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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第二章 ニコラスからの接触

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侍女のキャロル

 母とノエルが部屋に戻っていき、自室で夕食を済ませた後、私は手紙を書いていた。

 ブライアン様に宛てた手紙だ。

 今までの弔問行事のあれこれと、王家の人々の様子。

 それから今日のお茶会での色々。


 たぶん夜遅くに兄がここに来るはずなので、今のうちに書いてしまおうと思い、手紙に没頭していた。

 ベルも自室に戻って休んでもらっている。前室には護衛のダグがいるはずだ。この離宮でも自前の警備は控えめに付けている。


 手紙が三枚目に入るころドアがノックされ、キャロルの声がした。


「マリア様、少々お伺いしたいことがございます」


「キャロル? 入ってちょうだい」


 やり取りで目を覚ましたらしいベルが、ドアを薄く開けて頭を出した。


「お嬢様、どうかなさいましたか」


「いいえ、キャロルよ。問題ないわ」


 そうベルに答え、こんな時間になんだろうと思いながらキャロルに対した。


 キャロルは手紙を一通持って立っている。


「マリア様、この手紙を今、読んでいただけないでしょうか。決して敵対する者からの手紙ではありません。私は、部屋の隅に控えておきます。読んでからお答えをいただけたら嬉しいです」


 キャロルの様子がいつもと少し違う。

 少し緊張して固い表情をしている。その顔は兄やブライアン様に、そしてあの男や、私を襲ってきた女に通じるものがあった。


「あなた、密偵なの?」


 言ってしまってから体をこわばらせた。害意を全く感じなかったので、ついまっすぐに言葉が出てしまった。


 キャロルがびくっとした。

 下げていた頭を上げ、恐る恐るという感じで私を見る。


「違います。ただの侍女です」


 怯えているのは彼女も同じなようだ。

 少なくともあの女とは違う。弱い人間を獲物として見下していた、あの表情は見当たらない。

 

 ベルが身だしなみを整えて部屋から出てきた。探るように私とキャロルの様子を窺い、私の横に立つ。


「手紙をちょうだい。読むわ」


 キャロルが一瞬嬉しそうな表情を見せ、こちらに小走りに寄ってきた。やはり足音のしない、とても滑らかな体の運び。密偵なのだろう。


 今一体何が起きているの? 

 頭がクラっとしたが、これは現実。私は今、どこかの密偵と対峙している。

 そしてその答えはこの手紙に書かれているはず。


 手紙を受け取り開いた。細かいきれいな字が並ぶ。

 そこに書かれていたのは、マーカス前王の手紙を預かっているという言葉。そして、ぜひ会って話がしたいと締めくくられている。

 たったそれだけの手紙だった。


「キャロル、これはどういうこと。なぜマーカス前王が私に手紙を?」


「詳しいことは、手紙の主に聞いてください。私はただのメッセンジャーで、それ以上のことは言えません」


 そう言った後、チラッとベルを気にする。


「ベルは私のことならなんでも知っています。隠さなくて結構よ」


 キャロルは小さくうなずくと続けた。

 

「今日、王太后宮でマリア様が石に触れたとき、石が光ったのを見ました」


 その言葉に私は衝撃を受けた。

 石が光ったところを見られていた? 

 そしてキャロルの仲間は、それが何を意味するのか、知っている者たちだということだ。


「本来この手紙をお渡しして、石についてご説明する予定でした。ですが、あなたは既に……ご存じなのでしょうか?」


 キャロルが強い視線を私に据える。


 知っているのだ。王家が知らないことまで、キャロルは知っている。

 キャロルにも、私とベルがそれを知っていることがわかったのだろう。


「一体どうなっているのか、早めに話し合ったほうがいいだろうと、上の者が申しております。一緒に出向いてはいただけないでしょうか」


 ごくりと唾をのんだ。

 出向くのは危険すぎる。


「ここに来てもらいたいわ。信じられないから」


「局長がこちらに出向くのは、支障があってできません」


 キャロルは困っているようだ。


「私の秘密を知るものは、他に数人いるの。彼らと一緒なら考えるわ」


 そう告げると、少し考えてから顔を上げた。


「わかりました。それはどなたでしょうか」


 私は兄の名を出し、他に三名いると告げた。

 

「五名ですか。私共の方では、マリア様おひとりに、この話をするつもりでおりました。これは私が一人で決められることではないので、局長に聞いてまいります」


 そう言ってから、キャロルは追加した。


「王太后が、強盗団に見せかけた集団に、クルス家を襲わせたことはご存じでしょうか」


 私たちは答えなかったが、答えは見て取れたのだろう。

 ひどく不思議そうな表情で私に問いかける。


「なぜ、そこまでわかったのですか? どうやって……」


 私は何も答えなかった。ベルも蝋人形のようにピクリとも表情を動かさない。

 キャロルは首を振って、「少しお待ちいただけますか。すぐに聞いてまいります」と言い、出て行った。

 

 キャロルが部屋を出ると、呪縛が解けたように力が抜けた。


「お嬢様。ダグが薬で眠らされているようです」


 廊下の様子を確認に出たベルが叫ぶ。

 ダグは前室の椅子に座って寝ている。私はすっかり無防備な状態になっていたらしい。


 ベルに頼んで兄に知らせに行ってもらおうとしたが、一人にはできないとベルに反対された。

 キャロルはすぐに戻ると言っていた。すぐとはどの程度の時間を指すのだろう。

 まるで見当がつかない。

 でも、ベルが兄の部屋まで行き、兄と一緒に戻って来るよりは早そうだ。

 仕方なしに、二人で部屋の真ん中にあるソファに寄り添って座り、待った。


 キャロルは考えていたより、更に早く戻ってきた。

 一応ドアをノックするので、「入っていいわ」と声をかけた。本当はノックする必要もなく、滑り込めるのだろう。


「お待たせしました。局長からの伝言です。明後日の午後に五名様を、お茶にお誘いしたいとのことです。マーカス前王のお住まいだった、白水宮にてお待ちします」


 一息に言うキャロルの顔を見つめた。


「手紙の主はどなたなの? 教えてもらえるわね」


「はい。マーカス前王の従者、ニコラス様です。マーカス前王から、生前に命を受けておりました。本当は一月ほど後に行われる、遺産相続の件を済ませ、白水宮を明け渡してから、マリア嬢をお訪ねする予定でした」


 王の側近と聞いて少し安心した。ベルも同じ気分のようだ。


「それならなぜ秘密で動くの? 石の件以外は、隠し立てするようなものではないのでしょう」


 キャロルは困ったような顔をしている。


「マーカス様は王太后様とも王とも、あまり関係がよろしくなかったのです。マリア様に迷惑が及ぶのを防ぐため、接触は秘密裏に運ぶよう指示されております。マーカス様が生前に全てを手配されています」


「ニコラスという方は、マーカス様の代理ということね」


「はい」


 私はその申し出を受けることにした。


「わかったわ。お受けしますとお伝えください。私は石のことだってよくわかっていません。できたら石の主を誰かに譲れたらいいと思っています。その方法がわかると嬉しいわ」


 キャロルは頭を軽く下げた。


「承知しました。そうお伝えします。石の詳細は王族しか知りません。私や他の者たちは、主が触ると石が光ることくらいしか知りません。それほど謎の石なのです」


 少し残念そうにキャロルが言う。密偵にしては表情に気持ちが出やすい。

 そして別の手紙を私に手渡した。


「これは正式な招待状です。クルス家のエリック様とマリア様宛てで、白水宮にて故マーカス前王を偲んでいただきたい、という趣旨のものです」


 私は落ち着いた深い青の手紙を見つめた。


「確かに受け取りました。明日兄に伝えておくわ」


 キャロルは静かに頭を下げ、部屋から出て行った。ドアを開ける前に足を止め、こちらに向き直った。


「明日の夜会では、何も仕掛けてこないと思います。ただこのお誘いについては、話題にされない方がよろしいかと思います」


 それからもう一度頭を下げて、部屋を出て行った。



 

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― 新着の感想 ―
キャロルが王太后派の人でないことに少し驚きました。王太后なら、マリアの周辺は自分の手のもので固めると思っていたので。 王太后相手にその辺ごまかして仕えているのなら、キャロルも見た目通りの人ではないので…
>ベルに頼んで兄に知らせに行ってもらおうとしたが、一人にはできないとベルに反対された。 迂闊癖が抜けてない…… 自分の屋敷を襲撃された時の事を忘れてしまったの? どうにも自衛に関しての学習能力がない…
あと3人って、兄の従者と執事とチャックの恋敵かしら? でも5人に話をするようにも聞こえたからそれなら今この国にいるのは従者と母と妹・・いやいやいや兄以外には全部教えない方がよい気がするわ。捕まって拷問…
2026/05/14 20:22 退会済み
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