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浮気調査から始まる商業帝国築き上げた件について  作者: 白鼠


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私は佐藤の番号を押した。今回はすぐに出た。まるで待っていたかのようだった。「小林様」声は穏やかだったが、彼が聞いていることは分かっていた。


「借用書のことだが、また使わせてほしい」


電話の向こうで数秒の沈黙があった。「あなたはまたその札で何を取るつもりですか?」


「おじい様の手にある株です」


「確かですか?」


「確かだ」


彼はしばらく沈黙した。「よし。いつですか?」


「今です。どこにいる?」


「警備部門です。あなたが降りてきますか、私が上がりましょうか?」


「私が降りる」


電話を切り、私は執務室を出た。廊下は静かで、私の足音だけが響く。かつて吉田の執務室だった場所を通りかかると、扉は閉まり、灯りは消えていた。彼はもう去った。昇降機はB2に着き、扉が開いた。廊下の灯管はまだぶんぶんと唸っている。佐藤は突き当たりに立っていた。作業服を着て、手にあの封筒を持っている。


「小林様」彼が私を呼んだ。


「私がまたこの札を使うと分かっていたのか?」


「分かっていました。あなたが株を集め始めたあの日から、分かっていました」彼は封筒を差し出した。「お持ちなさい」


私はそれを受け取り、開けなかった。「佐藤、この札を切ればどうなるか分かっているのか?」


「分かっています。おじい様は譲歩されるでしょう。しかしどこまで譲歩されるかは、私には分かりません」


「怖くないのか?」


「何が怖いのです?」彼は笑った。「彼に恨まれることですか? 彼はそんなことはしません。彼が私の祖父に負っている借りは、この借用書よりもずっと大きい」


「もし彼が譲歩したら、お前は何が欲しい?」


彼は考え込んだ。「何も欲しくありません。私はここで十分にやっています。自分の力で食っている。彼に譲ってもらう必要など何もありません」


「ではなぜ、私にこの札を貸してくれる?」


「あなたが必要だからです」彼は私を見た。「小林様、あなたは私を助けてくれた。あなたが私を残したのは、私が必要だったからではない。私が残ることが皆にとって良いと知っていたからだ。今、私があなたを助けるのも、あなたが必要だからだ」


私は封筒を握りしめ、彼を見た。「佐藤、一つ改めて伝えておく。私は結衣のために佐々木の家を取ろうとしているのではない。自分のために取ろうとしている」


彼は一瞬呆けた。そして笑った。その笑みはごく短いが、とても真摯だった。「知っていました。あなたが初めて佐々木の会社に来た日から、知っていました。あなたは他人のためにものを取るような人ではない。自分で取る人だ」


「私を恨まないのか?」


「何を恨むのです? あなたが私より強いことを? あなたが私には取れないものを取れることを?」彼は首を振った。「小林様、私はそういう人間ではありません。私の祖父は教えてくれました。人のものは欲しがるな。自分のものは守れ、と」


「お前は何を守った?」


「自分自身です」彼は胸を指さした。「この三十年、私は何も持っていませんでした。しかし自分自身は守りました。それで十分です」


私は彼を見た。作業服を着て、地下室の廊下に立つこの男は、手には何も持っていない。しかし私がこれまで見てきた誰よりもまっすぐに立っていた。なるほど、おじい様が彼を評価するわけだ。


「佐藤、ありがとう」


「礼には及びません。行ってください。彼が待っています」


私は振り返って歩き出した。昇降機の扉が閉まる前に、彼がまだそこに立っているのが見えた。作業服を着て、手を袂に入れ、私を見ている。


十八階に戻り、私は封筒を手に窓の前に立った。おじい様の執務室には灯りがついている。彼はそこにいる。私は携帯を手に取り、彼の番号を押した。


「おじい様、お目にかかりたいことがございます」


「来い」


一言。なぜとは問わず、断りもない。彼は私を待っている。


私は執務室を出て、昇降機に乗った。最上階、扉が開く。廊下は静かで、突き当たりの執務室の扉だけが開き、灯りが中から漏れている。私は中へ入る。彼は机の前に座り、目の前には碁盤もなければ、茶もない。何もない。ただ彼一人がそこに座り、私を見ている。


「座れ」彼は向かいの椅子を指さした。


私は腰を下ろし、封筒を机の上に置いた。


彼はそれを一目見て、手を付けなかった。「またその札を出すつもりか?」


「はい」


「これと何を換えるつもりだ?」


「あなたの手にある株です。13%」


彼は背もたれに寄りかかり、私を見た。「この13%の価値がどれだけか分かっているのか?」


「分かっています」


「この13%を渡せば、佐々木の会社はお前のものになることを知っているのか?」


「知っています」


「では、私がなぜこの13%をまだ手元に置いているのかも分かるだろう?」


「なぜです?」


「誰が私の手から奪えるか、見たかったからだ」彼は笑った。「吉田には奪えなかった。伊藤にも奪えなかった。井上にも奪えなかった。結衣にも奪えなかった。お前だけは、可能性があった」


「なぜ私だけですか?」


「お前の手には札があるからだ。佐藤の借用書、吉田の差し込み記録盤、伊藤の帳簿、井上の証拠。お前は全ての者の札を持っている。お前は彼ら全員よりも強い」


「では、お渡しになりますか?」


彼は長く沈黙した。窓の外の川面が暗くなり、灯りがつくほどに。彼は封筒を手に取り、開け、中から色あせた借用書を取り出した。長く見つめた。


「三十五年前、佐藤の祖父は私に五百万を貸した。私はその金で最初の土地を手に入れた。あの金がなければ、佐々木の会社はなかった」彼は借用書を封筒に戻した。「この帳簿は、私が三十五年間負い続けてきた。そろそろ返す時だ」


彼は引き出しから書類を取り出し、机の上に置いた。「株式譲渡の契約書だ。13%、市場価格で。金は払ってもらう」


「払います」


「もう一つ」彼は背もたれに寄りかかった。「この13%を渡せば、佐々木の会社はお前のものだ。結衣の18%、葵の7%、お前の手にあるものを合わせれば、50%を超える。お前は何をしてもいい。帳簿を清め、人を替え、名前を改めることも。全て自由だ」


「止めないのですか?」


「止められるか?」彼は笑った。「お前の手には佐藤の借用書があり、吉田の差し込み記録盤があり、伊藤の帳簿があり、井上の証拠がある。お前には自分の家もある。私に何が止められる?」


「では、なぜお渡しになるのですか?」


「お前は札を切らないからだ」彼は私を見た。「お前は全ての札を持っている。しかし一枚も切らなかった。お前が私を訪ねてきたのは、借用書で株を換えるためではない。お前は借用書で私に伝えたのだ。お前の手には札があるが、それを切らないと」


「私が後で切るのを恐れませんか?」


「恐れぬ。お前が切れば、佐々木の会社は終わる。佐々木の会社が終われば、お前に何の価値がある?」


私ははっとした。彼は私の手を借り、私の力を借りて佐々木の会社を洗おうとしているのだ。彼は私の小林家の身分を一度も忘れてはいなかった。


この交換は非常に価値がある。得られる利益は支払った代償をはるかに上回る。なんという老いた狐だろう。佐々木の家が解くことのできない三つの爆弾を、私に解かせようとしているのだ。


私は彼を見た。この老人は机の前に座り、灯りが彼の顔を照らしている。皺は深い。彼は何もかも読んでいた。


「小林」彼が口を開いた。「私がなぜお前を選んだと思う?」


「なぜです?」


「お前は私よりも冷酷だからだ。そして私よりも落ち着いている。お前は全ての札を手にしながら、一枚も切らなかった。お前は最後の一歩まで、まだ私と相談している。こういう者こそ、佐々木の会社を守れる」


彼は立ち上がり、窓の前に歩いた。窓の外は川、足元は彼の建物。彼は四十年、これを見てきた。


「持って行け」彼は言った。「佐々木の会社をお前にやる。結衣もお前にやる。佐藤の借用書もお前にやる。お前が取れるものは、全て持って行け。だが一つ問う」


「何です?」


「手に入れた後、結衣をどうするつもりだ?」


私はしばらく沈黙した。「彼女は私の婚約者です」


「彼女は佐々木の家の者でもある」


「彼女は私の者でもあります」


彼は振り返り、私を見た。長く。そして笑った。「よし。では安心した」


私は立ち上がり、契約書と封筒を手に取った。入り口まで歩き、彼が私を呼び止めた。


「小林」


私は立ち止まった。


「あの三件の帳簿は、お前が動かせると思った時に動かせ。急ぐな」


「承知しました」


私は執務室を出た。廊下は暗い。昇降機の扉が開き、私は中へ入る。扉が閉まる前に、振り返って見た。彼はまだ窓の前に立ち、背を向け、川面を見つめている。


十八階に戻り、私は執務室に座り、契約書を机の上に置いた。13%。私の手にあるものと合わせ、葵の分と結衣の分を加えれば——51%。十分だ。私は携帯を手に取り、家の秘書に報せを送った。「株は十分だ。金は今日振り込め」


「承知しました」


私は携帯を置き、窓の外を見た。おじい様の執務室にはまだ灯りがついている。彼はそこにいる。彼は私が何を考えているか知らない。しかし私は彼に知られる必要はない。私に必要なのは、彼が与えることだけだ。


携帯が震えた。結衣からの報せだった。「小林、おじい様から電話があったの。彼はあなたに株を渡したって」


「ああ」


「なぜ?」


「私が守れると思ったからだ」


彼女は長く沈黙した。そして一行の文字だった。「私は守れる?」


私はこの報せを見つめ、幾つか文字を打ち込み、消した。また幾つか打ち込み、また消した。最後に「守れる」と返した。彼女はそれ以上返さなかった。


私は立ち上がり、窓の前に歩いた。川面に船が進み、灯りが一つ、また一つとついている。この街の夜色が足元に広がる。まるで一局の碁のようだ。私は碁盤の中央に立ち、全ての札を握りしめている。

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