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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第二章 ニコラスからの接触

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外交団帰国の夜会1

 支度は着々と進んでいった。

 メイク。

 その次はドレス。

 最後がアクセサリー。


 全部が終わると、「さあ、回ってみてください」とベルが言う。

 私がくるくると二回くらい回ると、ふむ、とうなずく。


「次は軽く頭を振ってみてください」


 これも何事もなく終わる。


「大丈夫なようですね。これで準備完了です」


 エマは既に、王宮女性騎士団の、煌びやかな礼装に着替えている。

 深紅の制服に金モールが華やかで格好がよい。


 兄にエスコートされ、その反対側を凛々しいエマに守られ、私は夜会の会場に到着した。

 両親とノエルは別の馬車で来ることになっている。

 外交官待遇の私と兄は、入場も家族とは別だった。


 前回の歓迎夜会では私は来賓扱いで、最後に入場する王と王妃の前に入場した。

 エスコートは王太子で、私の後ろに、兄とエマと外交官が続く。

 王妃代理としての格式で扱われたのだった。


 今回も同じだが、少し砕けた様子で物々しさは薄まっている。初めの堅苦しさが消えているのは、行事が終わった解放感のせいだろうか。


 エスコートは今回も王太子だった。来賓用の控室でしばらく待つと、王太子が姿を現した。


「今宵はまた一段とお美しい。目が眩みそうです」


 サラッと褒め言葉を口にする王太子に、ブライアン様を思い出し、クスッと笑ってしまった。


 怪訝そうな王太子に、「失礼いたしました。似たようなことを言う方を、思い出してしまいました」


 チャックとブライアン様の瞳を思い出す。

 そして微笑みが広がる。

 王太子は軽く口を開けてから、一拍の間をおいて話しだした。


「お世辞ではありません。たぶんその方も、本音だったのだと思います。今のマリア嬢は、まるで妖精の姫君のようです」


 そうにこやかに言う。

 王族や高位貴族用の礼儀作法基礎には、きっと女性の褒め方も入っているのだろう。

 

 少年時代のブライアン様と王子たちが、さっきの私のように、講義を聞いている様子を想像してしまった。

 可愛らしく質問する様を想像すると、たまらなくきゅんとする。三人とも綺麗な子供だっただろう。

 エマに昔の話を聞かせてもらわなくては。


 そういえば、チャックは今頃いい子にしているだろうか。

 今日は外交官の従僕に預けている。

 相性の良さそうな従僕に、少しずつ慣れさせていったのが成功した。

 今では彼に預かってもらえるようになったので、何かと助かるのだ。


「では、そろそろ参りましょうか」


 王太子が手を伸ばす。

 私は立ち上がり、彼の手に自分の手を預けた。


 夜会の間、私は意識して時々チャックとブライアン様の瞳を思い出した。

 間違っても深刻な表情を見せたくないから。

 そしてエマの教え通りに、あまり視線を合わせず、ぼんやりと周囲を見るよう心掛けた。


 もちろん会話はするし、ダンスも受ける。でもあまり視線を合わせないと、会話は弾まないのが分かった。

 エマの講義は全く実践的だ。


 夜会の途中、兄がノエルを伴ってやってきた。


「ノエルが先に帰るそうだ。母も付き合って一緒に帰るらしい」


 ノエルは興奮しているのか顔を上気させている。周囲の様子をきょろきょろ見る様子は、やはり子供っぽくて、少々場違いな感じで浮いている。

 でもいつもよりずっと大人っぽくて、おしゃれに装っている。これはベルと、ベルに見いだされた侍女のおかげだろう。


「ノエル。今日はとても大人っぽくて素敵。それにほっそり見えるわ」


 ノエルは凄く嬉しそうに笑った。


「お姉さま、すごく立派でした。歓迎の夜会の時は、ちゃんと見ることができなかったので、今回は最前列に出たの。あんな風に入場するお姉さまを見たのは、結婚式以来よ。別人のように素敵に変わったわ。エスコートする王太子殿下も素敵でうっとりしました」


 頬を赤くし興奮してノエルが話す。

 私が素敵だったという話以上に、王太子に興奮しているようだ。そろそろ、そういうお年頃なのだろう。

 ノエルは興奮しながら嬉しそうに母と合流して帰って行った。


 二人が会場から出て行くのを見送ると、兄がくるっと振り向いた。


「明日の招待の件、父上たちに話しておいた。俺が代表で招待されて、長女のお前とダリルとエマ、ロイドを伴うと言っておいた。ところで今日はいつもより愛想が良いな。どうした?」


 いつも通りのつっけんどんな物言いに、私も言い返してやった。


「私にも他所の令嬢方に対するのと、同じ態度を心がけるのでは?」


 クッと詰まると一瞬眉をしかめたが、突然不自然なまでの笑顔になった。


「こんな感じでいいか?」


「気持ち悪いわ」


 エマが間に入る。


「お二人共、子供同士の口喧嘩みたいですよ。少々大人げなく見えますが」


 子供同士。そう言えば私も近頃、兄に何の遠慮もないような……

 兄は「あー」と声を出して目を泳がせた。


「俺たちは十年以上、余り話をしてこなかったんだ。それで十歳くらいのところからやり直しているのかもしれない」


「ああ、そうかもしれないわね」


 そう私が相槌を打つと、兄がイタズラっぽくニヤッと笑った。


「年長者の務めだ。俺が先に大人になってやるしかないな」


 腹が立つ言い方だ。ムッとしたところに、女性が近寄ってきた。


 慌てて表情を取り繕うが、少しドギマギしてしまう。兄はいきなり伯爵家嫡男のすました表情に変わっている。

 やはり兄の方が上手だ。


「マリア様。先の夜会でご挨拶したレーベ伯爵家のノーマです。今日もお綺麗ですわね」


「ありがとうございます。レーベ嬢のネックレスとっても綺麗。今まで見たことのない宝石です」


 彼女の胸元に下がった石は澄んだ青色で、不思議なくらい鋭く光っている。

 そのせいで小粒でも非常に目を引く。


「これはこの国特産の宝石なのです。高価ですが、お土産にすればとても喜ばれますわ」


 それはありがたい情報だ。王妃様と公爵夫人へのお土産は、それに決まり。

 ニンマリと微笑む私を見て、兄が、「買い物に行かないといけないな。仕方ない。付き合ってやるとするか」と苦笑した。


 それからレーベ嬢にダンスを申し込み、フロアに向かった。ほかの令嬢に対するときは、礼儀正しい貴族子息に見える。

 兄は兄で、ちゃんと社交をこなしているのだ。そういう姿を見ると、見直す気になる。


「エリック様は、さっぱりしていて優しいので、女性には人気があります。先ほどのような姿は初めて目にしました。ブライアン様もマリア様の前だと……傑作ですが」 


 エマは何を思い出したのか、下を向いて笑い出す。


「なあに?」


「王太子殿下とマリア様が踊っている時の、ブライアン様の顔を……」


 クククッと笑った後おかしそうに言う。


「その後の婚約披露のダンスったら。ちょっと見たことのない華々しさでした。もう笑いを堪えるのが大変で」


「変だった? 少しダイナミックな踊り方だったわよね」 


「いいえ、素敵でした。語り草ですよ。私は一部始終を見ていたせいで笑ってしまったけど、他の方々は大絶賛していました」


 近くにいた令嬢たちにその話が聞こえたらしく、驚いたようにこちらを見ている。

 私はにっこりと彼女たちに微笑みかけた。

 当たり障りのない挨拶が済むと、先頭の令嬢がおずおずと尋ねる。


「はしたないことですが、お話が少し耳に入ってしまいました。ブライアン・ローズ様と婚約なさったとか……」


 私は黙って頷いた。

 この関係は仮なので、ベルシア側には伝えていない。だが隠す必要もない。だから同行した誰かが雑談で話しているかもしれない。

 

 令嬢方は驚いている者、落胆している者、何故か喜んでいる者とまちまちだ。

 でも、あまり重たい感情では無さそうで、上がる声は明るい。


「そうですわね。あんなに素敵な方ですもの。婚約者がいないほうがおかしいわ」


「ほらね。言ったでしょ。無理だって」


「自分だって踊ってもらって、ポーッとしていたくせに」


 踊ってもらって?

 一瞬、心臓がドクンと打った。

 そのとたんに、エマに教わった呪文のアレンジ版が浮かんだ。


 『いくら憧れたって、ブライアン様は私のものよ』

 

 ……これ、効果覿面ね。


 私はすぐに気持ちを立て直せた。

 

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― 新着の感想 ―
マリアがすごく素直にエマの教えを受け入れて真面目に実践していて、とてもいい子だなぁとあらためて思いました。 そんなこととてもできない、とか、そんなことして効果あるの?とかじゃなく、素直に実践するのって…
夜会やお見合いにはエマを連れて行って相手のチェックしてもらったらバッチリだなぁ ところでチャックの出番はまだかな? 預かってもらってるお話だけで本犬が出て来ないのが寂しいなぁ
エマの社交術基礎実践版の効果が高過ぎる件について。 私も受けたい(^^)/ エマ、ここまでノウハウ知りすぎてたら、隙無さ過ぎ淑女になっちゃって逆に愛や恋が遠ざかりそう。 それとも中級や上級には、ちょ…
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