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この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第三部【ベルシア王太后の悪意】第一章 石との再会

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お茶会の後


◇ クルス家が帰った後の王太后宮  ◇



「王に、これを渡してちょうだい」


 王太后はペンを置くと、手紙を封筒に入れて封をし、侍女に手渡した。それを受け取った侍女は、手紙をビロード張りのトレイに載せ、護衛の騎士と共に部屋を出て行く。

 一時間ほどして戻った侍女が王太后に告げた。


「王より、今宵伺うとのご返答をいただきました」


「そう。軽く摘まめるものと、ワインを用意しておいてちょうだい。王の好きな、干したブドウとチーズを忘れないこと」


「かしこまりました」


 侍女は静かに部屋を出て行き、静かにドアが閉まる。

 王太后は一人になると、鼻からフウッと息を吐いた。そして、王がやってくるまで少し眠ろうと、寝室に向かった。


 その数時間後。少し前に目覚め、ゆっくりとお茶を飲んでいた王太后のところに、侍女がやってきて告げた。


「王太后様、王がお越しになられました」


「まあ、思ったより早かったわね。こちらに通してちょうだい」


 王が部屋に入ると、控えていた侍女や、従者、護衛の者たちは、部屋の外で待機する。それが決まりになっている。

 王太后はワインをグラス二個に注ぎ、片方を王に手渡し、前置きなしに切りだした。


「金色の猫目石は、どうやら本物だったようね。エリスがずっと手元に持っていたそうよ。アクセサリーではなく、扇子の飾りにしていたそうなの。一体どういうつもりなのでしょう」


 王はワインを一口飲むとグラスを持ち上げ、目を細めてその色合いを確かめている。


「それじゃあ、見つからないわけだ。てっきりアクセサリーになっていると、思い込んでいましたからね」


「まったくね。思いもしなかったわよ。多分、捕まった密偵が、石が扇子に仕込まれていると気付いたのでしょうね。それが他の密偵に伝わっていたのが幸いよ。でなければ、そのままわからずじまいよ」


「それにしても、あれで三人も密偵を失ったのは痛手です。しかも二人を始末したのはこちら側だ。ちょっと荒っぽすぎる。今後はもっと慎重に動くよう命じなければ」


 王は少し苦い表情をしていたが、気を取り直したように笑った。


「母上。なんにしても、本物だとわかったのはありがたいことですよ。それに、クルス家の者たちは石の主になっていない。石は無契約の状態だ」


 王は嬉しそうな顔で王太后に微笑みかける。

 

「だからと言って、私たちの物になるわけでもないわ」


「ゆっくり調べれば何とかなりますよ。石は私たちの手元にあるのだから」


 王は機嫌がよさそうだが、王太后はそんな気分になれずにいた。


「じゃあ、もうクルス家の者たちを、もてなす必要もないわね。明日、お別れの夜会が終われば、外交使節団が帰国するわ。その後は、私の好きにさせてもらうわよ」


「どうぞ、お好きなように。だが、相手は大人しげな令嬢と、まだ子供にしか見えない令嬢です。母上が気にするような相手ではないと思いますが」


 王太后は、皮肉っぽく顔をゆがめて笑う。


「上の娘のマリア。あの娘は何となく癇に触るわ。下の娘はどうでもいいけど」


 王は、黙って肩をすくめた。



◇ 離宮に戻ったクルス家  ◇



 離宮に戻って少しした頃、母がノエルを誘って、私の部屋にやってきた。離宮に仕える使用人たちは既に下がっていて、ここにはクルス家の使用人しかいない。


「以前マリアから怖い性格と聞いたけど、本当にそんな感じね」


 その言葉に私は驚いた。ノエルも同じだったようで、パッと母の方に振り向いた。


「あの、お優しそうな王太后様のどこが怖いの?」


 ノエルの言葉に母は、周囲の顔ぶれを一周見てから答えた。


「長年社交界に身を置いていれば、肌で感じるようになるものよ。アニタもベルも、エマもわかっているようね」


 母の侍女アニタとベルは、揃って静かにほほ笑んだ。ノエルの侍女メイは戸惑っているようだ。

 エマは? と見ると目があった。


「以前お話しした通り、それが私たち女性騎士の任務の一つです。トラブル回避には、怖いお人柄の人物を、見抜く目が必要とされます」


「どのくらい怖いと思う?」と聞いてみた。


「かなりですね。しかも権力も大きそうです。王妃の権力が低そうなので、その分も上乗せです。怖い性格で、大きな権力。この組み合わせには、最大級の注意が必要です」


 怖いことを、きっぱりと言う。

 

「そういう方が相手の場合は、どうしているの?」


「触らぬ神に祟りなし。ただし、相手がこちらに執着しているなら、ディフェンスを固めます。たまにあることなので、私たちは訓練を受けております」


 母が、「頼もしいわ」と漏らす。


「大抵は殿方をめぐる、ちょっとした不都合などが原因です。相手が王女や王妃だとしても、抑える立場の方がいます。例えば王とか。そこをうまく使います。でもあの王太后の場合、王も抑えに使えないかもしれない。厄介です」


「だわよね。ターゲットはマリアのようだけど、何か手は考えているの?」


 母に聞かれても、私は答えられない。


「なぜそう思うのですか? 私がターゲットだって」


「何となく嫌な圧を感じるのよ。真綿に包んだ悪意っていう感じかしら」


 私はちょっと笑ってしまった。

 母に向き直って、「お母さまって、実は鋭いのですね」と褒めた。


 それを嫌味と受け取ったのか、母はむっとした。


「そりゃ、わかるわよ。私に何か説明することがあるのではないかしら?」


 秘密を守れるか心もとないノエルがいるし、どうしようかと悩んだ。

 でも自衛の気持ちを持ってもらった方がいいのかもしれない。

 それで、エマに話したレベルまでを、思い切って話すことにした。


「今回の招待は、少し強引だったから、色々と考えていたの。先ほどあの石を、国王ご夫妻が贈ったとおっしゃったけど、もしかしたら、マーカス前王からなのかもしれない。何となく、そう思うってだけよ」


「ええっ」と声を上げたのはノエルだ。ノエルには絶対に口止めしないとまずい。この子はまだ礼儀作法と保身技術の訓練中なのだ。


「ノエル、間違ってもこの話を外に漏らしては駄目。不敬に当たるわよ。殺されても文句は言えないわ」


 強く言う私をやんわりと押して、母が割って入った。


「あんまり脅すものじゃないわ。余計挙動不審になるでしょ」


 そう私に言い、それからノエルの肩に手を置いて落ち着かせる。


「ノエル、こんなことはよくあることなの。練習だと思って、私をまねたらいいわ」


 ノエルは、少しほっとしたように母に向かってうなずいた。

 凄い。そう聞くと、私もとても普通のことのように思えてきた。

 それで、少しほっとして言った。


「石が盗賊に盗まれたのは、かえって良かったのかもしれないわ。それに石を宝飾品ではなく、扇子の要に使っていたことに、王太后様は驚いていたでしょ。祖母に何の気もなかったことは伝わったと思うの。少し気持ちが薄れたかもしれないわよ」


「あら、そうね」と母。


 母とノエルは何か考えている様子だ。


「もし、不都合な感情の交錯があったとしても、その贈り物が金具に使われていたら、気が抜けるわねえ」


 母がうなずきながら、ぽつぽつと言う。


「そうね」とノエルも同意している。


「ではそういうことで、少し気を付けてね。行動は慎重にね」


 私がそう言うと、ノエルが「アッ」と声を上げた。


「それで、鈴と笛なの? そういうことね」


「はい。事前にお伺いして、私が御用意させていただきました」


 エマが前に出て、拉致監禁の場合の対処法と、鈴と笛の使い方や、注意点を説明する。とんでもない内容だけど、今の流れだと違和感は全くない。ノエルは真剣に聞いている。

 やはり教えておいてよかったようだ。


「お父様には内緒にしてください。何も知らなくても、お父様が狙われることはないと思います」


「そうね、あの人はなんでも顔に出てしまうから。知らない方がいいわ」


 母は気楽に笑ってそう言った。

 


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― 新着の感想 ―
扇子の要だと気がなくて、ネックレスとかだと気があると言うことになるのでしょうか。 現代人としては、服装に合わせて変える装飾品でなく常に使う扇子の要は「常に共にある」と言う点では、なかなかに優秀だと思う…
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