2:その日は突然に
帰りのホームルームが終わり、教室がザワザワと騒がしくなる。部活に向かうクラスメイト達やそのまま教室で話し込むクラスメイト達に手を振り、隣のクラスへ駆け込む。
教室の奥で男友達やクラスの女の子達に囲まれている幼馴染が心底だるそうな顔をしている。
多分、昨日遊ぶはずだった子達だろう。
(…うむ、助けてやる義理はないな!いま声をかけたら女の子達に睨まれそうだし!)
くるりと踵を返して今入ってきたドアを出ようとすると、後ろから「衣織!」と名前を呼ばれる
気付かれたか、と振り返るとこちらに向かってくる幼馴染。と、その後ろにはこちらを睨む女の子達
「お前なんで声かけへんねん」
普通助けるやろ、と私の肩に腕を回し教室から連れ出し歩く。
「…ぜったいあの女の子達の恨み買ったわ。嫌がらせとかされたら界人がいつもやってるゲームのデータ消すからな」
「嫌がらせなんか俺がさせへんから大丈夫や」
かっこつけんといて!さぶいぼたったわ!と文句を言いながら、ローファーに履き替え外に出る。
空はどんよりと曇っていた。
「朝の天気予報で夕方から雨降るって言ってたな」
早よ帰ろ、と歩き出す界人の背中を慌てて追う
遠くの空がピカピカと光っていた
「雷ってさぁ、光ってから音鳴るの遅かったら遠くて早かったら近いんやんな?」
「そう。今は音も聞こえへんからまだ大丈夫やろ。そういや何で教室呼びに来たん?」
珍しいやん、と言う界人に教室まで迎えに行った理由を思い出す。
「あ、そうや!中古のゲームショップに乙女ゲーム探しに行きたいねん!」
悪役令嬢に転生した時の為に色々やっとかな!と意気込む私を界人は心底嫌そうな目で見てくる
「乙女ゲーム色々やったけど悪役令嬢は意外と出てこぉへんってこの前言ってたやん」
「確かにそうやねんけど、色々やっとかなどこの世界に行くか分からんやん!」
だからついてきて!と界人の腕を引っ張り歩く
分かったから引っ張んなと言う界人としばらく歩いていると、雷の音がどんどんと近付いてきている事に気付く
「衣織傘持ってる?さっきより曇ってきてるし、雷の音鳴るの早くなってきてる」
「折りたたみ傘はあるけど、土砂降りの雨降りそう」
今日はやっぱりまっすぐ帰ろか、と言った瞬間
真っ白な光に包まれて思わずぎゅっと強く目を瞑る
「眩しいっ…何!?雷落ちた!?」
5秒ほどで落ち着いた光に目をパシパシさせ
少し後ろを歩いていた界人を振り返る
界人は立ち止まり自分の足元を見ていた
彼の視線を追うと、そこには光の穴があいていて
彼の足がゆっくりとそこに沈んでいっている
「え?…界人?」
「衣織、やばい。吸い込まれる」
界人が顔を上げこちらに手を伸ばす
ハッとなり彼の手を掴もうと伸ばした手が空を切る
界人!!と名前を叫んだ時、再び真っ白な光が辺りを包み、次の瞬間そこに界人の姿はなかった。
目の前で起こった事が信じられなくてしばらくそこに立ち尽くしていた。
いつの間に降っていたのだろう、気付いた時には雨に濡れていて制服のワイシャツが肌に張り付いている。
さっきまで界人が立っていた場所に落ちていた彼の鞄を拾い、地面に触れる。穴なんてない、普通のアスファルトの道だ。
「まさか異世界召喚…?」え?ほんまに?
「ちょっと待って、いやいや、え?なんで?」
ぐるぐると考えながらその場で歩き回る
だけど、出てくる答えは一つしかなくて
夢にまで見たあの光景、強い光に消えた幼馴染
やっぱり、どう考えてもあれは異世界召喚…?
だとしたら、なんで、なんで———!
「なんであんたが異世界召喚されてんねん!!!」
気付いたら雨の音に負けないぐらいの声でそう叫んでいた。普通の人ならまずパニックになるだろう。
そして心配して探し回り、家族や学校に居なくなった事を伝えるのかもしれない。
だけど私は違う。異世界もののライトノベルを読み漁り、いつか自分も異世界へ行く日を夢見て日々準備してきたのだ。冷静に、落ち着いて対処しよう。
「界人が呼ばれたって事は、勇者として召喚されたって事なんかな」
じゃあ魔王を倒すまでは帰って来れない…?
向こうの世界の時間の進み具合はこっちの世界と一緒なんかな?
「……あかん!分からん!」
とりあえず家帰ろ!雨に濡れて寒くなってきた!
鞄の中の折り畳み傘はそのままに、走って家路に着く




