表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
4章 奪還編
60/71

4-11 四日目の夜

「話せる魔族なのか……君たちの目的はなんだ」


昼に俺たちを止めた兵士が、ゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。


これ以上近づかれたら、顔がバレるかもしれない。


夜の闇に紛れて顔を隠している俺たちにとって、距離を詰められるのはリスクしかない。


「なんだっていいでしょ」


サラが強気に言い返す。


そして他の兵士より数歩前に出ると、静かに口を開いた。


「これ以上近寄ったら――あなたたち兵士の命を取るよ」


サラの言葉を聞き、男の足がぴたりと止まる。


関所に取り付けられたライトだけが、暗闇を白く照らしていた。


「何が目的なんだ」


男がもう一度問う。


「私の強さを見せびらかすことよ」


サラは迷いなく答える。


「今あなた達は、私たち魔族に街への侵入を許している」


「数人は音も奪われてる」


サラは兵士たちを見回す。


「私たちの気分次第では、命を奪うことだって容易いのよ」


男は立ち止まったまま、背中で手を組む。


「そうか。たしかに、あなたの言うとおりだ」


男は静かに言った。


「しかし、ここは我々の領土だ」


一瞬の沈黙。


「命をかけて、お前達魔族を排除する必要がある」


その瞬間――


男は素早くジオガンを取り出し、サラへ向けて撃ち放った。


紫色の光が夜を裂く。


バンッ!

バンッ!

タンッ!


数発の銃声が響いた。


紫色の光線は――空へと弾かれる。


「レイル……」


サラの声が背後から聞こえた。


気づいた時には、俺はサラの前に立っていた。


角に見せていた木刀を手に取っている。


服は衝撃で破れていた。


「君たちは――」


男が何か言いかける。


その声は、途中で途切れた。


「レイル、行くぞ」


クロールが俺の腕を掴み、走り出す。


サラもすぐに後を追う。


「ビビるんじゃない! なんとしても仕留めるぞ!」


兵士たちが声を上げ、俺たちの前に人の壁となって立ちはだかった。


「クロール、サラ。二人とも俺の手を持て」


俺はそう言って二人へ手を伸ばす。


二人は走りながら、しっかりと俺の手を掴んだ。


兵士たちとの距離が、次第に縮まっていく。


もうすぐぶつかる――


その瞬間。


俺は地面を強く蹴った。


ドンッ!


体が一気に宙へと跳ね上がる。


兵士たちの頭上を、遥かに飛び越えた。


そのまま関所の出口へ――


ドンッ!


着地する。


背後から兵士の声が聞こえた。


「おい! あいつ、人間みたいな見た目だったぞ!」


別の兵士の声も混ざる。


混乱しているようだった。


「じゃあねー」


サラが振り返り、手を軽く振る。


「ちゃんと真面目に守るんだよ」


親切なのか、煽りなのか分からない言葉を残す。


そして――


俺たちは走った。


兵士たちの姿が完全に見えなくなるまで。


止まることなく、ただ前へ。


夜の王国外へと、走り続けた。


関所を超えた先には自然一つない、荒れ果てた荒野が広がっている。


兵士たちの姿が背後から完全に見えなくなった頃、俺たちはようやく走るのをやめた。


「ゲボッ……ゲホッ……」


クロールが深く息を吸い込みながら激しく咳き込む。


「うわー……疲れた」


サラもその場に膝から崩れ落ちた。


俺はそんな二人を見下ろす。


「ごめん……作戦、失敗だよな」


俺が言うと、クロールが荒い呼吸のまま答える。


「そんな……こたぁねぇ」


クロールは何度か深呼吸をしてから続けた。


「ランドルフから出れたんだ。成功だろ」


サラも地面に座り込みながら、俺の方を見る。


「そうだよ、レイル」


サラは少し笑った。


「あの街にはもう行けないかもしれないけど……そんなことより、出れたことを喜ぶべき」


「ありがと」


俺が礼を言うと――


二人はその場に倒れ込んだ。


「もう無理だ……おっさんにはきつい」


「私も疲れた……脈気の使いすぎかな」


俺はサラの腕に触れ、脈気を流す。


白い線が、ゆっくりとサラへ流れていく。


サラは俺の顔をじっと見つめていた。


やがて白い線が消え、脈気の流れが止まる。


俺が手を離しても――


サラはまだ俺を見つめていた。


「なんだよ」


俺が言うと、サラは目を逸らさずに聞いてくる。


「ねぇ、レイル」


少し間があった。


「しんどくない?」


「別に……しんどいとかはないけど」


荒れた荒野に、静かな風が吹いていた。


サラの目は、まだ俺を見つめている。


「なんか言いたいことあるなら言っとけよ」


クロールがサラの後ろから声をかける。


「言って後悔したことより、言わないで後悔した方が後悔するからな」


そう言ってクロールは地面に寝転び、葉巻を咥えた。


「そうだよ。何があるんだよ、サラ」


俺もサラに尋ねる。


サラはしばらく黙ったまま、視線を地面へ落とす。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「レイルの脈気……」


小さな声だった。


「エルド村にいた頃と比べたら、豆粒みたいに小さくなってる」


俺は思わず眉をひそめる。


「それでも、私の持てる脈気量に比べたら多いんだけど……」


サラは少し言葉を詰まらせた。


「これ以上戦闘で脈気を使ったら、脈気が無くなっちゃう」


「無くなったらどうなるんだ」


俺が聞くと、サラは唇を軽く噛んだ。


「魔族なら……死ぬって言われてる」


小さく息を吐く。


「人間は分かんない。そもそも私自身、脈気を使える人間なんて伝説の人物だと思ってたし……」


そこへクロールが割って入る。


「まぁ、不確定要素がある限り、脈気を切らすのはやめた方がいいな」


クロールは空を見ながら言った。


「こういう時、アッさんがいればよかったんだがな」


その言葉で、俺はふと思い出した。


そういえば――アスヘルはどこで何をしているんだ。


何か意味があってここにいないことは分かる。


だけど、なぜいないのかは知らない。


「なあ、クロール」


俺はクロールを見る。


「アスヘルは別の何かやってるんだろ。どこに行ったんだ」


クロールはすぐには答えなかった。


代わりに、サラの方を見る。


サラもクロールを見返す。


二人は何かを目でやり取りしているようだった。


数秒の沈黙。


やがてクロールが大きくため息をつく。


「……サラがどうしても教えてやれって言うから教えるが」


クロールは少しだけ体を起こした。


「取り乱すんじゃねぇぞ」


俺は息を呑む。


ただ話をすると言われただけなのに、背中に汗が流れた。


「アスヘルは――」


クロールが言う。


「エルド村に帰った」


「……は?」


予想外の返答に、思わず声が漏れた。


クロールはサラの方を見て、苦笑いしている。


俺は一度、深く息を吸った。

そしてゆっくり吐き出す。


気持ちを落ち着かせてから、もう一度口を開いた。


「なんで帰ったんだよ」


なるべく冷静を装って言う。

けれど、唇はわずかに震えていた。


クロールは少しだけ視線を落とす。


「アッさんには、アッさんの守るべきものがある」


クロールは申し訳なさそうに言った。


「そうとしか、俺からは言えねぇ」


サラがすぐに言葉を続ける。


「アスヘルはレイルのことを信用して行ったんだよ」


サラは明るい声を作った。


「だから任された私たち三人で、ノアは助けよう!」


けれど――


俺には、その声が無理やり作られたものに聞こえた。


納得はできない。


けれど、ここで怒っても何も変わらない。


俺はもう一度、大きく息を吸う。


……コンガに行こう。


ノアを救うんだ。


「わかったよ」


俺は言った。


「アスヘルにはアスヘルの事情があるんだろ」


少し間を置く。


「それくらい、子供じゃないから納得できるよ」


俺は前を向き、歩き出した。


拳を握りしめる。


ゆっくりと、しかし大きな歩幅で。


「二人とも」


俺は言う。


「コンガに行こう。ノアを助けるんだ」


クロールとサラは一度顔を見合わせた。


そして、少しだけ笑ったような気がした。


「レイル」


クロールが立ち上がる。


「道わかんねぇだろ。俺が先頭だ」


クロールは走って俺の隣まで来る。


サラも立ち上がった。


「二人とも、体力温存しといてよ」


サラは小走りで俺の元へ来る。


「コンガって街で何があるか分かんないんだからね」


俺たち三人は並んで歩き始めた。


コンガへ向かって。


今日は――四日目の夜。


アスヘルが言っていたタイムリミットまで、あと丸三日。


待っててくれよ、ノア。


絶対に助ける。


今度助けたら――


もう、絶対に離れない。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ