4-モノローグ2
「ちょっと!まだ外に出ないでください!」
男の叫び声が聞こえる。
「私はこんなところにずっといたら死ぬの!何回言えばいいのよ」
――ダンダンダンダン
人が走る音が聞こえてくる。
俺はうるさくて目を開く。
天井を見上げると焦げた跡がある。
「起きたか!」
目の前に急にレイルが現れる。
「おわーあ!」
俺はびっくりしてベッドから飛び出す。
腹が痛い。
俺はすぐに膝をつく。
「大丈夫かフウジ」
レイルが俺の元へ来る。
「ああ、ちょっとすごく痛かっただけだ」
「フウジが起きたこと、ケビンにも知らせてやらないとな」
レイルが笑いながら言う。
「え、ケビンさんもここにいるのか!」
俺は痛みを堪えて立ち上がる。
辺りを見回して俺は理解する。
ここは組織の本部だ。
通路の真ん中にベッドがいくつか並べられている。
「そりゃいるだろ。コンガにいなかったらどこにいるんだよ」
「それも……そうだな」
俺は不思議とレイルの意見に納得する。
ケビンさんとレイルはノアさんを巡って争ってたんじゃないのか。
何もわからねぇ。
「フウジ!」
ひょっこりとマルトがレイルの後ろから出てくる。
「マルト!」
マルトは俺の傷を見て少し引いている。
「なんだよマルト。俺の怪我がそんなにおかしいのか」
「いや、あんなにお腹えぐれてたのに立てるんだなって思って引いてるだけだよ」
マルトがそう言うと急に腹に痛みが湧き出てくる。
「そういえば腹いてぇ……」
俺はベッドの上に倒れる。
「まあしばらく寝とけよ。俺も他にもいくとこあるからさ!」
「元気になったらまたこの街を案内してくれよ」
レイルはそう告げると外に出ていった。
「レイルさんって不思議な人なんだね」
マルトが急に話しかけてくる。
「急に何言ってんだよマルト」
「フウジは知らないだろうけどね。レイルさんこの街にしばらくいるんだって」
「は?」
俺は驚いたが今度はベッドから飛び出さずに声だけ出した。
「なんで?」
「僕は詳しい理由は知らないけどボスとケビンさんがそう言ってた」
「お前もわかんねぇことを怪我明けの俺に話さないでくれよ……」
俺は布団を被り上を見る。
「ご、ごめん。けどフウジには言っといたほうがいいかなって思って」
マルトが慌てて謝る。
「そっか。レイルはまだこの街にいるのか……」
少しだけ。
本当は少しじゃなかったかもしれない。
レイルがこの街に残ると聞いて俺は嬉しかった。
――――
「ハッ!ハッ!ハッ!」
一定のリズムで私は拳を繰り出す。
私のことを否定してきたレイルという男。
彼を許さない。
私は彼のことだけを考えて修行に打ち込む。
「私はもうすでに自分のために生きてる!」
私は拳を崩れかけの建物へ向ける。
――ガラーン
壁が崩れ落ち、建物の中が見える。
「こんなんじゃダメね」
私は崩れ落ちた瓦礫を見る。
大雑把に砕けて大きな瓦礫。
こんなのじゃあいつみたいな人外には勝てない。
修行をしていると横から街をゆっくりと歩く青髪の女が見える。
「あいつはたしか……」
ノアとかいう女。
けど、結局。
アイツはただの人間。
特別な力を持ってるのはレイルとかいう方のやつだった。
もう私には興味ない相手。
「ねぇ、なにしてるの」
ノアとかいう女が話しかけてくるが私は無視をして型の確認をする。
「ねぇ、あなた強いんでしょ」
ノアの言葉に私の手が止まる。
振り返り彼女の顔を見る。
彼女も、私の顔を見つめる。
「もちろん。あなたなんかの数倍。いや、数万倍は強いわ」
私はノアに強がる。
「ねぇ、私も強くなれるかな……」
ノアの返事は意外だった。
私に聞くの?
あんなに強い奴がいるのに?
「知らない。あんたなんてなんでもないただの一般人には無理な可能性の方が高いだろうけど」
私は返事を返し黙々と型の確認を続ける。
――ブン
私の拳が風を切る気持ちのいい音が聞こえる。
けれど、この音で満足できない。
前まではこれで満足できていたのに
あの男を見た後だと、しょぼく感じる。
「ふん!」
ノアの声が聞こえ、横を向く。
拳を自分の前に突き出し止まっている。
「こうやってやれば強くなれるの……?」
私はなんだかアホらしくなる。
こんなことやったって強くなれるわけが無い。
この子を見ているとそう思った。
「そんなので強くなれるわけないでしょ。やるなら勝手にしとけば」
私はそう言ってノアを置いて本部の方へ足を進める。
「ねぇ待って!」
私の足が止まる。
なんで止まったのかは自分でもわからない。
「私にはあなた以外頼る人がいないの!」
私は顔を歪める。
あなたにはあんなに強い男がいるじゃない。
「レイルとかいう人外の男がいるでしょ。そいつに教えてもらいなよ。私は私のことで忙しいから」
「レイルはダメなの!サラもダメ。みんな私が危険に巻き込まれないように絶対に教えてくれない!」
「みんなから少し離れた距離にいるあなたにしかお願いできないの……」
私はため息をつく。
「なんで私があんたの都合に付き合わないといけないわけ?」
「せっかく助かった命を私が奪うよ」
私は本部の方へ再び歩み始める。
彼女はただ私の方を黙って見つめていた。
人に頼ってばっかの女。
私とは全く違う人種だ。
そう思った。
――――
王国の外のとある座標。
荒野のど真ん中に俺と王国の兵士たちが対面した。
「ちゃんと来てくれるなんて思ってなかったな…」
五人いる兵士の中からピンク色のチリチリとした髪の婆さんが前に出てくる。
「私たちこそ、あなたたちみたいな無能のオヴァカさんたちの組織が私たちの大好きなノアちゃんを捕まえたなんて驚いたザマス」
鬱陶しい話し方だ。
やはり、王国の連中は頭がおかしい。
「ところであなた。私のノアちゃんはどこにいるザマス。もう二年も会えてないから私たち悲しくて悲しくて……」
婆さんが泣き始めると後ろにいた兵士たちも泣き始める。
「あなたたち!ノアの名前を叫びなさい!きっとどこからか出でくるはずザマス!」
「「「「ノアー!」」」」
婆さんの掛け声に反応し後ろの兵士たちもノアの名前を叫ぶ。
こんな茶番にいつまで付き合えばいいんだ。
俺が黙って彼女らを見ていると婆さんは急に泣き止む。
婆さんが俺の顔の前まで迫る。
正直言ってこんな厳つい顔をした婆さんに近寄ってきて欲しくはない。
「ゴミ屑!ノアはどこにいるザマスか!」
「俺は最初からノアがいるなんて言ってねぇだろ」
俺が言うと婆さんは俺を殴り飛ばす。
重い。
――ザザザザザザザザザザザ
荒野の中を俺は滑る。
しばらく滑り、俺はようやく止まった。
既に身体中に無数の切り傷がついている。
婆さんたちが俺に近寄ってくるのが見えるが動けない。
「俺もここまでかもな……」
なんとなく呟いてみる。
死ぬ寸前なんてこんなもんなんだろうな。
急に走馬灯が見えてくる。
組織を結成した時の胸の高鳴り。
初めてコンガに食料を配った時のみんなの顔。
俺のことを尊敬してくれていた部下たち。
俺はずいぶんいい人生を歩んでんな。
俺は婆さんに首を持たれ持ち上げられる。
「私たちを騙したザマスね?」
俺は笑いながらなんとか口に出す。
「あんたらが……ちゃんと金を持ってくるかの……テストだよ……」
俺が答えると婆さんは雑に俺を地面に落とす。
「そんなテストしなくてもいいわ。なんたって私たちは高貴なレガルド王国戦略支援部隊ザマス!」
婆さんが声を荒げ、俺の体を蹴る。
「私たちは!あんたたち!ゴミ屑どもとは生まれも!強さも!なにもかも違うザマス!」
俺は無言で蹴られ続ける。
――パンパン
婆さんが俺を蹴る音だけが荒野に響く。
しばらくすると満足したのか音が鳴り止む。
「もういい……不愉快だから殺す」
俺は諦め笑う。
思い返せば悪くない人生だったな。
「マリア様。こいつは組織の交渉役です」
もう目は見えないがさっきまでの気持ち悪い婆さん以外の声が聞こえた。
「ここでこいつを殺してしまいますと、後々王国にとっての不利益になる可能性があります」
「ふーん。それもそうザマスね」
婆さんは最後に俺の体をわざと踏んでこの場から去っていく。
「今回の私たちを試したと言うのは許してあげましょう。けど、次ふざけたら街ごとなくなると思うザマス」
悪夢のような言葉を残して去っていく。
「このまま死んだ方が楽だったかもな……」
一人で呟いてみる。
ここで寝てしまったら死んでしまいそうな気がして。
「ああ、俺も同感だ」
俺の頭上から聞き馴染みのある太い声。
「ここでノアを売った方が楽だったろうな」
俺の身体が宙に浮く。
「だが、売らない選択をしたのはケビン。お前自身の判断だ」
「きちんと組織の一員としてこれからも働け」
俺は強い男の言葉を聞いて、ゆっくりと目を閉じた。
この人が来て、安心してしまったのかもな。




