4-24 立場
俺が近づくと、マイカは後退りしていく。
「なによこれ……」
マイカは呟きながら一歩。
また一歩と後退する。
「本当に終わりだ」
俺はマイカの前で立ち止まる。
「お前になにがあるかは知らないけど、ここで全部終わらせる」
「いやだ!私はあんた達を殺すまで終わらない!」
マイカは首を振り取り乱す。
俺はその姿をじっと見つめる。
「強くなった先にある復讐は気持ちいいか」
「レガルドの槍や王国に何をされたかなんて知らないけど、そいつらに復讐するためじゃなくて、自分のために人生は使うべきだ」
俺は拳を高く上げる。
「意味がわかんない。やだやだやだやだやだ。私はあんた達を殺して王国の人間も殺して、全員殺して仇討ちを――」
早口で話すマイカに向かって拳を振り下ろす。
――パタン
マイカの腹に一撃、拳を叩き込む。
音にならない空気を吐き出すと、マイカは地面に倒れていった。
「いつか、自分のために生きれるといいな」
「うわーレイルー!」
サラが俺の元へ駆け寄ってくる。
サラのさっきまでいた場所にはケビンが泡を吹いて転がっていた。
「ってレイルじゃなくて、ねぇ!大丈夫なの!」
俺の方へ駆けていたのを方向転換して、フウジの方へ向かう。
サラは足と肩から血を流していても元気そうだ。
俺もフウジの元へと駆け寄る。
「ねぇ!しっかりしてよ!」
「あんたがいてくれないとノアのところまで行けないんだけど」
サラがフウジを抱えながら声をかける。
「おいフウジ!大丈夫か」
フウジの鼻からはスーという音が聞こえる。
「よかった。呼吸はしてるな」
俺は安堵して、胸を撫で下ろす。
「そうね。呼吸はしてるわね。けど、ここからどうやってノアの元まで行けばいいの」
「それは、進んでみるしかないだろ」
俺はフウジを建物の隙間まで運び、壁にもたれさせる。
フウジの服をちぎり、縛り付け出血箇所を止血する。
「あとは……」
その後マイカの元へ行き、背負う。
「ちょっと、何してんの!時間ないんだよ」
サラが俺の行動を見て怒る。
辺りはすっかり暗くなっており、嫌でも時間が迫っていることを思い知らされる。
「けど、死なれたら困るからな」
俺はそう言ってマイカをフウジと反対側の建物の隙間に運ぶ。
「ねぇ、まさかとは思うんだけど…」
俺はケビンの元まで歩いて行く。
「ねぇ、お人よしもここまできたらお人よしじゃなくてお節介馬鹿ね」
「ケビンも、死んでもらったら困るんだ」
俺は泡を吹いて倒れているケビンを見る。
服にいくつも足の跡がついている。
きっと、サラに何度もやられたんだろう。
俺はケビンを背負う。
「ゲホッゲホッ」
俺の背中で咳が聞こえてくる。
「あー!まだ、意識あるなんてー」
サラがケビンに向かって叫ぶ。
「あんたが何度も踏むせいで俺は死にかけだよ」
ケビンはか弱い声で話す。
「殺せよレイル」
「俺はお前達を殺そうとした。命を狙った奴らが殺されるのは当然だ」
俺は本部の扉へと歩きながら答える。
「俺がここで殺したら、お前達と一緒だ」
「だから生きてもらう、ノアも返してもらう」
「一文無しで生きていけってか。冗談きついな……」
ケビンはそう言って俺の背中から降りようとする。
俺はそれを腕力で無理やり止める。
「痛い痛いわかった、降りない!」
「教えて欲しいことがあるんだ」
俺がケビンに問いかける。
「ノアさんの居場所だろ。入ってすぐ右の客人の部屋ってところにいる」
「それもあるけど……」
「ノアとの約束ってなんだったんだ」
俺の質問をケビンは鼻で笑う。
「ちょっとなんで笑うのよ!」
「すまないが、それは言えない。ノアさんに聞いてくれ」
ケビンはそう言って俺の背中に倒れ込む。
「なによきもちわるい」
「あんたにやってるわけじゃないんだからいいだろ」
サラの言葉にケビンは反論する。
「なあ、ケビン。どうして約束を言えないんだ」
「それも約束だからだ。もういいだろ、寝かせてくれ」
俺は本部の扉の前に立つ。
ゆっくりと扉を押す。
――ギィィィィィ
扉が軋む音を立てて開く。
本部の中へ入ると綺麗に磨かれた床。
棚の上に乱雑に置かれている書類。
「レイル!あそこ!」
サラが指を指す。
その方向に目をやると客間と書かれた看板が扉の上に掲げられていた。
俺とサラは目を合わせる。
互いにコクリと頷き、扉の前へ行く。
俺は扉に手をかけ、押した。
――ギィィィ
扉が開く。
ベッドの上にはこちらを固まり見ている青髪の女性。
「ノアー!」
サラが俺よりも先にノアの方へ駆ける。
「…どうしてくるの?」
サラがノアに飛びつく。
ノアとサラがベッドに倒れる。
「ねぇ、サラ。これってなに」
ノアは手についた赤い血を見つめている。
「これ?こんなのただの怪我だよー」
サラがノアを抱きしめる。
「無事でよかった」
サラの言葉に俺も思わず頬が緩む。
「ねぇ!ケビンさん!どうしてサラが怪我してるの!」
ノアが叫び声を上げる。
こんな声を聞くのは初めてだ。
「悪い。止めれなかった」
ケビンは俺の背中から返事をする。
「約束を守れなかったのは俺だ」
「もう約束はない」
ケビンはそう言って俺の背中を押して降りる。
「帰っていいぞ。こいつらと一緒に」
ケビンは俺たちを見て言う。
「でも…それじゃ――」
「いいんだ。ノアさん。俺たちは今回で多くの人を傷つけた」
「ここから俺たちのためにノアさん自身が苦しむ必要はない」
俺はケビンの方を見る。
後ろから見ると真っ直ぐ頼りがいのある背中だった。
「でもそれじゃ!街の人達は死んじゃうんでしょ!」
ケビンは下を向く。
「それは……」
ノアがサラを押し退けベッドから立ち上がる。
「私がここで王国に行けば!街もモノさんも!レイルも!サラも!みんな助かるんじゃなかったの!」
ノアはケビンの元まで詰め寄る。
街が助かる。
それがケビンがノアを売る理由だったのか…
「いいじゃんノア。こう言ってるんだし、放って出ていこうよ」
サラがノアの肩を持つ。
ノアは振り向き、サラの顔を見つめる。
「モノさんをケビンさんが撃ったことを私は許してない。けどね!ケビンさんが街を助けたいって言うから私はここにいたの!」
「ノア……」
「今になって全部無し!帰ってって言われても帰れないよ!私のせいでみんな傷ついてる!こんなふうにしてしまったならせめて!私自身で少しだけでも守らせてよ!」
ノアは叫ぶ。
俺たちは何も言えずに立ち止まる。
「レイルだってどうせ無茶したんでしょ!サラがこんなに怪我して怒らないレイルじゃないもんね!」
ノアは俺にも詰め寄ってくる。
「何人倒してきたの!さっき外ですごい音がしてたけど何があったの?私はどうすればいいの!」
俺も下を向いてしまう。
帰ってきて欲しい。
けど、ただ帰るには俺たちは傷つけすぎた。
「その通りだノア!よく言った」
背後から声が聞こえてくる。
大砲のような機械を抱えている男が立っていた。
ガブだ。
「ボス!もうやめよう!」
ケビンがガブに叫ぶ。
「辞める?辞めちまうような安い正義なら最初から背負うんじゃねぇよケビン!」
「……」
ガブがこちらに大砲を向ける。
「悪いがノア以外には消えてもらう。この街を救うためだ」
「何が救うためよ!ノアは救えないくせに!」
サラが言い返す。
ガブはサラの姿をまじまじと見る。
「その羽根、尻尾。人間ではないな。ハーフか」
「訳わかんないこと言ってると首を飛ばすわよ」
サラが床を蹴る。
「ダメだ!」
俺の叫びが届く前に音が鳴る。
――ビュンビュン
ガブの後ろから二本の紫色の線。
「きゃ!」
サラはそのうちの一本にあたりそのまま床に倒れる。
「なにするの!」
ノアが俺の後ろから叫ぶ。
「よくやったな」
ガブがそう言うと二人の男の影が現れた。
「ねぇカク、ケビンさんはどうしてレイルを守ってるの」
「しらねぇよ。裏切ったんだろケビンさんも俺たちを」
「マルト……カク……」
ケビンの細い声がその場に響いた。




