41
私は執務室の窓の前に立ち、署名の済んだ株式譲渡契約書を握りしめていた。窓の外には街全体が広がり、川面では貨物船が長い尾灯を引きずっている。書き物楼の灯りが一つ、また一つと消えていく。まるで碁盤の上の石が一つ、また一つと取り去られていくようだ。結衣が扉を押し入って来た時、私は振り返らなかった。彼女の足音はかすかだったが、私には彼女と分かった。
「小林」彼女が私を呼んだ。声は穏やかだった。
「うん」
「おじい様、行ってしまわれたわ」
私は振り返った。彼女は入り口に立っていた。あの薄い灰色の背広を着て、髪は結い上げ、顔にはあまり表情が浮かんでいなかった。
「どこへ?」
「沖縄よ。彼女のところへ行くって」
私はうなずいた。予想のうちだった。彼は株を差し出し、佐々木の会社を差し出し、三十五年間負い続けてきた借りも差し出した。残された時間は、自分自身に返す時だ。
「他に何か言ってた?」
「あなたに言っていたわ。あの三件の帳簿には急いで手を出すなって」彼女は歩み寄り、私の隣に立った。「自分がいなくなってから動かせと。自分は見たくないと」
「分かった」
彼女はしばらく沈黙した。「小林、あなたは今、どれだけ持っているの?」
「51%だ」
「十分?」
「十分だ」
彼女はうつむき、指を絡めた。この仕草は、私たちが初めて書斎で対峙したあの夜から、彼女は変えていない。「では、あなたは何をするの?」
「まずは安定させる。残すべき者は残し、清めるべき帳簿は清め、返すべきものは返す」
「佐藤は?」
「彼の借用書は、明日返す」
彼女は顔を上げ、私を見た。目の縁は少し赤かったが、泣いてはいなかった。「手元に置かないの?」
「置かない。それは彼のものだ。彼はその札で私を助けてくれた。私は彼に返す。これからは、彼は彼、私は私だ」
彼女はうなずいた。「では……私は?」
私は彼女を見た。この顔は、婚約してから今まで、一年余り見てきた。清らかで冷たく、絶美で、一枚の絵のようだ。しかし絵の奥の人のことは、今日まで見えずにいた。
「あなたは私の婚約者だ」私は言った。「昔も、今も、これからも」
彼女は笑った。その笑みはごくかすかで、風のようだった。「あなたが以前、その言葉を言った時は、帳簿を計算していた。今は?」
「今もだ」私は彼女の目を避けなかった。「だが今は、これからの帳簿を計算している」
「これからの帳簿って何?」
「あなたが佐々木の会社を引き継げば、私が守る。あなたが佐々木の会社を守れば、私が清める。あなたが疲れれば、私が代わる。あなたが辞めたくなれば、私が養う」
彼女は一瞬呆けた。そして声を出して笑い、涙も一緒にこぼれた。「あなたって人、愛の言葉まで契約書みたいに言うのね」
「契約書の方が愛の言葉より役に立つ」
彼女は歩み寄り、私の肩に寄りかかった。私の服を握る手は、とても強かった。
「小林」彼女は小声で言った。「あなたの勝ちね」
「うん」
「嬉しい?」
私は答えなかった。窓の外、川の向こうの最後の灯りが消えた。街全体が夜色の中に沈み、足元の佐々木の建物だけが幾つかの灯りをともしている——私の、彼女の、井上の、伊藤の。そして警備部門の地下にあるあの灯り、佐藤の。誰もが灯りをともし、誰もがそこにいる。
「まあな」私は言った。
彼女は笑い、顔を私の肩に埋めた。
翌朝、会社に着くと、机の上に書類が置いてあった。井上のものだった。表題は「佐々木会社 組織運営体制調整案」。私は最初の頁を開くと、彼の字が書かれていた——「副社長、これは私が二年かけて取り組んできたものです。今、あなたにお渡しします」
私は筆を手に取り、最後の頁に署名した。そして彼の番号を押した。
「井上副社長、案を拝見しました。可能です」
「よし。いつ始める?」
「今です」
電話を切った。私は引き出しから封筒を取り出した——佐藤の借用書だ。昇降機でB2へ降りる。廊下の灯管はまだぶんぶんと唸っている。彼は突き当たりに立っていた。作業服を着て、手に珈琲の杯を持っている。
「小林様」
私は封筒を差し出した。「返す」
彼はそれを受け取り、開けなかった。「ようやく使い終わりましたか?」
「終わった」
「今回は役に立ちましたか?」
「役に立った」
彼は笑った。「那就好」彼は封筒を袂にしまった。「小林様、一つお伝えしたいことがあります」
「何だ?」
「部署を変えたいのです」
「どこへ?」
「工務部へ。山本さんが人手が足りないと言っていましたので、学びに行きたい」
私は彼を見た。警備部門に数か月いた者が、工務部へ行って学びたいと言う。役職も、金も、誰かの情けも求めない。
「分かった。山本に言っておく」
「ありがとうございます」
彼は背を向けて歩き出した。途中で立ち止まり、振り返った。「小林様、一つお伝えしたいことがあります」
「何だ?」
「あなたは勝ちました。しかし忘れないでください。あなたも人間です。人間は碁石ではありません」
彼は去った。私は廊下に立ち、彼の背中が曲がり角に消えるのを見つめた。昇降機の扉が開き、私は中へ入り、最上階を押した。扉が閉まる前に、廊下の突き当たりの灯りがまだついているのが見えた。ぶんぶんと唸っている。
最上階の執務室に戻り、私は窓の前に立った。川面に船が進み、向こう岸の建物は解体され、新しいものが建てられている。この街が私の足元に広がる。まるで一局の碁のようだ。しかし私はもう打ちたくない。私は碁笥を蓋し、書棚の一番高いところ、手の届かない場所に置いた。
携帯が震えた。結衣からの報せだった。「小林、おじい様に着いたわ。沖縄は天気が良くて、心配しないでって」
私は「よし」と返した。
彼女はもう一通送ってきた。「それから、暇な時に碁を打ちに来いと。碁盤は書斎にある、いつもの場所だと」
私はこの報せを見つめ、幾つか文字を打ち込み、消した。また幾つか打ち込み、また消した。最後に「よし」と返した。
窓の外、太陽が昇ってきた。金色の光が川面に、向こう岸の建物に、私の足元の佐々木の建物に降り注ぐ。私は最上階に立ち、この街がゆっくりと目覚めていくのを見つめた。
携帯がまた震えた。今度は家の秘書からの報せだった。「おじい様がお尋ねです。いつ帰って食事なさいますか」
私は返した。「週末に」
「よし。お待ちしております」
私は画面を閉じ、携帯を机の上に置いた。机の上には幾つかの書類が広がっている——株式譲渡契約書、組織運営体制調整案、旧市街再開発の事業の監査報告書。それに一通のまだ開けていない手紙。吉田が米国から送ってきたものだ。消印にはサンフランシスコとある。私は開けなかった。開ける必要はない。おそらく彼は、息子の会社が立ち直ったこと、向こうでうまくやっていること、心配しないでほしいと書いているのだろう。
私は背もたれに寄りかかり、目を閉じた。窓の外の日差しが顔に当たり、暖かい。誰かが扉を叩いている。私は目を開けなかった。
「どうぞ」
扉が開いた。結衣の声。「小林、会議よ」
「行く」
私は立ち上がり、机の上の書類を手に取り、彼女の後について執務室を出た。廊下は明るく、陽光が窓から差し込み、床に一区切り一区切りの光と影を描いている。私はその一つ一つを踏み越える。速からず、遅からず。
彼女は先を歩く。薄い灰色の背広を着て、髪は結い上げ、背筋はまっすぐ伸びている。私は彼女の背中を見つめ、あの夜、初めて書斎で彼女に会った時のことを思い出した。彼女は窓の前に立ち、背を向け、指で色あせた写真を撫でていた。あの頃、彼女は逃げていた。今、彼女は私の前を歩いている。
「小林」彼女は振り返らずに言った。「これから私にどう接するつもり?」
「今まで通りにする」
「今まではどうだったの?」
「帳簿を計算していた」
彼女は笑った。その笑い声が廊下に響き渡る。陽光のように。
「これからは?」
「これからも計算する。だが、二人の帳簿をな」
彼女は何も言わなかった。しかし彼女の耳の根元が赤らむのが見えた。
昇降機の扉が開き、私たちは中へ入った。扉が閉まる前に、私は振り返って廊下を見た。がらんとして、陽光だけが床を照らし、一区切り一区切り、突き当たりまで続いている。突き当たりはおじい様の書斎だ。扉は閉まり、碁盤は書棚にしまわれ、薄く埃をかぶっている。しかし棋局は既に終わっている。勝負はない。ただ終わっただけだ。
昇降機が着いた。扉が開く。会議室には井上、伊藤、山本、高橋、木下が座っている。誰もが自分の席に座り、目の前には書類が置かれている。私は中へ入り、長い机の中央に座った。結衣は私の隣に座る。扉が閉まる。窓の外の日差しが差し込み、机の上に、誰の顔にも当たる。
「会議を始める」私は言った。
誰も反対しなかった。もう誰も反対しないだろう。
窓の外、この街の朝の光の中、川面の貨物船が汽笛を鳴らした。音は鈍く、ため息のように、あるいは約束のように。佐々木の建物の灯りが一つ、また一つと灯る。十八階、十九階、二十階、二十三階、最上階。どの灯りの下にも一人の人間が座り、今日の太陽が昇るのを待っている。太陽は昇った。それは毎日昇っている。




