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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
4章 奪還編
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4-7 クロールの賭け

そんなことをしたらノアを助けられないじゃないか。

一週間なんて長すぎる。無茶苦茶だ。


そう感じた俺は馬鹿らしくなり、公園から離れようとする。


しかし背後からクロールがやってきて、また俺の手を引っ張り止めた。


「ほんとに一回。……一回でいいから、俺を信じてくれ」


クロールが必死そうに頼んでくる。


俺は小さく息を吐き、仕方なくクロールの隣に立った。

手には、さっき渡されたペンを握っている。


クロールのさっきの言葉のせいで、周囲はざわついていた。


次第に人が人を呼び、気づけば――

すでに五十人ほどの野次馬が俺たちを囲んでいる。


その人混みを掻き分けるようにして、ひとりの男が前に出てきた。


立派な軍服。

胸には、いくつもの勲章が輝いている。


「そのペンで、なんでも破壊できるらしいな」


高圧的な男だった。


クロールはその男を見ると、不敵に笑う。


「はい。なんでも破壊できますが……何で試させてくれるんでしょうか?」


男はポケットから、紫色のボールを取り出した。


「お前たちみたいな貧乏芸人は見たことないだろうが……これは最新の盾。

竜盾だ」


そう言うと、男はボールを軽く放り投げる。


シュバッ。


空中で音を立て、紫の球体は一瞬で形を変えた。


次の瞬間――

男の手には、巨大で立派な盾が握られていた。


周囲からどよめきが起こる。


「この盾は魔族の攻撃を正面から受けても破壊されない。

王国一の盾だ」


男は誇らしげに続ける。


「基本、接近されたら死ぬ魔族との戦いでは必須の装備。

王国の技術の結晶だ」


クロールは目を輝かせた。


「それはすごいですねぇ!」


そしてニヤニヤしながら男を見る。


「それで……それが壊れたら、いくらお支払いいただけますか?」


「金を取るのか。芸人の分際で」


「どうも貧乏なもんで」


男はフン、と鼻で笑う。


「いいだろう」


そう言って盾を地面に突き立てた。


「破壊できたら――一万レガルドやる」


周囲が一気にざわめく。


男は口元を歪めた。


「その代わり、破壊できなかったら」


男の目が細くなる。


「一週間ではなく――一ヶ月。

俺の奴隷になれ」


観衆が一斉にどよめいた。


クロールはその騒ぎの中で、能天気な顔のまま言う。


「おう。じゃあペンに細工がないことを確認してくれ」


そう言ってクロールはペンを男に渡す。


男はペンを舐めるように眺め、

何度か盾に叩きつけて確かめた。


カン、カン、と硬い音が響く。


そして男は笑いながらペンをクロールに返した。


俺は不思議と焦っていなかった。


クロールは何か考えがあって、こんなことをしているはずだ。

俺はただ普通にペンを盾に叩きつければいい。

そうすれば壊れる――はず。


そんな余裕の表情を浮かべていると、クロールがペンを渡すついでに横から小さく呟いた。


「ほんじゃ、あとは頼んだ。お前にかかってるからな」


クロールは軽い声でそう言い、俺の横で腕を組んでいる。


――は?


こいつ、何も考えずにこんな無謀なことを言っていたのか。


信じた自分が馬鹿だった。


だが今さら「無理だ」と言ってどうなる。

軍服の男は、相変わらずニヤニヤ笑っている。


答えは一つしかない。


――壊すしかない。


「おい、銀髪。早くやれ」


軍服の男が苛立った声を上げる。


俺はゴクリと息を飲み込み、ペンを握る。


地面に突き刺された竜盾。

王国の技術の結晶。


こんなもの――


ペンで壊せるわけがない。


こうなれば、脈気を使うしかない。


木刀ですら壊せるか分からない盾だ。

それをペンで、本当に――


俺は拳を強く握りしめた。


ペンを握った拳を、思い切り空へ振り上げる。


観衆が息を呑む。


そして――


振り下ろした。


――バゴン。


鈍く、重い音が響く。


一瞬、何が起きたのか分からなかった。


だが次の瞬間。


竜盾の中央に、綺麗な穴が空いていた。


ペンは盾を突き抜け、地面に深く突き刺さっている。


……壊れている。


俺は、盾を破壊していた。


危なかった。


「おお……すげぇ」


ひとりの観衆の男が呟いた瞬間、ワッと歓声が沸き上がった。


「そんな……私の竜盾が……これがないと魔族に……」


軍服の男は壊れた盾を見つめたまま、膝から崩れ落ちていた。


――助かった。


俺の不正は、どうやら誰にもバレていないらしい。


冷静に考えれば、ペンに脈気を纏わせたところで、この盾が壊せる保証はなかった。

脈気を弱くすれば穴が小さすぎて破壊と認められない。

かといって普通に纏えば、ペンではありえない破壊の仕方になってしまう。


だから俺は――


誰にも見えない速度で拳で穴を開け、その直後にペンを投げて地面に突き刺した。


我ながら、咄嗟にしては悪くない作戦だったと思う。


崩れ落ちている軍服の男に、クロールがゆっくりと近づいていく。


その時だった。


背後から声が聞こえる。


「んん……うるさいんですけどー」


サラの声だ。


俺は背中にいたサラを、ゆっくり地面に降ろした。


「なになに? 急に降ろさないでよ」


さっきまで倒れて動けなかったとは思えないほど元気だ。


「ほら、約束通り1万レガルドくれよ」


クロールが言うと、軍服の男は震える手で一枚の紙を差し出した。


「これで勘弁してくれ……まさか本当に壊されるなんて思ってなかったんだ……」


なんて自己中心的なんだ。


クロールは紙を受け取り、目を通すとニヤリと笑った。


「いいぞ」


そして声を張り上げる。


「なんたってこれは、1万レガルドより価値のある――王国への移住権だからな」


そう言うとクロールは、俺とサラを連れて公園を出ていく。


「おい、金はいらないのか」


俺が聞くと、クロールはサラの方を見た。


「お、サラ元気になったのか」


……俺のことは完全に無視か。


俺がなんとか盾を破壊したのに、感謝の言葉は無しかよ。


「うん、元気になった」


サラはあっさり答える。


そしてクロールを見て言った。


「クロールは、なんかクズだったね」


あまりにも露骨な悪口に、クロールは少しだけ落ち込んでいた。


俺たちは大通りから離れ、人通りの少ない暗い路地を進んでいた。


「なあ、クロール。その王国への移住権ってなんだ?」


俺が尋ねると、クロールは珍しく丁寧に答えた。


「王国の移住権ってのはな。王国に特別なコネがあるやつとか、ある程度出世したやつに与えられるもんだ」


クロールは肩をすくめる。


「外から都合のいい人間を連れてくるための権利ってわけだ」


その説明を聞いて、俺は少しゾッとした。


「まぁ、王国内じゃ大した価値はない。だが――」


そこでクロールはサラの方を見る。


サラはその視線に気づき、小さく口を開いた。


「ちゃんとついてきてるよ。今にも襲ってきそう」


サラがそう言った瞬間だった。


背後の路地から、頭にバンダナを巻いた二人組の男が現れた。

手には刃物が握られている。


「おい、その移住権を寄越せ」


クロールはニヤニヤしながら、わざとらしく移住権を見せびらかした。


「嫌なこった」


次の瞬間。


二人の男が同時にクロールへ飛びかかり、刃物を突き出す。


俺はとっさに前に出た。


拳を振るう。


ドゴッ。


もう一人。


バキッ。


二人の男は低いうめき声を上げ、そのまま壁に叩きつけられて気絶した。


「レイル、少しやりすぎじゃない?」


サラがいつもの軽い調子で言う。


クロールもそれに続いた。


「俺はこいつらから話を聞こうと思ってたんだがな。まぁ命あって何よりだ」


クロールはそう言いながら刃物を拾い上げる。


そして移住権を、片方の男の手にぎゅっと握らせた。


「おい、それやるからさっさと起きろ」


倒れている男の肩を揺らし無理矢理起こそうとしているクロールを俺は仲間でよかったと心から感じた。

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