5-1 期限付きの平和
「レイルさん!今日もお疲れ様です」
フードの男がすれ違いざまに挨拶をしてくる。
「お、おう。お疲れ」
俺もなんとか反応して作り笑いで返す。
「あいつらなんだよ。急に気持ち悪いな」
フウジは隣で両手を頭の後ろで組みながら言う。
「確かになんか大袈裟に挨拶されてるような気はするけど……。無視されたり敵対されるよりはマシだ」
「そっかー、まあレイルがいいならいいんだけどな」
俺たちは街の中の見回りをしている。
魔物の襲来を知らせるカランカランという不快な音が鳴る回数も少しずつだが減っている。
周囲にいる魔物の数が減ったのだろうか。
分からないがとにかく、コンガにとっていい傾向だ。
「あっ!レイルー!」
サラの声が聞こえて振り返る。
サラとクロールが二人並んで歩いている。
「おっちゃん。元気になったのか?」
「お前の仲間のお嬢ちゃんが手加減してくれなかったから重症だ」
フウジの心配をクロールは皮肉で返す。
「重症って……擦り傷くらいしかなかったじゃない」
サラが呆れながら呟く。
クロールはサラの声を聞き苦笑いする。
「おっちゃんマジで重症なら無理すんなよ」
「嘘だから大丈夫……」
サラの鋭い視線がクロールに向いている。
危機を感じ取ったのだろうか……。
「クロールなんかの心配はしないで大丈夫だから」
サラはフウジの肩をポンと叩く。
「私たちはレイルに用があってきたの。ごめんだけどあなたはすこし離れててくれない?」
「ここで聞いてちゃダメなのか」
フウジが首をかしげる。
「まぁギリギリダメかなって感じ」
サラの言葉にフウジは頷く。
「まあ、しゃーねーな。じゃあ先行って街の見回りしてくるわ」
フウジは俺に言い残しいつもの見回りルートの方へ歩いていく。
フウジが見えなくなったのを確認してからサラは話し始める。
「ねぇレイル。この街どうするつもり?」
「助けたいとは思ってる」
サラはため息を吐く。
クロールは俺の顔を見てなんともいえない顔をする。
なんでそんな顔をしてるんだ。
「助けるってねぇ……どうやって助けるかも分かんないのにそんなこと言って……」
「けど困ってるんだからさ。できることがあるなら手伝いたい」
「それに……もし、ケビンたちがもっと酷くてノアを売ってたら……この街は助かってた訳だし……」
細い声で訴える。
ノアを売らせることを阻止できたのは本当に良かった。
けど、そのせいでコンガの街からはお金は消えた。
「それはレイルのせいじゃないじゃない。わざわざ助けることないよ。ノアを連れて帰ろうよ」
サラの言葉も分かる。
けどここで帰ったら、アスカに胸を張れない。
「それはわかってるけど……ほっとけないんだ」
消えそうな声で訴える。
サラは俺の顔を見て呆れた表情を浮かべる。
「だから言ったろ?ノアとコイツは同じお人好しなんだよ」
クロールがあくびをする。
まるで俺がなんて答えるか知っていたような反応だった。
「ノアもなんか負い目感じてるみたいだし、これがこの二人かぁ……」
「私、大変なところに来ちゃったのね」
「まあそんなこと言うなよ。全部上手くいく人生よりはこっちの方が面白い」
クロールはサラを宥める。
そして、俺の目を見る。
「だがレイル。守るってのは奪うより難しい。お前にそれが背負えるのか?」
俺は少し考えた。
ノア一人ですら危うく失うところだった。
そんな俺に守る資格があるのだろうか。
「そんなのレイルなら全部背負って、俺が全部守る!って言うに決まってんじゃんか」
サラが俺の代わりに答える。
クロールもサラの答えを聞いて頷く。
「確かにレイルなら結局守っちまうよな。損切りとかできなそうなタイプだ」
「それは褒めてるのか」
俺はクロールに聞く。
「誰にでもあるもんじゃねぇよ」
「ほら、こうなったからには二人で帰るしかないぞ」
「まぁ……そうね」
クロールとサラは意味のわからないことを言う。
帰る……?
どこに
「帰るってどこに」
俺が真顔で質問するとサラの目が点になった。
「嘘でしょ……どれだけ何も考えてないの」
「レイル、お前は知らないと思うがこの街の食料事情はかなりヤバい」
クロールが俺を見て話す。
たしかにコンガに来てからはパンと水しか食べてない気がする。
けど、エルド村にいた時だってこれにスープとカエルがついてただけで似たようなもんだった。
「ガブっていう男に聞いたんだが、この街の人口は現在1000人程度。そして今ある食糧の備蓄は30日分らしい」
「食糧不足って……そこら辺から取るか買えばいいんじゃないか?」
クロールが顎で指す。
その方向を見ると辺り一面には砂と岩しかない荒野が広がっていた。
「この状況でどうやってそこら辺から1000人の食いものを取るんだ」
「それは……確かに無理かも」
サラが話す。
「だから、私たちがエルド村に帰って、種を持ってくる。二週間もすれば成長する魔法みたいなお芋があるの」
サラがクロールの方を見る。
クロールは咳払いをして話し始める。
「これは今の王国では流通してない芋でな。コイツを植えると特殊な脈気が周囲に流れて龍脈兵器が使えなくなっちまうんだ」
「なんだよその芋」
俺が質問する。
クロールは俺の質問に即答した。
「知らん」
「昔の変な科学者が頭イカれてなんかして作ったんじゃねーのか」
「ちなみに私はこの芋好きだよ。昔、パパがよくこれでふかし芋作ってくれたんだー」
サラが嬉しそうに話す。
「魔族では流通してんのか」
「うん!だって魔族は人間なんかよりもたくさん食べるから」
「じゃあ二人はエルド村にあるその不思議芋の種を持ってくるのか?」
俺の言葉にクロールが頷く。
「そういうことだ。あの種の場所は俺とアッさんとカマイしか知らない」
クロールは誇らしげに話す。
なぜクロールはこんな不思議な種のことを知っているのだろうか。
疑問に思ったが聞くのも面倒なのでやめた。
「ってことで、私とクロールは種を取りに行くために一度帰るね」
サラは俺の方へ歩いてきて耳打ちする。
「ノアのこと。ちゃんと見といてね」
それだけ言ってサラはクロールと共に俺と反対側に歩いていく。
「ちょっとサラ!どういうことだよ!」
「とりあえず食糧のことは任せといてー」
サラが大声で俺にさよならを言う。
言い逃げするなんて酷い。
それに種を回収してくるだけならクロール一人でもいいんじゃないか。
冷静に考えるとそう思ったが、思ったころには二人の姿は見えなくなっていた。
フウジを追って歩いていると街の色々なところに白い色の線が見える。
脈気はこんなに身近にあるのかと少し感心する。
フウジとの見回りルートを引き続き歩いていくと昨日魔物を倒した箇所についた。
白い線が地面を絨毯のように覆っており、茶色い土が隙間からしか見えなくなっていた。
「いくら昨日数十体倒したからってこれは多すぎだろ」
なんとなく、声に出して呟いてみた。
コンガの街に初めてきた時に、脈気不足で苦しんでたのが嘘みたいだ。
色々なところに脈気はあるな。
深く気には止めずにその場を去って普段の見回りルートを進んでいく。
何事もなく進んでいき、本部の前まで帰ってくる。
――ギィィィィィ
本部の扉を開くとフウジとガブが叫びあっていた。
「だからさボス!本当に見たんだって!」
「嘘つけ!こんな草どころか枯れ木すらない土地に芽が出たなんてのはありえないだろ!」
フウジとガブの言い争いを遠くからノアが見ている。
ノアは俺に気づくとスッと俺の方へ寄ってきた。
「なあ、ノア。この二人なんでこんなに言い合ってるんだ」
ノアは少し考えながら言った。
「うーんとね。なんだか、この街に草が生えたらしいの」
「それだけ?」
「うん」
二人が俺に気づくまでの間、ボーッと言い争いを眺めていた。




