4-モノローグ4
扉から出ると、一人の男性が本部の出口前に椅子を出して座っていた。
「んっ?」
何で気付いたのか分からないけど、男性は私の方を見る。
私の表情を見つめ、手招きしてくる。
「すいません、外に用事があるので」
「なんの用事だよ。外にレイルがいても会いにいくのはダメだ。俺は弱いからレイルと違ってノアさんは守れねーよ」
金髪の坊主頭の男性に止められる。
それでも私は無理やり外に出ようとする。
「行かせねーよ」
男性は私の肩を掴み離さない。
「ほっといてください。どこに行ったっていいでしょ」
「よくねーんだって。お前が外に行くと俺がレイルに怒られるんだよ」
レイル?
なんで、本部の見張り役の方がレイルに怒られるの。
「なぁノアさん。なんか悩みがあるんだったらわざわざ外に行かずにここで言ってくれ。俺でよければ聞くだけはできるから」
私は男性の顔を見る。
見たことのある顔だなと思った。
その後すぐに、この間夜に部屋に来た変な人だと分かった。
「ずいぶんレイルと仲良いんですね」
私は少し不機嫌に言う。
「レイルと仲良いって……俺なんかより命張って助けてもらったノアさんとの方が仲良いだろ」
「……」
私は返事をすることができなかった。
彼は私の沈黙を見て気まずそうに頬をかく。
「まあ、事情は分かった。外で散歩でもするか」
彼はそう言うと棚の上のジオガンをポッケに入れて立ち上がる。
「特別大サービスだから言うなよ」
私は黙って彼について行く。
薄い青色の空が街を照らす。
もうすぐ夜が終わるのが嫌でも分かった。
私と金髪の男性は、誰もいない街を二人並んで歩く。
「たまにはこうやって、朝から外に出るのも気持ちいいな」
「そうですね」
私は素っ気ない返事を返す。
冷たい風が私たちの足取りを重くする。
「うわ、さみぃ。これは目が覚めるわ」
男性が私の横で震える。
「寒いなら帰ってもらっても大丈夫です。私だけでも平気だから」
「だから、それだとダメなんだって!」
男性は頭を掻き毟る。
「あー!もう、めんどくさいな!」
「ちょっと――」
男性は私の手を引いて近くの小屋へ入る。
その小屋は妙に綺麗だった。
「勝手に連れ込まないで!」
「うるせぇ!ちょっとは俺の気持ちも考えろ!」
男性は怒鳴りながら言うと近くにあった毛布を羽織る。
震えている彼を見ると急に冷静になれた。
「その、すいません。迷惑かけて」
「ああ、本当に良い迷惑だよ!」
男性はそう言って私にも毛布を投げ渡す。
「どうせ痩せ我慢してるだけで寒いんだろ。使え」
「ありがと……」
私は渡してもらった毛布を羽織る。
暖かい。
「ノアさんって結局レイルのなんなんだ」
男性が突拍子もなく質問してくる。
それに私は動揺した。
「ノアさんノアさんってなんで私の名前を知ってるの!」
「うちの組織にいたんだから知ってて当たり前じゃね?」
彼の言葉に何も言えない。
固まる私を見て彼はため息を吐く。
「俺はフウジ。組織の中では下の上くらいの立場です」
フウジは怠そうに私に自己紹介をしてくれる。
「レイルも大変だな……こんなわがままな子を背負ってて」
「わがままって!」
自分の今までのフウジへの態度を思い出す。
乱暴な発言。
不機嫌な態度。
すぐに怒る情緒不安定さ。
そう思われても仕方ないと思った。
「そうね。わがままでごめんなさい……」
「おい急にそんな風に謝るなって。俺が悪者みたいじゃんか」
フウジは慌てながら言う。
「指摘されるまで分からなかったけど、私はわがままだったのは本当だから……」
「それはそうだけど急にしんみり謝るな!ついていけねーよ」
フウジは近くの椅子に座る。
「まあけど似たもの同士なのかもな。レイルとノアさんは」
フウジの言葉に私は驚く。
私とレイルに似ているところなんてない。
全部レイルの方が上。
「自分一人でなんとかできる。これは自分が背負わないといけない。超人だからレイルはできちまったがノアさんは超人じゃない」
フウジの意見を私は黙って聞く。
「俺たちに出来ることはしれてるんだ。出来ることの範囲内で努力することが俺たちにできる精一杯のレイルへのサポートだと思うぞ」
フウジは私の目をじっと見つめる。
私が目を逸らしても逃してくれない。
「レイルに強さで追いつこうとしなくて良い。レイルに足りないものを補えるようになれれば俺たちでも支えられるんだ」
「どういう意味?」
私の問いかけにフウジは目を瞑りながら答える。
「マイカの元で力をつけるより、確実にレイルを支えられる方法はあるってことだ」
どうして私がマイカさんに話しかけたことを知ってるの。
不安と恐怖が一瞬走る。
「無理すんなよノアさん。レイルにとってあんたは一番必要なんだ」
フウジの言葉を私は理解することができなかった。
――――
崖を登り、久しぶりに紫色の葉を見る。
「変わってないな。魔族も」
俺はそのまま薄暗い森の中に進む。
レイルが育ってからサボっていたから村を守るのは久しぶりだ。
ふと、レイルのことを思い出す。
あいつにはクロールをつけてきた。
レイルの実力とクロールの経験、サラの補助があればノアを救出することは問題ない。
そんなことを考えながら森を進むと大きな道に出る。
魔族領だ。
「ああー!人間人間発見!」
走っても遅いようで、のろのろと俺に近づいてくる魔族が一匹。
カタツムリのような見た目をした魔族は俺の目の前までくると警告する。
「おい人間!ここがどこか分かってるのか!一秒やる!魔族領から出ていけ」
「ふざけたカタツムリだ」
俺の返事にカタツムリは怒りを募らせる。
「俺は今忙しいんだ!あの村の奴らを血祭りに上げて、苦しみ叫び喚き声を上げさせて!復讐するんだ!」
「あの村ってどこの村だ」
俺の問いかけにカタツムリは意気揚々と答える。
「もうお前は殺すことに決めたから教えてやる。この崖の先にある森の中のちんけな村だ」
「その村はやめておけ。俺の村だ」
カタツムリは俺の足の上に乗っかり自慢気に俺の方を見る。
「俺はこう見えて身体が重い。さらに脈気を加えてこうすることで」
――バギィ
地面に足が沈んでいく。
「痛いか?苦しいか?苦しんで死ね!」
カタツムリの魔族の言葉を俺は聞き流す。
足をサッと上げる。
カタツムリの魔族はバランスを崩し俺から距離を取る。
「何者なんだ人間!」
「何者でもいいだろう」
カタツムリの魔族は俺の前に来る。
「あの村の糞ったれ共を殺す前にお前からだ!」
「動きよー。止まれ!」
カタツムリの魔族は変な動きと声を出す。
俺は目を瞑り、集中する。
――風を切り何かが突っ込んでくる。
俺は剣を握り振る。
――スパッ。プチュ
地面に何か柔らかいものが落ちる音が聞こえた。
目を開くとカタツムリの魔族が綺麗に真っ二つになり道端に落ちている。
「つまらない人生だったな……」
俺は呟き剣を鞘に収める。
エルド村の方へ向かい歩き始める。
「この程度の魔族ならモノやカマイでも余裕だったな……」




