グンカンチョウの鳴く夜
「はーい今夜は ”寄ってきやっせ見て行くべゴールラッシュ”と銘打ちました。当店スポーツバーベンドニー主催、日本代表 対 タイ代表 に多数お集まりいただき 恐悦至極に御座いますなんです!
今夜 僭越ながら わたくし、実況 並び解説、賑やかしに太鼓持ちを務めさせて頂きます、当店アルバイト 佐藤 実樹貴なんです!」
「きゃーミッキーカワイイ!もっと股間もっこりさせて!」
「楽天カードマーン!楽天カードマーン!」
「ミッキー カード取って顔見せてー!」
「(クソッ!黄色い声援がやかましいわ!ダメダメ落ち着くのよ、ハードコアな自分を いきなり出しちゃダメ。)
オイオーイ!ミッキー ワールドカップ予選を当店主催って大きく出たわね!
はーい!スピーカーから失礼しました!
PA並びに ツッコミ担当、前アルバイト 永島 亜希です!
今はスポットライトの後ろにおりますが、
試合が始まりましたなら店内ウロウロしておりますので、
背番号10を見かけましたなら、ご注文お伺いしますので宜しくお願いします!」
「うそ!今日は亜希ちゃんもいるの?」
「来て良かったぁ!確かにミッキーはカワイイけど男だからな。」
「フルート聞けるかな?ねえケンちゃん。」
「うへへ亜希ちゃんだ。」
「殺す!フルートどころじゃねぇ!殺す!」
「はいはい皆様 満員御礼じゃないですか、この店のオーナーは私じゃないですか。
今日の試合は日光アイスバックスじゃないですか。
学校の部活ってダメじゃないですか、補欠ってダメじゃないですか。
PAつまりパブリックアドレスじゃないですか。
亜希ちゃん音楽と照明よろしくじゃないですか。」
「うそ!あれ勇人さん?別人じゃね?」
「あははは!勇人さん凄え!もしかして誰かのモノマネ?
「はいはーい!ツッコミ担当から説明します!
マスター体はってます。体はってるけど分かりづらい!
アイスバックスとかヒントでてますけど分かりづらい、セルジオ越後さんでーす。
スリムなマスターが、おもいっきし喉 膨らませて、セルジオ越後さんになってます。
グンカンチョウです、繁殖期のグンカンチョウです!
皆様 マスターの体をはった心意気に、あたたかい拍手をお願いします!」
パチパチパチパチパチパチ
「あははは!勇人さんスゴーイ!」
パチパチパチパチパチパチ
「セルジオエチゴって知らないけどオモシローい!」
パチパチパチパチパチパチ
「分かりづらいのは描いてるヤツの画力もあるんじゃね?」
パチパチパチパチパチパチ
「さっきミッキーが 実況と解説するって言ってたけど、それじゃあセルジオ越後が居る意味なくね?」
「はいはーい!ツッコミ担当から皆様にお願いです。
色々ツッコミ所 満載ですが、キリがありません、触れずに流して下さるようお願いします。
それじゃあ ミッキー、スタメンの発表 お願いね!」
「はい!亜希さん!オネガイされたらイクんです!
不動のキャプテン長谷部が怪我で欠場する この試合、スタメンに注目なんです!
ゴールキーパーは帰って来た鬼瓦、川島永嗣!
ディフェンダーはこの試合キャプテンの吉田麻也、そして森重真人をセンターに、長友佑都 酒井宏樹のサイドからの切り崩しに注目なんです。
中盤は酒井高徳、山口蛍、ブンデスリーグでも調子を上げてきた香川真司。
そして何と言っても攻撃陣!原口元気そして岡崎慎司、
ベルギーヘントでゴールを量産する久保裕也が何得点挙げるか!
今夜ズバリ正解したお客様に豪華景品をご用意しております!
埼玉スタジアム2002に久保のゴールが何度炸裂するか、お手元の用紙にご記入下さり、物欲全開で このイベントをお楽しみ下さったなら幸いなんです!
さて マスター、どうしても久保が注目されてますが、やはりFWは国内リーグの得点王を使えとお考えなんですか?!」
「やっぱり佐々木じゃないですか。
藤本のクロスに佐々木がマンチェスターじゃないですか。」
「佐々木!!藤本!!いないんです!
佐々木も藤本もいないんです!!
藤本のクロスに佐々木がマンチェスター!絵が浮かばないんです!
サッカーっぽいけど 何だか分からないんです!!
亜希さん出番なんです!マスターが自由過ぎて収集つかないんです!」
「ごめんミッキー、私にもムリ。」
「あはははあはははあはははあははは!」
「勇人さんサッカー詳しいのに訳わかんなくなってる!」
「ミッキーも亜希ちゃんもいいぞ!」
「ご声援 ありがとうございます!
そろそろ試合開始の時間ですね、両チームがピッチに散って行きます!
それでは皆様、僕のコールにレスポンスお願いします!
2002!!」
「2002!!」
「ああああ、ミッキーも自由だわ、埼玉スタジアム2002の2002で盛り上がるって意味分かんない。
お客さんもつられて盛り上がってるし。
ジャパネット高田の”シルバー!”と同じよ。」
「亜希さん ちょっといいすか?」
「え?なに?銀ちゃん。」
「マイクのスイッチ切ってますよね。」
「うん、もうPAの仕事はハーフタイムまで無いからね。」
「ここだけの話って事にして欲しいんすけど。」
「え?!なに?面白そう!」
「それが あんまり面白い話じゃねえんすよ。
実樹貴のヤツについての俺からのお願いっつうか、なんつうか…
とりあえず耳貸してもらえるっすか?」
「えっ?!ミッキーの?!なになになに?
ちょっとなに?耳貸してって言っておいて。
ああ、髪がジャマしてんのね、かったい!何で出来てんのその髪型。」
「ウチの会社はセメント屋っすよ。
そんな事より実樹貴の話っすよ。
老婆心つうんすかね、最近 覚えたんで使わせて貰ったっす老婆心。
実樹貴ね、オススメっすよ、情宜に厚くて絶対人を裏切らねえ。
兄貴や会社の先輩方を除けば、世界でただ一人俺が腹の底から信じるマブダチっす。」
「えっ?!オススメってその、な、なんの事かしら?!」
「そのまま聞いて欲しいっす、俺の独り言でもかまわねえっす。
本人の前じゃ言えねえっすけど、実樹貴ホントにいいヤツっす。
だけど ただ一つだけ心がけて欲しいっす。
あいつの事、他人から聞き出したりしないで欲しいんっす。
どうしても知りたい事があったら本人から聞いて欲しいんっす。」
「えっ、えっ、どういう事?」
「小学校3年の時だったかと思うんすけど。
あいつ登校拒否になって半年くれえ学校来なかったんすよ。
原因はおかしな噂っす、あれこれ親同士の下らねえ噂話を信じたヤツが言いふらしたんすよ。
それでも実樹貴、見た目はヤサ男っすけど、メンタル極強なんで、周りの人の力添えもあって、なんとかかんとか乗り越えやがったんすけどね。
それ以来 自分の知らねえ所で自分の話されんのを極端に嫌がるんすよ。
それに他人が、変な噂で傷つくのも放って置けねえと来てやがって。
卑怯な手で人を苦しめるヤツには、もう止めとけってくれえブチ切れやがるんすよ。」
「そうなんだ…私も一度怒られたな…」
「いや、見た訳じゃねえっすけど、そんなもんじゃねえっすよ。
それがあいつの玉にキズってヤツっす。」
「うん、分かった、ありがとう銀ちゃん。
玉にキズなんかじゃないわ、出会って間も無いけど、すごく納得出来る。
ねえ、銀ちゃん、ミッキーを苦しめた噂話って何?
ふとした拍子に その話題に触れない様にしたいんだ。
もしかして亡くなったお父さんの事?」
「いやいやいや、それがいけねえって言ってんすよ。
俺の口からは言えねえっす、今こうしてヤツの話をしてんのだって、俺にとっちゃあいつへの裏切りなんだ。
親父さんの事、亜希さんに話したんだったら そのウチ話すと思うっす。
あいつ亜希さんの事 スゲえ信じてると思うっす。
ヘラヘラしてるけどツイてねえヤツなんす。
実樹貴の事、俺の親友の事、どうかよろしくお願いするっす。」
「うん、分かった、凄く嬉しい。
ホントに男の友情って素敵なんだよな。
ミッキーを裏切っただなんて感じてまで教えてくれて、ありがとう銀ちゃん。
でも私達 何でもないのよ。」
「今の所はね、まあ俺の独り言なんで、そいじゃ。」
ゴールゴールゴールゴール!
「あははは!ミッキー超盛り上がってる!
解説もテレビ画面に映ってないとこだとか、選手の心情を勝手にアフレコしたりして超面白い。
流石はこの前まで現役だった事はあるわね。
それに その合間に料理するなんて超人的だわ。」
「亜希ちゃんナマこっち!」
「はいはーい!お待たせしました、ナマ中にカンパリ、それとこちらはカルボナーラです。
そろそろハーフタイムね、皆様お楽しみのハーフタイムショーが始まります。
私またPAやりますんで、ご注文はマスターの方へお願いします!
さてと 最後までナイショだったけど、ミッキーのハーフタイムショーってなんだろ?
このスポットライトのスイッチ入れたら分かるのよね。
ああ楽しみ!半裸のミッキーが私の為に踊り狂うのよ!
でも 皆んなにも見られちゃう!ああああああどうしよう!
落ち着け!落ち着くのよ私!曲はサンバ テンペラードだったわね。
カリオストロの城の曲ね、フルートのパートがカッコイイから、習い始めの頃 夢中になって練習したわ。
はいイントロ、ティンティンティリ ティンティンティンっと。
そしてスポットライトを落ち着いてポチッとな。」
「わああああああああああああああ!!」
「ミッキーカッコイイ!」
「なんかエロい!」
「きゃああああああああ!セクシー!
あのユニホーム私がバイトしてる時イベントで着たヤツじゃない?
ちっちゃいんだけど!おヘソ見えてるんだけど!
ああああ興奮する!私のユニホームをミッキーが着てる!」
「スゲえ!ミッキーリフティングうめえ!」
「なにこれ!ボールに仕掛けがあるの?!」
「ああああ!普通じゃない!カッコイイ!超カッコイイ!
サッカーパンツの隙間から見えそう!
ダメダメダメ!煩悩よ去れぇえ!
そうよ!曲と完全にシンクロしてる!
私もあそこに行きたい!私のフルートでミッキーとシンクロしたい!」
「亜希ちゃんなら そう言うと思ってたよ。」
「マスター!」
「ほらっ、フルートのパート始まっちゃうよ。
PAは僕に任せてフルート聞かせてくれないかな?」
「はい!ありがとうございます!行ってまいります!」
「うわああああああああああ!」
「亜希さん!!」
「(ミッキー!熱い!ミッキーも熱いでしょ!
ギターよりバイオリンよりサックスより!
今までセッションしたどの楽器より熱い!
ミッキーのリフティングが熱い!)」
「うわああああああああああああ!」
「来て良かった!こんなの初めて!」
「ステキ!ミッキーも亜希ちゃんもステキよ!」
「(聞こえない!お客さんの歓声もよく聞こえない!
私とミッキーだけが この世界にいるの!
そうでしょ?!ミッキーもそう感じてるんでしょ!
ああ!曲が変わった!コーネリアスのペレ!
ああああ!おかしくなりそう!超ノッて来た!!」
「亜希さん!ギターのソロ、音 抜いてあるんだ!
亜希さんのフルートでキメて!!」
「(ウソウソウソウソ!ミッキー私が飛び入りして来るのお見通しだったの?!
いいわよ!ご期待通りキメてやるわ!!
勝手に指が動くわ!指が勝手に私の激情を音にしてくれる!」
「アアアアァ!アアァァアア!アアーア!」
「(ミッキーが歌ってる!私のアドリブに合わせて歌ってる!
どうして?!初めて聞くメロディのはずなのに!
いいえ!当たり前の事だわ!この世界にはミッキーと私しかいないんだから!」
「亜希さん曲が終わるよ!最後のキメに亜希さんにボール蹴るから受け取って!!」
「(ウソウソウソウソ!そんな急に言われても!)」
「大丈夫、超ソフトタッチで行くから!行くよ!」
「(うん!!)」
「わあああああああああああああ!!」
「最高!最高!最高!ミッキーも亜希ちゃんも最高!」
「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」
「どうしよう亜希さん、アンコール来ちゃったよ。
もう試合始まっちゃうのに。」
「決まってるじゃない、もう一曲よ!
ねえ、ミッキー、フルートって聞いたらどんな曲 思い出す?
私 演奏するからミッキーが歌って!」
「ええっ?!僕が歌うの?!」
「歌えるわよ!さっきも歌ってたじゃない!」
「フルートが印象的でボーカルの曲か…
そうだ!さっきのルパンの曲で思い出した!
カリオストロの城の主題歌、ほのおのたからもの!」
「うふふ、私も同じ曲を思い浮かべてた。
行くよ、合わせやすいように歌い出しでウインクするね。」
「ああああああああ!ウインク!ウインク来たぁ!!」
「(なんて情熱的な歌声なの?!こんなボーカル初めて!
でも 悲しい感じもする、誰か大切な人が行ってしまうような感じがする。
あの時と同じ、お母さんが死んじゃった時の私の気持ちと同じ。
お父さんね、ミッキーのお父さんなのね、私の心に見える後ろ姿はミッキーのお父さんなのね!そうなんでしょミッキー!!)」
「うわああ、なんか凄い盛り上がってもらっちゃったよ。
どうしよう亜希さん、試合始まっちってるし。」
「ああ…笑ってる、ミッキー笑ってる。
曲の間はギャンギャン泣いてたのに…
あなたの笑顔は境界線、これ以上入って来るなって言ってる。
あなたの笑顔は私を遠ざける。」
「聞きたいよ、ミッキーの気持ち。
もう試合終わっちゃう、終わったら後片付けの時 聞けるかな?
でも何て聞いたらいいんだろ?
また笑顔が返って来るのかな?
どうしたらいいの?話してもらえたとしても、笑顔だけが返って来たとしても、帰りたくない、ずっとミッキーと一緒にいたい。
でも、そんな事 言えるはずない、まだまだ距離が遠過ぎる。
決めた!どんな物だって使ってやる!
言ってやるんだ!」
♩只今をもちまして本日のイベントは終了とさせて頂きます。
久保 選手のゴール数当ての豪華景品、折りたたみ式アクメ自転車は、あくまでジョークグッズですので、ご使用によっての不都合には一切お応えしかねますので、どうかご了承下さい。
次回も皆様方のふるってのご参加、心待ちにしております。
本日は大変ありがとうございました♩
「お疲れミッキー、最高だったよ!」
「ありがとうございます!またのお越しを!」
「楽しかったわミッキー!まだぜんぜん飲み足りない。
勇人さん私達 居残り組でーす!」
「俺達も居残り組!」
「ははは、いくらでも飲んでって。
売るほど酒はあるから。
ミッキーは片付け終わったら 上がっていいよ。
高校生の深夜勤務はよろしく無いからね。」
「えー?!ミッキー帰っちゃうの?
亜希ちゃんは残ってくれるのかな?
あれ?さっきから亜希ちゃんの姿が見えないけど。」
「あははは!いた!亜希さんいた!
(ああああああああ!かわいい!亜希さん地獄のようにかわいい!!)」
「しょうがないなあ、いつの間に飲んでたんだか。
まあ、今日は最高に盛り上げてくれたから お駄賃だな。
ミッキー、亜希ちゃんを送って行ってくれないか?」
「ええええ?!亜希さん完全に潰れてますよ。
どうやって送って行ったらいいんですか?」
「おんぶに決まってるだろ?」
「うううううう!いろんなところが背中にあたる。
歩きづらい!三本目の足かジャマして歩きづらい!」
「玉子焼き…」
「あれ?亜希さん目 覚ましました?」
「パンケーキ…」
「亜希さん?」
「お味噌汁に お日様の匂い、お母さんの匂いだ。」
「いやいやいやいや!汗臭いでしょうに。」
「お母さん、ねえお母さん。」
「はい?どうしたらいいのこれ?」
「お母さんてば!返事してよ!」
「あ!は、はい、なあに亜希。」
「私ね、お母さんに聞きたい事があるんだ。
お母さん前に言ってたよね、よく笑う人ほど 陰では泣いてるって。」
「そ、そんな事も言ったかしらね。」
「言ったよ、私 気になる人がいるんだ。
いつも私に笑顔をくれる人なんだ。
でも私には分かる、お母さんの言ったように、悲しい気持ちが笑顔の裏側にあるんだって。」
「(ええええええええ!!それって亜希さんの好きな人とか?
やっぱりいたんだ、亜希さん好きな人いたんだ。
どこの誰かって上手い事 聞き出せないかな?
ダメだ!ダメだ!ダメだ!そんなことしたらクソ野郎と同じだよ。
ああ、もうダメだ、立ち直れない、亜希さんを送って行ったら死のう。」
「不思議なんだ、出会ったばかりなんだけとなぜか分かっちゃうんだ。
そうそう!その人お母さんのお味噌汁と同じ味のお味噌汁が作れるんだよ。」
「(俺か!!それって俺か!!死ぬの無し!!)」
「お母さん、私その人の事が、す、す、す、うベロベロベロベロベロベロ…」
「うああああああああああああああああああああああ!!
浴びた!!頭から浴びた!!幸せだあああああああ!
そして俺は変態だあああああああああ!
ちょっとこの事を亜希さん本人にも、睦美さんやお父さんにもバレずに済む方法を考えますので、今回はこれまで。」




