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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
4章 奪還編
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4-23 選択の代償

「ふーん」

「まあ、どうでもいいよ」


マイカはそう言って突っ込んでくる。


マイカの爪が伸び、地面に当たる。


爪が地面に跡を残しながら迫ってくる。


俺は横へ躱す。


「そんなことは予想済みだよ!」


マイカは身体を回転させる。


爪が十本。

更に長くなって俺の方へ迫ってくる。


俺は地面を蹴り飛び上がる。


爪は俺がいた箇所をビュンと風を切り、通り過ぎる。


地面に着地した俺を見てマイカは笑う。


「キャハハハハハハハハ――」

「いいね、本当にいいよ。お前」


「分かっただろ。お前じゃ俺に攻撃は当てられない」


マイカは、長くなった爪を元のサイズに戻した


「私が!あなたに!勝てない?」

「そんなわけないでしょ。だって私はあなた達を殺すためにここで強くなったんだから」


マイカが俺の方へ再び駆けてくる。


しかし今度は爪ではなく拳を握りしめて俺の方へ来る。


――パチン


俺はマイカの拳を手で受け止める。


「な、無理なんだよ」


俺が言った瞬間。

手に鋭い痛み。


咄嗟に手を離す。


「甘いねー!」


響く感覚。


マイカの拳が俺の顔に当たる。


俺の視線が少しだけ横にズレる。


俺は距離を取ろうと地面を蹴った。


「それもわかってる!」


マイカの顔が眼前に迫る。


そのまま強引に頭部を掴み取られ、地面に倒される。


――ドガァン


俺の頭が地面とぶつかる。

今回はあまり痛くなかった。


「やめてくれよ!レイルが死んじまうだろ」


フウジの声が聞こえる。


「黙れよ裏切り者。お前は仲間だったからせめて痛みがないように殺してあげる」

「だけど、コイツらは別なの」


マイカの顔が指の隙間から見える。


恐ろしいくらいのニヤケ顔だった。


「何やってんのよ!」


サラの声と共にマイカの手が俺の顔から離れる。


――バサササ


マイカが地面を滑っていくのが視界の隅に映る。


「レイル!もうあいつは倒そう。じゃないとレイルが危ない」


俺はゆっくりと立ち上がる。


「ダメだ」


「ダメってなによ。意味わかんないってば!ノアを助けるんでしょ」


俺はサラの方を見る。


「誰かを殺してノアを助けたら、ノアは多分自分自身を責める」


「まった、訳のわかんないことを!」


マイカが地面から立ち上がるのが見える。


「ノアがケビン達のとこにいるのは絶対何かあるんだ!」

「フウジの話を聞いてたら分かるだろ」


俺はマイカの方へ向かう。


「わかんないって言ってたくせに!」


「なにが原因か分からないだけで何かがあるのはさすがにわかる!」


駆けながら強く地面を蹴り、マイカの腕を掴む。


「これで俺の勝ちでいいか。俺はいつでもお前を倒せる」


マイカは俺が腕を掴んでから俺の方を見る。


「いつのまに…」


マイカは俺の動きが見えていない。


「これで終わりでいいだろ」


俺はマイカの腕を離しフウジの方へと歩く。


「レイル、お前は何者なんだ……」


フウジが怯えながら俺を見る。


「俺はレイル。フウジと一緒にいたレイルだ」


フウジが俺の方へ手を伸ばす。

俺もフウジの方へ歩きながら手を伸ばす。


「改めてよろしくな」


「――!レイル後ろ!」


俺が背後を見るとマイカが俺の真後ろに立っている。


「あんたは殺すって言ってるでしょ…」


――感覚でまずいと分かる。

しかし、すでにマイカの拳は俺の方へ向かってきていた。


――ビュン

 

「マイカ!それで終わりだ」


ジオガンの発射音と誰かの声が聞こえる。


マイカは俺の頭のすぐ近くで拳を握りしめて止まっている。


「ケビンさん…!」


フウジがケビンの名を呼ぶ。


「フウジ、大丈夫か」


俺もケビンの方を見るとサラが足と肩から血を流して地面に倒れていた。

 

頭が熱くなるのが分かる。


「レイルだめ!」


サラの声が耳に届く。


「私のことは…いいから…」


サラは俺の方を見つめる。


「本当にいいのかレイル?」


ケビンが俺に問いかけてくる。


「お前がそれ以上本部へ近づくなら俺はコイツを殺す」


ケビンは手に持っているジオガンをサラの頭に突きつける。


「ケビンさん、ボスは消せって言ってんだよ」

「なんでそいつらを守るようなことをするの」


マイカは俺の横でケビンを睨みつける。


「殺す必要はないだろ。コイツらにも利用価値がある」


「利用価値ってなんだよ!本当にノアさんは商品なのか?」


フウジが叫ぶ。


ケビンはフウジの方を見る。


「フウジ。世の中ってのは残酷なんだ」


「えっ?」


フウジの声が漏れた。


「俺たちは王国と取引してる。彼女はレガルドの槍だ」

「王国にとっては貴重な資産で渡せば見返りも大きい」


「ケビンさん…なに言ってんだよ…」


フウジがふらふらと立ち上がる。

俺の肩に手を置き、体重をかけてくる。


「フウジ、お前がこの組織に誇りを持っているのは知ってる。だけど、生きていくためにはこうしないとダメなんだ」


「どーでもいいからケビンさん。こいつら殺してもいい?」


マイカは俺にいつでも攻撃できるよう軽くその場を飛び跳ねている。


「ダメだ。ノアさんとの約束を破ることになる」


――約束?


「ノアとなんの約束をしてるんだ!」


俺は反射的に叫んだ。


ケビンは俺を嘲笑う。


「約束なんてどうでもいいだろ、選べ」

「この人間が怪しいやつを見捨てるか助けるか」


――どうすればいいんだ。

二人とも大切な仲間だ。

俺は二人とも助けたい。

けど……


「レイル!こんな奴の言うこと聞いちゃダメ!」


サラの叫び声が聞こえる。


けど、俺が決断したらどちらかを殺してしまう。


無理だ。

選べない。


「ふざけんじゃねぇ!」


隣から大きな怒鳴り声が聞こえた。


俺が振り向くとフウジが真っ直ぐにケビンを見つめている。


「俺たちを救うためにノアさんを売るか姐さんを殺すか?そんなことして生きたって俺は嬉しくねぇよ!」


フウジが吠える。


「お前はそうかもしれないが、街の人は違う」


「そんなの関係ねぇ!」


フウジは腕を横に振る。


「俺はこの街が好きだ。ここの住人が好きだ。俺たちの組織が好きだ!」

「それはな!苦しくて貧しくて辛くても!みんなが同じ生きて…生きて幸せになることを目指してるから好きなんだよ!」


息を整える。


「誰かを売ってその金で生活する?バカバカしい」

「俺はそんな生き方はしたくねぇし、そんなんでこの街を救いたいとも思わねぇ!」


フウジは俺の肩を叩く。


「ケビンさん…俺はこっち側につくことにした」


ケビンは少し悲しそうな顔を見せる。

その後下を向きサラに銃口を向ける。


「そうか、それがお前の選択なら仕方ないな」


俺の額に嫌な汗が走る。


横を振り向くとマイカがいない。


「――上!」


「気づくのが遅いよ」

 

――バカーン


咄嗟に俺はフウジを抱えて避ける。


マイカが落ちてきた地面には大きな窪みができている。


「これも避けるの、流石に強すぎじゃない?」


マイカが俺の方を見て言う。


相変わらず顔は笑っている。


「フウジ…お前が組織に歯向かうならそれでいい…」

「マイカ、あとは頼んだ」


――なんだって!


「へぇ…ケビンさんもやっと決意固めてくれた?」

「ここにいる人達はみんな私の敵。王国に味方する敵……」


「レイル、ここは任せろ」


――バシィ


フウジがマイカの前に立つ。

地面の砂を思いっきり蹴飛ばしながら。


「へぇー、フウジは自殺願望とかあったんだ」


マイカはフウジを見て攻撃する態勢を止めた。

手を首に回している。


「レイル十秒だ。それで姐さんを助けろ」


フウジは俺にだけ聞こえるように小声で話す。


「マイカ、俺はお前と一緒に戦ってた仲間だぞ?」

「お前の動きは手を取るようにわかるさ」


「ふーん。じゃあやってみようか!」


マイカが地面を蹴る。


――一秒

 

俺も勢いよく地面を蹴り、ケビンの方へ向かう。


ケビンはサラの頭にジオガンを向ける。


――二秒


――ザザザザザザザ

 

後ろで誰かが地面を滑る音が聞こえる。


俺はあと数メートルでケビンとサラのところに着く。


ケビンはサラを撃つために引き金にかけた指を絞る。


――三秒


――ザク


遠くで何かを地面に刺したような音が聞こえる。


俺はジオガンに手を伸ばす。

しかし、ケビンの手に握られたジオガンは俺の手を掠め、音を鳴らす。


――ビュン


紫色の光が一本。

飛んでいく。


――四秒


「ばーか!私もいるんだよ!」


サラが叫び、尻尾が俺の目の前を横切る。


サラの尻尾が勢いよくケビンの足を掬う。

 

ケビンは体勢を崩し、地面に倒れる。


――五秒


「ぐぁぁぁぁあ」


フウジの唸り声が聞こえてくる。


俺はケビンの手から落ちたジオガンを踏み潰す。


そしてつま先を軸に回転する。


――六秒


俺は地面を強く蹴る。


前を見るとフウジはマイカに爪で腹を貫かれている。


――七秒


「ねぇ、はやく死んで」


フウジがマイカの爪を握りしめている。

手からは血がポタポタと垂れている。


はやく行かないと!


――八秒


フウジにもうすぐ手が届く。


「もう少しなんだ」


フウジと目が合う。


――九秒


フウジがマイカの爪から手を離す。


俺は拳をあげる。


「ゲボッ」


フウジが口から血を吐き出す。


――十秒


俺の拳を見て、マイカは爪を元の長さに戻す。

そして、俺から距離を取る。


フウジはその場に崩れ落ちる。


俺はそれを片手で支える。


「約束通り…だろ」


「ああ、ありがとうフウジ」


フウジは俺の言葉を聞くと目を瞑る。


俺はゆっくりと地面にフウジを寝かせて立ち上がる。


「私が、フウジなんかを仕留め損なった?」


マイカが自問自答する。


「フウジは強いよ」


俺はそう言いマイカの元はゆっくりと歩く。


「これで終わりにしよう」

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