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浮気調査から始まる商業帝国築き上げた件について  作者: 白鼠


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夜九時、私は結衣の番号に電話をかけた。二声で出た。背景は静かで、書斎にいるようだった。


「まだ起きているのか?」


「書類を読んでいたの。あなたは?」


「会社から戻ったところだ。話したいことがある」


「監査のこと?」


「ああ。来週始める。第三者機関はもう決めた。明日契約書を交わす」私は一呼吸置いた。「だが一つ、確信が持てないことがある」


「何?」


「おじい様が中止を命じないか」


電話の向こうで数秒の静けさがあった。彼女は「なぜそう思うの」とは尋ねず、直接答えた。「ないわ」


「なぜだ?」


「だって、彼があなたを上げたのだもの。彼がうなずいた以上、自らの顔に泥を塗るような真似はしない」彼女の声は穏やかで、自分が確かめた事実を述べているかのようだった。「だが彼は見ている。あなたがどう動くか、どこまで手を付けるか。あなたが彼の一線を越えなければ、彼はあなたに手を出さない」


「彼の一線とは何だ?」


「松本美月。伊藤が経手しているもの。それから……」彼女は一瞬止めた。「佐藤」


私の指が机の上を軽く叩いた。「佐藤が彼の一線なのか?」


「佐藤は彼が負っている借りよ」彼女は言った。「おじい様はこの人生で借りを作った相手は多くない。佐藤の祖父はその中で最も大きな一人だ。彼は佐藤に何かあってほしくないし、誰にも佐藤に手を出させたくない。あなたが佐藤に手を出さなければ、彼はあなたに手を出さない」


私は背もたれに寄りかかり、この言葉を頭の中で整理した。佐藤がおじい様の一線であることは、私が推測したのではなく、彼女が確かめたものだった。彼女は私より二年早くこの札を見ていた。私も彼女の見方に同意する。


「結衣」私は口を開いた。「以前あなたは、おじい様が佐藤を引き上げようとしているかもしれないと言っていた。今もそう思うか?」


彼女はしばらく沈黙した。「分からないわ。あなたが上がった後、彼は佐藤のことを一切口にしなかった。もしかすると彼はただ待っているだけかもしれない。佐藤自身が成長するのを。もしかすると、もう諦めたのかもしれない」


「どちらだと思う?」


「分からない」彼女の声はかすかだった。「でも一つだけ言えることがある——おじい様、今日あなたのことを尋ねたの」


「何を?」


「あなたが佐藤と何度会ったかを」


私の指が止まった。「どう答えた?」


「会ったことがあると。あなたが彼を調べていた時に会った。その後は連絡はないと」彼女は一呼吸置いた。「おじい様はうなずいただけで、何もおっしゃらなかった」


私はこの言葉の一つ一つを頭の中で二度繰り返した。おじい様は私と佐藤の関係を探っている。もし私が佐藤を敵と見なせば、彼は私を警戒する。もし私が佐藤を存在しないものと見なせば、彼も私を警戒する。私が佐藤を一人の人間——自分とは無関係な人間と見なして初めて、彼は安心する。


「結衣」私は言った。「教えてくれてありがとう」


「礼には及ばないわ」彼女の声はかすかだった。「小林、一つ尋ねたいことがあるの」


「何だ?」


「あなた、どうして自分の家の方に頼らないの?」


この問いはあまりに率直だった。私の指が机の上で止まった。


「あなたは自分の家の人のことを一度も口にしたことがない。電話もかけない、伝手も使わない、どんな資源も動かしていない」彼女の声は穏やかで、長く観察してきた事柄を述べているかのようだった。「あなたは佐々木の家で自分一人でやってきている。わざとなの? それとも本当にもう彼らと関係がなくなったの?」


私は長く沈黙した。もう彼女が私が答えないと思ったほどに。


「両方だ」私は言った。「彼らとは関係がない。それもわざとだ」


「なぜ?」


「彼らに、私が彼らを必要としていると思われたくなかったから」


電話の向こうは長く静まり返った。そして彼女は笑った。その笑いはごくかすかで、風が窓の覆いを揺らすようだった。


「私もだ」彼女は言った。「私もおじい様に、彼が必要だと思われたくなかった」


二人とも何も言わなかった。電話の両端は静かで、まるで並行して流れる二つの川のようだった。それぞれが自分の流れを持ちながらも、互いの水音を聞くことができる。


「小林」ようやく彼女が口を開いた。「あなたは飾らなくていい。私の前では、何も飾らなくていい」


「分かった」


「監査のこと、安心してやりなさい。おじい様の方は、私が見ているから」


「分かった」


「それから、吉田さんに貸しているあの一千万、まだ渡さないで」


私の指が止まった。「なぜだ?」


「彼はまだあなたに渡すべきものを渡していないからよ。役職は手に入れたけれど、彼の立場はまだあなたに渡されていない。彼の人、彼の事業、彼の関係網——これらのものは、まだ彼が持っている。彼がこれらを全て差し出してから、金を渡せばいい」


私は携帯を握りしめ、口元が微かに動いた。「いつからそんなに計算ができるようになったんだ?」


「元からよ」彼女は言った。「ただ使う機会がなかっただけ」


電話を切った。私は長椅子に座り、携帯を握りしめた。彼女の言う通りだ。吉田は私に役職を与えたが、彼の人、彼の事業、彼の関係網はまだ渡していない。これらのものは役職よりも重要だ。私が一千万を留め置くことは、彼の急所を押さえることになる。彼が渡さなければ、私は渡さない。


私は携帯の銀行取引を開き、吉田の口座の画面を見つめた。送金の表示が光っている。私の指はその上で止まり、そして画面を閉じた。


送らない。待つ。


翌朝、執務室に着くと、机の上に契約書の草案が置いてあった——第三者監査機関のものだ。私はそれを手に取り、ざっと目を通し、筆を執って署名した。そして山本の番号を押した。


「山本さん、午後二時に、工務部の全ての事業責任者を集めて会議を開く」


「どのような会議でしょうか?」


「監査前の説明会だ。伝えてくれ。監査は帳簿を清めるためであって、人を探るためではない。誰か抱えている問題があれば、事前に申し出ること。補うべきは補い、改めるべきは改める。監査が入ってから明らかになったものは、扱いが違ってくる」


山本は二秒沈黙した。「副社長、申し上げてよいか迷うことがございますが」


「言え」


「中には、補うだけでは解決できない問題を抱えている者もおります。彼らが恐れているのは監査ではなく、あなたなのです」


「私の何を?」


「あなたがおじい様の者で、清算に来られたのではないかと。あなたが吉田副社長の者で、血を入れ替えに来られたのではないかと。あなたが——部外者ではないかと」


最後の二文字はとても軽く言われたが、私ははっきりと聞き取った。部外者。私は佐々木の家にこれだけ長く在籍し、これだけ多くのことをしてきた。それでも彼らの目には、私は終始部外者だった。


「山本さん」私は言った。「私が部外者かどうかは重要ではない。重要なのは、私がこの事業を存続させられるかどうかだ。事業が生きれば、皆に飯が食える。事業が死ねば、誰も食えない。この言葉を皆に伝えてくれ」


「……承知しました」


午後二時、私は会議室に入った。二十人余りの事業責任者が長い机の両側に座っていた。携帯を見ている者、ひそひそ話している者。私が入って来ると、静まり返った。私は中央に歩み寄り、座らなかった。


「皆さん、私から伝えることは一つだけです。来週の月曜日から、第三者機関による監査が始まります。旧市街再開発の事業の三年分の帳簿を調べます。私は誰かを探るために来たのではありません。帳簿をはっきりさせるために来たのです。この三年間、事業は確かに成果を上げてきました。しかし帳簿ははっきりしていません。はっきりしていない帳簿は、いずれ問題になります。誰かに調べられるのを待つより、自分たちで先に清めるべきです。誰か抱えている問題があれば、今週中に申し出てください。私が解決します。監査が入ってから明らかになったものは、私には手助けできません」


静かだ。誰も話さない。私は彼らの顔を見渡した。私の目を避ける者、私の後ろの壁を見つめる者、机の上にうつむく者。


「私はおじい様の者でもありません。吉田副社長の者でもありません。私はこの事業の者です。事業が良くなれば、皆が良くなる。事業が悪くなれば、私が一人で背負います」


私は振り返って会議室を出た。執務室に戻ると、携帯が震えた。山本からの報せだった。「会議、終わりました。数名が、あなたと話したいと申しております」


私は「分かった」と返した。そして背もたれに寄りかかり、目を閉じた。


最初の一枚が、動き始めた。

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