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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 暗殺未遂

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王太后暗殺未遂事件、なのか?


「マリア、何があったか覚えているか?」


 部屋に戻り、着替えてベッドに入った私に、兄が聞いた。

 もちろん覚えている。あれは誰だろう。すごい力で私を水底に引っ張りこんだ。ドレスの抵抗もあって、すごく重かっただろうに。

 

「桟橋に立って日傘を開いた後、すぐに足首を掴まれたの。それで湖に引きずり込まれた。私は湖面に上がろうと必死で腕を動かしたけど、足を掴む手は離れなかった。引きずり込んだ後、ずっと湖の底まで、私を引いていこうとしていたみたい」


 枕元にいたベルが、「恐ろしい」と言い、私の手を両手で包み込んだ。


「お前はその後のことを、どこまで覚えている?」


 怖かったし、苦しかった。

 あまりに突然過ぎて、パニックになっていたせいか、記憶がぼんやりしている。


「明るい方から遠ざかるのがわかって、それが怖かったの。足を引っ張る人物の手を、もう片方の足で蹴った? そうよ、それで手が離れたの。それ以降のことは覚えていない」


 兄とベルは黙っている。その二人をエマが見ている。


「どうかしたの? 何かあったの?」


 兄が顎を擦りながら、エマを見る。


「お前は五分以上溺れていたんだ。それでも生き返ることはあるけど、何のダメージもないのはおかしい。エマも、多分、王太后も気付いたのだと思う」


 五分間!

 目を覚ました時、全くどこも苦しくないのに驚いたけど……

 声の出ない私に、兄が頷く。


「これが護りの力なのだろうな。王太后は勘づいた様子だった」


 それから兄はエマに向かい合い、小首を傾げて目をのぞき込むようにした。


「王家に秘密にしてもらうことはできるだろうか。ベルシア国の出方によっては、王に話さねばならないが、そうでなければ秘密にしたい」


「リース王家に害を成すものですか?」


「いいや。ただマリアを手に入れようと考えるかもしれない」


 エマは唇をグッと引き結んだあと、「んー」と唸った。


「それはないでしょう。ご心配なく」

 

 サラッと出た言葉に、「エッ」と驚いたのは、私だけではなかった。


「ブライアン様と婚約されている今、既に王族の一員のようなもの。今さら王子に鞍替えしろなどと言い出しはしません」


「そうなのか!?」


「王は妹の公爵夫人にとことん甘いし、公爵家の方々はそれぞれにお強いです。本気で争ったら国が割れますから、争うことはないでしょう」


 少し考えて、ニヤッと笑った。


「王家対ローズ公爵家の戦いで、どちらが勝つかは興味深い話題です。人気ではローズ家に軍配が上がるかもしれません」


 わざと危ない話題を口にしてくれたのだろうか。こちらの秘密との交換に?

 私は大きくため息をついた。

 

「私はこの国に伝わる宝を、知らない間にマーカス王から譲られていたの。それがこの護りの力よ。実際に体験したのは初めてだけど」


「エッ、なぜマリア様が?」


「話せば長くなるので、詳細は今度ね。宝はマーカス王が祖母に渡していたの。ベルシア王家はこれを取り返したつもりでいた。ところが実は私が引き継いでいる。その真実に、今回のことで気付いたというわけ」


 ふんふんと聞き、「エッ、危険じゃないですか!」と叫んだ。


「そうよね」


 そう言ってから兄の険しい表情を見て、続く言葉をのみ込んだ。


「しばらくお前は体調不良と言って、部屋にこもっておけ。この件に関してはしらばっくれるしかない」


 私は布団を引っ張り上げ潜り込んだ。

 ――ああ、全くなんてこと。上手く潜り抜けられると思い始めたところだったのに。


 布団を掴んで顔をうずめた私を、エマがおずおずと覗き込んでくる。


「その話より重いのか軽いのか、もう見当もつかないのですが、今日の暗殺未遂は、いったい何でしょうか」 


 私は布団から少し顔を出した。


「祖母への嫉妬? かしら」


「確か若い時の恋っておっしゃいませんでした?」


「そうよ。私には王太后の気持ちは、さっぱりわからないわ」


 フーッと息を吐き、エマがつぶやく。


「ブライアン様が必死になるわけですね。ずっと違和感がありましたが納得しました」


 会話が途絶え、全員が思い思いの考えに沈んでいるところに、ドアがノックされた。取り次ぎに立ったベルが誰にともなく聞く。


「お医者様がいらっしゃいました。どうします?」


 別荘に戻ると、サマンサがすぐに医者を手配してくれたのだ。


「断るわけにもいかない。通してくれ」


「でも何の異常もないのでは、おかしく思われない?」 


 私の言葉に誰も返事を返してくれない。

 大人しく診察を受けるしかないようだ。


 医者は部屋にはいるなり、ベッドの横にやってきた。この別荘近くの街の医者だそうだ。

 胸や鼻や耳に痛みはないか、胃の調子はどうか、気分が悪くないかと、いくつかの質問をした。


「湖に落ちたと伺いました。あまり水を飲んでいないようですね。それは非常に幸運なことです」


 そう言って私の脈を取り、目の中を覗き込む。


「もしかして、早くに気を失いませんでしたか?」


「あ、はい。いつの間にか気を失っていました。すごい勢いで水中に沈んで、怖くて」


「なまじ足掻かずに、気を失っていたおかげですなあ。それで逆に身体へのダメージが少なかったのでしょう」


 それから周囲の者たちを見回した。


「桟橋から落ちただけなら、すぐ引き上げられたと思うのですが、どういう状況だったのでしょう」


 兄が眉を寄せた。


「事故の経緯は、医者には関係ないと思いますが」


 医者は申し訳なさそうに言う。


「経緯も聞いておいて欲しいと依頼されております。事故ではなく、事件らしいとも」


 そういえば兄はサマンサに、妹が湖に引きずり込まれたと告げたのだった。

 サマンサは王太后とグルではないの?


 兄も思い出したのだろう。苦々しげに言う。


「何者かが桟橋に立っていた妹の足を掴み、湖に引きずり込んだ。すぐに俺とエマが飛び込んで追ったが、凄い勢いでマリアを引っ張って行った。俺たちは必死で後を追い、水に沈んでいたマリアを引き上げたんだ」


 エマが横にやってきた。


「マリア様をエリック様が抱えて桟橋に向かい、私は暗殺者の後を追いました。でも追い付けませんでした。多分この湖に慣れているか、準備をしていたのだと思います」


 医者は、ハッと息をのむ。


「これは大事ですね。もしや王太后様に間違われたのでは?」


 兄がびっくりしたように叫んだ。


「そうかもしれないな。同じ船だったし、似た色のドレスだったから」


 私も驚いた。その可能性もあるのだ。

 ……王族は狙われる……その言葉を思い出す。


 その後兄は医者と共に、王太后に報告に行くことになった。

 

 大分してから戻ってきた兄は、疲れた様子でベッドの横に椅子を持ってくると、ドサッと座りこんだ。

 

「医者の見立てで、皆納得したよ。だが王太后は納得していないな」


「……そう」


「それより、もしかしたら王太后が狙いだったのでは、という話が出た途端に大騒ぎだよ。早速明日の早朝に戻ることになった。俺たちはゆっくりと出ることにしてある」


 私が狙われたのか、王太后なのか、一体どっちなのだろう。

 どちらも有りうる。


「ねえ、石の加護が無ければ、私は死んでいたのかしら」


 兄は横を向いたまま、「ああ」と答えた。

「二回も助けられたわね。この加護は危険から守るのじゃなくて、命の危機を救ってくれるのね……こんな目に何度も遭いたくはないわ」


「もう、ないさ。早めに国に戻ろう。何とでも理屈は付けられる」



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― 新着の感想 ―
水中へ引きずり込まれて直ぐに気を失った と言いつつも相手の手を蹴ったから手が離れた 医者への話が チグハグな話になっているけれどいいのかな?
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