4-モノローグ3
――ギィィィィィ
私がいる部屋の扉が開く。
そこには砂まみれになったサラが立っていた。
「ねぇノア!聞いてよ。またここの奴らが私の治療を邪魔するの!」
サラの後ろにはフードを被った女性が一人。
「サラさん!そんな重体で歩き回るなんていけません」
「だーかーらー!私は魔族だから!あんたたちがなんて言おうが私は魔族なの!魔族には魔族の治し方があるんだからほっといて!」
サラがフードの女性を押しのけ無理やり扉を閉じる。
――バタン
大きな音が部屋に響く。
「親切にしてくれてる人をそんな風にしなくてもいいんじゃない?」
私はなるべく優しくサラを諭す。
「あー!ノアまでそんなこと言って!私こんな枯れた土地にいたらカラカラのミイラになっちゃうのに!」
「ミイラになっちゃうってどういうこと?」
サラは私の表情を見て、大袈裟に叫ぶ。
「ミイラになっちゃうくらいピンチってこと!例えだよ!」
サラは当然のように私の横に腰をかける。
そして服を脱ぎ肩の傷を見せつけてくる。
サラの肩には白い皮膚と少し茶色の皮膚とはっきりと分かれていた。
「もう完全に止血できてるんだよ!私のやり方で!それなのにまだ寝てないとダメー、なんておかしいでしょ!」
「う、うん。そうだね」
「やっぱり。ノアなら分かってくれると思ったよ」
よく分かんなかったけど話を合わせてみる。
上手くいったようでよかった。
サラは横をキョロキョロと見て、誰もいないことを確認する。
「レイルには内緒なんだけどね。私すっごく脈気が出てる箇所見つけちゃったの」
「私には分からないんだけど脈気って見えるものなの?」
サラは私の問いに答える。
「まあ、私くらいの実力になると感じられるんだよねー」
サラは誇らしげに自慢する。
その嬉しそうな表情を見ていると私まで嬉しくなる。
「あ、これレイルには内緒ね。あいつ私のこと最近なめてるからここら辺でどっちが年上なのか分からせてやろうと思って――」
サラが笑顔でレイルの話をする。
私もその話を笑顔で聞く。
笑顔の理由は、レイルの話を聞けて嬉しいから。
サラに見せるレイルと私が知ってるレイルが少し違うことは知ってる。
サラから見たレイルも優しそうで聞いてて心地いい。
――ギィィィィィ
また扉が開いた。
「おいサラ。たまにはおじさんと少し酒でも飲まないか?」
クロールさんが勝手に部屋に入ってくる。
両手のお酒の瓶がとても似合っている。
「なんで怪我人に飲ませようとするのよ!そんなのはレイルみたいな怪我しないようなやつに言ってよ」
クロールさんは下を向きながらねだるように話す。
「だってレイルは酒全然飲んでくれないし。そもそもあいつ魔族が襲ってきた時のために遊んでもくれないし」
私はクロールさんの言い分がおかしくて笑ってしまう。
「ふふっ」
笑う私を見てサラが呆れた表情を浮かべる。
「ねぇノア。こんなおっさんの気持ち悪い話のどこが面白いわけ」
「なんか凄く必死だったから。ごめんねクロールさん」
「おう!飲んでくれるなら許す!」
クロールさんは私たちが座ってるベッドには腰を下ろさずに地面に座る。
「コップは俺の手作りだ」
クロールさんが石に無理やり穴を開けたようなコップを3つ取り出す。
「飲むなんて言ってないけどね……」
サラはそう口では言いつつもコップを手に取る。
「へぇー、よくこんなに石を彫ったね」
「ああ、レイルに頼んだら一発だ」
「なにが手作りなのよ」
クロールさんはそんなサラの言葉に耳を貸さずに私の方に置かれたコップにお酒を注ぐ。
透明な液体が少しだけ揺れている。
「まあノアもしんどかっただろうし飲んで忘れよう」
私の手に無理やりコップを握らせる。
「ありがとね。クロールさん」
クロールさんは私の言葉に笑顔で返事をする。
「おらサラ!ノアも飲むんだ。逃げるんじゃねぇ」
「なんでノアが飲んだら私も飲むことになるのよ!」
そう言いつつもサラはコップを自分から握って、クロールさんにお酒を注いでもらっている。
口と行動が一致してない。
「じゃあノアが帰ってきてくれた祝いに!」
「はいよー!」
クロールさんとサラが一緒に声を上げる。
「みんなありがとね」
私の言葉を聞いて二人は私のコップに自分のコップを思いきりくっつける。
「「かんぱーい」」
サラとクロールさんは色々な話を私に聞かせてくれる。
三人で街で魔族のフリをした話。
クロールさんがカッコよく助けにきてくれた話。
レイルとクロールさんで大道芸をした話。
サラとレイルが二人で戦った話。
当然だけど、どの話にも私は出てこなくて。
それなのにレイルは出てきて、少しだけ……距離を感じた。
みんなはレイルとの話を笑いながら聞かせてくれる。
けど私は、レイルとの話なんて何もない。
いつもみんなに無理やり輪に入れてもらって。
守ってもらって。傷つけて。
私がみんなと一緒にいる権利はあるのか。
少し……分からなくなってくる。
天井の窓から見える空が少しだけ明るくなる。
「サラは冷静に見えて、意外と乱暴だからな」
「クロールはちょっと余計なんだよね。それを言わなかったら私はコロッとクロールのこと好きになってたかもしれないのに」
サラが笑いながら言う。
「そんなわけねぇだろ!いつも酒臭い煙草臭いしか言わねぇじゃねぇか!」
「アハハ、バレちゃった」
クロールさんは私が天井を見ているのに気付く。
「お、もうこんな時間か」
「こんな時間って……まだ夜は始まったばかりだよー」
「まだって……もう朝の始まりだよ」
クロールさんの言葉に私は笑いが止まらなくなる。
自分では思考できているつもりだけど、酔ってるのかな。
「ねえ、クロール。もっと飲もうよー。ほら!まだこんなにあるし」
サラの足元にはお酒の瓶が三本転がっている。
「飲みすぎなんだよ!これ後でここの奴らにどれだけ請求されるかわかんないんだからな!」
「ええーいいじゃんクロール。ノアもそう思うでしょー」
「そう思うも何も!俺がノアのところで潰れたらどうすんだよ。カマイの店じゃないんだぞ」
クロールさんが必死にサラを説得しようとする。
「私はここで寝ても構わないよ」
「ほらー、ノアがいいって言ってるんだよ」
サラがクロールさんの腕にまとわりつく。
クロールさんは必死にサラを振り払ってドアの前までフラつきながら歩いていく。
「じゃあ俺は寝るから。サラを頼んだ」
クロールさんはそう言って逃げるように部屋から出ていった。
「クロールのアホバカ」
サラが小言を言いながらお酒をちびちび飲む。
「ノアは一緒に飲んでくれるよね!」
お酒が喉を通り過ぎたら話し始める。
サラは本当に愉快だなって思う。
「いいけど……一つだけ質問してもいい?」
「いいよー!それくらいなら任せて!」
サラは二つ返事で承諾してくれる。
「ねぇ、サラ。この間のクッキーの話覚えてる」
「あー、そんなのもあったよね」
サラは私の口にお酒の入ったコップを押し付けてくる。
私は受け取り、少し飲む。
それを見てサラは満足したのか元の床の上に戻っていった。
「私あの時から気持ちも感情も変わらない。けど、みんなの隣にはいたいって余計思うようになったの」
「隣にいたいってもうすでに隣にいるじゃない」
サラはちびちびとお酒を飲み進める。
「ノアが思ってるほど私たちとノアは離れてないよ」
「そう、ありがと……」
私はコップの中のお酒を飲みきりベッドから立ち上がる。
「ちょっとノアー。どこいっちゃうの」
サラが寂しそうな目で私を見つめる。
「ちょっと夜風で酔いを覚ましてくるね。お酒入れて待ってて」
私は無理に笑顔をつくる。
笑顔を見て、サラも納得してくれたのか私のコップにお酒を注ぐ。
「待ってるからねー」
サラの声を背に私は扉から出た。




