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吉田が退いた初日、私の執務室の扉は一度も閉まらなかった。山本が事業の進捗表を届けに来て、高橋が月次の報告書を届けに来て、木下が渉外費用の認可手順を尋ねに来た。誰もが入って来る時、私を一目見た——新しい主を見る時のあの目つきだ。探りと計算、そして少しばかりの不安が混じっている。私は署名すべき書類に署名し、尋ねるべきことを尋ねた。誰もが去っていった。最後は高橋の報告書だった。私は最後の頁までめくり、署名した。彼女はそれを持って立ち去ろうとして、入り口で立ち止まり、振り返った。
「副社長、一つお伝えしたいことがございます」
「どうぞ」
「吉田副社長がお帰りになる前に、あるものを私にお預けになりました。あなたがお尋ねになった時にお渡しするように、と」
「何だ?」
彼女は袂から差し込み記録盤を取り出し、机の上に置いた。「これが彼の手に最後に残ったものだと。あなたがお尋ねにならなければ、永遠に渡すなと。お尋ねになれば、それはあなたが準備できた証だと言っておりました」
私はその差し込み記録盤を見つめ、手を付けなかった。「彼はいつあなたに?」
「昨日です。お帰りになる前に」
「彼は何と言っていましたか?」
「『副社長がお尋ねになれば、これを渡せ。尋ねなければ、捨ててしまえ』と」
私は差し込み記録盤を手に取り、計算機に差し込んだ。書類は一つだけ。名前は「旧市街再開発の事業——原本認可記録」。私が開くと、それは写しだった。認可文書、評価報告書、検収記録——吉田が差し出したものではない。もっと古い、原本に近いものだ。どれにもおじい様の署名がある。どれにも同じ日付が記されている——三十五年前。佐々木の会社が最初の土地を手に入れた日。
私は差し込み記録盤を抜き、袂にしまった。「高橋さん、このことを知っている者は?」
「誰もおりません。吉田副社長は私だけにお預けになりました」
「ありがとう」
彼女はうなずき、去っていった。扉が閉まる。私は一人で執務室に座り、差し込み記録盤を握りしめた。吉田は去り際に最後の一枚の札を残した。私に使わせるためではない。私に見せるためだ。おじい様が何を持っているかを私に知らせ、彼がまだ何を持っているかを私に知らせ、この碁が三十五年前から始まっていたことを私に知らせるためだ。私は碁を打っているのではない。私は三十五年続いてきた終局を受け継いでいるのだ。
携帯が震えた。伊藤からの報せだった。「副社長、株式譲渡の契約書が整いました。いつ署名なさいますか?」
私は返した。「今日の午後に」
「よし。いつもの場所で」
私は携帯を置き、窓の外を見た。おじい様の執務室には灯りがついているだろう。彼はそこにいる。私が株を集めていることを彼は知っているか? 知っている。佐々木の会社で彼の知らないことはない。しかし彼は何も言わず、尋ねもせず、止めもしない。彼は待っている。私が札を明かすのを。
午後三時、私は会場に着いた。伊藤は既に中にいた。目の前には契約書が置いてある。私は腰を下ろし、ざっと目を通した。数字に間違いはなく、条項にも問題はない。私は筆を手に取り、署名した。
「伊藤副社長、ありがとうございました」
「礼には及ばぬ」彼は契約書を仕舞った。「副社長、一つ尋ねたいことがある」
「どうぞ」
「お前がこれらの株を集めているのは、結衣のためか、それとも自分のためか?」
私は彼を見た。この問いは誰もが尋ねたいことだが、口にしたのは彼だけだった。
「自分のためだ」
彼は一瞬呆けた。そして笑った。「ようやく言ったな」
「伊藤副社長、他言されますか?」
「しない」彼は茶碗を手に取った。「他言して、私に何の益がある? お前が勝っても、私はまだここにいる。お前が負けても、私はまだここにいる。私は陣営には加わらない。ただ金にしか立たぬ」
「では、今はどちらに立たれる?」
彼は茶碗を置き、私を見た。「お前は市場価格の一割増しで買った。私はお前に立つ」
私は立ち上がった。「伊藤副社長、あなたは聡明な方だ」
「賢いのではない。長く生きているだけだ。長く生きている者は皆知っている。言葉を尽くすな。金は一つの籠に入れるな」
私は会場を出て、路地の入り口に立ち、煙草に火をつけた。携帯が震えた。家の秘書からの報せだった。「株、更に2%集まりました。現在、自社で保有する分は8%です。あなたが吉田氏と伊藤氏からお買い上げになった分と合わせて、13%です。佐々木葵の7%はまだ動かしておりません。佐々木結衣の18%も動かしておりません。合わせて38%です。あと13%足りません」
私は「続けろ」と返した。そして葵の番号を押した。
「伯母上、今夜はお時間ございますか? お話ししたいことがございます」
「何の話だ?」
「あなたがお持ちの株のことです」
彼女は長く沈黙した。「ようやく言い出したな」
「私が言い出すとお分かりでしたか?」
「あなたが旧市街再開発の事業の帳簿を調べ始めた初日から分かっていた。あなたは帳簿を調べていたのではない。地の利を探っていたのだ。探り終えたら、動き出す」
「では、お売りいただけますか?」
「値段次第だ」
「市場価格で。二割増しで」
彼女は笑った。その笑いはごくかすかで、風が椿の花を揺らすようだった。「あなたは吉田より太っ腹だ。彼が私に買い取りを申し出た時は、一割増しだった」
「彼もあなたに?」
「二年前だ。私は売らなかった」彼女は一呼吸置いた。「小林、私がなぜ彼に売らなかったと思う?」
「なぜです?」
「あなたを待っていたからだ」
私の指が携帯の覆いを軽く叩いた。「私を?」
「あなたが初めて花房で私を訪ね、私たちは同じ杭に繋がれた蟷螂だと言ったあの日から、私はこの日を待っていた。あなたは部外者。私も部外者。部外者が部外者を助けるのは、道理だ」
「では、お売りいただけますか?」
「売る。だが今ではない」
「いつです?」
「おじい様が退かれた時だ。彼が退けば、私はあなたに株を渡す。今渡せば、彼に知られる。彼に知られれば、私は命がない」
「分かりました。待ちます」
電話を切った。私は路地の入り口に立ち、煙草を吸い終えた。葵の七%は、おじい様が退いてからでなければ手に入らない。あと13%の不足は、別のところから補わねばならない。私は手帳を開き、幾つかの名前を書き記した——井上、山本、高橋、木下。これらの者には株はない。しかし彼らには人がいる。人は株よりも価値がある。
夜、私は部屋に戻った。計算機を開き、吉田が残した差し込み記録盤を差し込んだ。三十五年前の認可文書、評価報告書、検収記録。どれにもおじい様の署名がある。私はこれらの書類を鈴木が以前に調べた資料と合わせ、一枚の完全な図を描き出した。三十五年前、おじい様は最初の土地を手に入れた。評価額は著しく低く見積もられ、差額は二億。その二億は、一部は松本美月に行き、一部は関係の維持に使われた。佐々木の会社が江城に築いた基盤は、まさにその二億が打ち立てたものだ。吉田が経手し、伊藤が送金し、おじい様が署名した。三人、一つの鎖。三十五年。今、その鎖は私の手にある。
携帯が震えた。結衣からの報せだった。「小林、おじい様があなたに訊いているの。週末、帰って食事しないかって」
私はこの報せを見つめ、幾つか文字を打ち込み、消した。また幾つか打ち込み、また消した。最後に「帰る」と返した。彼女が住所を送ってきた。旧屋敷、日曜日、夜六時。私はその住所を見つめ、初めて旧屋敷で食事をした時のことを思い出した。あの頃、私は部外者だった。食卓の片隅に座り、おじい様の話を聞き、結衣の顔色を窺い、吉田の帳簿を計算していた。今、私は部外者ではない。私は佐々木の会社の副社長であり、旧市街再開発の事業の責任者であり、吉田の後継者であり、伊藤の共同者であり、葵の同盟者であり、佐々木結衣の婚約者であり、おじい様が選んだ者だ。私は何でもある。しかし私は何でもない。私は家の後継者であり、佐々木の家を呑み込もうとしている者だ。
私は立ち上がり、窓の前に歩いた。川の向こう、佐々木の建物の灯りが一つ、また一つと消えていく。最上階、おじい様の執務室はまだ灯りがついている。彼はそこにいる。私は知っている。彼はずっとそこにいる。
日曜日。旧屋敷。
私が着いた時、空はもう暗くなっていた。執事が入り口で私を待っていた。手に灯りを持って。「小林様、おじい様が書斎でお待ちです」
「結衣さんは?」
「台所で葵様のお手伝いをなさっております」
私は執事に連れられて廊下を通る。書斎の扉は開いており、おじい様は机の前に座っている。目の前には碁盤が置かれ、白と黒の石が半ば並べられている。彼は顔を上げ、私を一目見た。
「座れ。一局打とう」
私は腰を下ろした。彼は白い石を一つ取り、碁盤に置いた。
「株はどれだけ集めた?」
私の指が一瞬止まった。彼は知っている。彼は何でも知っている。
「13%です」
「葵の7%、結衣の18%を合わせれば、38%だ。あと13%足りない」彼は黒い石を一つ置いた。「残りの13%は、私の手にある。欲しいか?」
私は彼を見た。この老人は机の前に座り、灯りが彼の顔を照らしている。皺は深く、地図に描かれた川のようだった。
「お売りになりますか?」
「売らぬ」彼は笑った。「だが取ることはできる」
「どうやって?」
「この碁に勝てば」
私はうつむいて碁盤を見た。彼の石は既に大半が布かれ、白石が隅を占め、黒石が辺を囲っている。私の石は僅かで、碁盤の上に散らばり、ばらばらの砂のようだった。
「この碁、どれほど打たれました?」
「三十五年」彼は白い石を一つ置いた。「最初の土地を手に入れた日から、打ち続けている」
「全ての一手をお読みでしたか?」
「読めぬ。松本美月のことは読めなかった。佐藤のことも読めなかった。お前のことも読めなかった」彼は顔を上げ、私を見た。「だが一つだけ読めた——お前が来ることだ」
「いつお読みになったのです?」
「お前が初めて花房で葵を訪ね、自分は部外者だと言った日だ」彼は背もたれに寄りかかった。「部外者が部外者を助けることはない。だがお前は助けた。お前が葵を助けたのは、彼女が義母だからではない。お前が彼女を必要としたからだ。お前が吉田を助けたのは、彼を敬っていたからではない。お前が彼を必要としたからだ。お前が伊藤を助けたのは、彼を信じていたからではない。お前が彼を必要としたからだ。お前は全ての者を必要とした。なぜならお前は一人で来たからだ」
私は彼を見つめ、何も言わなかった。
「小林」彼は黒い石を一つ取り、碁盤の中央に置いた。「お前の最大の問題が何か分かるか?」
「何です?」
「お前は賢すぎる。賢い者は帳簿は計算できるが、人は計算できぬ。お前は吉田が金を欲しがると読んだ。伊藤が安定を欲しがると読んだ。葵が安全を欲しがると読んだ。結衣が佐々木の会社を欲しがると読んだ。しかし彼らがいつ変わるかは読めなかった。人は帳簿ではない。人は変わる」
彼は碁盤を私の前に押し出した。「この碁を持って行け。碁は死物だ。人は生き物だ」
私はうつむいて碁盤を見た。白石と黒石が絡み合い、勝負はつかない。
「小林」彼の声が突然かすかになった。「私がなぜお前を上げたと思う?」
「なぜです?」
「お前がどこまで行けるのか、見たかったからだ」彼は立ち上がった。「佐々木の会社も、結衣も、佐藤の借用書も、お前にやる。お前が取れるものは、全て持って行け。だが覚えておけ——持って行ったものは、お前のものだ。お前に守れるか?」
私は立ち上がり、彼の目を見た。この目は七十年、あまりに多くの人を、あまりに多くのことを、あまりに多くの碁を見てきた。
「守れます」
彼は笑った。その笑みはごくかすかで、風が枯れ葉を揺らすようだった。「よし。では待とう」
彼は何もかも知っていた。彼は何もかも読んでいた。私と彼の引き分けは、彼が私と打つのをやめただけだ。彼は私を育てている。
私は書斎を出た。廊下は暗く、突き当たりの台所だけが灯りをともしている。結衣がそこに立っていた。前掛けを着け、手に皿を持っている。
「小林」彼女が私を呼んだ。「ご飯よ」
私は歩み寄る。彼女は私を見て、その目には心配が浮かんでいる。「おじい様、何て言ったの?」
「何でもない。一局打っただけだ」
「あなたが勝ったの?」
「勝てなかった。負けもしなかった」
彼女は笑った。「では引き分けね。おじい様が引き分けられることは滅多にないのよ」
私たちは食事処へ向かった。葵が箸と茶碗を並べている。私を見てうなずいた。おじい様が書斎から出て来られ、主位に座られた。三人が腰を下ろす。家族のように。私は一切れの魚肉を取って、結衣の茶碗に入れた。彼女は私を一目見て、うつむき、それを食べた。おじい様は一切れの肉を取って、私の茶碗に入れた。私は彼を見た。彼は笑った。
「食べなさい。冷めてしまえば美味しくない」
私はうつむき、その肉を食べた。窓の外、空は完全に暗くなっていた。旧屋敷の灯りがともり、この食卓を照らし、この終わっていない碁を照らしている。
携帯が袂の中で震えた。私は見なかった。見る必要はない。来るべきものは、全て来る。




