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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第二部【マリアの覚悟】第一章 王宮の侍女マリア

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ベルシアからの書簡ー2


 クルス伯爵家宛てなので、本来父が受け取る物だが、内容は確認しておきたい。


 さっと目を通す。

『昔、世話になったエリスの孫に、故人の形見と感謝の品を贈りたいので、ベルシアに招待したい』

 ベルシアへの招待状だ。


「これはお断りしてもいいのでしょうか」


 私の問いかけに、ジョエル様が眉を下げた。


「ここまではっきりと招待されたら、よほどの理由でないと断りにくいね。正式な書面で、しかも好意的な誘いだ。たとえ、裏にどんな含みがあろうとも」


 ジョエル様は、しばらく私の様子を見ていたが、ため息をついた。


「どうやら、すごく行きたくない理由がありそうだね」


 ブライアン様が腰を浮かしかけたが、それを片手で押し留めた。


「詮索する気はないよ。ただ俺は第二王子だ。色々と敏感に察することができなきゃ、生きていけないのさ」


 そう言ってウインクした。

 チャックも一緒にこっちを見ている。とっても嬉しそう。


「クルス伯爵家の代表で、兄一人が出向くのではまずいでしょうか」


「あ、ごめん。目録が入っていたのだけど、女性向けの品ばかりなんだ。エリックが行ってもいいけど、どう見ても女性たちを招待しているとしか思えないよ」


 伯爵家が他国の王族の正式な招待を断ることは難しい。

 もし私が病気だと嘘をつけば、妹のノエルと母が行くことになる。そして無事に帰してもらえるかは、わからない。


 狙いは私とノエル? 祖母と直接会うことができないから、孫を見て推測したいのだろうか。

 もし夫の過去の恋人が許せないのだとしても、私たちがどうこうできるものではない。

 私はジョエル様に尋ねた。


「その書簡は、私の父に渡されるのでしょうね。届けに行く役は、私にお任せいただけないでしょうか」


「そのつもりで持って来たのだろ、ブライアン」


「ああ。これを届ける時は、私もクルス伯爵家に同行する」



 クルス伯爵家に書簡を届けるのは、ブライアン様が追悼訪問団の報告や、後始末を済ませた後とし、四日後に決まった。

 

 その話し合いの最中に、ベルシア訪問の時期がいつになるのか、私には見当がつかないと言ったら、ジョエル様が、二か月後くらい先だと教えてくれた。

 王族からの招待の場合、訪問の日程やメンバー等に関し、先に国王の許可を取る必要がある。

 ベルシア側に打診するのは、その後で、調整が付くまでかなり時間がかかるものらしい。

  

 私はため息をついてしまった。

 その二ヵ月で対策を考えなければ。

 兄はベルシアに同行出来るのだろうか。近衛騎士団のスケジュールは?

 ぐるぐる考える私に向かって、ジョエル様が明るく声を掛けてきた。


「マリア嬢は、我が愛するチャックの世話係だ。私にだって無関係じゃないから相談に乗るよ。それよりも、ベルシアに行くとしたら、その間チャックがどうなるかあまり考えたくない。きっと、元気がなくなるか、毎日ぐずるはずだ」


 そうだ、チャックとも長く離れるのだ。

 敵地に、何も知らないノエルを連れて行くだけでも重荷なのに、癒しは取り上げられるとは。


 思わず、はーっと溜息が大きく漏れてしまった。

 そんな私を、ブライアン様はおろおろと見ていたが、きっとジョエル様を睨んだ。


「睨むなよ、ブライアン。俺に伝えておいたほうがいい事があれば、言えよ。まあ、少しは協力できるかもしれないし。詮索はしないが、協力はする。いい奴だろ。俺って」


 ジョエル様の明るい顔と、その下の方にいるチャックの嬉しそうな顔を見たら、力が抜けてしまった。

 そして私もつられて笑顔になる。


「凄い威力ですわ。ジョエル様とチャックを見ると、気持ちがぐんと引き上げられるようです」


 思いっきり晴れやかに、そう告げた私の腕を、いつの間にか横に来ていたベルがトントンと叩いた。

 そして控えめに、「お嬢様、ハンカチが汚れておりますので、交換いたしますね」と言い、新しいハンカチを渡してきた。


 ベルの表情が、「駄目ですよ」と言っている。

 アラッと思って周囲を見ると、ジョエル様は驚いた顔、チャックは嬉しそう、ブライアン様は下を向いている。


「あの、駄目だった?」


 扇子で隠して小声で聞く私に、ベルが小さくコクコクと頷く。

 

「失礼しました」


「いいや。チャック共々褒めてもらえて光栄ですよ、マリア嬢。でも、人間の男の中で一番のお気に入りは、ブライアンなんだそうですね。残念だなあ」


 ジョエル様がいたずらっぽい表情でフォローを入れてくれた。

 

「マリア嬢。その言葉に変更はありませんね。人間の男で一番は私ですね?」


 いつの間にか、ブライアン様にまた手を握られている。

 私は大きく縦に首を振った。

 彼はほっとしたように、私の手の上に額を付けている。


「女性のあしらいがスマートで、いつだって余裕のあるブライアンが、こんなに振り回されているなんて。凄いね、マリア嬢」


 アンッとチャックが吠える。


「やっぱり、お前もそう思うか?」


「すみません。今まで殿方との交流がほとんど無かったので、少し対応がおかしいらしいのです。今から頑張って勉強します」


 私が言い訳をすると、ジョエル様が笑った。


「だから早く責任を取りたいわけだ。他の男がその気にならない内にってことだな」


 ブライアン様とジョエル様は本当に仲がいいようだ。言うことがお互いにあけすけで、結構頻繁に手も出る。

 ブライアン様が、また書簡を投げつけた。


「お前、クルス伯爵家に持って行く前に、ボロボロになったらどうするんだ。やめろよ」

 

 そう言いながら、ジョエル様も投げ返している。


「できれば、紛失させたかったんだよ。公式文書の目録にきっちり載っているから、捨てられなかったけどな」


 チャックがテーブルの上に乗り、飛んでいる書簡目がけてジャンプした。

 

「あ、お前! あーあ、歯型が付いたかも。どうしよう、これ」


 ベルが控え目に私に合図した。


「私の侍女に任せましょう。ベルは非常に優秀な侍女です。きっとうまく修理できます」


 ベルは、「目立たないよう、直させていただきます」と静かに言った。


 チャックがいたずらをすると困るので、チャックはジョエル様と一緒に部屋に残ることになった。

 ジョエル様の部屋を出ると、ブライアン様が部屋まで送りますと言う。

 朝食のオムレツのお礼を言い、王子殿下の食事は、いつもの物より一段と美味しいと話しながら、ゆっくりと歩いた。


 部屋に入り、ベルが書簡を広げて修理の準備を始めると、ブライアン様がベルを呼んで隣室に移動した。

 なんだろうと不思議に思っていたら、ベルが出て来た。


「お嬢様、お伺いしたいことがあるのですが、いいでしょうか」


 私に向き合うベルの表情が、少し硬い。



今週は開始週なので明日も更新します。

読んでくださいね。

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― 新着の感想 ―
何故真相を王家に報告しないのか…公爵家の人間だからこそ王家に報告しないとダメでしょ
行く前に婚約した方が良いのに。 加護の事がバレたらあちらの国の王子との結婚話が出そう。 お話、とても面白いです。
敵は暗○上等の王家だからこっちも権力盾の王子ジョエルを事情を話して巻き込んだ方が良いのでは…人格的には問題なさそうだし
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