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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
4章 奪還編
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4-8 ケビンの足跡

「すいません。あなた達がその……ここまで物分かりがいい方達だとは思わず……」


「いいっていいって。俺らもこうやって飯奢ってもらってるんだしな」


俺とサラは、初めて来る酒場でメニュー表をじっと見つめていた。


肉巻き15レガルド。

パン一片4レガルド。

シンカイコン20レガルド……。


色々な料理が並んでいるが、メニュー名を見ただけでは何も分からない。


「うわー、この街のメニューはどれも分からないや」


サラが呟く。

俺もそれに頷いた。


レガルド王国で訓練兵として過ごしていた時は、何か分からないまま色々なものを食べていたっけ。


頭の中に懐かしい光景が浮かぶ。


アスカ。

お前は今、俺がこうしてノアを守れなかったのに、呑気に酒場にいるのを見たら何て言うだろう。


……やっぱり。


これじゃ、ノアは助けられないんじゃないか。


「すいませーん!」


俺が考え事をしていると、横でサラが大声を上げて店主を呼んだ。


「はい、なんでしょうか」


「ここのおすすめのやつと、パンを5個お願い」


店主はメモを取り出し、俺たちのテーブル番号と注文を書き込むと、奥へ引っ込んでいった。


「お姉さん、結構食べるんだね」


襲ってきた男のうちの一人が、サラに声をかける。


「まぁね。明日食べられる保証もないから」


サラはあっさり答えた。


サラに声をかけた男と、もう一人の男が顔を見合わせる。


「改めて自己紹介ですが、私がカイ。隣が弟のソンです」


カイと名乗った男は、少し背筋を伸ばした。


「私たち二人は、この街と外の世界の仲介者として生きています」


カイは続ける。


「私たちがこの仕事をしている理由は色々あるのですが……その王国移住権を手に入れるためでした」


そして、深く頭を下げた。


「本当にありがとうございます」


「いいってことよ。俺らも見返りを貰うわけだしな」


クロールが軽く手を振る。


「何に使うかは知らないが、お前らがゴミみたいな使い方をしないことは、なんとなく分かる」


「お待たせいたしました。こちら、当店名物の肉巻きです」


店主はクロールの前に、パンに肉がぐるぐると巻き付けられた料理を差し出した。


「お、あんがと」


クロールは軽く礼を言う。


そして肉巻きを手に取ると、すぐに本題に入った。


「んで、本題なんだがお前ら、“屑拾いの残響”って知ってるか?」


カイが少し考えてから答える。


「そんな組織は知らないな。王国の外の組織なのか?」


「ああ、確かな組織だ」


クロールはそう言うと、すぐに話題を変えた。


「まぁ分からないならいい。次は“ケビン”って男について聞きたいんだが――」


クロールは俺を指差す。


「こいつがそいつに助けられたっぽくてな。挨拶したいんだ。知ってるか?」


カイは首を横に振った。


「ケビンか……すまない。聞いたことないな」


――ダメだったか。


俺は二人の会話を聞きながら、肩を落とす。


やはり手がかりは、そんなに簡単には見つからないらしい。


カイが申し訳なさそうに口を開こうとした時だった。


横からソンが割って入る。


「ケビンなら知ってる」


俺は顔を上げた。


ソンは続ける。


「マントって馬とよく一緒にいるやつだろ?」


マント。


確か、そんな名前の馬がいた。


恐らく、このソンが言っているケビンは――

俺の知っているケビンと同じだ。


「金がなくて腹を鳴らしてる男か?」


俺が確認すると、ソンは笑いながら頷いた。


「そうそう、それそれ」


そして少し身を乗り出す。


「ケビンって男は見つかったな」


ソンはまるで自分のことのように嬉しそうに言い、俺の方を見た。


「そっかー、ケビンがあんたを助けたのか」


嬉しそうに話すソンを、俺は苦笑いしながら見た。


助けられたわけじゃない。


ノアを連れていかれて、俺は怒っているだけだ。


けれど、こんなに嬉しそうに話すソンの前で、そんなことは言えなかった。


「ソン。ケビンという男を知っているのか?」


カイが尋ねる。


「兄貴、ケビンはいつも俺たちの商店に物を売りにくる客だ」


ソンは当たり前のように言った。


「兄貴は店頭に立たないから知らないだろうけど、結構うちの太客だぞ」


そう言って、ソンは俺の方へ体を向ける。


「ケビンはコンガって街に住んでる。そこに行けば会えると思うぞ」


ソンは、ケビンについてかなり詳しく知っているようだった。


なら、聞けることは聞いておこう。


「最近来たのはいつなんだ?」


ソンは少し考え込む。


「最近ってほど最近じゃないけど……二ヶ月くらい前かな」


指を折りながら思い出す。


「珍しい花と、木刀を売りに来たな」


「そうか……あんまり来てないんだな」


俺は小さく呟いた。


――繋がった。


頭の中で、バラバラだった情報が一つに重なる。


自信が、今――確信に変わった。


ケビンは、間違いない。


俺の知っている、あの男だ。


「何落ち込んでだよ。きっと会えるさ」


ソンが俺を励ますように言う。内心は複雑だったが、俺はなんとか笑顔を作ってその好意に返した。


「お待たせしました。こちら、肉巻きとパン五片です」


店主の男が料理を運んでくる。

サラは礼を言いながら肉巻きを取り、パンを俺の前に突き出した。


「レイルの分」


肉巻きをムシャムシャと食べながら、サラが言う。頬いっぱいに食べ物を詰め込みながらも、美味しそうに頬張っている。


「ご飯の邪魔してごめん。食べて食べて」


ソンがジェスチャーを交えながら、俺に食べるよう促す。


俺はパンをちぎって口に運びながら、クロールとカイの会話に耳を傾けた。


「でも、こんな飯とケビンという男の情報だけでこれを譲ってくれるのですか。この移住権は本来、千……いや、一万レガルドで取引されてもおかしくないのに」


カイが信じられないという顔で言う。


「俺たちにはただの紙切れだ。気にすんな」


クロールはそう言うと席を立った。


「おい、レイル、サラ。食ったら行くぞ」


「おーけー」


サラが明るく返事をする。


「ああ」


俺も続けて返事を返した。


「別に急ぐことないんじゃないか。移住権をくれた恩人だし、もう少しもてなしたい」


ソンがそう言うと、カイがすぐに首を振る。


「クロールさん達にはクロールさん達の事情があるんだ。俺たちが変えられることじゃない。わがままはやめろ」


そう言ってカイは立ち上がり、手を差し出した。


「またどこかで会えたら、次はお酒も飲みましょう」


「ああ。次は俺たちに奢らせてくれ」


クロールはそう言うと、先に酒場の出口へ歩いていく。


俺とサラは急いでテーブルの食事を口に詰め込み、食べきれない分は両手に抱えた。


「それじゃあまたね」


「二人ともありがとう。ケビンは絶対に見つけるから」


俺とサラはカイとソンの目を見てそう告げると、急いでクロールの後を追った。


太陽はちょうど俺たちの頭上を照らしている。

色々なことがあったが、まだこんな時間か。


「レイル、ほらよ」


泊まっていた建物の前に、一本の木刀が立て掛けられていた。

クロールがそれを手に取り、俺へ渡してくる。


俺はそれを握りしめた。


――手に馴染むこの感覚は……いつもの木刀だ。


「レイル、持っていかなかったでしょ。私の木刀」


サラが横から声をかけてくる。


俺は軽く頷き、木刀をいつものように腰へ掛けた。


「じゃあ、準備はできたし出発だな。コンガって街は俺も知ってる。大きな王国外の街だ」


クロールはそう言って歩き始める。

サラも何も言わず、その後ろについていった。


俺は二人の背中を見ながら、ずっと気になっていたことを口にする。


「なあ、アスヘルはどこなんだ。アスヘルがいたらノアを助けられる可能性もグッと上がるだろ。寄り道してるなら、さっさと呼びに行こう」


しかし二人は、足を止めることなく歩き続ける。


「はやく行くよ、レイル」


サラにそう言われ、俺も仕方なく二人の後を追った。


――無視された。


それは分かっている。


けれど、この無視にも何か意味があるんじゃないか。

そんな気がしていた。


しばらく歩くと、大きなレンガの壁が見えてくる。


ここも、レガルド王国のように街を守る壁なのだろうか。


「サラ、気をつけろよ」


クロールが前を見たまま言う。


「あーい」


サラが軽い調子で返事をする。


さらに進むと、関所が見えてきた。


その周りには、軍服を着た兵士たちが数人立っている。


「止まれ」


手に槍を持った男に俺たちは行く手を遮られた。

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