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スクリーミングベイビィ  作者: おのこ
SS1:彼らは夜、狩りをする
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子供達の戦い《スタンドアップ・ガール》

 覚悟を決めたミナの行動は素早かった。


 這うように窓に近づくと、目だけを出しよじよじと外の状況を確認する。


 倉庫の中は灯りが絞られている為薄暗いが遠くの入り口に何人かの男の姿が見える。

 そこには、車が数台止まり、幾人かはせわしなく動き回り、また幾人かは話し合っていた。


 倉庫内にも何人か居るが、その配置はまばらでうろうろと徘徊している感じだ。

 そしてミナとしては驚く事に、この部屋の入り口に見張りが居るようには見えない。


(なんでだろ、うーん)


 ミナは自分達に見張りを付けない理由を考える。

 そして以前彼らに拐われかけた時の会話を思い出した。


『ノルマ』『新規取引』『急ぎすぎ』


 思えば夜に人気の無い道で待ち伏せしていた時と違い、今日の誘拐は随分と手段が乱暴だった。

 まだ人も居るはずの夕暮れ時にあんな行動、リスクとしか言いようがない。


「焦ってるんだ」


 小さく呟きながらミナは仮定する。

 彼らは新規取引の為のノルマを達成する為に急ぐ必要があった。

 きっと手分けをして集めていた所を、あの少年に邪魔され――あの後も邪魔をしていたのかもしれない――悠長な事をしていられなくなった。


 その過程で車が無くなったり、仲間が減ったりして頭数が足りないのだろう。

 ミナやリーベに関してはこうやって身動きを取れなくすれば問題ないと人のリソースを割く程の事はないと判断したのだ。


 そしてあの車の数々、きっとミナ達がここに慌てて連れてこられたように子供達が今集められている。

 つまり今夜こそ、その取引の日だ、だからこそその準備で慌ただしくなっているのだろう。


 この仮定は楽観的かもしれないが、現状に照らし合わせれば十分筋は通っているようにミナには思えた。


 油断、付入る隙、勝機

 普通ならありえない好機かもしれない、それどころか上手くミナ達が逃げ出せれば、警察が来て一網打尽にできるかもしれない。


(きっと他の子達も助けられる)


 ミナは考えを纏めながら窓から離れ、今度はよじよじとリーベの方へ向かう。


「リーベちゃん、ちょっと苦しいかもしれないけど我慢してね」


 ミナは、背筋でのけぞりながら、リーベの身体をよじ登るように身体を高く高く伸ばしていく。

 よく見るとリーベの手首には太めのブレスレットが付けられていた、顎に当たってちょっと痛い。

 少し苦しいのか自分の薄い胸の下でリーベが身を捩るが気にしている場合ではない。


 ミナはあんぐりと口を開け、リーベの腕をパイプへ縛り付けるガムテープに噛み付いた。


(油断その2、この拘束!縄ならダメだったけど、ガムテープなら私の歯で剥がせる)


 んぎぎぎぎぎ、と力みながらミナはリーベの手のガムテープを少しずつ剥がしてく。

 噛みちぎり、たまに涎でふやかして少しずつ少しずつ剥がしていく。

 背後の窓から覗かれれば終わりだろう、だが、気にしていたらいつまで経っても終わらない。


 結構な時間がかかったが、リーベの左手がパイプから離れ、どさりとミナは地面に倒れる。


「や、やった…」


 ぜーぜーと息をしながら、ミナはリーベを見上げる。

 リーベはきょとんとした顔で自由になった左手をぐーぱーと開いたり閉じたりしていた。


「リーベちゃん、私の手も、お願い」


 そう言ってミナはうつ伏せになって後ろ手に縛られた腕をリーベに見せる。

 リーベはその言葉に少しだけ止まった後、ペタペタと左手でミナの手のガムテープを剥がしにかかる。


 リーベが手のガムテープを剥がしている最中、ミナはリーベについて考えていた。


(私、多分リーベちゃんが【魔法】を使ってから凄い元気になった)


 リーベの【魔法】がなんだったかは分からない、けれどあの優しい【魔法】はミナの弱さに寄り添ってくれていた。


 もしかしたら【魔法】の力でハイになっているだけかも知れない、でも、ミナは思う。

 今やってることは、ミナが本当にやりたかったことだ、だから【魔法】の力でもいい、今この時後悔しない、それが泣かない為に必要な事だから。


 そう思った時、両手が自由になった。


「ん~~~」


 ミナは無理な姿勢から解放され、伸びをする、まだ両足が縛られているがこれならすぐに解けるはずだ。


「よーし、リーベちゃん今度は自分の足を外そう」


 リーベは、少しだけ身じろぎをして言われた通りに自分の足にとりかかる。


(素直な子だなぁ)


 言われるまで全然動かないが、言われた通りにちゃんと行動に移す。

 どことなくぼーっとしているが、何もできないわけじゃない、ミナとしては隣で泣いたりしない――むしろミナの方が泣いてしまった――のは非常に助かった。

 よし、と気合を入れ直し、ミナは自分の足を自由にする作業にとりかかった。


 程なくして、ミナは自分の足を解放した――リーベは片手だからか手間取っていたので途中からミナも手伝った。


 これで、二人は完全に自由の身になった。


 屈んで窓の外を眺めながらミナはもう一度考えを纏める。


 1つ、正面の入り口は人が一杯、まず無理。


 2つ、中には数は少ないけど人が歩いている、音で判断するしかない出くわしたら直ぐに人が集まってくるだろう。


 3つ、戦って勝てるかどうか、十中八九無理。


(自由になっても厳しいものは厳しいな、でも、ここが倉庫だとすると)


 倉庫は新しいとまでは言わないが、それほどボロっちくはない。

 これだけ広い倉庫なら、こっそり作ったわけでもないだろう、正規な方法で作られ、そして男達に後から乗っ取られたと考えられる。

 なら正面の入り口以外にも消防法で決められた非常口がどこかにある。


(入り口に近づかなくても、壁面に沿って歩いていれば見つかる筈)


 今の状況からミナは考え続ける、この一ヶ月で勉強して覚えた内容も、それを元に考えてた内容も含めて。


(こちらは二人、小柄だからコンテナや荷物の影に隠れて…光の向きとかで影が見えないように気をつけて行けばきっと行ける筈)


 ふと思い出してミナはペタペタと身体を探る、スマートフォンや防犯用の装備の類は当然のように没収されていた。


「流石にそこまで油断はしてないか…」


 期待半分だったが少しだけミナは気落ちした。

 だが、すぐに気を取り直し、ミナはリーベの方を向く。


 青い瞳がじっとこちらを見ていた。


「リーベちゃん、ここから出て、警察に通報しよう、そうすれば私達も、多分いる他の子供達も助かるから」


 リーベは無表情で無言のままだったが少しだけ身じろぎをした。

 反応を見ていて、なんとなくミナはそれが了承の合図だと解っていた。


「よし」


 そう言ってミナはリーベの手を取り、入り口の扉に手をかける。


 不安に陥りそうな心に抗うように何度でも心の中の決意を繰り返す。


 ミナはゆっくりとその扉を押し開く。



 ミナとリーベの戦いが始まった。

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