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私は彼を呼び止めた。
「佐藤」
彼は立ち止まり、振り返った。逆光で、その表情ははっきりと見て取れなかった。
私は歩み寄り、封筒を差し出した。
「自分で渡せ」
彼は受け取らなかった。二人の間の空気が一瞬、凍りついた。
「この手紙を書いたのは、面と向かって言いたくなかったからだ」彼の声は穏やかだったが、指がこわばる。「面と向かって言えば、誰にとっても良くない」
「誰にとって良くない?」私は彼を見据えた。「お前にとってか、それとも彼女にとってか」
彼は答えなかった。
「お前はこの手紙を書くことで、自分自身にけりをつけようとしている」私は言った。「だが、彼女がこの手紙を受け取ったら、どう思うか考えたことはあるか」
佐藤の目が微かに揺れた。
「彼女は、お前が彼女の代わりに決めつけたと思うだろう。面と向かって別れを告げる機会さえ与えられなかったと」私は封筒をさらに差し出した。「お前はもう彼女に選ばせた。せめて、別れを告げる権利は彼女に返してやれ」
彼は長く沈黙した。通りを行き交う人々が足を止めて見るほどに。
「小林様」ようやく彼が口を開いた。「あなたは一体、何をなさりたいのですか」
「お前自身が彼女に会え」私は言った。「面と向かって言うべきことを言い、その上でこの件を終わらせろ。来週の月曜から、お前は佐々木会社の社員だ。私は会議のたびに、二人が机を挟んで互いに避け合っているのを見たくない」
彼は封筒を受け取った。指が微かに震えていた。
「私が面と向かって言いに行けば、彼女が考えを変えるかもしれないと恐れはしませんか」
この問いは実に率直だった。刃のように、三人の間に突き立てられた。
「彼女は変えない」私は言った。その口調は自分が思っていたよりも確かだった。「だがお前が面と向かって言わなければ、彼女はいつまでもお前に別れを告げられなかったと感じ続ける。その棘がいつまでも刺さったままだ」
佐藤は手の中の封筒を見つめていた。長いこと。
「分かりました」彼は封筒を折りたたみ、袂にしまった。「行きます」
彼は去っていった。今度はその背筋はあそこまで真っ直ぐではなかった。風に吹かれた木のようで、まだ倒れてはいない。
私はその場に立ち、煙草に火をつけた。
携帯が震えた。秘書からの報せだ。
「佐藤一郎、別れの手紙を渡さず。既に住処へ戻る」
私は返さなかった。急かす必要のないこともある。
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午後三時、私の携帯電話が鳴った。佐々木結衣からだ。
「佐藤……私のところへ来たの」
彼女の声は奇妙だった。泣きはらした後の嗄れ声ではなく、何かを経験し終えたばかりの疲れのようなものがあった。
「何と言った?」
「彼は……江城に残って働くと言った。しっかりやるって。それから……」
彼女は言葉を切った。
「それから何だ?」
「それから、人生で一番後悔していないことは、私に会いに戻ってきたことだと言ったの」彼女の声が震えていた。「だって、ようやく確かめられたから——私がちゃんと幸せにやっているって」
私は携帯を握りしめ、何も言わなかった。
「小林」彼女が私の名を呼んだ。「彼が去り際に何て言ったか分かる?」
「何だ?」
「『お前が選んだ人は、値打ちがある』って」
電話の向こうで、かすかな嗚咽が聞こえた。
「どうして彼がそんなことを言ったのか、私には分からない」彼女の声はかすかだった。「彼は明明……言わなくてもよかったのに」
「彼が佐藤だからだ」私は言った。
この言葉が口を出た時、私自身も一瞬、戸惑った。
結衣も言葉を失った。電話の両端が静まり返り、ただ電流の音だけが響いていた。
「ありがとう」彼女はようやく言った。声はかすかだった。「彼に行くように言ってくれて」
通話を切った後、私は車の中で長く座っていた。
携帯がまた震えた。秘書からの報せだ。
「佐藤一郎、佐々木会社の建物を出た後、歩いて帰宅。途中の店で瓶の酒を一本購入し、川辺に二十分間座っていた。泣いた形跡なし。電話もなし。現在は在宅」
二十分間。一本の酒。座って川を眺める。
この男は、崩れ落ちることさえも、ほどほどにやってのける。
私は画面を見つめ、この報せを消すかどうか指をためらわせた。
消さなかった。
残しておくべき情報もある。
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夕暮れ、私は佐々木家の旧屋敷に戻った。
葵が居間で私を待っていた。彼女の今日の態度は、ここ数日とはどこか違っていた——あの取り乱した焦りではなく、落ち着いた、慎重な観察の色だった。
「小林」彼女が私を呼んだ。「結衣から聞いたわ。佐藤の件は、これで終わりなのね?」
「彼は会社でしっかりやると言っていました」私は腰を下ろした。「伯母上、もしあなたが彼に手を出せば、結衣に知れますよ」
葵の表情が変わった。
「私を脅しているの?」
「事実を申し上げているだけです」私の口調は穏やかだった。「彼女は今、この道を選びました。あなたが佐藤に手を出せば、彼女はあなたの干渉が過ぎると感じるでしょう。その時、反発するのは私ではなく、彼女です」
葵は長いこと私を見つめていた。
「あなた、変わったわね」彼女が突然言った。「婚約したばかりの頃は、私にこんな話し方はしなかった」
「婚約したばかりの頃は」私は立ち上がった。「伯母上が五百万で人の尊厳を買おうとは、知りませんでしたから」
彼女の顔色が一瞬、青ざめた。
私は背を向けて立ち去った。入り口に差し掛かった時、彼女が背後で何かを言うのが聞こえた。声は小さかったが、はっきりと分かった。
「あなたは私が思っていたよりも……ずっと冷酷ね」
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夜、私の携帯電話に一通の報せが届いた。
佐藤からだ。
「小林様、手紙は渡しました。来週、お会いしましょう」
短い一文だった。怨みも、悔しさもない。ただの報告だった。
私は返した。「来週、会おう」
そして別の会話画面を開き、秘書に報せを送った。
「佐々木家の事業の資料を、詳しくまとめよ」
今日使うわけではない。明日使うわけでもない。
だが、駒は先に打たねばならぬこともある。佐藤一郎の件についてのおじい様の出方は、私には少し見えにくかった。先手を打っておく必要がある。今は結衣の社長補佐という立場を活かして、佐々木の家の内情を探るのも悪くはあるまい。
窓の外、川の向こうの灯りが一面に輝いている。佐々木会社の建物は夜景の中にそびえ立ち、まるで街に突き立てられた刃のようだ。
そして私の手は、その刃の柄にすでに掛かっている。




