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私は吉田の執務室の扉を押し開けた時、彼は窓の前に立ち、背を向けていた。夕陽が高い窓から注ぎ込み、彼の影を長く引き伸ばし、入り口まで届いている。足音を聞いても、彼は振り返らなかった。
「座れ。茶は入れた」
私は腰を下ろした。目の前には新しく淹れられた鉄観音が一瓶。彼は動かず、まだ窓の前に立ち、川面を見つめていた。私はしばらく待った。ようやく彼は振り返り、歩み寄って腰を下ろし、私に茶を注いだ。
「佐藤に会い終えたか?」
情報が早い。「会いました」
「彼は何の用だった?」吉田は茶碗を手に取り、飲まずに香りだけを嗅いだ。
「辞めたいと言っていました。私が引き止めました」
吉田の手が一瞬止まった。「あなたが引き止めたのか?」彼は茶碗を置き、私を見た。「彼がおじい様の者だということを知っているのか?」
「知っています」
「彼がおじい様のものを握っていることを知っているのか?」
「知っています」
「ではなぜ彼を残した?」
私は茶碗を手に取り、一口含んだ。「彼がいるからこそ、おじい様が安心される。おじい様が安心されればこそ、私が動ける」
吉田は長いこと私を見つめた。そして笑った。その笑みはごく淡く、茶の湯の立ち上る霞のようだった。「お前は私よりも計算が上手い。私は帳簿を計算する。お前は人を計算する」
彼は引き出しから書類の束を取り出し、机の上に置いた。分厚く、縁は擦り切れて光っている。何度も繰り返し開かれた痕跡だ。
「これは旧市街再開発の事業の全ての肝となる段階の連絡先名簿だ。政府の担当者、施工業者、設計者、監理者。それぞれがどんな関係で、どう繋ぎ、どんな値段か——全て入っている」
私は最初の頁を開いた。びっしりと並ぶ名前、電話番号、備考。知っている名前もある——都市計画局の、住宅建設局の、幾つかの区の責任者。知らない名前もあるが、備考にははっきりと記されている——「石井、都市計画局二課、認可は彼に頼む。都度二万、渉外費用から」「阿部、都市建設集団副社長、浜川の事業の施工業者。還元三%、年末決済」。私は数頁めくり、書類の束を閉じた。
「他には?」
吉田は再び引き出しから差し込み記録盤を取り出し、書類の束の上に置いた。「これは事業認可の電子記録だ。全ての認可文書、評価報告書、検収記録。原本は書庫にある。これは写しだ」彼は一呼吸置いた。「小林様、これらのものをお渡しすれば、私には何も残りません」
「あなたには私の残りの一千万があります」
「金は金、権は権です」彼は背もたれに寄りかかり、私を見た。「これらのものを渡せば、私は佐々木の会社ではただの相談役です。お分かりですか?」
「分かっています。では、他に何か条件が?」
彼はしばらく沈黙した。「私の息子が米国で経営している会社に、つなぎの資金が必要だ。三百万米ドル。私に与えろというのではない。貸してほしいのだ。彼の方の都合がつけば、返済する」
私は彼を見た。佐々木の会社に三十年いる者が、退職の年齢になってなお、息子のために金を借りている。貪欲からではない。恐れからだ。自分が退いた後、息子が持たないのではないかと。自分が一生かけて積み上げてきたものが、結局何も残らないのではないかと。
「三百万米ドル、出します。しかし貸しではない。出資です。あなたの息子の会社の30%を私にください」
吉田の表情が変わった。「お前は火事場泥棒をしているのだ」
「私は投資をしているのです」私は彼を見た。「吉田副社長、あなたの息子の会社は年々損失を出している。銀行も貸さず、投資家も手を出さない。私が金を出すのは、慈善事業ではありません。商売です。三十%、私は決算書と取締役会の議席と決定権を見ます。あなたの息子がしっかりやれば、私は干渉しません。彼に力がなければ、私が人を替えます」
彼は長いこと私を見つめた。茶が冷めても、彼は動かなかった。
「お前はおじい様よりも冷酷だ」ようやく彼が口を開いた。「おじい様は人情で人を縛る。お前は金で人を縛る」
「吉田副社長、お受けいただけますか?」
彼はしばらく沈黙した。そして手を差し出した。「取引成立」
私は彼の手を握った。今回は五秒。そして彼は書類の束と差し込み記録盤を私に押し出し、立ち上がり、窓の前に歩いた。夕陽は既に沈み、川面には最後の金色だけが残っていた。
「小林様」彼は背を向けたまま言った。「これらのものをあなたに渡せば、私は退くべき時だ。来週の月曜日の会議で、正式に退職を申し出る。私の者たちは、あなたが使えそうな者は残し、使えそうにない者は整理してくれ。清算はするな。彼らに生きる道を残してやってほしい」
「承知しました」
「もう一つ」彼は振り返った。「伊藤という男は、使えても、全てを任せてはならぬ。彼はただ金にしか立たぬ。いつの日か、より高値を出す者が現れれば、彼は去る」
「分かっています」
彼はうなずき、それ以上は何も言わなかった。私は立ち上がり、書類の束と差し込み記録盤を手に取り、入り口まで歩いた。
「吉田副社長」私は振り返った。「ありがとうございました」
彼は一瞬呆けた。そして笑った。その笑みはごくかすかで、風が古い書物の頁をめくるようだった。「礼には及ばぬ。お前は代金を払ったのだから」
私は執務室を出た。廊下はもう暗くなっていた。十八階の灯りは数灯ついている。山本は工務部で残業している。高橋の執務室の扉は閉まり、灯りも消えている。私は自分の執務室の扉を押し開け、書類の束を机の上に置き、差し込み記録盤を計算機に差し込んだ。書類が次々と画面に現れる——認可文書、評価報告書、検収記録、資金の流れ図。これらのものを、これまでに集めた証拠と併せて、頭の中で一枚の完全な図を描き出した。
携帯が震えた。結衣からの報せだった。「吉田さんに会ってきたの?」
「会ってきた。彼は渡した。来週、退職する」
彼女は三点の点を返してきた。そして声の記録が届いた。私が開くと、彼女の声はとてもかすかで、独り言のようだった。「ついに彼は退くのね」
私はこの報せを見つめ、考えた末に返した。「結衣、佐藤の持っているもの、あなたは知っているのか?」
彼女は長く返事をしなかった。もう返事は来ないかと思われた。そして一行の文字だった。「知っているわ。借用書と手紙。彼はずっと私に話さなかった。誰かから聞いたの」
「誰だ?」
「おじい様」
私の指が止まった。おじい様は佐藤が何を持っているか知っている。佐藤が結衣に話していないことさえ知っている。彼は何でも知っている。
「結衣」私は一行打ち込んだ。「おじい様は、佐藤が去ろうとしたことについて、どうお考えだった?」
「彼は言っていた。あなたが佐藤を残したのは、彼が必要だからではなく、彼がいるから私が安心するからだと」
私はこの報せを見つめ、返さなかった。おじい様の言う通りだ。しかしおじい様の言うことは全て正しくはない。私に佐藤が必要なのは、おじい様を安心させるためだけではない。彼女を安心させるためでもある。彼がここにいれば、彼女は彼がどこにいるかを考えずに済む。彼がここにいれば、彼女は彼を見ることができ、彼が元気でいるのを知り、そして前へ進み続けられる。これは私が計算したことでもあり、私が選んだことでもある。
私はこの報せをもう一度読み返した。そして画面を閉じ、背もたれに寄りかかった。佐々木の建物にはまだ灯りがともる。吉田の執務室は暗くなった。彼は本当に去った。伊藤の執務室はまだ灯りがついているだろう。彼は帳簿を計算している。井上の執務室も灯りがついているだろう。彼は残業している。おじい様の執務室は暗い。彼は帰宅した。松本美月は沖縄にいる。明日の朝日をもう見られるかどうかも分からない。佐藤は旧市街の借り上げ屋敷にいる。手には三十五年前の借用書を握り、残ることを決めた。
私は手帳に一行書き記した。水曜日、監査開始。そして手帳を閉じ、灯りを消し、鍵をかけた。




