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吉買通り商店街  作者: フミ
29/32

パトラッシュなんだかとっても眠いんだ

ミッキー「母親は忙しい最中も食事だけは用意してくれてた。

でもそれは二ヶ月 位で終わった。

限界だったんだろな。

もう俺は小学生だったから昼飯は給食だったけど、

朝早く起きて朝飯と晩飯を用意して、夜遅く帰ったら 元々 自分の仕事だった事務の仕事で睡眠時間は3時間あるか無いかだっただろう。

俺も力になりたくて、歩いて行ける所にあった、母方のおばあちゃんの料亭に行って料理を教えて貰ってた。

自分の事は自分でやらなくちゃいけないってね。」


亜希「そんなに早く?ミッキーの料理が美味しいのは そんな理由があったんだね。

必死になって覚えたんでしょ?

それなのに私、美味しいってだけで ただ食べてるだけだった、ごめんね。」


ミッキー「亜希さんが謝る事無いよ。

役に立ってるって思えたし、母親もイライラして やつあたりしてくるようになったからさ、

そう言うのから 少しでも逃れたかった。

でも子供は子供だよ、ヘマこいてポットのお湯で火傷したんだ。

でもさ怒られると思って隠してたんだよね。」


挿絵(By みてみん)


亜希「そんな!そんな小さい子が火傷を隠すなんて!

お母さんは そんなにイライラしてたの?」


ミッキー「仕方無い事だろうけど、あまり顔を合わせないようにしてたかな?

母親が帰る前に寝るようにしてたから、火傷の事は母親にはバレなかったけど、おばあちゃんにはバレた。

ろくな処置もしてなかったから、結構ヤバイ状態になっちゃったんだよね。

そしたら おばあちゃん怒っちゃってね。

もう母親に任せては置けないって、母親に断りも無しに腕を引っ張られて おばあちゃんの家に連れて行かれた。」


亜希「痛かったでしょ?火傷は、火傷の痕は今でもあるの?

辛かったでしょ?パパと暮らした家を出るのは。」


ミッキー「大丈夫、ちゃんと処置すれば大した事無い火傷だったからね。

家を出るのは少しホッとした気持ちでもあったんだ。

一人で過ごす時間も無くなるし、イライラした母親の顔色を伺う事も無くなるだろうって。

でもさ、一人になった母親も心配だったし、おばあちゃんの躾は厳しくてさ。

箸の上げ下ろしから、目上の人ととの関わり方やら、そりゃ厳しかったよ。

とてつもなく大らかなパパに育てられた俺には、窮屈で仕方ない家だったな。

それでも 気に入られなくちゃいけないって頑張ったよ。

まあ、今では あの厳しい躾が凄く役に立ってて感謝してるけど、

あの頃は朝から晩まで緊張してたな。

それにさ、気を緩めると すぐにパパの事 思い出しちゃうんだよね。

またパパと大声出して はしゃぎ回りたくなっちゃうんだよね。」


挿絵(By みてみん)


亜希「気を緩めるだなんて!当たり前の事じゃない!!

ミッキーはまだ一年生だったんでしょ?私なんかもう20歳なのに 年中 お母さんの事 思い出してメソメソしてるのよ!」


ミッキー「そんな辛い事ばかりじゃなかったよ。

おばあちゃんは厳しいけど優しかったし。

でもさ 年中イライラしてた母親が恋しくなっても来てた。

おばあちゃんとは一悶着あったみたいだね。

料亭にも おばあちゃんの家にも会いに来てはくれなかった。

でも小学校の終業式が終わったクリスマスイブの帰り道、プレゼント持って待っててくれたんだ。」


挿絵(By みてみん)


亜希「わぁ!キレイな人!(ミッキーお母さん似なんだね、ホントそっくり。

でもお母さんの事、嫌って…憎んでるみたいだから言わない方がいいよね。)」


ミッキー「え?亜希さん見えるの?」


亜希「あ!私は今ミッキーの話を聞いてるのよね、見えたらおかしいよね。

えへへ、続けて。」


ミッキー「うん、それからさ、映画見たり、ゲーセン行ったり、行きたかった所 全部 連れて行って貰った。」


挿絵(By みてみん)


ミッキー「それで晩飯はさ、パパが大好きだったハンバーガーをねだったよ。

母親はジャンクフード食べさせてくれなかったし、おばあちゃんの家じゃ和食ばっかりだったからね、美味かったよ。」


挿絵(By みてみん)


亜希「うん。(でも これってハッピーエンドじゃない?

鳥肌は お母さんの事 思い出してたからなんだよね。

そこまで嫌う理由って…)」


ミッキー「母親はさ、今迄 寂しい思いさせてごめんとか、チリからサッカー選手やってた剛二郎父さんが帰って来て、パパの工場を引き継いでくれるから、もう一人にはさせないとか。

中々 剛二郎父さんと連絡つかなかったのは、契約するチームが見つからなくて南極探検してたとか話してたな。

チリってさ、南米大陸の南北に長い国だからさ、南極に行くのに3千円位で行けちゃうらしいね。

ハハ、アドベンチャーのスケールが桁違いだよね、ハハハ、脱線したね。

その時はさ、また あの家で母親と暮らせるんだ、パパはもういないけど もう今の窮屈で寂しい毎日は終わったんだって心底 嬉しかったよ。

でもさ、母親の携帯が鳴ったんだ。

今でも覚えてる、母親の狼狽え様は ハンパじゃなかった。

店の隅で しかも口元を隠すように話してた。

でも突然 大きな声を出したかと思ったら電話 切って俺の所に駆け寄って来て、

「仕事の用事で行かなくちゃならなくなった、でも すぐ戻るから いい子で待ってて。」

って言って会計済ませて出て行ってしまったんだ。

振り返って欲しくて ずっと見てた後ろ姿を今も覚えてる。」


挿絵(By みてみん)


亜希「(ああ聞きたく無い!まさかよ!ミッキーは一年生だったんでしょ!

外れて!私の変な勘ぐりなんて外れてて!)」


ミッキー「只事じゃないのは子供の俺には分かったよ。

不安で不安で仕方なかった。

でも縋りたかった、これから母親と暮らせるっていう希望を捨てたくなかった。

だから待った、待つ他なかった。

長かったな、ドリンクの氷も溶けて、薄くなって ほとんど水になったコーラをすすってた。」


挿絵(By みてみん)


ミッキー「どれ位 待ったかな?

あの頃の俺に聞いてもさ、子供の時間感覚なんてテキトーで判断する力も無いからさ、凄く長かったってだけしか言わないだろうけど。

15分でも退屈だったら、何時間にも思えちゃう お年頃にしちゃ良く頑張ったよ。

今考えたら、あの店 閉店時間は10時だったから3時間位だったんだろうな。」


亜希「閉店時間?!何それ?!

お店が閉まるまで待たされたって言うの?!」


ミッキー「うーん、亜希さんに少しでも知って欲しくて細々と話しちゃったけど。

もう過ぎた事だし、そんなに思い詰めて聞かないで。

でも 嬉しいよ、亜希さん全力で共感してくれてるの分かるから。

でさ、店内に流れてたオールディーズが蛍の光に変わって、従業員のお姉さんが俺の所に来たんだ。

何も注文しないで居座ってるから、怒られるのかと思ったら。

挿絵(By みてみん)

「お客様 間も無く閉店時間なんですが…」

だってさ。

もう ここにいちゃいけない、って のだけは分かったな。」


亜希「もうヤダ!!何よそのクソバイト!

マニュアル通りの対応しか出来ないの?!

夜遅く子供が一人でいるのに、何がお客様よ!何が閉店時間よ!

お母さんは?お姉ちゃんが一緒に待っててあげる、でしょうが!!」


ミッキー「亜希さん お願いだから落ち着いて。

今は俺、超ド級 健康優良児だし、愉快で素敵で優しい人達に囲まれて。

更に!尚且つ!しかも!亜希さんに出会えてギャラクシー マーヴェラス幸せなんだから。

そこら辺 踏まえて聞いて、ね、ね。」


亜希「だってよ!そんなのってある?!

ううう…ごめん、落ち着く、ミッキーは同情して欲しいんじゃなく、私に知って欲しいんだよね。

もう黙って聞くから、その後の事 話して。」


ミッキー「うん、母親がいつ戻ってもいい様に店の前で待ったよ。」


挿絵(By みてみん)


ミッキー「10数えたら帰って来る、100数えたらって待った。

今考えたら、おばあちゃんの家の電話番号だって知ってたのに、母親を待つ他の事は考えられなかったな。

でも電話ボックスの使い方もよくわからなかったし、存在自体 知らなかったか。

震災の時 携帯 繋がらなくて使ったのが最初だったな。

とにかく 植え込みの向こうから走って来る母親を想像して待ってた。」


亜希「むうううううう…」


挿絵(By みてみん)


ミッキー「雪が降って来た、キレイだったな。

真っ暗な街角が少しだけ明るくなった気がした。

遠くに光るイルミネーションを見て、もうすぐ あっち側に行けるんだって自分を励ましたっけ。

でもクソ寒くて頭がボゥッとして来て、母親はホントにここで待ってろって言ったかな、なんて考え始めた。

そんで 母親の言ったこと必死になって思い出した。

そしたら母親が携帯で誰かと話してた時の不意の大声を思い出した。

「今日は子供と会うと言った筈です、いい加減にして下さい!」

言葉の意味なんて事細かには分からなかったけど。

母親にはパパとは違う別の人がいる、自分は必要無くなった、母親はもう帰って来ない。

それだけは分かった、分かったら 寒いのも、待つのも、立ってるのも嫌んなって、もう眠ろうって思った。」


挿絵(By みてみん)



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