなさい。色々なことがあって、気持ちが乱れていたの。お招きしたお客様を話題から除け者にするなんて、ホスト失格よね」


 王太后が申し訳なさそうにノエルに目配せする。

 ノエルは突然に皆に注目され、慌てながらまんざらでもない様子だ。

 今日は王太后の様子がとても柔らかい。思わずいい人なのかもと錯覚してしまいそうになる。


「そういえばマーカスからの遺贈も、マリア嬢だけを指定していたわね。それはかわいそうね。いいことを考えたわ。私からノエル嬢宛てに何か贈らせてもらいましょう」


「まあ」


 ノエルが嬉しそうに叫んだ。

 

「王太后様、お気持ちだけいただいておきます。我がクルス家は、もう十分に良くしていただいております。これ以上は欲深すぎます」


 兄がすぐに牽制した。


「あら、マリア嬢ばかりじゃ、ノエル嬢が気の毒じゃないの。ねえ、皆さん」


「そうかも? しれませんわね」とボアとシリー夫人が言い合う。


「ノエル嬢に似合いそうな、素敵なネックレスを贈るわ。ピンクのトパーズなんかどうかしら。白い肌と金色の髪によく映えるわよ」


 王太后はニコニコしながら、ノエルを眺めまわしている。


「いくつか見繕っておくから、今度選びにいらっしゃいな」


「はい」


 ノエルが元気に答えた。

 兄が口元に拳を当て、ため息を隠している。


 侍女がやってきて、王太后に書面を渡した。

 それを読むと、「あら」と声を上げる。

 そして私の方を向いた。


「ブライアン・ローズ殿が、ジョエル殿下の名代としてこちらに来られるそうよ」

 

 私は思わず、椅子から立ち上がりそうになった。

 王太后は嬉しそうに笑いながら、「チャックを歓迎していただいたお礼をお届けさせていただきます、ですって」と言う。


 婦人たちは、「まあ、さすがジョエル殿下。心配りが素敵だわ。やること全てチャーミングよね」


 そう言って若い女性のようにはしゃいでいる。

 ジョエル殿下らしい。そしてその名代がブライアン様なのは、ブライアン様らしい。


 その話を聞くなり、会いたくてたまらなくなった。

 今までは会えないのだとあきらめて、考えないようにしていたのだ。でも、もうすぐ会えると思うと、いてもたってもいられなくなった。


「先ぶれの使者の手紙よ。ブライアン様たちが到着するのは、三日後くらいになるそうよ」


 手紙を皆に見せてそういった後、私の方を向いてにっこりとほほ笑んだ。


「ジョエル様が言うには、婚約者のマリア嬢不在で、ブライアン殿があまりに寂しそうにしているので、彼を名代としてお送りします、ですって。仲がいいのね」


 照れくさいせいもあったが、あまりにも上機嫌な王太后の様子が不気味に思え、私は下を向いて表情を隠した。


「ブライアン殿がいらっしゃったら、歓迎の夜会を開かないとね。楽しみなことね。マリア嬢」


「お心遣い、ありがとうございます」


 目を伏せて王太后の視線を避け、そう答えるのが精いっぱいだ。何か、おかしい。胸がざわざわする。


「お姉さま、良かったですわね。久しぶりに恋人に会えますね」


 すっかり機嫌を直したノエルは、素直に喜んでいる。


「そうね。楽しみね」


 とにかくブライアン様にもうすぐ会える。それが救い。

 でも来て欲しくない気もする。

 王太后は、明確にブライアン様が来ることを喜んでいる。なぜ?


 私の暗殺に、最も邪魔になりそうな人物なのに。

 心の中で警報が鳴り続ける。




 帰宅すると、兄はそのまま私の部屋に付いてきた。ノエルも同行させている。

 侍女を前室で待たせて、兄はノエルに向き合った。


「まずはノエルだ。今まで散々王太后は危険だと言っただろう。もう少し警戒しろ」


 ノエルはすぐに唇を尖らせた。

 

「贈り物を受け取るなら、絶対に母上に同行してもらえ。父上では駄目だぞ。いいな。そして何を聞かれても、母上に確認してから口を開け」


 兄の態度が、以前の私に対するものと似てきている。


 叱りつけるような言葉には、心配が混ざり、それが更に語気を強めている。

 ノエルがビクッと肩をすくめる。

 その姿にかつての自分が重なった。


「お兄様、もう少し柔らかく話してあげて。他の令嬢と話すときのように」


 冷静な私の声で、我に返ったように兄がこちらを振り向く。

 ノエルは怯えを滲ませながらも、拗ねた表情を崩さない。

 

 ――ノエルは私より、ずっと気が強いのよね。


「お母様には私からも話しておくわ。くれぐれも注意してね。お母様をよく見て学んでちょうだい」 


 ノエルが自室に戻ると、「さあ、ここからが本題だな」と言いながら、兄はソファにドサッと座り込んだ。


「王太后の機嫌が良くて、気味が悪かったです」


 私がそう言って周囲を見回すと、エマがうなずく。


「余裕がありすぎて嫌な感じでしたね。何か策があるのでしょう」


 そのエマに、「どんな策か想像が付くか?」と兄が尋ねた。


「マリア様は暗殺不可能、そして石の主。それならマリア様ごと、ベルシアに引き込みたいはず。色仕掛しようにも、婚約者はあのブライアン様。勝てる男は少ない。しかも本人が迎えに来る」


 エマは現状を並べ上げてから、私とベルとダリルの表情を確認するように見回す。

 

「詰み、だと思うのですが。私には分かりません」


 兄はしばらく考え、「こりゃあ、母上とロイドにも、聞いてみたほうがいいかな」


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うーん。ブライアンにハニトラを仕掛けて、傷心のマリアを偶然を装わせて国内貴族男性に慰めさせて、惚れさせようとしてるとか? ノエルの事はどう使うつもりでいるのかなぁ。 最初は、マリアにとっての人質みたい…
うわああああ 妹タゲられてる怖いよーーーーー 本人が大した警戒心を持ってないところも怖いいいい お母さまに是非とも頑張っていただきたいところ!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ