4-15 隠された街
フウジは魔物に近づく。
ナイフで斬られたような身体を凝視している。
「おーけー、お前ら。魔族はとりあえず大丈夫だ。次に備えておいてくれ」
フウジがそう言うとフードを被った数人は何かをヒソヒソと話ながら街の方へと帰っていく。
――俺もノアを探しに行かないとな
コンガの街に帰ろうと一歩踏み出すと背後から声をかけられる。
「おいレイル、お前に戻れなんて言ってないぞ」
フウジはそう言って俺の肩に手を置く。
フウジの手に力が入っているのが感覚でわかる。
「フウジ、悪いけどこんなことしてる場合じゃないんだ。俺には――」
「ああ、そうだろうな。こんな力を持っている奴が街の防衛なんてするはずがない」
俺の言葉を遮るようにフウジが話す。
「お前、何者なんだ。ボスとはどういう関係だ」
「お前らのボスに勝手に連れてこられただけなんだから関係ないんだよ」
俺は必死に仲間であるクロールを人質に取られていること。
ノアを探しにこの街に来たことを説明する。
だが、フウジは俺の肩を掴んだ手を離してくれない。
「レイル、お前の言葉に嘘はないのは分かる。直感だけど、お前はさっきこの街を守るために魔族を倒してくれた」
フウジは俺の方から手を離す。
「でもな、お前を一人にするわけには行かない」
そう言って俺の隣に来る。
金色の髪が太陽の光を反射していて少し眩しい。
「分かった、けど好きなようにさせてもらう」
俺は強気に言うがフウジは全く気にしている様子はなく笑いながら言う。
「ああ、いいよ。コンガにいて俺と行動してくれるなら」
俺は街の方を向いて真っ直ぐに歩き始める。
俺に置いていかれないように隣をフウジがついてくる。
「おい、ちょっと。なんで無言で行くんだよ」
「何かあるのか」
「いや、なんもないけど」
フウジは少し下を向いた後、俺の顔を見る。
「こうさ、ほらもっと怪しまれないようにとか疑いを晴らすためにとか、そんな行動は取らないわけ」
――たしかに。
フウジに怪しまれている今、普通だったら怪しくないことを証明する。けど、今はそんなことよりノアを助けたい。
「フウジ、俺って怪しいか」
直球の質問。
「ああ、おかしいぞ。強さと根拠が」
迷いのない回答だった。
コンガの街に戻り俺とフウジは一緒に散策する。
街中を凝視しながら歩いている俺とは対照的にフウジは空を見たり俺の周りを回っていたり暇そうにしている。
「なあ、レイル。お前にとってそんなにそのノアって子は大切なのか」
俺はフウジの言葉を無視して壊れかけの建物一つ一つに耳を近づけ音が聞こえないか、人の気配がないか確認している。
「聞こえてんだろー。答えてくれよ。答えてくれて納得できたら手伝うからさ」
――手伝う?
俺は足を止めた。
このまま一件一件こんなことしてたら7日目の明日中にノアを見つけるなんて到底無理だ。
クロールは人質に、サラとは別れてから出会えていない。
「本当に手伝ってくれるのか」
フウジは目を輝かせながら俺の方へ寄ってくる。
なぜ、そんなに目を輝かせているのだろうか。
「納得できたらだけどな」
フウジは軽く返事する。
「なんで急に」
フウジは頭を掻きながら答えた。
「なんか、真剣そうだったからな」
「ノアは、俺の大切な人なんだ。だから助ける」
「理由になってねーよ」
フウジは俺の回答に即答した。
そして、大きく息を吸う。
「そのノアって子はお前のなんなんだよ、仲間か?道具か?家族か?」
フウジは少しだけ声を荒げる。
「ノアは……」
俺にとってノアはなんなんだ。
守ると決めた人。
生きてと頼んできた人。
一緒に生活してきた人。
そして共に歩んでくれる人。
言葉にできないけど、言葉にしないとフウジはきっと協力してくれない。
「ノアはなんなんだ」
フウジが俺の前に仁王立ちする。
「ノアは……命をかけて守りたい人」
俺の返事を聞いてフウジは目を瞑り静かに頷く。
「よし、ばっちり分かった。手伝ってやる」
フウジは指でパチンと鳴らして俺の腕を引っ張り寄せてくる。
「んで、ノアって子の特徴はなんだ」
「ノアは、青い髪で優しくてみんなから好かれていて――」
俺はフウジにノアの特徴を細かに話す。
一人で抱え込んでどれだけ辛くても生きていく力強いところや誰に対しても向ける優しさ、みんなの心を救える笑顔……。
「ああ、分かったよ。もういいからな」
フウジに止められて俺は長話をしていたことに気づいた。
「とりあえず、青髪の女性ってことは分かった」
それは外見しか分かってないじゃないか。
そう言いたかったが今は一秒でも時間が惜しい。
「じゃあフウジ、ここからは一緒に頼む」
「おうよ」
フウジの気のいい返事を聞き俺は再び建物を一つ一つ確認しに行く。
「ちょっと待てよ。そんなんやっても意味ねーって」
フウジはそう言って俺を止める。
「意味ないってなんだよ」
「この街で地上にいるのは組織の人間だけだって」
「は?」
俺は確認するのをやめてフウジの方を見る。
「じゃあ、この街にはフウジ達の組織しかいないのか」
「そう言うことじゃねえって。ああ、めんどくさいなぁ」
フウジは俺の腕を掴み歩き始める。
「とりあえずこっちこい。もう、めんどくさいけど教えてやるよ。この街の秘密を」
「なんだよ秘密って」
「いいから黙ってこい」
フウジに引っ張られるままに俺はついて行く。
しばらくして、一件のボロボロの建物の前でフウジは立ち止まる。
「おいレイル、ここみろ」
フウジは建物の入り口のドアを指差す。
ドアは木製で木は今にも崩れていきそうなほどボロボロだった。
「ただの壊れかけのドアだな」
「見えないのか、ここだよここ」
フウジがドアに近づきドアの左端部分を指差す。
そこにはナイフで傷つけたような直線の線が刻まれていた。
「この線って――」
フウジはなぜか自慢げに説明する。
「この線があるところが地下への入り口なんだ。この街にはこんな感じで色々なところから地下へ行ける」
そう言ってフウジは建物と建物の間の隙間へと入って行く。
「おい、地下に行かないのか」
フウジは俺の言葉に呆れたように首を横に振る。
「アホだなぁ、建物の中に入り口作ってたらマグレで魔族や王国の奴らが入ってくるだろ」
そう言いフウジは建物のレンガを一つ一つ取り除く。
俺はフウジの様子を少し離れたところから見つめる。
レンガを取り除き人一人が潜れる小さな隙間を開けるとフウジは俺を手招きした。
「ほら、ここから行け」
俺はフウジのところまで行くと小さな隙間の下には地下へと続く階段が続いてた。
驚いているとフウジが急かしてくる。
「早くいけよ、誰かに見られたらダメなんだよ」
地下へと続く階段に潜って行く。
土が舞っており空気が悪い。
俺が階段につき立ち上がれる箇所まで行くとフウジも俺の後ろから潜ってくる。
「いつ来てもここって空気悪いな」
フウジが咳払いをしながら俺の隣まで来る。
「どうだ、悲しい街だろ。ここは」
フウジはそう言ってコツンコツンと階段を降りて行く。
俺はフウジの背中を追って行く。
階段には所々に明球が置かれている。
「なあフウジ、龍脈って知ってるのか」
俺がフウジに質問する。
「バカにしてんのか?知ってるに決まってんだろ、てか知らないと今ここにある明球だって龍脈注がないと使えないだろ」
話をしながら階段を降りて行くと開けた空間が出てくる。
開けた空間の中には布で区切られたスペースに人々が点々と存在している。
「なんか……暗いな」
ポツリと呟く。
フウジは立ち止まっている俺の背中を押す。
「王国の外の街なんて全部こんなもんだ。生きているだけ、俺たちは恵まれてる」
フウジの言葉には地上の時のような明るい雰囲気はなくこの地下の空間のようにドロドロした、嫌な雰囲気があった。




