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私は旧屋敷の書斎に長く座っていた。窓の外で風が起こり、佐々木家の竹林がざわざわと鳴っている。無数の小さな声が何かを密談しているかのようだった。
葵のあの言葉がまだ耳の中で巡っている——「あなたは私が思っていたよりも、ずっと冷酷ね」。
彼女は間違っていない。だが彼女に見抜けなかったのは、私の冷酷さの矛先が佐々木家に向いているのではないということだ。私はただ計算をしているだけだ。佐々木結衣は今日選んだ。明日、考えを変えるかどうか。明後日は? 佐藤が入社した後、毎日、昇り降りする箱の中で出会い、会議室で目が合い、車の停まる場所で擦れ違う——あの「私情」が再燃することはないのか?
政略結婚はあまりにも脆い。私には賭けられない。
だから私が欲しいのは彼女の選択ではない。私が欲しいのは、彼女の心が変わった時に、私が失うものがないという状態だ。私は自分の描いた図面を、好き勝手にひっくり返されるのが許せない。
携帯が震えた。秘書からの最初の返事だった。
「佐々木家の事業構成の初稿、まとまりました。中核は三つ。佐々木会社(地所、商業、文化旅行)、佐々木資本(投資、私的資金調達)、佐々木地所(土地確保、旧市街再開発)。実質的な支配者:佐々木のおじい様(佐々木大輔)が家族信託を通じて株式を保有。佐々木結衣の名義は約18%、佐々木葵の名義は約7%、残りは家族と信託に分散。おじい様は重要事項について一票拒否権を持つ」
18%対一票拒否権。結衣は後継ぎだが、支配者ではない。佐々木のおじい様こそが、その刃を握る者だ。
私はもう一つの報せにも目を通した。
「佐々木資本、過去三年の投資案件一覧。うち二件の文化旅行事業の資金調達構造は、形式的には適合しているが、資金の流れを追うと最終的な受益者はおじい様の個人口座。未公開情報。この部分を深く掘れば、内部の統治上の弱点を構成しうる」
携帯を切って、私は目を閉じた。情報は十分だ。だがまだ足りない。
私が欲しいのは弱みではない。切り札だ。弱みは人を脅すもの。切り札は身を守るもの。この二つの違いを、葵は理解していないが、私は理解している。
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翌朝、私は葵に会う約束をした。
また花房。またあの幾鉢かの椿。彼女は今日は濃い紫色の旗袍を着て、髪はいつもより高く結い上げている。さながら激しい戦いに臨むかのようだ。私が入って行くのを見て、彼女は立ち上がらず、ただ顎を少し上げただけだった。
「言いなさい。何の用?」
私は腰を下ろし、懐から封筒を取り出して机の上に置いた——あの日、彼女が五百万を入れて置いた封筒と、まったく同じものだ。
彼女は一瞥し、顔色が変わった。
「あなた——」
「伯母上」私は遮った。「ご安心を。あの五百万のことではありません」
彼女はその封筒を見つめ、指で茶碗を強く握りしめた。
「じゃあ、何なの?」
「お話ししたいのです」私は彼女を見た。声は穏やかだった。「私たち二人のことについて」
彼女の目が微かに動いた。
「私たち二人?」
「あなたが佐々木家に嫁いで三十年」私は言った。「手元には7%の株式。この家で意見は通らず、決めることもできない。結衣のこと一つとっても、おじい様の一言であなたは押しつぶされる。佐藤一人を追い出すのにも、あなたは私に頼まねばならなかった」
葵の顔が青ざめた。
「一体、何が言いたいの?」
「私が言いたいのは」私は背もたれに寄りかかった。「あなたと私は、同じ種類の人間だ」
彼女の唇が微かに動いた。
「どちらも外から来た姓を名乗る者だ」私は言った。「あなたは嫁いできた。私はこれから婿入りする。おじい様が今、私を信頼しているのは、私が佐々木家の地位を必要としているからだ。いつか私がそれを必要としなくなった時、あるいは結衣が私を必要としなくなった時——おじい様はどちらの側に立つと思う?」
沈黙。花房の中の空気が吸い尽くされたかのようだった。
「あなたは私の弱みを握ったのね」葵がようやく口を開いた。声は冷たい。「五百万の件で、私を脅すの?」
「脅しではありません」私は首を振った。「ただ一つのことをお伝えしている——あなたと私は、同じ側に立っている方が、向かい合っているよりも安全だ」
彼女は机の上の封筒を取り、開けた。中には一枚の紙。一行だけ書かれていた。
「佐々木資本 文化旅行事業 資金流れ 詳細」
彼女の瞳が縮んだ。
「あなた、佐々木資本を調べたの?」
「私はただ、佐々木家の事業を理解しているだけです」私は立ち上がった。「伯母上、これらのものを使うつもりはありません。ただし、いつか誰かが私を掃き出そうとしたその日には」
「あなた、私を脅しているのよ」
「私はお伝えしているのです」私は彼女を見下ろした。「もしその日が本当に来たなら、あなたと私は同じ杭に繋がれた蟷螂だ。あなたがこの何年もこの家で受けてきた辛さ、決められなかったこと、追い出せなかった人々——その時には、私が一緒に清算してあげる」
彼女はその紙を長いこと見つめていた。長すぎるほどに。
「あなたはおじい様がおっしゃっていたよりも……もっと危険だ」彼女の声はかすかだった。
「私は危険ではありません」私は言った。「ただ、負けるのが許せないだけです」
背を向けて立ち去ろうとした時、彼女が背後で私を呼び止めた。
「小林」
私は立ち止まった。
「私に何をしろと?」
「何もする必要はありません」私は言った。「いつも通りの日々を送っていてください。佐藤を罵りたければ罵り、結衣を叱りたければ叱る。ただ——」
私は振り返った。
「次に何かをする時は、ひとこと私に知らせてください」
彼女は長く沈黙した後、ようやくうなずいた。
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午後、私は佐々木のおじい様の元秘書に会いに行った。
この男は佐々木資本の初代の運用者で、五年前に「病気のため退職」し、今は旧市街の茶店の主人をしている。私は三つの伝手を頼りに彼を探し当てた。使った理由は「家系の歴史を書くため」。
茶店は古びていた。茶は苦かった。彼は向かいに座り、髪は白く混じり、指には佐々木家が昔、年末の報奨として支給した古い玉の指輪をはめている。
「何をお知りになりたい?」
「おじい様の信託の仕組み」私は言った。「それから、佐々木資本が公開していない資産について」
彼は私を見た。その目には、何かとても古いものが巡っているのが見えた。
「小林様」彼は茶碗を置いた。「あなたは結衣さんと結婚なさるお方だ。これらのことは、本当にお家に入ってからでないと」
「入る前に知ることと、入った後に知ること」私は彼を見た。「その差は大きい」
彼は長く沈黙した。
「おじい様のおっしゃる通りだ」彼は苦い笑いを漏らした。「あなたは聡明な方だ」
彼は引き出しから差し込み記録盤を取り出し、机の上に置いた。
「これには、私の覚えていることが入っています。公開されているものもあれば、そうでないものもある」彼は一呼吸置いた。「ただし、一つだけお勧めしておきます——知ってしまったものは、一生背負うことになる」
私は差し込み記録盤を懐にしまった。
「承知しています」
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夜、私は自分の部屋に戻った。
計算機を開き、差し込み記録盤を差し込む。書類が次々と画面に現れる。無数の数字、構成図、資金の流れ。
佐々木のおじい様。三十年。一枚の網。
私はこの網を壊そうとは思わない。ただ、この網が私を閉じ込められないようにしたいだけだ。
携帯が光る。佐々木結衣からの報せだった。
「明日は婚約記念日よ。空いてる?」
私の指が画面の上で一瞬止まった。
「空いてる。私が手配する」
彼女は笑顔の印を返してきた。ごく普通の笑顔だが、彼女には珍しい。
私は携帯を置き、窓の外を見た。川の向こう、佐々木の家の建物はあのまま高く、あのまま揺るぎなく立っている。
だが私には分かっている。地の下の水は、もう流れ始めているのだ。




