1:そんな毎日
「はぁ…やっぱり悪役令嬢物にハズレはないな」
読み終えた本をパタンと閉じ、胸に抱く
「同じようなのが本棚にいっぱいあるやろ。何が違うねん」
我が物顔で人のベッドに寝転びスマホゲームをしているこの男は伊勢谷界人。隣の家に住む幼馴染だ。
「全然違いますぅ。てかなんでいるん。今日河村くん達と遊ぶって言ってたやん」
「待ち合わせ場所行ったらクラスの女子らもおったからそのまま帰ってきた」
「女の子おるって言ったら来ぉへんから内緒にされてたんやー、女の子と遊ぶためのエサやのに河村くん達に捕まらんとよく帰ってこれたな」
「俺が本気で走ってあいつらが追いつけるわけない」
(容姿端麗で運動神経抜群で女の子苦手って…)
「あんたほんま漫画のキャラクターみたいやな」
「なんやそれ。てか腹減った、なんか食いに行こうや」
「あ!それならちょうどいい!どうせ暇になったならキャンプしよ!」
「はぁ?キャンプ?」
何言ってんだって顔をしてる界人を無視して
こつこつと集めたキャンプ用品を引っ張り出す
「いつかの異世界に備えて野宿飯作れるようになっとこうと思って!勇者と旅に出る系の世界かもしれんやろ!」と言う私を、心底理解できないという顔で見ているがそれも無視して強引に連れ出す
「…‥キャンプって庭でやるんかよ」
「そりゃキャンプ場なんて行けんし」
家の物置から取り出したテントを組み立てる
「あれ?これがここやから…ん?違うな」
説明書を見ながらもたついていると
「もういい、貸せ。俺がやる」
お前にやらせたら日暮れるわ、と呆れながらテキパキと組み立てていく
「…あんたなんでそんな器用なん。私が出来るようにならな意味ないねんからな」
あっという間に完成したテントを見て少しむくれながら言う
「テントぐらいその異世界とやらにもあるやろ。異世界の奴に立ててもらえ。ほんで?野宿飯って何作るつもりなん」
「え?まず火を起こさなあかんやん」
何当たり前の事言うてんの?とネットで買った原始的な火起こしセットを取り出す
「待て待てお前それ、きりもみ式でやるつもりか」
「きりもみ式って言うんこれ。だってガスバーナーとか持って行けるかわからんやん。この原始的な方法を1回練習しといた方がいいやろ?」
「まずお前、芝生の上でやるつもりなん?近所に警察呼ばれんぞ」
「……分かった。じゃあちょっと火種作るとこまではやってみよ」
10分ぐらい経っただろうか。手のひらがヒリヒリする
「…衣織。あきらめろ。お前の力では無理や」
ジーッと黙って見ていた界人がついに止めに入る
正直もっと早く止めてくれるのを期待していたが、悔しいので黙っておく
「ほんまに難しいからちょっとやってみて」
……ものの3分ほどで火種をつくり、ドヤ顔でこちらを見てくる界人に、フンッと顔を背ける
「で?何作るん」
「はんごう炊飯して、カレー作る」
「……火あるの前提メニューやんけ」
「…まぁ今日のところはキッチンで作ろ」
炊飯器で炊いたご飯にコンロでぐつぐつ煮込んだカレーをかけて、テントの中で食べる。
「…いや、なんやねんこれ!何でキッチンで作った物をわざわざ狭いとこで食べてんねん!」
「せっかく立てたんやから使わなもったいないやん!」
「立てたん俺やし。異世界だってテントの外でメシ食うやろ!ほんで当たり前みたいにカレールー使ってたけど、異世界にあると思うなよ!?」
(こいつ!いっつも痛いところ突いてくるなぁ!?)
何も言い返せずに睨みつけると、それに気付いた界人にデコピンを喰らわされる
痛い!馬鹿力!界人のあほ!とテントを飛び出し
オレンジ色に染まった空に向かって叫ぶ
「異世界の王子様!天才魔術師!あとは、あとは、
えーっと……もう誰でもいいですから!!
早く私を召喚してくださーーい!聖女でも聖女召喚に巻き込まれた人でもなんでもやりますからー!!」
近所迷惑や!といつの間にか後ろに立っていた界人に頭をペシっと叩かれる
私が失敗して、界人が呆れながらも手助けする
そんないつもの日だった。
次の日、まさか異世界召喚が現実に起こるなんて
私も界人も思ってもみなかった。




