表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第三章 王妃の嫌がらせ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

82/94

マリアの教育

 エマは目をくるりと回し、おどけた調子で言う。

 ベルに聞かれて、会話の様子を伝えているが、遺贈の話には触れない。


「エマ、あのお茶会のメンバーは王太后様と親しげにみえたけど、あなたもそう思う?」


「はい。気心の知れた近しい者たちだと思います。でも、女性も男性も、注意が必要なタイプだと思いました」


 そしてエマがグッと私に近付く。


「お気付きではなかったようですが、あの中の男性が、マリア様に気持ちの悪い興味を抱いておりました。ご注意ください」


「エッ! だって婚約の話題だったのよ。何の興味なの?」


「人のものなら余計に欲しくなる、ねじ曲がった人物はいます。たぶんそういった類いでしょう。今度近付いてきたら耳打ちいたします。ダンスなどは、気分が優れない、もしくは疲れたと言って、お断りください」


 ベルは憤慨している。


「婚約が決まったばかりの若い令嬢に、興味ですって! 碌なものじゃないわ。エマ、絶対にマリア様から離れないでくださいね」


 私は戸惑っていた。今までの数回の夜会では、私にそういった興味を抱くものはいなかったと思う。


「令嬢方は通常、近付いてくる男性たちを、好み、爵位、将来性、恋人か結婚相手か友人か、そして相手の思惑などなどで秤にかけて、お付き合いの仕方を決めます」

 

 エマの目は真剣だ。

 しかも言っている内容のレベルが高い。それが普通? 


「それは上級編ではないの?」


「一般常識レベルです」


 ショックだった。そういう駆け引きなど、考えたことがなかった。

 兄に叱られたのも、つまりこういうことなのだろう。

 私はつい先ほど兄に言ったことを思い出し、それをそのまま自分に向けた。

『時々頭の内容を確認した方がいいようね。何も知らなすぎるのよ』


 自分で言って、グサッと傷付いた。  

 おたおたする私に、エマが厳かともいえる調子で告げる。

 

「この先、そういうアプローチは幾つもあるでしょう。ちゃんと対処法を覚えましょう。リース国ではブライアン様が睨みを利かせているので、めったにないでしょうけど、全く知識も免疫もないのは非常に危険です」


 エマの言葉にベルが、「ブライアン様の過保護を諌めなければ」とつぶやく。

 ベルの言葉なら、ブライアン様も聞き入れそうだ。

 私は前向きにとらえることにした。

 

「このタイミングで外国に来て、社交を経験できたのは良かったのね」


「ちょっとした興味、あわよくば恋仲に、もしくは火遊びの相手、めったにないけど本気。どのあたりなのかを探るわけですが、婚約者のいるマリア様にちょっかいをかけてくるのは、不埒な輩だけです」


「私はダンスをした相手も少ししかいないし…...ジョエル様や王太子殿下は興味、他のダンスの相手も……興味。兄は義務感?」


 私が言うと、ベルがそれを言い直した。


「王子方は従兄弟の恋人への興味と好意、エリック様はダンスのおさらい、ブライアン様はめったにないという本気ですよ」


 はあ。

 そうですか。


「わかったわ。それ以外の恋仲から火遊びの人たちに注意したらいいのね」


 エマとベルは心配そうだ。


「危険そうなら、私がご忠告申し上げますが、信用できる者を、常に身近に置いてください。素性の知れない侍女などに、付いて行かないよう。どこに案内されるか分かりませんから」


 エマの忠告に、ベルがハッとしたようにこちらを見る。


「お嬢様、以前お話した結婚後のご生活についてですが、まだご存知ないままでしょうか」


 ……何でしたっけ。


 指を顎につけて考えている私をじっと見て、ベルがエマに耳打ちする。

 エマが、「ああっ、そうでした」と声を上げ、考え込む。


「そこは、私では心もとないです。やはり、適任者は母親の伯爵夫人では」


「そうですね。私からお話をしておきます。奥様は社交に関しては勘の良い方なので、そのふらちな男にも気がついているかもしれませんし」


 ベルがスタスタと部屋を出る。多分上の階の両親の部屋に向かったのだろう。


 しばらくして、母を連れてベルが戻った。

 母はすぐにこちらへやってくる。


「まあ、私のミスね。すぐに結婚するのだから、何も知らなくても大丈夫だと思っていたのよ。エマの見立て通り、あの席には危ない様子の男がいたわね」


 母は私をまじまじと見る。


「キスまでは経験があるのよね」


 ぼっと顔に熱が上がる。

 ものすごく恥ずかしいけど、あの時エマが一緒にいたので、嘘も言えない。

 黙って頷く。


「ブライアン様だけ? ジェイソン様は?」


 何ですって! 衝撃だった。


「まさか、そんなことするはずがないでしょう」


 思わず、そう言って母に突っかかってしまった。


「比べるとわかりやすいから聞いたのよ。好きな人とするのとは、気分が違うのよ。その先に進みたくなるかどうかもね」


「進む?」


「じゃあ、もう一つのサロンに移動しましょうか。ちゃんと説明してあげる」


 ベルがサッと私たちの前に立ち、「慎重にお願いします」と言う。


 私は母の後について、別室に移動した。

 母はちゃんと説明してくれた。全く知らなかった


 部屋に戻ると、ベルとエマは心配そうに私を見ている。


「大丈夫よ。ちょっとだけ驚いたけど。でも男性を見る目が変わってしまったわ。怖いような気がする」


 母が笑う。


「いやあね。誰彼かまわずというわけではないのよ。お互いに相手を選ぶの。ただ、たまにそれだけが目的で、基本ルールを守らない人がいるのよね。男も女もそうよ。そういう人には、気を付けないといけないわ」


「......はい」


 そう答えたものの、落ち着かない。

 ブライアン様とのキスは素敵で、もっとして欲しくなった。その延長がそれだということだけど、結局よくわからないままだ。


「フフフ、ブライアン様にそのうち教えてもらえるわよ。楽しみね」


 母はあからさまだ。

 婚約したのだからそうなのだけど、どんな顔をしていたらいいのやら、わからない。

 前の人生で、結婚式の次の朝、皆そんなことがあったと思っていたのだろう。あの生暖かい、いたわりのまなざしを思い出すと、身もだえしてしまいそう。


『何もなかったんです』と思った後、申し訳ない気分にもなる。何もなければ、子供もできないのだ。

 きっと侯爵家の人々は、後継ぎができるかもと思って、喜んでいたのだろうに。


「あの、疲れたのでもう寝ます。キャロルへ首輪を渡しておいてもらえる?」


 そう言うと、皆ササッと動き、ササッと準備が整い、私はベッドにもぐりこんだ。

 思いやりがありがたかった。


 その夜、私の部屋に戻ってきたチャックは、いつの間にか私のベッドに潜り込んでいた。

 癖になってしまうと困るから、いつも、それは厳しく禁じているのに。

 


 でも目覚めた時、隣に生き物の温もりがあるのは、 思いがけないほど嬉しかった。

 チャックの小さな前足を指でさする。

 チャックはスピスピと鼻を鳴らし、気持ちよさそうに眠っている。

 見守っていると、幸せな気分になれた。

 

 結婚してブライアン様と一緒に寝るようになったら、毎朝こんなふうなのかしら。

 起きると隣に彼が寝ている。そしてこんなふうに寝顔を見つめるのかも。


 すごくいいかもしれない。


 あ、でもたまには一緒に寝ること、と前の人生で教わったのだった。

 では、それはたまにということなのだと、何となくがっかりする。


 そんなことを考えていたら、チャックが目覚めた。

 いきなり飛びつくように私の顔にへばりつき、鼻先から顔中を舐め回す。


「おはよう、チャック。落ち着いて。いい子だから」

 

 あまりかまってあげられなかったので、寂しかったのだろう。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ