表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者:
【第二部】第二王子の侍女マリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/61

夜会へ


 夜会の前日、王妃様が帰りの挨拶をする私に声を掛けた。


「マリア、あなたは明日ブライアンにエスコートを受けるでしょ。ずっとあの子とばっかりいては駄目よ。他の人とも交流しなさいね」


「はい。承知しております。ブライアン様に頼らず、自分一人の力で精いっぱい頑張ります」

 

 私が気負って答えたら、王妃様は面食らったようだ。

 え、答えが違った?

 そろっと、ベルの方を見たら、軽く首を振られた。

 私の左横に立つエマも目線を下にして黙っている。


「マリア、明日はブライアンに頼っていいのよ。彼は社交に長けている。彼からも学びなさい。使える物を上手に使うのが、社交の鉄則よ。明日は、まず自分が楽しむこと。楽しめないと、それは周囲に伝わるのよ」


 王妃様の言葉に、気負っていた気持ちがぽんと爆ぜたような気がした。

 じゃあ、ブライアン様と一緒の時間を十分楽しんで、それから……


 これは私が初めてまともに出席する夜会。

 初めて好きな男性と一緒に出席する夜会。もしかしたら次はないかもしれない。


「楽しく過ごします」


「それでいいのよ。基本はそれ。そして失敗してもいいからやってみて慣れる。失敗しない人なんていないから、気にしなくていいわよ」


 王妃様に感謝の言葉を述べて、私は部屋を後にした。

 その夜は、ベルに温かいミルクを貰って、早く眠りについた。



 朝起きたら、既にカーテンが引かれ、部屋は朝日がいっぱいに入り込んでいた。

 ベルは、タオルやお湯を運んで、準備を整えている。


「お早うございます。ご気分はいかがですか」


「お早う、ベル。とてもすっきりした気分。今夜の夜会が楽しみよ」


「では、軽くお顔とデコルテの手入れをさせていただきますね。その後に朝食。それから入浴して、全身マッサージ。昼食後に本格的にお支度をさせていただきます」


 ……えっと、どれだけみっちり準備する気?


 そう思ったのを察知したらしく、ベルの顔が怖くなった。


「お嬢様、夜会を舐めたらいけません。かなり身近に皆様と接するのです。お肌の手入れは必須。体もほぐしておきませんと。今日は一日がかりとお思いください」


 逆らえる知識も経験もないので、「お願いします」と言って、全てをベルに任せた。

 そして一日掛かりのお支度が始まったのだ。


 顔のオイルマッサージ、タオル蒸し、頭皮のマッサージなどを受けていたら、気持ちが良くて、また寝てしまいそうになった。


 ベルと助手二名の三人がきびきびと動き回る。

 

私はゴロンと寝転がって、されるがままになっている。

 こんなでいいのかしら、と思って頭を上げた。


「お嬢様の仕事は、精一杯魅力的になる事。それ以外は考えない。私はお姫様、と唱え続けてください」


「はい」


 ベルの迫力に負けた。今日はベルの小柄な身体がオーラに包まれている。


 そうやって、入浴まで済ませて食事を終えたらお昼寝タイムになった。

 ベッドに横たわり、アイマスクを付ける。

 全身をこね回され、身体が疲れているのか、気持ちいいのか分からない。

 でも満ち足りた気分ではあった。

 私はすぐに眠ったらしい。


 ベルにゆり起こされ、ベッドに体を起こすとスッキリと目が覚めた。

 大きく伸びをし、立ち上がる。

 全身がすごく軽くなっている。


「さあ、仕上げますよ」


 気合の入ったベルのかけ声で、助手二名がドレスを運び入れた。

 そこからもう一度顔と頭皮のマッサージ、それからメイク。


 いつもよりはっきりとした眉に、くっきりと塗った唇。

 見慣れない華やかな女性が、目の前に現れ始める。


「ベル? 派手じゃない?」


「お嬢様、いいですか。夜会です! それにこれは派手ではなく、華やか、です」


 髪型は、私の多い目で膨らむ髪を、デコラティブに結って、真珠で飾ったもの。ほぼ全部、真珠の飾り。

 こんなに真珠の飾りを持っていた覚えがないのに。


 出来上がった私の顔は⋯⋯お姫様だわ!


「ベル、本当にお姫様ね」


「さあ、仕上げますよ」


 そう言って、私にドレスを着せつけていく。

 胸元の開きは控えめで、程よい感じ。 

 上等のシルク生地は、動くたびに艶っぽい光を放つ。

 その上を覆う繊細なレースと、私の渾身の刺繍が、とても映える。

 そして全体を、白っぽいグレイのパイピングが、キリッと引き締めている。


 私はスカートのひだを摘み上げ、クルッと回ってみた。とても軽い。


「光るから重そうだけど、軽いわ。動きやすそうよ」


「思った通り、非常に良い出来栄えです」


 ベルは芸術家のように、重々しく感想を述べた。

 

「さあ、後はお迎えを待つだけです。よろしいですね。今夜のお嬢様は⋯⋯」


「お姫様ね」


 大きく深呼吸をしてから、室内でダンスのステップをおさらいした。

 体もドレスも軽い。


「凄いわ、ベル。素敵ね」


 そこにドアを叩く音がした。

 ブライアン様が迎えに来たと、取次の侍女が告げる。


「早くない?」


「ゆっくり向かうおつもりなのでしょう。では、お嬢様、お通ししますね」


 ベルがブライアン様を居間に通す。声が聞こえてきた。

 私はゆっくりと歩き、ドアの前で、もう一度大きく息を吸い込んだ。


 侍女がドアを開けてくれる。

 ドアの向こうのブライアン様は、真っすぐこちらを見ていた。

 立ち上がったと思ったら、すぐに目の前に立っていた。いつもながら素早い。


「……美しい……」


 それだけ言って、じっと私を見つめる。

 ブライアン様は、お揃いのダークグレイのスーツ姿。

 服がスッキリしているので、かえって美貌が際立つ。そして胸ポケットには、私の贈ったハンカチーフがのぞいている。

 とても洗練された装いだ。


「素敵です……」と言ったまま、私も彼の姿に見惚れた。


 そのまま二人だけ、時間が止まっていたらしい。

 着替えて小物を手に持ったベルに注意された。


「そろそろお出かけにならないと」


 その声に押され、ブライアン様にエスコートされて部屋を出た。

 ゆっくりと廊下を歩き、外に待つ馬車に乗って、会場に向かう。

 宮殿はそれほど広い。


 私はブライアン様と見つめあったまま、馬車に揺られた。

 その時間はすぐに終わり、いつの間にか会場の前に着いている。


「さあ、もう人が集まっています。入りましょう」


 夢見心地の気分で、手を取られて会場に入る。


「ロース公爵家子息ブライアン様と、クルス伯爵家ご令嬢マリア様ご入場」


 そう紹介されて、夢からさめたような気分になる。

 その瞬間、会場の皆の目がこちらに集中した。視線の圧には力があるらしい。後ろに押し戻されるような気がした。

 ブライアン様が、軽く私の手を握り前に引く。

 私は、初めての夜会に一歩を踏み出した。


 私たちが進む前に道が開けてゆく。

 真っ直ぐに進んでいくと、前方にジョエル様が見えた。驚いたような表情が、クシャっと崩れた。


「マリア嬢。とても素敵です。チャックに独占させておくのは間違っているな。今宵は、是非僕とも踊ってください」


 そう言って伸ばしたその手を無視し、ブライアン様が私を引き寄せた。


「今日、マリア嬢と踊るのは私だけだ」


「おい、ブライアン。母上が言っていたぞ。今日はブライアンとばかりいては駄目だってさ。今まで学んだ成果を試せって」


 ブライアン様が黙り込んだ。

 私は、この夜会の意味を思い出した。今までの成果の確認の場なのだ。

 ブライアン様に向き合い、「私やってみます。結構出来るようになってきたのですよ。成果をお見せしますわ」と告げた。


 王と王妃が御入場され、王太子殿下も続いて御入場された。

 高位貴族たちがご挨拶するのを待ち、私をブライアン様が王たちの元へエスコートする。

 このタイミングは、学んだ通りだ。私は頭を真直ぐ上げて、王と王妃様を見る。

 軽いアイコンタクトをし、お二人の前に進む。


 ゆっくりと膝を折り、挨拶して視線を戻すと、王妃様が軽く頷いた。どうやら合格したようだ。

 王太子殿下にも、ご挨拶する。


「あなたが、噂のマリア・クルス嬢か。ダンスを申し込んでいいだろうか。もちろんブライアンの後で」

 

 微笑んで言い、私とブライアン様を交互に見ている。楽しそう?


 ブライアン様が私の乗せた手を軽く握り、少し引いた、と思うや方向転換していた。

 まだ、何も答えていないのに。

 少し……いえ、かなり失礼なのではと思ったけど、見上げたブライアン様は知らん顔をしている。

 スタスタという感じでその場を離れ、壁際に移動した。


「王太子殿下が何か言っても、あまり真に受けないでくださいね。彼は少々意地が悪いんだ」


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ああ、私もブライアンをからかう輪に入りたい(笑) 出来れば親戚の年下ポジで。 これまでスマートなお付き合いしかしていなかった兄貴分が右往左往する様子を怒られるギリギリのラインを見定めながらからかいたい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ