勝利条件《イグゾーション》
ミツキはアユムの話を聞いていた。
あの日何があったのか、誰が来たのか、そして何を感じたのか。
アユムの所感も交えその情報を整理していく。
ミツキは思った。やはり、と。
「話を聞く限り、シマハラは自分の名前もアジトも【魔法】も晒してアユムと園長を逃している」
「多分、警察とか僕等とかがそもそも怖くない段階なんだろう」
「あいつらの目的はサバトだ、それも近い内に」
サバト
悪魔崇拝者達は日々己の欲求を満たす為に子供達を攫いながらも、最終的にはそれを目標とする。
【魔法】は現象だ、その起因は様々であれ、行使されようとしたその力は同一の空間上で混ざり合い、その結果が現実に出力される。
一人ひとりの誇大妄想は念力程度の【魔法】しか扱えなくとも、その誇大妄想を束ねれば起こる事象は段違いになる。
巨大な岩を何人もの力で押しのけるが如き行為。
同一の集団幻覚を見た悪魔崇拝者達は戻るはずの世界の法則という巨大な岩を押しのけ、砕きかねない。
それは、望まぬ世界の破壊と自らの世界の創造を望む悪魔崇拝者達の根本的な欲求だった。
「あいつらはリーベの【魔法】を利用して、意思の統一を図ろうとしてるんだ」
アユムはその発言に待ったをかけた。
「待てよ、仮にアイツの【魔法】使って意思の統一をしたとして、何になるんだよ」
「アレはそんな便利なもんじゃねえぞ」
実際に体験したアユムとしては疑問だった。
あの【魔法】は確かに劇物で、人の思考を塗りつぶす。
だが、それで終わりだ、そこの先にあるのは欲望と激情、叶えられるとすればリーベの理想であり、それは悪魔崇拝者達の、シマハラの欲望かと言うと疑問でしかなかった。
ミツキはそれに頷く。
「そうだね、でも、幻覚の統一はできる。そして多分、仕上げはシマハラの【魔法】だ」
「シマハラは真性の誇大妄想狂、園長が負けた上に、リュウコさんの状況から見ても扱えるのが念力だけとは思えない」
「そういやよぉ…」
アユムは口を挟む、無事だとは聞いていたが詳細までは知らなかった為だ。
「ああ、リュウコさんについて詳しくは話してなかったよね、ごめん」
「お、おう、ミツキが無事だって言うからにはそこまで酷くないと思ってるけどよ」
ミツキは露骨に嫌なものを思い出した顔をして言った。
「無傷だったんだよ、錯乱こそしてたけど傷一つ無い、異常だよ」
「あ?いやそりゃ…」
リュウコはガチガチの打撃系総合格闘家であり、打撃戦のセンスで言えば威力こそ差があれど園長よりも格上の存在だ。
それに、リュウコは光輪会の事を命よりも大切に思っている節がある、自分の四肢をもがれようと話す事はないだろう。
子供達を人質を取った場合も同じだ、その譲歩の結果、他の子供が――それがアユムであっても――危険に晒されるならば自らの命を差し出してでも立ち向かう。
リュウコはそういった女性だった。
「そうだね、そもそもリュウコさんがアユム達の事を話すって事そのものがあり得ない」
ミツキは言い切った。
「シマハラは多分、リーベと同じではないにしろ、精神に干渉する【魔法】を使う」
アユムは露骨に面倒くさそうな顔をしてミツキに言う。
「洗脳か?だとするとヤベーな、光輪会のヤツらも仕込まれてる可能性があるぜ」
「…だろうね、考えたくないけど今は戻ったように見えるリュウコさんも信用できなくなった」
ただ、とミツキは続けた。
「そこまで万能ではないと思う、少なくとも条件はある、無条件だったら、園長を瞬殺してただろうし、アユムも連れ去ってた筈」
「あー、そりゃな…」
「それに、問答無用でそんな事できるならリーベを取り戻そうとする必要ないんじゃないかな?いや、貴重な生贄って線もあるけどさ…」
「リーベとシマハラは親子だ、【魔法】にもそれが反映されていてもおかしくない」
探せば見つからないわけではないが抗う赤子達は希少だ、特に特別というものを重んじる悪魔崇拝者達にとっては格好の得物だ。
逃げ出した抗う赤子達が再び執拗に追われ悪魔崇拝者達に拐われる例は後を立たない。
「なら重要なのは条件か、園長は確か最後の瞬間にシマハラにマウント取ってたのはチラっと見たんだよな」
「リュウコさんは、突然腕を掴まれてぶん殴ろうとしたら意識を失ったんだって」
「なら決まりだな」
接触、それも【魔法】を発動するまでの間の。
二人の魔法使い戦で培った経験からすればポピュラーとすら言える条件だった。
「まあ、これだけじゃないかもしれない、油断はしないで行こう」
「そうだな、あーそういや、ミツキ、まだ聞いてないけど実際どうするんだよ、勝利条件は?」
勝利条件、それはアユムがスパーの際に園長に教え込まれた基本的な戦闘規範の一つ。
何を勝ちとするかを決めなければ、戦いにすらならない、そうアユムは叩き込まれていた。
「とりあえず、教会偵察して、襲撃してリーベをさらっちまうか?」
「いや、またアイツらが来るだけだと思うし無駄だよ、守りきれない」
「あー、とりあえずシマハラだけはぶち殺しておくか?」
「まあそれも絶対なんだけど、態々アジトを晒してるんだ、襲撃されたとして逃げ道はいくらでも用意してあるんだろう、逃げられたらもう追えないしこっちが詰み」
「ならどうすんだよ」
アユムは不貞腐れてミツキに聞いた。
「あいつらが逃げようにも逃げられない時に襲えばいい」
「サバトを滅茶苦茶にしてやろう」
ミツキは不敵に笑い言った。
「この街に居る悪魔崇拝者達を一掃する、それが勝利条件だ」
アユムは思った。やはりこの悪魔のような相棒は敵に回すべきではないと。




