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銀の英雄と世界を覆う噓  作者: hini
3章 修行編
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3-11 寄る辺なき刃、崩れゆく日常

――ガチャン。


小屋の扉が勢いよく開き、俺は思わず飲んでいたスープを喉に流し込んだ。


「おっはよー、ノア、レイル!今日はね、私の腕前を見てほしいんだよね!」


そう言って入ってきたサラの手には、ナイフと、やけに大きな木材。

どう考えても朝の訪問客が持ってくる物じゃない。


騒がしい音に気づいたのか、キッチンからノアが顔を出す。


「おはよう、サラ。スープ飲んでいく?」


「いいのー?ノアありがと!」


サラはそう言うと、当然のようにノアのベッドに腰を下ろし、スープが運ばれてくるのを待ち始めた。


……どっちが年上なんだか、もう分からない。


「今日は、なんの用事で来たんだよ」


サラが村に来てから、もう数週間。

ほぼ毎朝のように顔を出しているが、ノックもせずにドアを開けたのは、さすがに今日が初めてだった。


「なにって、これ見たら分かるでしょ?」


「ナイフと木を持ってる、変な奴にしか見えないけど」


そう言うと、ちょうどノアが横からやってきて、サラの前にスープを置く。


「今日は、サラが好きな濃いめの味付けにしました!」


「やっぱりノアのこと、私だーいすき!」


サラはそう言って、ベッドに座ったままノアの腰に抱きついた。


「……話を戻すけど、サラは何をしに来たんだ?」


ノアにまとわりついたままのサラが、その姿勢のまま返事をする。


「なにって、レイルの木刀を作ってあげに来たんじゃん!」


そう言って、サラはようやくノアから離れ、置かれていたスープを手に取る。


「なんで俺が木刀で戦ってたこと知ってたんだ?」


「なんでって、大木を木刀で叩いてたって言ってたでしょ?それなのに木刀持ってないから、欲しいのかなーって思ってさ」


サラがスープを一気に飲み干す。

……食べるのが早い。


「で、レイルは木刀いらないの?いらないならさ、ノアのためにモノの木彫りでも作ろうと思ってるんだけど」


絶対にノアもいらないだろ、それ。

そう思いつつも、俺は一瞬だけ迷った。


ケビンとかいう謎の男に渡してから、木刀は持っていない。

もし村に何かあった時のことを考えると――やっぱり、あった方がいい。


「……じゃあサラ、木刀作ってくれないか?モノの木彫りなんかに木を使うのは、正直もったいないし」


「えー、そうかなー。いいインテリアになると思うんだけど」


そう言いながらも、サラは少し考える素振りを見せてから、ベッドから立ち上がった。


「まぁいいや。ノア、ごちそうさま!ちょっと外で木刀作ってくるねー」


そして、俺の腕を軽く引っ張る。


「ほら、行くよレイル」


そう言って、サラは勢いよく扉を開けて、外へと出て行った。


 外に出ると、サラは地面に腰を下ろし、そのまま木材をナイフで削り始めた。


迷いのない手つき。

木屑が一定のリズムで地面に落ちていく。


途中で、サラが俺の手を取る。


「レイルの手の大きさが分からないと、柄の太さ決められないでしょ」


少しの間だけ、俺の手を包むように握ってから、また何事もなかったように作業へ戻る。

表情は、さっきまでの軽さとは違って、やけに真剣だった。


「サラって、手先器用なんだな」


「当たり前でしょー。生きてきた年数が違うのよ」


そう言いながらも、削る速度は一切落ちない。


体感では、せいぜい一時間ほど。

それなのに、俺の目には、もう“完成品”に見える形になっていた。


「はい、ちょっと握ってみて」


渡された木刀を、俺は恐る恐る握る。

一瞬だけ、角が指に当たって、思わず表情が歪んだ。


だが、今まで使ってきた木刀より、明らかに滑らかで、手に馴染む。


「……いい感じだ」


「一瞬、顔曇ってたじゃん!」


サラはそう言うと、木刀をひったくるように取り上げ、柄の部分を指でなぞる。


そして、迷いなくナイフを入れ、角が立っていた箇所だけを正確に削った。


「これでどう?」


もう一度握る。

今度は、手の形に吸い付くような、妙に心地いい感触があった。


「……すごいな」


「でしょ? 私って、本当に手先器用なんだよねー」


誇らしげに胸を張るサラは、心底嬉しそうに笑っていた。


 木刀を軽く素振りしてみる。


――ビュン


いつもより、風を切る音が鋭く響いた気がした。


サラは、俺の動きを見て一瞬だけ目を見開く。


「こんなに剣を振るのが速い人、初めて見た」


正直、剣術には自信がある。

そう言われると、胸の奥が少しだけ熱くなった。


「ありがとな。剣だけは、そこそこ自信あるんだ」


俺は少し格好つけて、腰のベルトの隙間に木刀を差し込む。

歩きにくいが、こうしていると何となく様になる気がして、昔からこの位置に収めていた。


「レイルってさ、才能の塊みたいに見えるけど……ちゃんと努力もしてきたんだね」


「自分に才能があるなんて、思ったことない」


そう返して、俺は森の方向へ歩き出す。

あの大木で、試し斬りがしたくなったからだ。


「ねぇレイル!どこ行くの?試し斬り?」


サラは明るい声で、俺の横に並ぶ。


「ああ。ついてくるか?」


「当たり前じゃーん。私の木刀で“ばこーん”ってやるとこ、見せてよ」


二人で森を進む。

ノアがいない、珍しい二人きりの時間。


俺は、ずっと気になっていたことを口にした。


「エルド村での生活、どうだ?」


サラは一瞬だけ驚いた顔をしてから、静かに微笑む。


「……ここにいるとね、癒されて。現実を忘れたくなってくるよ」


遠くを見るような目。

それが妙に引っかかった。


「ずっといてもいいんだぞ。サラはもう、仲間なんだから」


サラは、すぐには答えなかった。


「私は……ずっとはいられないかな。一応ほら、追われてる身だし」


明るい口調。

でも、どこか無理をしているように見えた。


「あ、着いた」


いつもの大木の前に出る。


「じゃあレイル。一発、ばこーんって頼むよ」


俺は腰から木刀を抜く。

大木を折らないように、脈気を“最小限”だけ纏わせる。


「いくぞ、サラ」


「おー、みせてー」


木刀を振り下ろす。


――ばこーーん……ダンッ


衝撃音の直後、大木の“打った場所より上”が、遅れて崩れ落ちた。


俺自身も、少しだけ息を呑む。


「……ほんとに、すごい」


サラは、口を開けたまま、しばらく動かなかった。


「……いつの間に、こんな風になったんだ」


自分の成長に、俺自身が一番戸惑っていた。


もう一度サラを見る。

何かを呟いている。声は届かなかった。

けれど、その横顔は――少しだけ、泣き出しそうにも見えた。


「想像以上の木刀だよ。本当にありがとう、サラ」


俺はそう言って、木刀を腰に収める。


サラは一瞬だけ立ち止まり、それから、いつもの明るさに戻った。


「どうってことないよ!帰ろっか。私、ノアと話したいことあるから、先帰るねー」


そう言い残して、村の方へ駆けていく。


俺はその背中を見送りながら、誰も見ていないのに、腰の木刀に手を添えて少しだけ格好つけて歩いた。

なんだか、胸の奥が妙に落ち着かなかった。


小屋に戻ると、ノアの姿はなかった。

扉は開いたまま。


(どれだけ急いで連れ出したんだよ……)


そう思いながら、俺はベッドのシーツを整え、床を掃く。

普段はノア任せだが、たまには悪くない。


静かな時間が流れる。


そのとき――


――バンッ!


扉が叩きつけられるように開いた。


「おかえり――」


言いかけた言葉が、喉で止まる。


「レイルさん!!ノアさんが……ノアさんが倒れてる!!」


ロロの叫び声が、小屋の中に突き刺さった。

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