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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第三章 王妃の嫌がらせ

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ベルへのプレゼント


 私はそのペンダントを買うことに決めた。ベルにプレゼントを贈るのは初めてだ。そのことに気付き、今更ながら自分を責めた。


 あれだけ助けられ、支えられてきたのに、この数か月でなんのお返しもしていないのだ。結婚式のときに汚してしまった、高級ハンカチのお返しすらしていない。

 この後すぐ、ハンカチも買いに行こう。


 そう決めてから、自分用の品を改めて物色した。

 私は指輪から選ぶことにした。指輪なら、きれいな青い光を自分で見ていられる。

 指輪の中で、青い光の中心が濃紺に見えるほど濃い色の石を見つけた。引き込まれそうだ。


 他の物より少し高いけど、私には王宮で働いて頂いた俸給がある。今回の旅では、それを使ってみようと思っていた


 いつもは現金を持って行って、何かを買うことがない。だからお金は数字であって、直接物と交換したことはほとんどない。そういえば、金額を意識したこともなかった。



 この二か月の王宮勤めの俸給額は、この指輪を五個くらい買っても大丈夫なくらいあった。


 その指輪を見せてもらい試す。デザインは日常に使いやすい、あっさりしたもので、かえって石の色が際立つ。


 気に入ったので、それを購入してサイズ直しを頼んだ。


「まあ、素敵。お似合いですね」


 エマが覗き込んで言う。

 振り向くと、エマの腰に吊っている剣の飾りが、キラッと光るのが目に入った。

 この青い石の付いた飾り物が剣の鞘に巻かれている。


「それはここで買ったの? そうよね。いつの間に」


「素敵ですもの。騎士ならやはり、自分の剣にいいものを与えたいです」


 そう言って示された方を見ると、兄が自分用に剣の飾りを選んでいた。


 私が近付くと、兄は私を手招きする。


「これとこれ、どっちがいいと思う?」


 二つの飾りを目の前に突き出す。

 どちらも少しゴテッとしていて、好みではない。

 それでザッと見渡し、良さそうなものを二つ指差した。


「これとか、どうですか。スッキリとしてあか抜けています」


「女性ならな。男には線が細すぎるさ」


 エマとベルが寄ってきた。


「マリア様。ブライアン様にも剣の飾りをお土産にされたらいかがですか」


 エマは目を輝かせている。女性である前に騎士、そういった姿勢がはっきり分かる。

 値段を見ると、アクセサリーより若干安めだが、やはり高い。

 値札を見て、驚いてエマを振り返ると、エマがニヤッと笑った。


「皇室の女性騎士は高給取りなのですよ」


 爽やかに言う。


「それはそうね。近衛騎士の倍は、仕事がありそうだもの」


 私も釣られて声を出して笑った。

 ベルは剣飾りをじっくりと眺めていたが、二個を手に取った。


「こちらがブライアン様、こちらがエリック様にお似合いです」


 ブライアン様のはシンプルで鋭い雰囲気、兄のはもう少しデコラティブでゴツイ。

 兄がそれを手に取る。

 とてもしっくりと似合っていた。


 兄もそう思ったのだろう。自分が選んでいた二本を店員に返した。


「では、こちらをブライアン様へのお土産に買うわ。ベル、一緒に来て」


 それをお土産用に包んでもらうようお願いし、ペンダントのコーナーにベルを連れて行った。


「ペンダントをベルにプレゼントしたいの。どれでもいいから、一つ選んで」


 ベルがギョッとしたような表情になる。

 何か言いかける前に、私はそれを遮った。


「言葉にできないほど支えられてきたわ。だからこれは今までのお礼よ」


「侍女として当たり前のことをしていただけですのに」


 私は黙って首を振った。


「それ以上よ。それにね、王宮での仕事で、ベル個人に依頼が来る事が増えたでしょ。帰ったらベル個人の仕事にも、俸給を支払ってもらうよう交渉するわ」


「お嬢様ったら」


 ベルが口元を手で押さえた。

 泣きそうな笑い顔で、「しっかりされましたね」と言う。


 さあ、と勧めると、ベルはさっき見ていたささやかなペンダントをそっと触る。


「もっと豪華な物でもいいのよ」


 私の言葉にベルの表情がキリッと変わった。


「私にはこれが似合います。だからこれがいいのです。決してこれでいい、と思って決めたのではありません」


 さすがだ。

 そしてそのペンダントを店員が着けてくれたのを見て、深く納得した。似合う。何というか、ベルのために作られた品という感じがする。


「この後、ハンカチを探しに行かないとね。ごめんなさい。かわりの品を買うのがこんなに遅くなってしまったわ」


 ベルも思い出したのか、「そんなこともありましたね」と言う。


 その後、小さく笑い始めた。


「まだたった三カ月ほどしか経っていないなんて。ずうっと昔の出来事みたいです」


「本当ね。なんだか変な気分になるわ」


 ベルは向こうから私たちの方に向かってくる兄とエマを見て、うんと一つ頷く。


「色々なことが変わりました。エリック様は頼もしい味方になったし、更に頼もしい女性騎士までいます。あの当時にはなかったものが、お嬢様の周りに増えましたね」


 兄が、「何か言っているな」と言いながら割り込んできた。


 なんとなく照れくさくなって、「大したことじゃないの」と濁した。


 私はベルの分も支払いを済ませ、綺麗に包んでもらった。

 それから王妃様と公爵夫人の分について、店員に相談した。


「しばらくお待ちいただければ、新しい品が入荷いたします。お時間の都合はいかがでしょうか」


 それならば、後日改めて訪ねてくることにした。

 店員に、とびきり上等なハンカチを探していると話したら、一軒のお店を勧めてくれた。

 私は店を出ると、兄に告げた。


「次は素敵なハンカチを買いに行きます。真っ白いのを二枚よ。ね、ベル」

 

「一枚だけで十分です」


 二人だけに通じる話を、兄とエマは曖昧な表情で聞いている。

 そしてエマは軽く苦笑して髪の毛を振りはらった。


「何やら事情があったり、秘密があったりしそうですね。マリア嬢のうぶさ加減も半端じゃないし、退屈しない職場です」



 ハンカチを見に入った店は、私にとって聖地のようなものだった。

 非常に精巧で、私の知らない技巧を凝らした刺繍が何種類もある。


 自分の参考に、そしてエミール嬢へのお土産にと何枚も買い込んだ。


 ベルにはもちろん、とびっきりの品を二枚選んで、感謝を込めて贈った。

 美しいハンカチに感動し、ベルは上ずったような声で言う。


「お嬢様の婚約式と、本当の結婚式に、これを持っていきます。それまで大事にしまっておきますね」


 この店には、刺繍の材料も置いてあった。

 私は久しぶりに刺繍がしたくなってしまい、ウズウズし始めた。


 それで上質なハンカチを数枚と、刺繍の糸を何種類も選んだ。


 選ぶうちに、刺繍をしたハンカチをキャロルにあげようと思いつく。

 快活なキャロルにはどの色が似合うだろう。

 ベルに聞いてみると、カラフルで楽しいものがいいだろうと言う。そのアドバイスに従い、たくさんの明るい色を選んだ。


 刺繍糸の束はすでに花束のようだ。これは傑作になる。

 糸を握る手にグッと力が入った。


 大満足して離宮に戻ると、既に両親たちは戻っていたようで、母の侍女がやってきた。


 侍女に渡された手紙には、王太后さまからのお誘いについて書かれていた。


「お茶会と夜会、別荘への誘いですって。断れないわよね」 


 気が重いが、何とかくぐり抜けていくしかない。

 石についての疑いが晴れ、その石自体も遠くに送ってしまった。もうそれに関する心配は要らない。

 石を手放してよかったと、心の底から思う。


 後は、祖母への、祖母への….…


 嫉妬なのだろうか。

 どうにも納得がいかない。


 だけどその類のトラブルに慣れた、頼もしい護衛がいる。

 勝算はある。

 この分なら無事に帰国できる。そんな気がしてきた。


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― 新着の感想 ―
自分の稼いだお金でお買い物するの嬉しそう。 プレゼント選ぶのも楽しいですよね ハンカチ刺繍の傑作が生まれそう でも王太后は簡単に逃してくれないですね 石は光らなかった(と王太后は思っている)し、本物…
フラグ〜それフラグ〜!!!!!(ToT) ベルへのプレゼントでホロリとしたところで、まさかの大漁旗並みのでっかいフラグが立った!? どうかどうかマリアたちが無事に帰国できますように。南無南無…(>人…
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