4-モノローグ
レイルが組織の奴らにずっと殴られているのを俺はボーッと見ていることしかできなかった。
何が起こってるんだ。
どうして組織がレイルをこんなに傷つける。
俺は無意識のうちに腕を大きく上げていた。
――パシン
冷たい感覚が腕から伝わる。
「フウジ、お前なにしようとしてんだ」
ケビンさんが俺の腕を掴んでいる。
「すいません……」
俺は腕を静かに下げる。
「自分でも、どうして腕を上げたのか分からなくて……」
レイルを殴っていた音が消える。
レイルの方を見ると彼は動かなくなっていた。
「ケビンさん……レイルは何か企んでいたんですか。だから、こうやってボコボコに殴りつけたんですか」
ケビンさんは俺の言葉に頷く。
「フウジ、ちょっと待っててくれ」
ケビンさんはノアっていう青髪の子の元に行き、彼女と何か話をしている。
レイルは組織の奴らに担がれ、何処かへ運ばれていく。
きっと、地下の牢屋に連れて行かれるんだろう。
「悪いな、フウジ」
ケビンさんはレイルを見ていた俺に小走りで近寄ってくる。
「ケビンさん……どうして……」
俺が聞くとケビンさんは浮かない顔をする。
「あいつとはどれくらい一緒にいた」
「半日くらいです……」
ケビンさんは小さくため息をつく。
「ちょっと、こっちで話そうか」
ケビンさんは椅子の方を指差し、歩いていく。
俺もケビンさんについていく。
ケビンさんが座った椅子の隣に俺も腰を下ろした。
「はぁ……あいつはどんなやつだった」
ケビンさんはため息をつきながら語りかけてくる。
「あいつは、強くて怪しい人物でした」
魔族との戦闘で見せた強さの素直な感想を話す。
「お前も見たのか……あいつの不思議な力を」
ケビンさんはそう言った。
「あいつは俺が初めて見た時も目に見えない速度で俺の前へと現れた。きっとあいつには何か隠された強さがある」
ケビンさんは続ける。
「正直言って、さっきはかなり焦ったな。あいつに暴れられたら、せっかくノアさんに納得してもらえたこの作戦が台無しになるとこだった……」
俺は反射的に質問をした。
「ノアって子を使った作戦って……?」
「あの子はレガルド王国の特殊部隊'レガルドの槍'の一員だ」
レガルドの槍。
俺でも聞いたことのある、王国の秘密兵器。
「そっか。レイルはノアって子を探してきたって言ってた。あいつも王国のやつなのか」
ケビンさんは視線を下げる。
「それは……分からないな。あいつに会ったのは王国の外」
「そっか。じゃあレイルも王国の手先だったのか」
俺は椅子から立ち上がる。
スッキリしない。
ドロドロした感覚だけが胸に残る。
「ありがとうケビンさん。レイルは王国の手先でノアって子を取り返しにきただけ……」
ノアって子を取り返しにくる?
なんでわざわざレイル一人で来るんだ。
引っかかったが俺は考えるのをやめた。
考えずにケビンさんを信じた方が楽だしきっと間違わない。
「分かってくれて、良かったよフウジ」
ケビンさんは立ち上がり、木のドアを開け地下へと潜っていった。
俺は、この建物の正面口から出ることにした。
ボロボロに偽装したドアをそっと開く。
外は相変わらず乾いた土とヒビの入った、
壊れかけの建物しかない。
「ハハハ……なんか、レイルといた数時間は変な気分だったな」
ふと呟く。
俺はてっきりレイルはコンガへ来た真っ直ぐで熱い男だと思ってた。
大切な人をただただ助けにきた、俺たちと変わらない奴だと。
けど違ったんだな。
あいつは王国の手先でノアって子を助けるのが任務。
どうして、あんな奴に俺は手助けしてたんだろう。
一瞬でも、組織が人を攫うと思ってしまったのか。
いくら貧しくても、他人の命を軽んじるような奴が居るわけない。
それにしては……ノアって子は優しそうに見えた。
――視線!
視線を感じた俺はそちらへ体を向ける。
何かが建物の隙間を動くのが見えた。
「誰だ」
俺は建物の隙間へと追いかける。
建物と建物の間を謎の人物が駆けていく。
マントのようなヒラヒラのシルエットだけが目に映る。
隙間を抜け小さな通りへと出る。
「どこだ」
俺は左右を見るが先ほどまで追いかけていた人物は見当たらない。
「残念でしたー」
軽い口調の声が上から聞こえてくる。
――まずい。
そう思った俺は咄嗟に助けを求めた。
しかし、声が出ない。
口は開いているはずなのに、なぜだ。
「ちょっとこっちきなさいよ」
謎の人物の姿が見える。
黒いマントを羽織った少女。
しかし、何かがおかしい。
雰囲気が人間とは違うような気がする……
俺の服を引っ張って彼女は壁を素手で壊し建物の中へと入る。
壁は紙屑のように砕け散っていた。
俺は少女に椅子にヒモで縛り付けられる。
「ねぇー、なにも喋らないの怖いんだけど」
謎の少女は俺に向けて話しかけてくる。
俺の顔を見て少女は何かを思い出す。
「そうだ!声出ないんだった」
少女が指をパチンと鳴らす。
「話せるようになったはずだよ。ほら、なんか言ってよ」
こいつは……間違いなくレガルドの槍のメンバーだろう。
レガルドの槍には特殊な能力を使える者がいると聞く。
俺は口を開けずに目を閉じる。
「ねぇ、話してくれないと困るんだけど」
少女の声が聞こえてくるが俺は目を瞑り無視する。
「もー、あんたが話さないなら優しくしてあげないからね」
少女はそう言うとザザザと何かを引きずってくる。
何を持ってきたかは分からないがきっと俺は命の危機なのだろう。
だけど、この命で街を守れるなら……それもいいな。
俺は口角をあげる。
――ガシャーン
何かが割れる音が聞こえる。
音が気になり目を開くと少女が近くの石でガラスを割っていた。
「何してるんだ」
思わず呟いてしまう。
俺の声を聞いた少女はニヤリと笑みを浮かべて近づいてくる。
「喋れるじゃーん。ねね、人探ししてるんだけどさ」
「レイルって真っ直ぐなバカとクロールっていうおじさんを探してるんだけど知ってるよね?」
クロール?
その名前、レイルから聞いた覚えがある。
やっぱりこいつも王国の手先なのだろうか。
「知らねー」
俺はそれだけ返して少女から目を背ける。
少女は俺の目の前まで移動してくる。
「あんたが知ってるって私はわかるの!レイルと一緒だったでしょ。何でレイルがいなくなってあんたがあの建物から出てきたか教えて」
俺は黙り込む。
なぜ、この少女は俺がレイルと一緒にいたことを知っている。
やはり、怪しい。
レイルが何らかの方法で情報を渡していたのだろうか。
俺が答えないのを見て少女は頭をくしゃくしゃと掻く。
「ああー、もうホント最悪!緊急事態だったとしてもレイルとハグれるんじゃなかった……」
「あのバカの子はこの町でも面倒ごとに突っ込んでいくのね……」
少女は大きなため息を吐いた後に前を向き、俺の方へ近寄ってくる。
「まあいいわ。あんたが何も話さないのも私は責めない。教えて欲しいけど何やったって口を破りそうにないしね」
少女はそう言うと俺を拘束していたヒモを解く。
一体この少女は何を考えているんだ。
敵である俺を解放するなんて……
「悪いね、怖い思いさせちゃって。でも、私たちには助けないといけない人がいるの」
少女はそう言うと壊れた壁から建物の外へと飛び出して行った。
俺も急いで後を追ったが、そこにはもう影はなかった。
ただ乾いた土と、潰れた街だけが広がっていた。




