表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第二部【マリアの覚悟】第一章 王宮の侍女マリア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/68

王宮からの使者役ー1


「先ほど、ブライアン様とのキスをファーストキスと仰っていましたが、二回目の今回の人生でのファーストキスという事ですか?」


「いいえ、一回目も、二回目も含めてよ」


「なぜ?!」


「なぜって言われても。した事無いから、初めてよ。でも、昨日のはキスじゃないかもしれないわ。事故って言ったほうが正しいかもね」


 だって、ブライアン様は、全く覚えていないもの。


「一回目の人生で、ジェイソン様と結婚生活をされていたと思っていたのですが、違ったのでしょうか」


「していたわよ、結婚生活。すぐに体調を崩して、寝たり起きたりの生活になってしまったけど」


「同じベッドで眠っていたのですか?」


「ええ。でも、その後抜け出して、メリーの所に行っていたようね。夢で見たわ」


 ベルはしばらく、何かを考えていた。

 

「お嬢様は、夫婦生活について、どなたから、どう教わったのでしょうか」


「夜は、たまには一緒のベッドで寝る事。その時どうするかは、旦那様になる方にお任せするようにって、母から教わったわよ」


 ベルはまた無言で何か考えている。

 私は少し不安になった。


「何なの? 何か間違えている? そうなら教えて」


「初夜は、嫌ではなかったですか?」


 まあ、なんてことを聞くのでしょう。ちょっと赤面してしまった。 

 言いにくくてベルを見ると、凄く真顔で私を見ている。


「それは、もちろん緊張したわよ。男の人と一緒に眠るなんて、初めてだもの。不安で緊張して震えてしまったわ。私があんまり緊張しているので、ジェイソン様が気を使って、少し離れて寝てくださったのよ」


「震えただけですか? 体が痛くなったりしませんでしたか?」


「緊張して変な感じに力が入ってしまって、肩が凝ったけど、目覚めたら大丈夫だったわ」


「ああ……そういう感じ、だったのですかー」


 ベルがそう言って、その場に座り込んだ。私はおろおろしてしまった。


「ベル、大丈夫? どうかしたの」


 ベルはテーブルの端に掴まって、ゆっくりと立ち上がると、また隣室に戻って行った。


 少し後に、二人は部屋から出て来たが、二人共変な顔をしていた。

 私はそっとベルに近寄り、聞いた。


「なあに?」


 ベルは無言だ。

 ブライアン様は変な表情のまま、「それでは、私は仕事に戻ります」と言って、部屋から出て行った。

 ベルに説明を求めたけど、「その話は後日、改めてしっかりと説明させていただきます」と言って修復に取り掛かり始めた。

 チャックの噛み跡は、浅めで軽い物だった。


 思いがけない程早く修復作業が終わり、ベルが書簡を持ってやってきた。


「綺麗に直りました。これで大丈夫だと思います」


 ベルが差し出した書簡は、元の通りになって、噛み跡も見えなくなっている。

 私はほっとした。


「これをブライアン様の所に届けてもらえる?」


「はい。承知しました。何か伝言や、お届けするものがありますか」


「いいえ。ないわ」


 そう言ったら、ベルが聞いてきた。


「ブライアン様がキスしてきた時、嫌だと思いました?」


「えっ、何? そんなの一瞬のことでわからなかったわよ」


「たとえ一瞬でも、嫌な相手なら、身体が拒否します。それが無かったのなら、相手を嫌いではないのでしょうね」


 ベルがにっこりした。

 優しい表情を見て、私は急に聞いてみたくなった。


「もし、ちゃんとしたキスをしたら、どんな気分になるの?」


「さあ、ドキドキして幸せな気分になると聞いた事があります」


「そうなの? だったらやっぱりあれはキスじゃないわね。驚いただけだったもの」


 ベルがふふっと笑った。


「実は、私もキスしたことが無いんです。だから、どういう感じなのかは知らないんですよ」


 なんとなくほっとした。ベルも知らないのだったら、私が知らなくてもおかしくなさそうだ。

 私がほっとしたのを見てベルが慌てたように加えた。


「その話を男性としたら駄目ですからね。いいですね。いまのところ最大限譲って、その事に関して聞いていい人がいるとしたら、ブライアン様だけです。そこだけは心してくださいね」


「わかったわ。約束する」


 これはきっと、本当にまずい事なんだと直感した。

 ベルは疑い深い表情で私を見てから、書簡を手に、部屋から出て行った。


 それから三日間は、少し落ち着かない気分で過ごした。

 ベルシアを訪問することを考えると、気分が落ち込んでいくし、家に戻って、父や母にどんな風に説明したらいいのかも悩む。それに、キスの話も頭の隅に引っかかっていた。


 四日後のその日、私は正式な使者として、家に向かった。

 近衛騎士団から、八名が私の護衛に付き、馬車の前後を固めている。


 そして馬車には副団長のブライアン様。

 今日は副使者として同行しているため、騎士服ではなく、フロックコート姿だ。


 正装すると、気品に満ちあふれた美しさが際立つ。兄が言っていた、令嬢たちの憧れの的、国が誇る貴公子という言葉に納得する。

 そして、私は気後れして、黙り込んでしまう。


 そのせいで、先程から会話があまり続かない。

 なにせ今日は、雰囲気を和ませてくれる、チャックもいないのだ。

 

「マリア嬢。緊張されていますか? ずっと沈んでおられる様子ですが。私も一緒にいますから、頼っていただけたらと思います」


 真摯な表情が、ドキッとするほど美しい。美人の真顔の威力はすごいと思う。


 今回の話を、父たちがどう受け止めるか不安なのはある。

 でもそれ以上に、久しぶりに見る公務の立場のブライアン様が、眩しい。

 気持ちが落ち着かなくて、普通に話せない。


「はい」


 下を向いたまま、そう答えるので精一杯だ。

 その横に座る兄が、私の様子を見ていて、低く唸った。


「副団長殿。今日は気合を入れてめかし込んでこられましたね。私から見ても、まぶしいくらいです」


「使者だからな。だがマリア嬢の前では、私など霞んでしまうよ」


 ブライアン様が私に向かって、はにかんだように微笑みかける。

 この見た目で、その表情は⋯⋯止めて欲しい。


「ベル、今日の私の服装はどうだい? 合格点をもらえるかな」


 最近、この二人は少し仲良くなったようだ。

 なんとなく距離が近くなった気がする。


「服装から小物まで、セレクトのセンスは申し分ないと思います。ただほんの少し残念なのは、整いすぎていることです」


 兄が口を挟んだ。


「どういうことだ?」


「隙がなさすぎると、近寄りにくくなります。牽制するにはぴったりですが。つまり目的がどちらなのか、ということです」


 ブライアン様の頬がピクッとした。


「どうしたらいい?」


「髪を少し崩して、それからタイピンの位置をもっと下げて、ゆるめに留めてみてください」


 髪に指を入れて少し崩し、タイピンの位置を下げて、タイをフワッとさせた。

 雰囲気が柔らかく変わる。ほんのちょっとのことなのに、すごく効果的。

 さすが、ベルだ。


 私が王宮で過ごしやすい理由の一つにベルの存在がある。

 そのセンスの良さが、じわじわと周囲に広まり、アドバイスを求めに来る者が増えてきている。

 例えば、ドレスに合う髪型とか、ネックレスの形はどれがいいか、など。


 チャック付きで、ファッションセンス抜群の侍女を抱えた私は、少し特殊な立場を獲得しているのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
良かったぁぁ!!思わずガッツポーズをしてしまいました!!よかったねブライアン! もしジェイソンが手を出していたらいたで、こいつ仮にも好いた女がいるのに、しかもその妻を殺すつもりなのに手を出したのかって…
1回目の結婚、そういう感じだったんですねぇ。 なるほど。結婚してた記憶があるにしては男性との距離のとり方がわかっていないのが、少し不思議だったんですよね。 夢で、初夜のあとメリーがジェイソンを迎えたと…
嫁ぐ娘の性教育をなおざりにしたとか… 淑女の嗜み的には夫に全てを委ねるにしろ、肝心な部分を何も教えないのは様々な場面で支障があり過ぎる。 1周目+2周目(今回)の途中までどれだけ長女をいい加減に扱って…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ