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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 暗殺未遂

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ベルシア王家の密談


 次の日、私たちはゆっくりと別荘から王宮に向かった。

 離宮に着くと、なぜかホッとして、そんな自分に驚く。


 部屋に戻るとすぐに両親たちがやってきた。


「王太后様と間違われて、襲われたって聞いたわ。一体何があったの? 湖に落ちたって本当?」


 母が畳み掛けるように聞いてくる。

 兄が「そんなに大事でもなかった」と言って、落ち着かせている。


 父はベッドの横に立つと、私の頭を撫でた。

 こんなことは久しぶりだ。


 ビックリして見上げると、「最近は、なんというか、色々あるな。十分に注意してくれよ」と言う。

 私は素直に、「はい」と答えた。


「まあ、あなたったら。何とものんびりしたお言葉ね。お義父様みたいだわ」


「そうかな?」


「そうですよ」


 そう言って母が笑う。これはこれで、仲の良い夫婦なのだろう。


「ところでね、王太后様からお誘いの手紙が届いたの。自分の災難に巻き込まれたお詫びがしたいそうよ。三日後だけど、お受けする?」


「無理することは無いよ。体調と気分次第だね」


 父は気楽に言うが、母は考え込んでいる。


「多分お受けしたほうがいいと思うわ。そろそろ帰国の準備も始めたいし、今回のことで恩を売っておけば、後がスムーズになるわよ」


 流石だ。

 真偽は分からないが、噂の方向としては、私がとばっちりを受けたことになっている。それを利用しようということだ。


 私は絹のすべすべした羽布団の上で、両手を握りしめた。


「お受けします。受けて立ちます」


「えっ」と小さく言って父が私を振り返り、母はよし、と言うように小さくうなずいた。





◇ベルシア王太后視点



 マリアたちが離宮に戻る半日前に、王太后一行は王宮に戻っていた。

 宮殿に戻ってすぐ、王太后は王を呼びつけた。

 それから一時間後、王太后は部屋に入ってきたサマンサに、金切り声を浴びせた。


「遅いわ。何をしているの」


 叱責された侍女長のサマンサは、恐縮した様子で返答を返した。


「王太后様、只今、王からのご使者が参りました。ご公務が立て込んでいて、うかがえるのは一時間ほど後になるそうです」


「もう一回連絡を送ってちょうだい。公務より何より優先の話よ」


 王太后は、キッとサマンサをにらむ。


「承知いたしました」と答えて下がったサマンサは、すぐに使用人を使いに出した。


「緊急事態だと、しっかりとお伝えして頂戴。いいわね」と念を押す。


 王本人がやってくると、サマンサはすぐに王を王太后のもとに案内し、そっとその場を離れた。


「母上、私は王として政務に当たっているのです。いくら急ぎでも、すぐには動けません。お判りでしょう。それに、母上に対する暗殺ではないと、知らせをくださったではないですか。何をそんなに急いでいるのですか?」


 王太后の目が底光りした。その目で睨め上げられた王がたじろぐ。


「あの小娘、マリア・クルスは、石の加護を受けているわ」


「……なぜ」


「知らないわよ」


 王が近くに有った椅子に座りこんだ。それからしばらくして、聞いた。


「なぜ、そう思うのですか?」


「別荘で舟遊びをした際、彼女が湖に落ちたの。そしてだいぶ長いこと水中に沈んでいたのよ。引き上げられた時は、死んでいるものと思ったわ。あの場にいた全員がそう思っていたはずよ。ところが、なぜか顔色が良く、寝ているように見えたの。あの人の時と同じよ」


 王は、「それは……」と小さく声を発し、そのまま凍り付いたようになった。


「それで、彼女はどうなったのでしょうか」


「普通に目を覚まし、兄たちに運ばれて別荘に戻って行ったわ。どうも、本人は自覚が無いみたいだったけど、周囲があまりに冷静すぎたわ。何か知っていると思う」


「まさか。どういうことです?」


 王太后はカッとして叫んだ。


「私が知っている訳がないでしょう。だけど、クルス家の連中はタヌキだってことよ。何も知らない顔して、よくもまあ」


 その辺にあった手紙の載ったトレイを、壁に向けて放った。トレイはガシャンと音を立て、床に落ち、手紙がバラバラに散る。


「では、マリア・クルス嬢が現在の石の主だということですか。でも、石は光らなかったとおっしゃっていたじゃありませんか」


 王太后は、しばらく考えてから、ゆっくりと口を開いた。


「つまり、あの石は偽物だってことね」


 王は髪に手を突っ込んでうずくまったが、しばらくすると顔を上げた。


「では、マリア嬢を王太子妃に迎えたらいい。石を我が王家に戻すには、それしか手がないでしょう。石の主は暗殺できないのだし、主が死なないことには、次の主の手に移らないのだから」


「この愚か者!」


 王がたじろいだ。


「あの小娘は、仮とはいえリース国のローズ公爵家子息と婚約しているのよ。どうできるっていうの? 普通の貴族じゃないわ。あの家はリース国の準王族よ」


 うろたえる王の肩に、王太后は手を置いた。


「まだ時間はあるわ。考えましょう」


 王は素直にうなずく。


「そうだわ、王太子も呼ばなくては。結局この先引き継ぐのは、あの子なのだから」


 王太后がベルを鳴らすと、すぐにサマンサがやってきた。


「デミルをここに呼んでちょうだい。今何をしていても、これが最優先だと言いなさい。いいわね」


 

 使いを出した後、お茶の支度をさせていたが、思いがけなくすぐにデミルが部屋にやってきた。


「お前はいつも行動が素早くて良いわ。見込みがあるわね。さあ、こちらに座ってちょうだい」


 サマンサがお茶を注ぎ、テーブルにポットを置いて下がっていくと、一瞬部屋はシンとした。

 最初に口を開いたのは、デミルだった。


「王太后様。賊に襲われたと伺ったのですが、それは本当ですか? しかもマリア嬢が間違われて襲われたと噂が流れています。一体何があったのですか?」


「まあ、心配してくれたの? 大丈夫よ。何もありませんでした」


 お茶を優雅に一口飲み、王太后は微笑む。王がチラッとこちらを見て唸った。


「確かに王太后様がご無事で安心しましたが、代わりにマリア嬢が湖に落ちたと聞きました。本当に賊がいたのですか? それとも単なる事故ですか? それでマリア嬢は無事なのですか?」


 王太后はデミルをじっと見た。


「そうね。デミルにも協力してもらうのだから、この際本当のことを言っておきましょう」


 そう言いながら、もう一口お茶を飲む。

 カップをカチャンとソーサーに戻すと、二人に向かってほほ笑んだ。


「私が暗殺者を仕込んだの。湖で溺死させようとしたのだけど、失敗したわ。失敗の原因は、マリアが石の加護を持っているからよ」


 デミルはとまどったような表情で、こちらをまじまじと見ている。

 それを見て、王太后は苦笑した。


「驚いたでしょう? 私だって驚いたわ。誤算だったのは、エリックと護衛がすぐに飛び込んだことよ。それで、引きずり込んだ暗殺者の存在が露見したの。それでもかなりの時間マリアは水中にいたのだから、絶対に成功したと思ったのにね。まさかぴんぴんしているなんて」


 王太后は、フンッと鼻から息を吐きだし、顔をゆがめる。

 デミルは、そんな王太后から王に視線を移した。王はデミルと視線を合わせようとしない。

 情けないことに、王はまだ腹を決められずにいるらしい。そう思った王太后は、

眉を思いっきりしかめた。

 

デミルが思わずといった様子で叫んだ。


「一体なぜ、マリア嬢を害そうとなどされるのですか? なんのために?」


「それはね、マリアの祖母エリスが、私からマーカスを奪ったからよ。しかもマリアはあの女に似ているそうね。見ているとイライラするのよ」


 デミルは少し口を開きかけたが、すぐに閉じた。

 それから改めて質問を投げかける。


「石の加護を持っているというのは、どういうことですか? 石は神殿にあるし、私が後継者に選ばれている。ありえません」



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― 新着の感想 ―
あー、おぼれたマリアが気がついたときの兄やベルの反応は、確かに冷静過ぎましたね!なんで生きているのか、エマは確かに聞いて、兄は後でと言ってましたね! 読者目線ではおかしくなくても、王太后からみれば、石…
あー、やっぱりこの女の仕込みだったか。 というか、《害した人間》とはどこまでの範囲を指すのでしょう? 実行犯だけじゃなく、指示しただけでもアウト?
悪い意味で石の加護を見続けてきたのが王太后ですからねぇ。 でも石を持っていなかった前王が加護に守られていた事を忘れたんかな?
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