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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第三章 王妃の嫌がらせ

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疲れるお茶会


 王太后のお茶会で、私は話題の中心になっていた。

 そして今、ひたすら疲れている。


 質問はブライアン様とのなれそめから、経過についてで、その話題から話をそらそうとしても、すぐに戻るのだ。


「うらやましいわ。そろそろ、本格的に婚約者選びに入るとの噂で、皆注目していましたのよ。あんなに素敵な方ですものね」


「そうですわ。しかもブライアン様から是非にと請われたのですって? 昨夜の夜会で、人伝手に聞いたのですが、どういう経緯だったのですか?」


 そんな調子で、あけすけに聞いてくるのものだから、返答に困る。頼りにしていたエマも、口をはさむ余地がまるでなく、心配そうにこちらを見ている。

 ロイドとベルとダリルは、別室で帰宅を待つよう言われている。

 助けになりそうなのは、兄だけなのだが。


 兄はひたすら貴族令息スマイルで、それらをかわしている。


「ブライアン殿は近衛騎士団での上司に当たります。プライベートなことは、あまり話す機会がないので、私は全く蚊帳の外でした。突然の話に驚いております」


 そんな感じに、すまして答えている。

 まあ、兄と私が疎遠だと思われた方が良いので、兄の態度は正しい。だが、なぜか不愉快になる。


 王族のお茶会は、もう少し控えめに、当たり障りなく話題を持ち出すものと習ってきたのに、このお茶会の会話は恐ろしく直球だ。

 これも、主催者の王太后のお人柄からきているのだろうか。

 馴染めない。

 

 そこにノエルが別の話題を持ち出した。このざっくばらんすぎる座の雰囲気に気が緩んだのか、まだ教育が足らないのか。


「私、先ほどのお話に驚きました。お姉様だけ、遺贈をいただくなんて」


 『お姉さまばっかり、ずるい』と言わなかっただけ、少しは気を使っているのかもしれない。でも、こんな剣呑な場で、財産の話を持ち出すとは。

 背筋に嫌なものが這う気分だ。


 案の定、王太后がすぐに話題に乗り、「そうよねえ。分けられるものなのかしら?」と言い出す。


 母は、「さあ、どうでしょう」と苦笑しながら、ノエルの腕を扇子で軽く叩く。

 

「申し訳ございません。この娘はまだ社交デビュー前で、高貴な方々が集う場に顔を出すには、未熟でございます。このような場で愚痴を持ち出すなど、あってはなりませんわね。まことに失礼いたしました。そろそろ私たちは下がらせていただいてもよろしいでしょうか」


 王太后はバッと扇子を広げ、母から兄と私に視線を移した。


「遺贈の内容については、何か聞いているのかしら。もし分けられるものなら、少しは妹君にも分けて差し上げたら?」


 また背筋にゾクッと震えが走った。

 私は、手に持っていたお茶のカップの中を覗き込み固まっていた。

 すると、兄が答えを返してくれた。


「先ほどのお話では、遺言の公開まで内容を漏らすことができないそうでした。なので、遺贈の品がどういうものか、私たちにはわかりません。しかし、もし宝飾品などで、数があるなら、妹にも分けるのがいいと、私も思います」


 そう言って私を見てほほ笑んだ。


「そうですわね。いただいた品物を見てから考えますわ」


 私はそう一言だけ、斜め下に視線を落としたまま答えた。

 心臓がバクバクしている。


 母の退出に王太后が許しを与え、それと共に二人が立ち上がり、お暇の挨拶をした。すぐさま兄が私の手を取り、私たちもその後に続いてお暇の挨拶をして部屋を抜け出す。

 部屋から出ると、私は兄を感謝の目で見上げた。


「助かりました。ありがとう」


「どういたしまして」


 そのまま、私たちは黙って馬車に戻り、帰りは母とノエルと同じ馬車に乗り込んだ。


「ノエル。お前は、礼儀作法と保身術を学び終えるまで、ああいった場での発言は禁止だ」


「どうして?」


 あの場の嫌な雰囲気を、全く感じ取っていないあたり、強いと言ったらいいのか、鈍いと言ったらいいのか。

 母が、心配そうにノエルを見る。


「ノエル、お茶会で財産の話を持ち出すのは危険なのよ。どんな罠があるかわからないし、誰が足を引っ張ってくるかもわからない。お腹をすかせた野犬の群れに、裸で身を投げ出すようなものなの。わかる?」


 ノエルはぷくっと頬を膨らませている。


「だけど、皆さまとても優しくて、楽しい方々だったじゃない。お姉さまの婚約の話で盛り上がっていて、内容も雰囲気も、私が同年代の令嬢たちとお茶会するときと、似たような感じだったわよ」


 そうなのだ。はっきり言って、品がない。

 だが、この妹にそう言うわけにはいかない。危なっかしくて本音は話せない。

 母を見やると、真剣に何か考え込んでいる。母が、兄に聞いた。


「今の状況で、危険はどのくらいあるの?」


「かなりです。一人にはならないでください。こちらの使用人に呼ばれても、絶対に確認を取ってから動いてください。話している言葉は、全て報告されていると考えてください」


 母は、「わかったわ」と言ったが、ノエルは盛大に驚いている。


「あんなに優しそうな王太后様が怖い人だって、まだ思っているの? 実際に会ってみたら、慈母みたいな方じゃない」


 母がノエルの肩を軽く叩き、自分の方を向かせた。


「実際に会ってみて、私は最大級の危険人物だと思ったわ。さっき、マーカス様の王宮で見せた冷たい表情を、あなたは見ていなかったのね」


 ノエルは不満そうだ。


「ノエル、殺される直前に、相手が実は慈母ではなく、毒グモだったと気付いても遅いのよ」


 母がノエルの肩を抱き寄せた。


「マリア、あんまり脅すものじゃないって、前も言ったわよ。まさか本当に殺されるわけではないでしょ」


 そう言う母は、私の目の中にその答えを見つけたようだ。ノエルの肩をもう一度、ぐっと抱き寄せた。

 兄が首をかしげながら私たちを見ている。


「まあ、あれだな。ノエルは十五歳にしては情緒面が遅れているようだ。母上、過保護にし過ぎではないですか。中身は十二歳程度か? それでは、社交界にデビューした途端に、笑いものにされるか、食い物にされる」


 淡々とした物言いに、ノエルが反発した。


「ひどい。お兄様、以前はそんな風に言わなかったわ」


「そりゃあ、以前は小さい子供だと思っていたから……考えてみたら、もう一年もしないでデビューじゃないか。俺も同罪だ。いつまでたっても子供扱いしていた」


 そう自覚し、へこんだ様子の兄を見て思う。私のことも同じ具合だったのだろう。こうと思い込んだ情報が、そのまま残ってしまうタイプのようだ。


「お兄様って、時々頭の内容を整理した方がいいようね。思い込みが激しすぎるのよ」


 私の言葉に兄が顔を赤くして、ぐっと息をのんだ。

 母とノエルがびっくりしている。


 はっきり言い過ぎたが、兄には自覚してもらった方がいいと思ったので、にらまれても知らん顔をした。

 

 馬車が離宮に到着すると、キャロルが迎えに出てきた。


「お疲れさまでした。離宮はいかがでしたか? ずいぶんとごゆっくりでしたが、そのまま王太后様のお茶会に向かわれたのですか?」


「ええ、そうなの。おいしいお茶をいただいて、とても楽しく過ごしてきたわ」


 にこやかに答える私を見て、ノエルが口をすぼめている。

 私はすぐに母に目配せした。


「そうね、さすがに王太后様のお茶会は普通と違うわね。とても楽しかったわ。ねっ、ノエル」

 

 母と私の表情を伺い、ノエルはすねたような表情のまま、「楽しいお茶会だったわ」と言う。

 ノエルを一人にしては危険だろう。私はそっとため息をついた。


 その後部屋に入って使用人を下がらせ、ベルとエマと三人だけになってから、ようやく気の張りが解けた。


「疲れた。まいったわ」


 思わずそう叫んだ。本当に疲れたのだ。


「お疲れさまでした。王太后様のお茶会は、一種独特でしたから、神経を削られたことでしょう」


 エマの言葉にベルが聞き返す。


「どんな雰囲気だったのですか?」


「内輪乗りで幼稚でした。その中でマリア様たちは、品が良すぎて浮いていましたね」


 

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― 新着の感想 ―
妹の「はじめてのお茶会」ならともかく、他国王族とのお茶会で子供同士のお茶会なノリに通じた事に疑問を持てない妹の子供振りは確かに頭抱える問題。
遺産相続に王太后以外にも問題人があったのね、 分けられるものなら分けるような事を兄が言ってしまったので、領地からの収入を妹は欲しがるよねー。母もかしら?父や兄も入れると5等分? デビュタント前だから妹…
2026/05/30 04:30 退会済み
管理
これ、王妃が妹に目をつけて操る展開になりそうな気がしますねぇ。
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