表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
【第二部】第二王子の侍女マリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/62

夜会


 王太子殿下が意地悪?

 では社交術で学んだ、貴族の意地の悪い物言いや態度への対応の出番。

 それが今から試されるのだわ、と覚悟した。


 そこにジョエル様が現れた。


「マリア嬢、とても立派な態度だったよ。吸収が早いね……何? ブライアン。顔怖いよ」


「王太子殿下がマリア嬢にダンスを申し込んだ」


「あ……ああ。……そういう事か。それで? マリア嬢は、何でそんな必死な顔しているの?」


 王太子殿下の意地が悪いとか、口に出来るものではない。


 困っていると、ジュエル様が、「ブライアン、マリア嬢の飲み物を換えて上げたら」と言い出した。

 ブライアン様が離れるのを待って、ジョエル様が話し始めた。


「兄とブライアンは仲がいいんだけど、ライバル関係でもあるんだ。ブライアンって、何でも出来すぎるだろ」


 うーん、その通り。


「お見受けする限り、その様ですね」と答えておいた。

 何ごとも断言しないのが、社交の鉄則。よし、クリアよ。


「年が一つ違いで、兄も出来がいいから、良いライバルなんだよね。そのせいで仲はいいけど、ちょっかいかけて遊ぶというか、そういうところが兄にはある」


 納得した。

 あのあからさまな態度は、いじりに来た王太子への牽制か。

 でも…....


「王太子殿下のダンスの申し込みは断われませんよね」


「うん。だからちょっとだけ、そこのところ意識しておいてね」


 ⋯⋯聞きたいことは、他にもあった。


「ダンスで足を踏んでも、不敬に当たらないでしょうか」


 ジョエル様が口元を押さえて下を向いた。


「それ言い出したら、誰もダンスできないよ。踏んで良し」


「ずうっと、踏みっぱなしにしていいですよ。マリア嬢」


 横でブライアン様が答えた。

 飲み物のグラスを手渡し、私に踏み方のレクチャーを始める。

 一拍ずらして踊り、相手の足に重心がかかったところを思いっきり踏みつける、という技だ。

 そんなものを覚えてどうなるというのだろう。

 しかも、結構難しい。


 ジョエル様は口とお腹を押さえて苦しそうだ。


「まずジョエルで試せばいい」


 ……本当に機嫌が悪いようだ。


「さあ、ダンスが始まるよ。機嫌直して、行っておいでよ」


 ジョエル様が笑いながら言った。

 音楽の演奏が始まり、私たちはダンスフロアに向かう。王と王妃、次に王太子殿下とどこかの令嬢がフロアに出ていく。


 その後、人々が次第にフロアに出るのに混じって、私たちもその中に滑り込んだ。

 言葉そのままの、滑るような動きだった。

 歩いているうちに、もう踊っていた。

 足が宙に舞うような、軽やかでうっとりするダンス。


 私たちの周囲に空間が出来た。皆がこちらを見ている気がする。

 いつも、見られるのが苦手だったのに、今は何も気にならない。


 ーー楽しくて仕方がない!


 踊り終わって、周囲から拍手が上がった。

 嬉しいけど、これは私の力ではなく、ブライアン様の力なのだ。


 つくづく、ブライアン様は凄い。

 絶対に他の男性とのダンスを試さなくちゃ駄目だと実感した。


 ダンスが終わって一休みしていると、周囲に人が集まり始めた。

 興味津々の目が私に集中する。

 この二カ月間、それはもう色々あったもの。聞きたいことも、さぞ多いだろう。


 さあ、来い、と構えた。

 もちろん表面上は優雅に微笑んでいる。今日の私は今までと違う。


 最初に声をかけてきたのは、母だった。


「まあ、マリア。変わったわね。まるで別人だわ」 


 こうして客観的に見ると、母は若々しく、かわいらしい婦人だった。

 害がなさそうで、少し軽い人物という印象。

 こんなふうに身内の人間を観察したのは初めてだ。


 母の後ろには父がいる。印象が薄くて、最初は気が付かなかった。


「今、王と王妃様にご挨拶をしてきたの。今回のベルシア訪問について、予定通り四日後に出発すると報告したわよ」


 それだけ言って、離れて行った。

 周囲の様子を見て、早めに切り上げたのだろう。

 ロイドの言う通り、母の社交センスは悪くないようだ。


 一人の男性が私に一歩寄って、ビクッと止まった。

 後ろを見ると、ブライアン様が見たことのない怖い顔をしている。

 思わず、腕に手をやり、「私は大丈夫です」と小声で伝えた。


 ブライアン様はむっつりしたまま下を向き、一歩下がった。

 振り向くと、男性は居なくなっていた。その代わり兄がこっちに向かってくるのが見えた。

 今日は夜会服を着ていて、いつもと雰囲気が違う。

 私の前にすくっと立ち、「一曲踊っていただけますか」と礼儀正しく言う。 


 いつものガサツな雰囲気は影を潜めている。そういえば、家でたまに会う兄しか、私は知らなかった。


 なんとなくおかしくて、笑いそうになったら、いつもの兄の表情が表れた。

 

 思わず頭に手をやり、「クシャクシャにしたら、噛みつきます」と口走っていた。


「冗談を言える余裕があるのは、いいことだ」と鼻で笑われてしまった。


「真珠の髪飾りを壊す勇気はないな。ブライアン殿に殺される。とても似合っているよ」


 この真珠は、ブライアン様からの贈り物だったの⁉

 私は慌てて後ろを振り返った。


「知りませんでした。誰も何も教えてくれなかったので。こんな高価な物をいただいていたなんて」


 申し訳なくておどおどとしていたら、手をとられた。


「貴方を守るための品です。美しさは武器になる。諸刃の剣ではあるけど」


 複雑な表情で言う言葉の意味が、よくわからない。


「踊ってきてもよろしいですか」


 兄がブライアン様に聞いてから、私をダンスフロアに連れ出した。


「頑張っているみたいだな。お前の様子には目を疑ったよ。立派な淑女だ」

 

「ありがとう……とうとうね……それに、王太子は石の加護を受けていないようね?」 


「そのようだな。危険度倍増だ。気を引き締めてかかろう」


 私たちはしばらく黙って踊った。

 兄の手は大きくてゴツゴツしている。この手は信用できる手だ、と唐突に思う。

 そうしたら気恥ずかしくなった。


「どうした?」


「なんでもないわ」そう言って見上げたら、兄がぎょっとしたような表情になる。


「ブライアン殿が睨んでいる。まずいな。兄でも駄目か。おい、お前、こっち見て笑うなよ」


「何を言っているの?」


「相変わらず恋愛関係は落第だぞ。勉強しろって言っただろ」


 やっぱり、いつもの兄だ。

 ムカッとしたので、足に重心がかかったところで、思い切り踏んづけてやった。


 私には、そういう才能は有ったようだ。

 上手に踏めて満足し、にこにこしながら戻ると、ブライアン様が褒めてくれた。

 スカートに隠れて見えないかと思ったのに、見逃さなかったらしい。


「ブライアン殿、妹に変な技を教えるのは止めてください」


 兄はしかめっ面だ。


 

 ジョエル様が声をかけてきた。


「ダンスが上手だね。マリア嬢。次は僕とお願いします」


 差し出された右手に、私が手を重ねると、ブライアン様のほうを向いた。


「母上が呼んでいる。今から行ってくれ」


 そう言いおいて、その場を後にした。


「母上からの伝言。ブライアンは引き離しておくから、しばらく他の人たちと交流しなさい、だって」 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ