表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化進行中】この結婚、死んでも嫌です【連載版】  作者: 羊宮 玲(旧 羊)
第五章 ブライアンの怒り

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/110

マリアの戦い


「兄たちは王太后とその配下を疑うでしょう。見当違いな捜索をしているかもしれない。だからあなたが頼りよ」


 ノエルは笛を胸にしまい、「分かった」と言った。目の怯えが薄らいでいる。


 私はノエルを強く抱きしめた。こうしている間に、誰かがここを探し当ててくれないかと願いながら。

 でもその願いは叶わなかった。やってきたのはアルバンだった。


「さあ、そろそろお散歩の時間だ。立って、ノエル嬢」


 ノエルは立ち上がり、ぎこちなく歩いていく。身体がこわばっているのだろう。

 玄関のドアが開く音がし、そしてバタンと閉まった。

 ノエルのことは、もう祈るしかない。


 ここからは、私の戦いだ。

 アルバンが私の方にやってくる。


「マリア嬢、一目見たときからあなたのことが気に入っていた。そう王太后様にずっと言い続けていたのが良かったのだろう。王太后様が、あなたを私にあげようか、と言い出した時には驚いて声が出なかった」


 何を勝手なことを言うのかと気分が悪かったが、なるべく表情を隠して聞いた。


「あなたは、なぜそれほど王太后様に気に入られているのですか?」


「私の父が、王太后の愛人だったからさ」


 ちょっと驚いて、素の表情になってしまった。


「王太后様の愛人ですか?」


「ああ、長くそうだった。その縁で私も取り立てて貰ったのさ。私と結婚したら、王太后様が面倒を見てくれるだろう。今より、ずっといい生活ができるようになる」


 満足そうに言うこの男は、王太后の本心を知らないのか、何も考えていないのだろう。この男が選ばれたのは、私に対する嫌がらせだ。

 自分が最低ランクの男として扱われていることに、気が付いていないらしい。


「王太后様は、なぜこんなことを? 私は何かまずいことをしてしまったのでしょうか」


「さあね。何せ気まぐれな方だから。何か気に入らなかったのだろう。たまにあることだ」


「大した理由もなく、相手を陥れるということですか? それでは、貴族の気持ちが王家から離れてしまいませんか?」


 私は驚いて聞いてしまったが、アルバンも驚いたような顔つきで私を見る。


「そんなこと、考えたこともないよ。マリア嬢は難しいことを考えるのだね。そんなタイプには見えなかったのだが」


 そう言いながらアルバンがにじり寄って来て手を握る。

 手を握られて、ゾワッとした。

 母が言っていたことを、今やっと理解できた。ブライアン様が手を握っても全然嫌ではなかったのに、この男に触られると、その部分が腐りそうなほど嫌悪感が湧く。

 

 ごくりと唾を飲み込み、「あの、他の男性二人はどこにいるのですか?」と聞いてみた。あの二人が居たら逃げられないだろう。何とかして遠ざけたい。


「あいつらは、外で見張りに立たせておくよ。安心していい」


 私がその気になっているとでも思っているのだろうか。流し目で、わかっているとでも言いたげに話す。


「では、寝室に」


 そう言って、手を取って私を促す。

 寝室に入ると、私はアルバンに背を向け、腰に付けた香水瓶を外しにかかった。


「何をしているの?」


「香水を振ろうかと思って」


「ほう、それはいいね」


 震える手でチェーンを外し、香水瓶を両手の中に包み込んだ。これがうまくいかなかったら短剣を使う。なにがなんでもこの状況を覆す。

 そう自分に言い聞かせた。


 その私の背後にアルバンが立った。

 私を振り向かせると、キスしようと肩を引き寄せた。嫌だと思ったとたんに、体が動いた。

 アルバンの顔に向け、香水瓶のノズルを向け、バルブを押した。


「うわっ」と叫んで、アルバンがその場に倒れ、顔を抑えて転げまわっている。

 うまくいったと思ったけど、こんなに騒いでは外に立つ二人が様子を見に来てしまう。

 私は咄嗟に、「嫌です。やめて」と叫んだ。

 アルバンは相変わらず、唸りながら転げまわっている。


 ベッドからかけ布団を取ってアルバンの上に被せ、その上からシーツで体を巻く。バタバタしているので、その作業は大変だったが、おかげでくぐもった呻き声しか聞こえなくなった。


 足がガクガクしていたので床に座り込み、ほっと息をついてからエマに祈りをささげた。

 心底、ありがたかった。


 しばらくしてやっと立ち上がれたが、ここにいても、助けが来なければ結局どうにもならない。

 窓のカーテンの隙間から外を覗くと、その周辺に男たちは見えない。

 残念ながら月夜で外は明るいが、森の中に逃げ込めば隠れることはできる。

 私は窓をそっと開け、椅子を窓際に置いて、窓枠に立った。


 靴が旅行用のヒールの低い物なのに感謝しながら、思い切って窓から外に飛び降りた。


 逃げようとしたらスカートを引っ張られた。ぎょっとして振り返ったが、アルバンではない。ドレスの裾が窓枠に引っかかっているようだ。

 それを思いっきり引っ張ったら、少し鍵裂きになったけど、やっと自由になれた。


 私はそっと壁伝いに歩き、入口のドアがある方を覗いて見た。男二人は、ドアの横で壁にもたれている。

 反対側へ逃げようとしたら、二人の話す声が聞こえてきた。


「なあ、お前、事前に何か聞いていたのか」


「何を?」


「さっき、ためらいなく女をやっただろ。そういう指示が、あらかじめあったのかと思ってさ」


「いいや。あのとき初めて聞いたさ。驚いたけど、ここまでやっちまったんだから今更だ」


 話し始めた男は、もう1人をこわごわと見る。


「俺達、大丈夫かな? 事情を知る者は始末するって、俺達も同じじゃないのか?」


 もう一人が、「えっ」と短く声を発して、話しかけた男の方を向いた。


「これは単純に横恋慕の話じゃなさそうだろ。王太后が絡んでいるような話が出ていたじゃないか。俺はそんな危ない話とは思っていなかったんだ」


「ああ、そういえば……なあ、まさか、俺たちも消されるのか!」


「……だろ? 博打の借金をチャラにして、更に金をたっぷりもらえるなんて、おかしいよな」


「……逃げるか?」


 その時、後ろの方からアルバンの声が聞こえた。


「女が逃げたぞ。探せ。捕まえるんだ」


 しまった。もっと薬をたくさん掛けて置くべきだった。それより、ちゃんとシーツを縛ればよかったのに!


 私は慌てて、横の藪に飛び込んだが、ドレスが雑木の枝に絡まってしまった。

 女性のドレスは不便だ。

 結局、身動きが取れなくなっている所を、あっさりと三人に捕まってしまった。


 アルバンの左側の頬から首筋は赤くなって腫れている。それを押さえていた手も同じだ。


「小屋に戻せ。とにかく朝までここにいさえすれば同じことだ」

 

 アルバンは憎々しげに私を睨んだ。


「大人しそうに見えてなんて女だ。結婚したらしっかり躾けてやる」


 誰があなたなんかと結婚するものですか。たとえ醜聞まみれになろうとも願い下げね、と心の中で悪態をついた。

 でも口を固く閉じて下を向いていた。ここでそんなことを言っても警戒されるだけだ。

 アルバンは私の俯く様を見て、諦めたと思い込んだらしい。


 ハハハと笑ってから、「痛い、水を持ってこい」と男の一人に指示して、先に小屋に入っていった。

 それを見送ってから、私は腕を掴んでいる男に聞いてみた。


「あなたは生き延びられると思っているの?」


「何だって?」


「王太后は、この悪事を隠したいはずよ。つまりあなたたち二人は邪魔者。明日の朝になる前に、暗殺者が来るわね」


 男はギョッとしたように腕を離し、一歩後ずさった。

 そして、まるで悪魔を見るかのような表情で私を見る。


 そのまま後ろに三歩、それから急に踵を返し、建物の前に停めてある馬に駆け寄る。

 私は急いで反対方向に向かって走り、今度はスカートを押さえながら茂みの後ろに座り込んだ。

 急に飛び乗られた馬は驚いていななき、ガッと土を蹴立てて走り始めた。


 すぐにアルバンともう一人の男が小屋から飛び出して来て、何やら騒いだ後、残されていた馬車で後を追って行った。


 私は茂みに隠れたまま、大きく息を吐き出した。助かったのかもしれない。

 安心したら、手足が震え始めた。だからちょっとだけ、このまま休憩しようと思った。

 膝を抱えて、頭を乗せて目を瞑る。


 その時、後ろから羽交い締めにされた。

 しまった。油断してはいけなかったのに。

 私は何とか逃げようと手を振り回したが、まるで身動きできない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
災難に次ぐ災難 なんとか一家揃って無事で帰国できますように。 それにしてもここまでくると王太后になんとしても一矢報いて欲しい気持ちが。こう言っちゃなんだが王も王太后も権力持ってちゃいけない人種過ぎて排…
ここまでくると主人公側も相手側を全員殺さないと不味いでしょうね。ブライアンの立場が立場なので、世間的に、賊に誘拐されたけど無事でした、を信じるやつがどれだけいるのかという話になってきますね。
逆上して殺されるかもしれない、怖い、ドレスが邪魔で森の中を進めない、引っかかっているうちに物音を立てているうちに見つかるかもしれない…パニックの時にとりあえずしゃがんで隠れながら次どうしようか考えるの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ