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私は井上の番号に電話をかけた。二声で出た。背景は静かで、執務室ではないようだった。
「小林様」
「井上副社長、お話ししてもよろしいでしょうか?」
「構いません。自宅です」彼は一呼吸置いた。「吉田さんの推薦の件ですか?」
「はい。一度お目にかかりたいのですが」
彼は数秒沈黙した。「明日の昼、私がごちそうします。外は避けましょう。我が家へお越しください。家内が料理をしますので」
「承知しました」
電話を切った後、私は背もたれに寄りかかった。井上が私を自宅に招いた。執務室でも外の食事処でもない。これは彼が話そうとしていることが、公の場ではできないものだということを意味する。佐々木の会社に二十年いる、背景も後ろ盾もなく実績だけでやってきた者が、ここまで生き延びられたのは、立場を選んだからではない。いつ話すべきか、いつ黙るべきかを知っているからだ。彼が口を開こうとしている。
翌日昼、井上の家に着いた時、扉は既に開いていた。古い型の集合住宅で、居間は広くないが、きちんと片付けられていた。机の上には果物、戸棚の上には地産の雑誌が数冊。彼の妻が台所で忙しそうにしており、私にひと声かけると中へ入っていった。
「座れ」井上は長椅子を指さした。「固くなるな」
私は腰を下ろした。彼が茶を注いでくれた。
「井上副社長、吉田さんの推薦のこと、どのようにお考えですか?」
彼は茶碗を手に取り、しばし考えた。「本音を聞きたいのか?」
「もちろんです」
「吉田があなたを推すのは、あなたに能力があるからではない。彼には誰かが必要なのだ。あなたは佐々木の会社に基盤がない。自分の人も、自分の実績もない。あなたが上がったところで、何ができる? 吉田の言うことを聞けば、あなたは彼の伝声管に過ぎない。聞かなければ、何もできない」彼は私を見た。「どちらを選ぶ?」
「どちらも選びません」
彼は眉を上げた。
「上がった後、私は吉田の言うことを聞きません。かといって彼と対立もしません」私は言った。「私がするのはただ一つ——旧市街再開発の案件の問題を解決することです」
井上の目の色が変わった。
「旧市街再開発の案件に何か問題があるのか?」
「評価額が著しく低く見積もられ、差額は二億。この金の行き先は、あなたの方が私よりもよくご存じでしょう」
彼は何も言わなかった。茶碗を手に取り、一口含んだ。置く時、指で縁を一周なぞった。
「自分が何を言っているか分かっているのか?」
「分かっています。私は言っています。吉田が手がけた旧市街再開発の案件には問題がある。私が引き継げば、この問題を解決します」
「解決? どうやって?」
「帳簿をはっきりさせます。補うべきは補い、調べるべきは調べる」私は彼を見た。「佐々木の会社は株式を公開している会社です。旧市街再開発の案件の帳簿が曖昧なら、いずれ問題になります。国の監査が来るのを待つより、自分たちで先に清めるべきです」
井上は長く沈黙した。彼の妻が台所から「ご飯できたわよ」と声をかけたが、彼は応じなかった。
「小林様」ようやく彼が口を開いた。「その二億がどこへ行ったか、ご存じなのですか?」
「一部は知っています。おじい様の盤に入った」
彼の指が止まった。
「あなたは私が思っていたよりも多くをご存じだ」彼は長椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げた。「ならばご存じでしょう、この件は吉田一人の問題ではない。おじい様の問題だということを」
「承知しています」
「それでも調べるのか?」
「清めます」私は言った。「帳簿を清めることは、誰の責任を問うことではありません。穴を埋めることです。佐々木の会社はこの穴を抱えたまま先へ進むわけにはいきません」
井上は長いこと私を見つめた。そして彼は笑った。その笑みはごく淡いが、目には光があった。
「あなたは吉田とは違う」彼は言った。「彼と協力した者たちは皆、彼から利益を得ていた。あなたは初めてだ。彼の後始末をすると言う者は」
「私は彼を助けているのではありません。佐々木の会社を助けているのです」私は彼を見た。「井上副社長、あなたは佐々木の会社に二十年いる。この会社の問題を誰よりもよくご存じです。あなたが立場を選ばないのは、選びたくないからではなく、どちらの側に立っても問題は解決しないとお考えだからでしょう。しかし、もし問題を解決できる者がいるなら?」
彼は答えなかった。立ち上がり、食事処へ向かった。「まず食べよう。料理が冷める」
食卓で、彼の妻は四菜一湯を作ってくれた。味はとても良かった。井上はあまり食べず、ずっと私に料理を取ってくれた。食べ進めるうちに、彼が突然口を開いた。
「小林様、もしあなたが上がったら、旧市街再開発の案件にどう手をつけるおつもりですか?」
「まず私的な監査を行います」私は箸を置いた。「第三者の機関に頼み、三年分の帳簿を全て洗い直します。問題を発見したら、種類別に処理します。おじい様に関わるものは動かしません。吉田に関わるものは彼と話し合います。その他の者に関わるものは、補うべきは補い、返すべきは返します」
「監査が始まれば、吉田はあなたが彼を調べていると知る」
「彼は知ります。しかし彼は私に脱出を求めています。監査は彼を調べることではなく、彼の帳簿を清めることです。あの金は、彼自身も説明できていない。監査で明らかになれば、むしろ彼は清らかになる」
井上は考え込んだ。「もしおじい様があなたに手をつけさせないとおっしゃったら?」
「それなら彼自身がこの問題に向き合わねばなりません」私は彼を見た。「旧市街再開発の案件の帳簿は、吉田だけのものではありません。おじい様もそこに何かを抱えています。もし彼がそれらのものを世に出したくなければ、私に手をつけさせるより他にない」
井上は箸を置き、背もたれに寄りかかった。
「あなたはおじい様を追い詰めている」
「私は彼に選択肢を与えているのです」私は言った。「私を上げて帳簿を清めれば、佐々木の会社は清らかになり、彼の問題も解決する。私を上げなければ、吉田の席は空いたまま、旧市街再開発の案件の帳簿は宙に浮いたまま、いずれ誰かがそれを暴きに来る」
井上は長く沈黙した。彼の妻が隣で「料理が冷めましたよ、温めましょうか」と小声で言ったが、彼は手を振った。
「小林様」ようやく彼が口を開いた。「あなたは私にある人を思い出させます」
「どなたです?」
「おじい様の若い頃です」彼は言った。「同じような度胸、同じような計算。全てを見極めてから動き出し、動き出したら手の内を残さない」
彼は立ち上がり、窓辺へ歩いていき、窓を押し開けた。外は旧市街の景色だった。びっしりと建ち並ぶ建物、遠くに川面が見える。
「私は立場を選びません」彼は言った。「しかし一つだけ、あなたにお伝えできることがあります」
「何でしょう?」
「吉田さんがあなたを推薦した件、伊藤さんは反対しません」
「なぜです?」
「伊藤さんもおじい様に権限を渡させたいからです」彼は振り返った。「おじい様の手にあるものはあまりに多い。伊藤、吉田、私——私たちはそれぞれ、おじい様の一部を握っている。おじい様が渡さなければ、私たちは動けない。あなたが上がれば、それは一つの突破口になる。伊藤さんもその突破口を待っている。だから反対はしない」
「では、あなたは?」
「私?」彼は笑った。「私は何もしない。あなたが上がった後、問題を解決できるなら、私はあなたを助ける。解決できなければ、私は何も言っていなかったことにする」
私は立ち上がり、手を差し出した。「それで十分です」
彼は私の手を握った。今回は強く握った。前回執務室で握った時よりも強く。
「小林様」彼は言った。「一つ、お伝えしておかなければならないことがあります」
「どうぞ」
「佐藤です」彼は私を見た。「おじい様が佐藤を吉田の席に置こうとしている——これは吉田だけの推測ではありません。私にも風聞が届いています。もしあなたが上がったら、佐藤はどうなりますか?」
この問いは、私がずっと避けてきたものだった。
「佐藤は動かしません」私は言った。「彼は警備部門に残り、自分の本分を果たす。もし彼に真に能力があれば、いずれ彼の居場所はできるでしょう」
「もしおじい様がどうしても彼を押し上げようとされたら?」
「それなら彼は一つの事実と向き合わねばなりません——佐藤には経験も人脈も実績もない。彼を押し上げることは、彼を傷つけることであり、佐々木の会社をも傷つけることです」
井上はうなずき、それ以上は何も言わなかった。
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井上の家を出る時、空はもう暗くなっていた。私は建物の下に立ち、煙草に火をつけた。旧市街の路地は狭く、頭上には入り乱れた電線、遠くには川の向こうの佐々木の建物の輪郭。井上の言葉がまだ頭の中で巡っていた——「あなたはおじい様の若い頃を思い出させる」。
これは私を褒めているのではない。これは私に告げているのだ——あなたは彼になりつつある、と。全てを計算し、全てを掌握する者。最後には碁盤の前に一人、向かい合う者もいなくなるような者に。
携帯が震えた。結衣からの報せだった。
「井上さんに会ってきたの?」
「どうして知っている?」
「推測よ。あなた、最近は皆に会っているでしょうから」
私は笑った。彼女は確かに私をよく分かっている。
「会ってきた。彼は何も約束しなかった」
「それで十分よ。彼が反対しなかったのが、一番良い結果なの」
私はこの報せを見つめ、考えた末に返した。「結衣、もし私がいつの日かおじい様のようになったら、それでもあなたは私を選ぶか?」
彼女は長く返事をしなかった。もう返事は来ないかと思われた。
そして声の記録が届いた。私が開くと、彼女の声はとてもかすかで、まるで寝言のようだった。
「あなたは彼のようにはならない。あなたは彼より冷たいけれど、彼より清らかだから」
私は路地に立ち、この声の記録を二度聞いた。そして画面を閉じ、駐車場へ向かって歩き出した。背後の旧市街には無数の灯りがともり、前方の川の向こうには佐々木の建物の冷たい光。私はその中間を歩いていた。一本の糸のように、この二つの端を繋いで。




