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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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王族の天幕の中


 マリア嬢が、ブライアンに手を引かれ、馬車に向かう。

 その後ろ姿を見つめている内に、デミルは胸が苦しくなり、一度目を逸らした。


 彼女が去っていく。

 婚約者に連れ去られる。


 それが納得できない自分に戸惑う。

 

 馬車が動き出し、速度を上げた。まるで早くここから逃げ出したいようではないか。

 それにも腹が立つ。

 だがそれも仕方がないのだ。


 王太后は少し離れた所で母と言い合っている。

 その様子を見てから、ゆっくり父の方に向かった。

 デミルは父の横に椅子を持ってこさせて、そこに座った。

 こんな勝手なことをするのは初めてだが、聞かずにはいられなかった。


「父上、マリア嬢には、それなりの相手を見繕うとおっしゃっていました。それがなぜあの男なのですか」


 あの、祖母の腰巾着のようなアルバン。いい評判など聞いたこともない。


 王たちの裏をかき、マリア嬢をかくまおうと思っていたのに、都合の良いことに彼女が体調を崩した。これで大丈夫だと安心していたデミルは、マリア失踪の報に、頭を殴られたような衝撃を受けた。


 父は少しためらい、言いにくそうに声を潜めた。


「私は侯爵家の子息を選んだが、王太后はアルバンがいいと言って譲らなかった。相手が彼ではあまりに酷いとは思ったが、王太后の意のままに動かせるのは利点だ。それで、結局彼に決まった」


「王太后様お得意の嫌がらせですね。醜いことを平然となさる。今回のことで我が王家は大きく評判を下げました」


 父は驚いたように、こちらを向く。

 その顔を、デミルはぼんやりと見つめる。

 自分によく似た顔だ。


「お前は反対すると思ったので、この計画から外したのだ。本当にマリア嬢を気に入っているようだな。まあ、何事もなかったのだから怒るなよ」


 何事もなかったと気楽に言う王に、突然本物の殺意が沸いた。


「何かあってボロボロになったマリア嬢を、明朝この場で晒し者にして、あのアルバンに下げ渡す。そうならなくてよかった。王家の品位が地に落ちる」


 今度は本当に驚いたようだ。

 何か言おうとしたが、すぐには言葉にならないようだ。


「言葉が過ぎるぞ。口を慎め」


 デミルは慌てる父を見てふっと笑った。

 そんなデミルを見る父は怪訝そうだ。

 自分は何回か父親の暗殺を企んできたのに、自分が同じ目に遭うとは微塵も考えていない。愚かしい。


「では、父上、失礼します」 


 そう告げて椅子から立った。五歩離れたタイミングで毒矢が放たれた。


 さようなら、父上。



 そこからは大騒ぎになった。

 王太后が駆け寄り叫ぶ。

 護衛の近衛兵たちが周囲を見回し、そのうちの数人がデミルに駆け寄り、周囲を囲んだ。

「ここは危険です。このままこちらへ」


 近衛兵の護衛の最高順位は王。つまり、今はデミルなのだ。

 一応体裁をつけるために聞いた。 


「父は?」


「心臓を貫通しております」


 そうか。毒は不要だったようだ。国の抱える密偵たちは優秀だ。


 父と王太后は、その優秀な密偵たちを捨て駒のように扱ってきた。それが身を滅ぼしたのだ。

「あんな風に使い捨てられるのは御免だ」と、何人もが言っていた。

 母はその不満を、新しい王と、たっぷりの金で埋めてやった。


 デミルは王家用の天幕に案内された。

 母と王太后が、同じように近衛兵に囲まれて、天幕に入ってくる。

 父の遺体も運び込まれてきた。

 

 デミルは母が軽く頷くのを見て、その場を仕切り始めた。


「父の遺体はそちらに。矢を抜いて、何か掛けて差し上げろ。そこの二人、こちらへ」


 デミルは父の側近を呼び付けた。


「貴族たちは、全員をテントに戻せ。キャンプ地の警備兵は、後夜祭に集まった貴族たちの監視と警備に当てろ」


 運営担当の宰相は、配下の者たちに指示をしに外へ出た。

 近衛騎士団の隊長には、暗殺者の捜索隊を編成するよう命じた。


「近衛兵三百と、王と王妃の私兵二百で出よう。絶対に捕まえるぞ」


「準備にかかります」


 そう言って団長は出ていく。

 王族のみになったテント内で、王太后だけが泣いていた。


 王の亡骸にしがみつき、声を上げて泣きむせぶ。

 しばらくして、母の方を向いて叫んだ。

「あなたはなぜ泣かないの? 夫が亡くなったのよ。殺されたのよ!」


 母は黙って王太后を眺めている。

 王太后がデミルの方を向き、「デミル!」と叫んだ。


「何でしょうか。王太后様」


「父親が死んだのに、何なの。なぜそんなに冷静なの?」


「私は、王です。嘆いている余裕はない」


 母がデミルに寄り添った。


「私はこの子を補佐しなければ。嘆いている暇なんかありませんわ」 


「悲しくはないの!?」

 王太后がなじるように叫んだ。


「ええ。残念ながら、それほど親しくは無かったので。ご存じではありませんか」

 

 王太后が驚いている。

 それが意外だったので、デミルは王太后に聞いてみた。


「王太后様もお祖父様のことが嫌いだったではありませんか。なぜ驚くのですか!?」


「私は嫌ってなんかいなかったわ。彼が私を嫌ったのよ」


 母が思い出そうとするように額に手を当てた。


「私が十二歳で夫と婚約した頃は、仲が良かったですよね。その後王太后様が、マーカス様を避け始めたように見えましたが」


 王太后は横を向いて母の言葉を無視した。


「そんなこと、どうでもいいわ。私のこの子が死んでしまったのよ。なぜ? なぜこんなことが」


 泣く王太后をデミルと王妃は黙って見ていた。

 その内に母が言った。


「この先、この子が王位に就くに当たって、あなたは足手まといにしかなりません。どこかでのんびりと過ごしていただけるよう手配しますわ。どうぞ長く、達者で生きてください」


 王太后は驚いたように振り返った。


「何ですって。私がこの王宮以外のどこに行くって言うの?」


「西方の海の見える別荘はどうでしょう。お望みなら、北の端の修道院で祈りを捧げていただいても良いですね」


「何を言いだすの? そんなこと、私に対してできるはずがないでしょう」


「あら、誰かがあなたのために何か言うとお思い? そこにいる、前の王以外」


 母が亡骸を指さした。王太后は涙でぐちゃぐちゃになった目で母を睨んでいる。

 そしてデミルの方を向いた。


「あなたは私の味方でしょう!」


 デミルは面食らった。


「なぜですか? 王太后様。私もあなたとはあまり親しくありませんが」

 

 王太后がその場に座り込み、床に手を着いた。


「あなたもマーカスと同じ顔をするの? 私との婚約を拒否した時と同じ顔。なぜなの?」


 その言葉に母が反応した。


「あなたは謀反を企て処罰された、弟君の恋人だったと聞きましたが?」


「マーカスに拒否されたから、その弟に味方したのよ。でも帰国したマーカスは全て忘れていた。あの時は天が私に味方したと思ったのに」と王太后は噛みつくように言う。

 

 しばらく三人とも無言になり、その後、母が聞いた。


「それなら何の問題もなかったでしょう。それがなぜ?」


「……気が付いたのよ。あの人が私以外の誰かを愛しているって。いくら調べても誰なのか全くわからなかった。わからない訳だわ。まさか忘れた相手を想っていたなんてね」

 

 その言葉に驚き、デミルは思わず素で聞いていた。


「忘れた相手を想うことなんて、あるのですか? お祖父様はマリア嬢の祖母君の事を、全く忘れていたはずです。それに、王太后様はどうしてそれに気付けたのですか?」


「愛していればわかるわ! だから許せなかった」


 王太后の言葉に、母が皮肉っぽい笑い声を立て、鼻で笑った。


「そんな幸運に恵まれておいて、何て贅沢なことを言うの! それで、息子を身代わりにしたの? そのせいで私に夫は無く、この子にも父はいなかった。この人はずっと、あなたの恋人代わりだったのだから」


 父の亡骸を指さす母の顔を見つめるうち、王太后の表情が強張っていった。


「あなたたちね。この子を殺したのは」


「まあ、なんて馬鹿なことを。錯乱しているみたいですね」



 デミルは二人を見ながら、自分はマリア嬢を妃に迎えて、幸せな家族を築くと心に誓った。



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― 新着の感想 ―
執着の強いところは祖母に似てるんかな? デミル様もキモいお方のようですね。 相手の意思を無視するところも似てるかも? 執着怨念女の次は、恋着粘着男にストーカーされるんかなマリア嬢。 災難続きですね。 …
勝手なやつしかいねぇな
デミルよ、マリアは確かに懐広いので婚約者ができる前に出会っていたら マリアの祖母と前王のような関係になれたかもね、、、
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