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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第四章 暗殺未遂

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別荘での舟遊び


 ベルシアの離宮での毎日に次第にリズムが出来始め、それなりに日が過ぎていった。


 部屋で刺繍をし、たまにお茶会に顔を出す。

 ありがたいことに王太后以外からも誘いがあり、積極的に顔を出すようにしている。

 そうすると何回かに一回は、気詰まりなお茶会を断ることが出来る。


 やむなく出席するときは極力しゃべらない。

 私の隣はいつも問題のありそうな男女が囲むが、彼らからエマがスマートに守ってくれる。


 夜会も同様だった。

 私は積極的に社交を楽しみ、ダンスもたくさん踊った。

 危なそうな人物はエマが耳打ちしてくれる。そのおかげで私にもそれが見分けられるようになっていった。


 今も若い男性がこちらに向かってきている。ダンスの誘いだろう。


「彼は大丈夫ね」


「はい。問題ございません」


 エマがニコッと微笑む。

 私は男性の誘いに応じ、その場を離れた。

 すると若い女性たちが、次第に彼女の周囲に集まる。キリッとしたエマは人気者なのだ。


 王妃の護衛の時、寄ってくる人は少ないそうだ。私の護衛だとだいぶ敷居が低いのだろう。エマも楽しいと言っている。

 そうやってエマと共に若い女性に囲まれると、私はとても楽が出来る。


 そんな日々が続き、私はほんの少し自信を持ち始めていた。



 王太后に誘われて出かけた別荘地でも、思いがけないことに、リラックスして過ごすことができた。

 別荘には家族全員が招待されたが、両親は妹の体調を理由に断り、結局私と兄が同行することになった。

 またノエルが何かやらかしたらいけないと、慎重になったらしい。ノエルは文句を言っていたけど、しぶしぶあきらめたようだ。


 私は兄と共に、王太后取り巻きの面倒な貴族たちとの付き合いをこなし、それにも次第に慣れていった。

 そのせいでいつしか油断が出始めていたのだ。

 

 

 そして今、私は後悔しながら、水の中でもがいている。


 別荘裏の湖で舟遊びをし、船から降りるところで、桟橋の下から伸びる手に足首を掴まれ、湖に引きずりこまれたのだ。

 

 事の始まりは王太后が舟遊びをしようと言い始めたことだ。

 この別荘にやってきて三日目になり、皆、散策やピクニック、屋敷でのポーカーなどに飽き始めていた。


「明後日には戻るのだから、最後に舟遊びをしましょう。ここの湖には自慢の船がおいてあるの。バイオリン奏者を乗せて、優雅に遊びましょう」


 倉庫から湖に船が運び出される。

 それは装飾が施された豪華な二台の船で、大人が四人くらい乗れそうに見えた。

 その様子を見ながら、ベルが不安げに私に忠告した。


「お嬢様、落ちないよう気を付けてくださいね。そのドレスでは落ちたら泳げませんし、救助するにも時間がかかります。とにかく何かに掴まって浮いていてくださいね」


 舟遊び用に一番軽いドレスを着てきているが、それでもドレスは重いし、足に絡まるだろう。私は自分の着ているドレスの裾を持ち上げ、それから船を見た。


「私を殺すために、この船をわざわざ沈めたりするかしら」


「うーん。そうなのですけどね」


 少し首をかしげているベルに、エマがきっぱりと言った。


「王太后様と一緒に乗ればめったなことは起きません。きっと大丈夫です」


 結局一隻には王太后と護衛、私と兄、もう一隻に貴族の男女三名と、バイオリンを持った音楽家の八名が乗り込んだ。オールで漕ぐのは男性の役目、一周して戻ったら、他の人に交代することになっている。


 私は兄の手を借りて船に乗り込んだ。

 ベンチにはたくさんの敷物とクッションが積まれている。その一つに座ってみると、思ったよりも座り心地が良い。

 湖の上を吹き抜けていく風が、髪を揺らして通り過ぎる。それがすごく心地よく感じられる。

 船には屋根がついていて日差しを遮ってくれるので、日傘もいらない。


「まあ、なんて気持ちがいいのでしょう。素敵な船ですね」


 思わず王太后にそう声をかける。彼女も心地よさげに目を細めている。

 全員が乗り込むと、船はゆらゆらと揺れながら、水の上を滑るように動く。

 水面に映る青い空が美しい。

 たまに水面に姿を現す魚の姿を探すのも楽しかった。


 兄と護衛の男は、ゆっくりとオールを動かしている。初めは変な方向に回ってしまったりしていたが、すぐに真っすぐ進めるようになっていた。


「楽しいですね。それにとっても気持ちがいいです」


「そうでしょ。この別荘に来たら必ず舟遊びをするの。昨日までは風が少し強かったけど、今日はちょうどいいわ」


 もう一台の船から、音楽家の奏でるバイオリンの音色が聞こえてくる。心地よい揺れと美しい音色に、うっとりぼんやりとした気分になる。


 湖を一周し桟橋に着いた頃には、すっかり夢見心地になっていた。

 王太后たちが先に降り、兄と音楽家が降り、最後に私が船から降りた。使用人が二人で船のロープを桟橋の杭に結び付けている。



「まだ少し、頭がゆらゆらしている気がするわ」


 そう言いながら桟橋に足を付けた。兄が手を貸してくれたので、それに捕まり桟橋の上に上がる。

 気持ちが良くて、大きく伸びをした。それからパッと日傘を開いた。

 そして二歩ほど歩きだしたところで、何者かが私の足首を掴んだ。


 バッシャーン。


 そういう音が自分の耳に聞こえ、それと共に水が周囲を取り囲んだ。

 驚いて口を開けていたので、一気に口の中を水が満たした。

 腕をバタバタと動かし、明るい方へ、上へと上がろうとするけど、足首を掴んだ手は底に向かって引き戻す。


 何? 一緒に水に潜っているの?

 驚いて一瞬そう考えるが、苦しくて考えがまとまらない。

 足を掴んだ手は、私を暗い水の底に向かって引っ張っていく。もがく私の体は、その手から逃れることができない。私は必死でその手を蹴った。

 次第に意識が遠のき、そして暗くなった。

 ……



「マリア、マリア。聞こえるか?」


 薄く目を開けると、青い空と、まぶしい日の光が目を射た。

 そして兄の顔がすぐ上にある。


「何? どうしたのだったかしら」


「よかった――助かった……」


 私は桟橋に寝かされているようだ。そしてさっきまで水の中でもがいていたことを思い出した。


「......私、湖に落ちたのだったわ」


 上半身を起こすと、髪から水が滴り落ちた。体もドレスもまだ濡れていてとても重い。

 さっきあんなに水を飲んだし、苦しかったはずなのに体は何ともない。

 なんの異常もなさ過ぎてうろたえた。


 周囲を見回すと、離れたところに王太后が立ってこちらを見ていた。

 とても驚いている?


 その向こうに停めてある馬車から、タオルを抱えたベルが出てくる。私を見るとこちらに向かって走り始めた。


 エマは? と見まわすと、湖からエマが桟橋に上がってきた。息が荒く、肩が上下している。


「賊は取り逃がしました。申し訳ございません」


 髪をかき上げながらこちらを見ると、彼女は走り寄ってきた。


「マリア嬢、ご無事だったのですね......なんで?」


 エマは私の肩を掴んで、しげしげと私の様子を見る。それから黙って兄に目を向ける。

 兄はエマの腕を軽く叩き、「後で」と伝えた。


 ただならない様子からして、私はかなり危険な状態だったのだと思われる。

 そう思った途端に、体がブルッと大きく震えた。


 駆け寄ったベルが私を大きなタオルで包んだ。


「お嬢様、別荘に戻りましょう。暖かくして、ベッドに入らないといけません」


 兄は思いだしたように、「そうだな」と言い、私を抱え上げた。

 まだ水が全身から滴っている。兄もずぶ濡れだ。


 馬車に戻る途中、兄は王太后の前で一旦止まった。


「妹を早く休ませたいので、お先に失礼させていただきます。お騒がせして申し訳ございません」


「ああ、そうね」


 兄の言葉に生返事をしながら、王太后の目は私をじっと見ている。その表情には、怯えと怒りが入り混じっているように見えた。

 私たちは足早にその場を立ち去った。

 






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― 新着の感想 ―
あらためて。終わってんなー…ベルシア王家。 王太后が、みずから招いた他国の王族の婚約者を殺そうとする。この時点ではマリアが石の主だとわかってなかったはずだから、検証ではなく殺すために殺そうとしたって…
契約者バレしたかな…? 前王のときに失敗しまくりなんだからなんでまた手を出すんだか…
石の力で絶対に殺せないとバレてしまったら、帰国できなくなるのでは…? 殺せないなら取り込んでしまえというやつ…
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