表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第三章 王妃の嫌がらせ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/95

街へのお出かけ

「では、町の中を歩いてみたいです。お土産も見繕いたいので」


「まあ、いいわね。誰かご一緒した方が、見所がわかりやすいし、買い物も上手にできるわ。きっと手を上げる男性方がたくさんいるはずよ」


 それを聞いて、エマが凛々しい顔の片頬だけをひきつらせた。

 ベルは下を向いている。

 兄は、貴公子の仮面をかぶっているのだろう。微笑みを張り付けたままだ。


「それはよろしいですね。男性用のお土産を見繕う時には、きっと助かることでしょう。女性用の品は、女性だけの方がよろしいでしょうけれど」


 また助け舟を出してくれたのは外交官だった。

 

「そうですわね。兄の同僚の方々の土産を見繕う時には、ぜひ」


「そう。まあ考えておくわ」


 王太后はしぶしぶと言う。

 ああ、すごく疲れる。こんな方と長年連れ添ったマーカス王が気の毒になった。



 外交団が去った次の日、私はポッカリと穴が空いたような気持ちを、持て余していた。


 足元をうろつく可愛い姿もなければ、それとなく助けてくれる、頼もしい外交官もいない。


「さあ、これからが本番よ」と気合を入れ直しても、空気が抜けるように気持ちがしぼむ。


 そんな私を見かねたのか、ベルが声をかけてきた。


「街に出てみませんか。お土産にする宝石の下調べは必要です」 


 そう言われて、少し気分が上向いたので、街に出ることにした。


「外出に、許可は必要なのかしら」


 キャロルに問いかけると、少し考えてから返答が返ってきた。


「今日は初回なので、ご報告をしてからがよろしいでしょう。今後は前夜か朝に予定を教えていただけると、スムーズかと思います」


「わかったわ。そうするわね」


 支度を整え終わった頃に、キャロルが戻ってきた。


「街を案内する方を御用意いたしました。馬車は王家のものをお使いください。離宮の前にご用意いたしました」


 キャロルが礼儀正しく告げ、ちらっと私を伺う。相変わらず気持ちが見えやすく、何か困った事があるのが容易に分かった。


「ベル。お父様に王家の馬車に同乗されるか伺ってきて」


 私の言葉に、ベルがさっと部屋を出る。

 エマに忠告され、家族全員で出かける段取りを取り付けたのだ。

 それを聞いて、キャロルがほっとした表情になる。


「伯爵様方は、ご厚意に甘えさせていただくそうです」


 ベルが戻って報告した。それなら両親と妹の三人を、そちらに割り振ればいい。


「そう。では私とお兄様は別の馬車にしましょう」


 

 離宮の前にはきらびやかな馬車が止まっていた。

 私が外に出ると、男性が一人降りて来た。年齢は三十前後だろうか。

 先日のお茶会で見たような気がする。確か、アルバン・アクシス様だ。


 私の元に駆け寄り、立ち止まりもせずに、いきなり手を伸ばしてくる。

 スッとエマが間に入り、私を優雅に後ろに移動させる。


「リース国では、そういう習慣がございません。申し訳ございませんが、ご配慮ください」


 にこやかにきっぱりと言う。

 男がぽかんとしている内に、私は丁寧に挨拶と案内役のお礼を述べ、自分の馬車に向かった。

 すると男が慌てて私に声をかけた。


「本日は王宮の馬車をご用意しております。こちらの馬車にお乗りください」


「すぐに両親たちが参ります。申し訳ございません。少しお待ち頂けますか」


 私の言葉に目を丸くした男は、後ろから出てきた両親とノエルの姿を捉えたようだ。更にギョッとした表情になった。


「よろしくお願いします。助かりますわ。ええと、アルバン・アクシス様」


 そう告げ、エマのエスコートでさっさとその場をあとにした。男は私を追いかけたようだが、兄が挨拶の声をかけたため、足止めされている。


 馬車に乗り込んで兄を待つ。

 走ってきた兄が、「さあどこに行こうか」と私に聞く。


「ガイドの案内に従うのではないの?」


「母上が、大聖堂を見たいって言うので、俺は土産物の物色に行くと断ってきた」


 思わず、プッと噴き出した。

 あの男は、さぞ困惑しているだろう。

 笑っている私を、ベルが心配そうに見ている。


「婚約したばかりの令嬢に、怪しげな男を近づけようなんて、何を考えているのでしょう」


「それは嫌がらせと、評判を落とすための策です。よくある宮廷での足の引っ張り合いですね」


 冷静に言うエマに、ベルが問いかける。


「女性騎士ってすごいと思いますけど、人間不信にならないですか?」


 エマは困ったように笑った。


「そういうことをする人は一部です。だから大丈夫ですよ。でも、その一部が引き起こすことが厄介なのです。とんでもない醜聞をまき散らされることもありますから。私たちは、いつも細やかに観察して、問題が起こる前にそれをつぶします」


「へえ、女性は大変だな」


 兄が人ごとのように言うのに、エマがニヤッと皮肉っぽい笑い方をした。


「私たちは、男性の評判もお守りしているのですよ。大胆な手口に出る令嬢や奥方も多いのです。危険は殿方にも同じだけ降りかかります。どなたかに対する責任を取らされて、いきなり結婚とかどう思われますか?」


 兄が首をすくめた。

 覚えがあるのだろうか。

 私が横目で見ると、兄は素早く横を向いて視線を避けた。


「お兄様も気を付けてくださいね。クルス家の次期女主人は、それなりの方を据えていただきたいわ」


「生意気なことを言うようになったな。いっぱしの貴族女性の発言だ。母上と同じことを言うとは」


 顔をしかめて、すごく嫌そうに言う。そういえば、もうそんなに先のことではないのだ。私が婚約し、結婚して家を出る。ノエルは......もう数年後になるだろう。その前に教育だわ!

 そして兄が奥方を迎える。

 私に子供ができ、私は母親になる。

 甥っ子や姪っ子ができて、兄も父親になる。

 そういうことが急に現実味を帯びて感じられるようになった。以前は、ただ流されるままで、未来はいつもぼんやりとしていた。


「おい、着いたぞ。町の中央広場だ。俺がもらった地図だと、あの通りが一番の高級店が並んでいるそうだ」

 兄がそう言って、東の方に伸びる道を指さす。そこに並ぶ建物はどれも大きく立派なもので、ドアの前にドアマンが立っている店が多い。


「さあ、行くぞ。まずはあの宝石を扱っている店だな。レーベ嬢からいい店を教わってある。あの3件目の店だ」 

 

 兄を先頭に、私とベルとエマ、ダリルはゆっくりとお店を見ながら歩いた。どこも素敵な店構えで、片っ端から入ってみたい。

 そこで、ブライアン様に渡すお土産を選びたい。

 それに、エミール嬢には珍しい本か刺繍の品物。俄然やる気が盛り上がってきた。


 兄の指定した店の前に立つと、ドアマンが真鍮のドアノブを静かに回し、ゆっくりドアを開けた。

 店の中では、数組の客が店員と話し込んでいる。

 一人の店員が、にっこりとほほ笑んで、こちらに向かってきた。


「お越しいただきありがとうございます。本日はどのような品をお探しでしょうか」


 兄が、「シスリーを使った宝飾品を見せてもらえないか。リース国への土産にしたいんだ」


「それは、よろしいですね。シスリー鉱山でしか採れない貴重な宝石です。目を射るような鋭い光を放つ宝石ですから、小さくとも存在感がございます。こちらへどうぞ。数点展示してございます」


 そう言って、奥のショーケースに案内してくれた。濃紺のビロード張りの台に、あの青い石を使った指輪やネックレス、ブローチなどが、二十点くらいずつ並べられている。


 小さな石なのにすごく存在感が強い。私は夢中でケースの中の品を見て回った。

 ふと気付くと、ベルが一つの品をじっと見ている。青い石の周りを銀細工で囲んだ小ぶりのペンダントだ。

 少ししてベルは軽くため息をつき、そのペンダントから目をそらした。

 一番控えめなそれですら、簡単に買える値段の品ではない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>足元をうろつく可愛い姿もなければ、それとなく助けてくれる、頼もしい外交官もいない。 それはさみしいですね。外交官の方も今回も助けてくれたのに帰ってしまったのね。 王太后がチャックのペンダントに興味…
2026/06/04 20:36 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ