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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
4章 奪還編
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4-6 路銀ゼロの作戦

窓から差し込む太陽の光で目を覚ます。


俺は、もたれかかって寝ていた部屋の壁からゆっくりと体を起こした。


部屋を見渡すと、アスヘルの姿はもうない。

代わりに、クロールが窓の外を眺めていた。


そしてサラは、隣でまだ寝息を立てている。


「よっ、起きたか」


クロールはそう言うと、胸ポケットから手帳とペンを取り出した。


「サラがいつ起きるか分からないからな。レイルに先に作戦を伝えておく」


そう言うと、クロールは今後の作戦を話し始めた。


俺はまだ眠くて、話の内容があまり頭に入ってこない。


だが、どうやら作戦としては――

まずこの街で情報収集を行い、“屑拾いの残響”についての手がかりを探すらしい。


「屑拾いの残響について、そんな都合よく情報が手に入るのか」


俺がそう聞くと、クロールは窓の外を見たまま答えた。


「ここはレガルド王国に加入している街の中でも一番の外れだ。王国の監視も一番薄い」


「大体こういう場所はな、人を攫うような野蛮な組織が取引のために利用してんだよ」


クロールはそう言いながら、手帳とペンを胸ポケットにしまう。


すると同時に、そこに入っていた葉巻を取り出した。


クロールがモノと一緒に飲みつぶれているところしか見たことがなかったから、今まで気づかなかった。


だが――この男、頼りになるのかもしれない。


「あ、この葉巻吸い終わったらこの部屋出ていくから準備しといてくれよ」


「えっ」


思わず声が出た。


クロールは煙を吐きながら笑う。


「俺たちにそんな何泊もできるような金がある訳ないだろ」


「今泊まれてるのもアッさんのおかげよ」


ニコニコしながら話すクロールを見て、俺は確信した。


――ノアを助けるのは、かなり大変になりそうだ。


クロールは葉巻を咥え、持っていた筒状の道具で火をつける。

ゆっくりと煙を吸い込み、満足そうに吐き出した。


美味そうに吸うクロールを眺めていると、ふとこちらを見た。

少しだけ悩んだような顔をしてから、俺に葉巻を差し出してくる。


「吸いたいのか」


「まったく」


俺が素っ気なく返すと、クロールは肩をすくめて再び葉巻を咥えた。


「ほんじゃ、出発すんぞ」


そう言って、部屋から出ようとする。


「なぁ、サラはどうすんだよ」


クロールは「あれ?」というような顔をした。


「レイル、お前が背負えよ。俺はおっさんすぎて、サラに加齢臭ついてしまいそうだから」


俺は呆れながらも、サラを背中に乗せる。


――サラって、結構軽いんだな。


背中越しにサラの体温が伝わってくる。

それだけで、なんだか少し安心した。


「あと、サラの背中の羽と尻尾が見えないようにこれかけとけ」


クロールはそう言って、サラにかけていたマントを後ろから被せる。

サラの顔以外がすべて隠れるように包み込んだ。


マントは地面すれすれで、ふわりと浮いている。


「サラは魔族だ。王国に入ろうもんなら、問答無用で殺される」


クロールは振り返らずに言う。


「それでも、お前やノアを助けたくて来てくれたんだ。覚えておけよ」


そう言って部屋を出ていった。


俺もその後ろを追う。


サラが魔族だということは知っている。

でも、こんなにいい奴でも王国では問答無用で殺されてしまうのか。


確かに――。


レガルドで訓練していた頃の俺がサラを見たら、

魔族だという理由だけで殺していたかもしれない。


不思議な感覚だった。


その時、急に体がふわっと宙に浮く。


前を見ると、階段の下にクロールがいる。


俺は――足を滑らせていた。


瞬時に脈気を纏い、顔から階段に落ちる。


ドタン、ゴタン、バン。


何度か体を打ちつけながら転げ落ちる。


だが、背中にいるサラには被害を出さなかった。


よかった。


そう思っていると、後ろから声が飛んできた。


「いてぇーな! ちゃんと歩け!」


クロールが怒りながら、俺に向かって叫んでいた。


俺たちの声を聞いたのか、建物の所有者らしいおばさんが出てきた。


「クロールさん、ここは禁煙ですって何度も言いましたよね」


クロールは苦笑いしながら、おばさんに言い訳をする。


「これは咥えてるだけで、火なんてつけてないっすよ」


そう言うと、クロールは葉巻の先端を手で握り、

吸っていた煙をゴクリと飲み込んだあと、ゲホゲホと咳払いをした。


おばさんは呆れたような顔でクロールを見ている。


「まあ、いいですよ。お代は580レガルドに値上げしますけどね」


その言葉を聞いたクロールは、驚いた声を上げた。


「そりゃあないよ。俺たち600レガルドしか持ってないんだ」


「払えるじゃないかい。寄越しな」


おばさんが手のひらを差し出すと、クロールは渋々代金を支払った。


代金を受け取ったおばさんは、ニコニコしながら言う。


「毎度ありがとうね」


それから俺の方を見る。


「あなた、もう大人だけど……お腹空いたり困ったりしたら、うちに来てもいいからね」


おばさんはクロールをちらりと見て続ける。


「こんなのが親じゃ大変ね」


――容赦ないな、この人。


そう思いつつ、俺は圧に負けて頷いた。


クロールは、早く外に出たそうにしている。


俺はその気持ちを察して、おばさんに軽く礼を言った。


そしてすぐに、建物の外へ出た。


太陽が、俺たち三人を眩しく照らしている。


「まったく、あのばあさん……180レガルドも値上げしやがって。少しくらい吸うだけでオマケしてくれてもいいだろ」


隣を歩きながら、クロールがブツブツと文句を言っている。


「クロール。俺たち、今からどこへ向かうんだ?」


クロールは俺の肩に手を乗せてくる。


「こういうのはな。だいたい酒場で情報収集するのがセオリーであり教科書なんだよ。……けど20レガルドじゃ何もできねぇ」


――クロールの自業自得だろ。


喉元まで出かかった言葉を、俺は飲み込む。

こんなところで仲間割れしている場合じゃない。

ノアの行方を早く探さないと、ノアが危ない。


「じゃあどうするんだよ」


「まぁ見ててみ」


そう言うとクロールは早歩きになり、俺の前を歩き始めた。


俺たちが歩いている通りには、ポツポツと人が行き交うだけで、店もほとんどない。


しばらくすると、この街の大通りのような場所に出た。

野菜を並べた店、立派な宿屋、公園のように緑が広がる広場。


そのときだった。


「よっ! みなさん見てください!

この女の子を背負っている、どこから見ても普通の男性を!」


突然、クロールが公園の前で通りすがりの人々に向かって叫び始めた。


――どう見ても、言ってるのは俺だ。


嫌な予感しかしない。


「この非力そうな男性が! このペン一本で! なんでも破壊してみせます!」


そう言うとクロールは胸ポケットからペンを取り出し、俺に渡してきた。


「なんかやるらしいぞ」


「胡散臭いな」


「あんなの見ちゃダメよ」


周囲から様々な声が聞こえてくる。


クロールは俺の耳元で小さく囁いた。


「ノアを助けるためだ。協力してくれ」


そう言うと、俺の返事も聞かず、再び人々に向かって声を張り上げる。


「この、なんでも破壊できるペン!

みなさん信じていないでしょう!」


クロールはくるりと回り、観衆を指差した。


「試しに、壊れないと思う物を持ってきてください!」


そして俺を指す。


「この“普通の男”が!

種も仕掛けもない不思議なペンで!

破壊してみせます!」


一泊おいて続ける。

 

「この普通の男が破壊できなかった場合、私たち三人は一週間壊れないものを持ってきた方にお仕えいたします!」

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