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【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

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国王軍の襲来

 

 後方にいる兄とクルス家の騎士たちはどうなったのだろう。

 そう心配した途端に、窓の外に兄が顔を出した。馬を走らせながらこちらに向かって怒鳴る。


「来ましたよ。ざっと見た感じで八十程度。舐められたものだ。ニコラス殿の積んでくれた盾を取り出し、応戦準備は整いました。どうしますか?」


 目が生き生きとしている。


「もうちょっと先に進もう。矢を放って牽制しておいてくれ。まだ突っ込むなよ」


 ブライアン様の目もキラキラしている。

 これは危機ではないのだろうか。そう思いエマの方を見る。


 彼女は緊張した面持ちで、二人の会話を聞いている。そして、私の視線に気付いて、「大丈夫です。逃げ切れますよ」と言ってくれた。


 男たちより、女性騎士の方の方が、感覚が合いそうだ。

 馬車はそのまま全速で走り続けた。

 たまに馬車に矢が飛んでくる。ドガッという音がするたびに、私とベルは身をすくめてしまう。


 この馬車にも、装備や武器が積まれていたので、エマはパッド入りの防具と鎖帷子を素早く着込んだ。いつもの凛々しく美しい女性騎士が更に強そうに見える。

 

 ブライアン様がエマに指示を与えた。


「街道の途中にローズ家の騎士団が待機している。騎兵を中心に千呼んである。エマの父君も来ているはずだ。このまま馬車で一気にその集団の中に走り込んでくれ」


 エマは頷いた。私たちが馬車の最後尾なのだ。

 これは、私の頼んだこと。


「私と私の従者と護衛とで二十名だ。エリックたちに合流して、一緒に賊を討ち取る」

 

「それでも半数程度じゃないですか。大丈夫なのですか?」


 驚いて、ブライアン様に聞き返すエマに、彼は面倒そうに答える。


「ニコラス殿が配備してくれた兵たちがすぐに駆け付けるはずだ。そちらと合流する。だから大丈夫だ」


 私はエマに、「私たちは私たちの戦いをしましょう」と言った後、ブライアン様のジャケットの襟を引っ張って、キスした。


「だけど、全員無事に帰ってきてください。無茶するのは許しません」


「ご褒美は?」


「ありません。これは当たり前のことですから。誰かを犠牲にするような指揮はしないで」


 ブライアン様は私を抱きしめた。


「私の司令官殿は、厳しい方だ」


 そう言った後、彼は馬車から降りて従者の引いていた馬に飛び乗り、あっという間に見えなくなった。

 それを見送っていた私に、エマが声をかけた。


「もっと飛ばしますよ。しっかり掴まってください」


 そう言ってから、窓から身を乗りだして、「飛ばして」と御者に叫んだ。

 それから周囲を固める護衛の騎士たちに、「とにかく速度よ。もう少し先に味方が待っているの。もし何かあったら、マリア嬢とベルを馬に乗せて先に行って」と言った。


 私とベルは手を握り合い、座席の上で体を低くして、揺れに耐えた。

 馬車は途中で、反対方向に走り去る騎馬の群れと行き違った。


「ブライアン様が言っていた、フェルドの騎士団でしょう。四十騎ほどでしょうか。これなら大丈夫かな」


 エマが覗き込みながら言っている。

 それなら一安心だ。

 馬車の速度を少し緩めてもらい、私とベルはもぞもぞと椅子に座り直した。


「この先、あの騎士団もマリア様の領民になるわけですね。ニコラス様の事だから、良い人材ばかり、引っ張ってきているはずです。ベルシア王家と、さらに揉めませんか?」


 ベルは不安げに私に問いかける。


「この状況なら、揉めないわけがないわ。ただ、その相手が誰になるのか、どのくらい敵対してくるのかが今はわからないもの。考えるだけ無駄よ」


 エマは窓の外を覗き込み、後方を確認している。


「追ってくる者の姿が見えなくなりました。上手く足止め出来ているのでしょう」


 そう言って安心させてくれた。 それから私の前に座って問いかけてきた。


「ところで、キャンプ地を去った時の状況では、王太后はかなり追い込まれていましたね。下手をしたら、蟄居幽閉です。あのまま王妃に抑え込まれるのでしょうか」


 私は少し考えてから答えた。


「そうはならないでしょう。王が完全に王太后の味方だから。それに私たちは、国の問題として扱わないと言ったから、罪をアルバンに被せて終わりそうね」


 ベルが悔しげに言う。


「失脚させて欲しいです。あんな無茶苦茶なゴリ押しをするなんて、呆れてしまいました」


「そうね、私も耳を疑ったもの。絶対権力者が黒と言えばっていうことね。でも王妃からは自信が窺えたわ。何らかの策があるのでしょう」


 エマが 、「魑魅魍魎ですね。勝手に食い合ったらいいわ」と横を向いた。それから、突然窓に体を寄せた。

 そして窓の外を覗く。


「後ろから……ブライアン様です。エリック様たちも……何かまずいことが起きたみたい」


 そう言うと窓から身を乗り出し、御者に、「全速。私たちのことは気にしないで。本気の全速!」と叫んだ。


 馬車がグンッと加速した。先ほどは、まだ加減していたらしい。

 体がバウンドする。

 それをエマが抱いて抑えてくれている。私たちはお団子のように固まって床に伏せていた。


 窓の外からブライアン様の声が聞こえた。

 顔を上げると、彼と目が合う。


「馬に乗り換えて逃げろ。大軍が来ている」


 馬車が速度を落とし、しばらくして止まると、ブライアン様が乗り込んで来た。


「何のつもりかベルシア国軍が動いた。とにかくローズ公爵家の軍勢と合流しなければ無理だ。馬に乗り換えてくれ」


「王家がなりふり構わない手に出たってことですか!?」


 エマが叫んだ。


「フェルドの指揮官が、領地に急に進軍してきた国王軍に、理由を問いただしている。そう長くは足止めできないだろう」

 

 ブライアン様はそう説明しながら、馬車の周囲を並走していた騎士を四人選び出す。

 一人をローズ公爵家騎士団への伝令として送り出した。馬が土埃を立てて、走り去る。


 一人にベルを預け、一人はもう一人の馬に相乗りした。

 私はエマと二人で一頭に乗る。

 


 そこへ、少し後方の雑木林の中から、馬がいきなり飛び出してきた。


「ニコラス様の配下です」


 馬に乗った男が、そう叫びながらこちらに向かってくる。


「ニコラス殿からの伝令か。国王軍が動いた理由についてか?」


「はい。後夜祭の最中に王が射殺されました。それで急遽、キャンプ地に随行していた近衛兵を中心に、王と王妃の私兵たちを集めて軍を編成、暗殺者の討伐に出ました。総勢五百程度です」


「手回しが良すぎるな。どういうことだ」


「ニコラス様がおっしゃるには、王妃と王太子によるクーデターではないかと」


 私は口元を両手で覆った。

 まさかと思いながらも、納得してしまう。

 

「それがなぜ、私たちを追ってくる?」


「王がこちらに向けた一部隊を、暗殺者に仕立て捕らえようとしているか……」


 言い淀んだ伝令に対し、ブライアン様が、「それはない」と断言した。


「追手は私たちが叩き伏せた。その様子を目にしても、まるで止まる様子がなかった」


 伝令が、ハッとしたように顔を上げた。


「もしくはマリア様が狙いかもしれない、とお伝えするよう言われました。王太子がマリア様を意識しているのは確実だそうです」


 やはり王太子も、私が石の主だと知っているのだ。

 それで、私たちを襲ってどうする気なのだろう。クルス家と違い、ブライアン様のローズ家は、リース国の準王族なのだ。彼を害したら国際問題になる。


「マリア様を除いて殲滅を図るかもしれません。王を暗殺した賊と鉢合わせたと言い訳ができますから。状況が非常に混乱していますので、討伐に向かう兵たちも、ほとんどの者は誰を相手に戦うのかわかっていないでしょう」


 伝令の言葉に驚いて、私は口を挟んだ。


「初めの部隊も国王軍でしょう?」


 伝令がこちらを向いた。


「あれは諜報組織の集団を中心に王の私兵が交ざっています。諜報組織は表に出ていない者が多いので、どうとでも言えます。

 それから、諜報組織内に王妃側に寝返った者がいるようです。色々とタイミングが合い過ぎています。軍には王太子殿下も加わっています」


 私の後ろに乗っているエマが、馬を操って伝令の前に進んだ。


「共食いを始めたってわけね。勝手にすればいいけど、どっちも狙いはマリア様。質の悪い魔獣の首がもう一個生えたみたい」


 なんてことだろうと、思わずエマを振り返った。


「いや、違う。ニコラス殿に、目立たぬ内に引くよう伝えてくれ。相手は国と国王だ」とブライアン様が早口で言い、自分も馬に乗った。


「王が亡くなった今、王太子が王だ。そして彼が軍を率いているなら、私たちを生きて帰らせる気はない」


 私は王太子の顔を思い浮かべた。

 ダンスの時に「お手並み拝見」と言った、いたずらっ子じみた表情、王と王太后の後ろに立っている時の静かな無表情。

 どれも今の状況に結びつかない。


 エマが、「行きますよ」と声をかけた。

 馬が走り出し、速度を増していく。


「ブライアン様は?」


「後ろから付いてきています。皆も。ローズ公爵家の騎士団に合流しない限り詰みます。舌を噛まないよう口をしっかり閉じて」





・・・・・次回は最終回です。・・・・・


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― 新着の感想 ―
どれだけリース国を馬鹿にしているのか!、裏で国境侵犯して他国の貴族に強盗仕掛けるだけでもあり得ないのに、貴賓として招いておいて暴行拉致した上に衆人環視で辱しめ、更には殺害を企てるとは。 国に招いた他国…
最終回・・・ といっても、後日談とかおまけとか付きますよね? 怒涛の展開にドキドキハラハラ。
えっ次回最終回!???
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