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浮気調査から始まる商業帝国築き上げた件について  作者: 白鼠


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23/41

23

私は送金しなかった。誰かに会う約束もせず、何も調べなかった。ただ待った。


一日目、凪の如し。吉田から報せはなく、結衣は普段通り出社し、葵からも電話はなかった。鈴木から一通の報せがあり、吉田の息子の金の行き先についてもう少し深く調べられたとあったが、私は続けさせなかった。今は掘る時ではない。「中断」と返し、携帯を机の上に伏せた。


二日目の午後、吉田から報せが来た。「小林様、あの金は?」


私は返した。「準備しています。そちらは、いつ頃進みますか?」


彼は十分ほど間を置いて返してきた。「来週だ。おじい様は沖縄へ一週間行かれる。その前に話を通す」


おじい様が行かれる。これは隙間だ。彼がおじい様の出発前に話を通すのは、当面の拒絶を避けるためだ。帰ってきた時には、物事はもう手続きの中にある。拒絶の代償はより高くなる。吉田は佐々木の会社に三十年いる。こういうことは何度もやってきた。


この報せを画面に写し、返事はしなかった。


三日目、結衣が夕食に誘ってきた。電話での彼女の声は普段通りだったが、私が良いと答えた時、彼女は一言多く尋ねた。「あなた、最近何かを待っているんじゃないの?」


「なぜそう思う?」


「感じ。この数日、あなた静かすぎる」


「何でもない。ただいくつか考えていることがある」


彼女は追及しなかった。電話を切った後、私は窓の前に長く座って考えた。彼女は鋭すぎる。私は何もしていないのに、彼女は感じ取った。監視ではなく、理解だ。女が男をそこまで理解し、彼の「静かすぎる」ことを感知できるというのは、良いことでも悪いことでもない。ただ、私の沈黙も彼女にとっては情報であるということだ。


夕食は彼女の部屋で、彼女が作った。三菜一湯、味は普通だが、盛り付けはしていた。彼女が前掛け姿で料理を運んでくる様子は、昼間の社長とはまるで別人だった。


「吉田さん、あなたに会ったの?」彼女は腰を下ろし、一切れの魚肉を私の茶碗に入れた。


「来週、話を通すと言っていた」


「あなたのことを?」


「ああ」


彼女はうなずき、何も言わず、食事を続けた。半分ほど食べて、箸を置いた。「小林、ずっとあなたに言えなかったことがあるの」


私は彼女を見た。


「おじい様が沖縄に行かれるのは、休暇ではないの。人に会いに行くのよ」


「誰に?」


「松本美月」彼女がこの名前を口にする時、声は穏やかだった。まるで普通の名前を言うかのように。「彼女は沖縄で余生を送っている。おじい様は年に一度、一週間彼女のところへ行かれる。このことは、会社では誰も知らない。吉田さんも知らない、母も知らない。私も一昨年知ったばかりよ」


私は驚いた様子は見せなかった。しかし頭の中で計算していた——松本美月は沖縄にいる。おじい様は毎年一週間彼女のところへ行く。吉田がこの隙間に私の推薦を通そうとするのは、偶然ではない。彼はおじい様が沖縄で何をしているのかは正確には知らなくとも、この一週間は彼の心が会社にないことを見越しているのだろう。帰ってきた時には、物事は既定事実として覆せなくなっている。


「このことを知ってどれくらいだ?」私は尋ねた。


「二年」彼女は私を見た。「佐藤を調べている時に知った」


「なぜ私に教えなかった?」


「あなたに関係ないからよ」彼女はうつむき、指で机の上をなぞった。「それはおじい様のことであって、佐々木の会社のことではない。あなたを巻き込みたくなかった」


「だが、今教えた」


彼女は顔を上げ、笑った。「だってあなたはもう巻き込まれてしまったから。吉田さんが今この時にあなたの推薦を通そうとしているのは、彼が好機だと思ったからじゃない。彼はおじい様が今週会社に構っていられないことを知っているからよ。彼はおじい様の秘密を使って、あなたに道を開けようとしている」


「あなたはそれが良くないと思うのか?」


「あなたが知っておくべきだと思ったの」彼女は再び箸を手に取った。「あなたが知れば、吉田さんが何をしているのか分かる。彼があなたを助けるのは、あなたが好きだからじゃない。あなたが彼を助けているからよ。彼はおじい様の秘密を使って自分の出口を換えようとしている」


「では、あなたはどうだ?」私は尋ねた。「あなたはおじい様の秘密を使って何を換える?」


彼女は一瞬呆けた。箸が宙に止まり、菜が茶碗に落ちた。


「あなたを換える」彼女は言った。声はかすかだった。「あなたが私の側にいてくれることを」


この言葉の重みは、これまでの全てよりも重かった。


私は手を伸ばし、彼女の手を握った。彼女の手はとても冷たかったが、引っ込めはしなかった。


「私はずっとこの側にいる」私は言った。


彼女はうつむき、口元を動かした。何も言わなかったが、指を強く握り返してきた。


食事を終え、私は彼女の皿を片付けるのを手伝った。彼女が皿を洗っている時、私は台所の入り口に立ち、彼女の背中を見ていた。水の音が大きく、彼女の影は灯りの下で細く見えた。


「結衣」私は彼女を呼んだ。


彼女が振り返った。「うん?」


「佐藤のこと、まだ私に説明が足りない」


彼女の手が一瞬止まった。水を止め、振り返り、食器棚に寄りかかった。


「何が聞きたいの?」


「あなたは二年も前から吉田を調べていた時、佐藤の役割を既に知っていた。彼の祖父がおじい様の弱みを握っていることを、吉田が彼を調べることを、おじい様が彼を利用するかもしれないことを。あなたはそれを全て知った上で、私を選んだ」


彼女は何も言わず、ただ私を見ていた。


「あなたが私を選んだのは、私が佐藤より役に立つからだ。しかし彼への感情は本物だ」私は彼女の目を見た。「この二つはあなたの心の中では矛盾しない。私の心の中では矛盾する。教えてほしい——一体どちらが本当なのか?」


沈黙。台所には冷蔵庫の唸りだけが響いていた。


「どちらも本当よ」ようやく彼女が口を開いた。声はかすかだった。「私があなたを選んだのは、あなたが私に欲しいものを取らせてくれるから。私の心に彼がいるのは、彼は私の戻れない過去だから。この二つは、あなたの心の中では矛盾するけれど、私の心の中では矛盾しない」


彼女は歩み寄り、私の前に立った。とても近くに。彼女の前掛けの油の匂いと、彼女の纏う香水の香りが混ざったものが届く距離だった。


「小林、私はあなたを騙さない。あなたも騙せない。あなたは賢すぎるから」彼女は顔を上げ、私の目を見た。「私のあなたへの感情は本物よ。あなたが役に立つからじゃない。あなたがあなただからよ。でも、あなたが役に立つことが、私に決心させた最後の重しだったことは否定しない」


「もし佐藤に私のような家柄と能力があったら?」


彼女は一瞬呆けた。そして笑った。その笑みはとても苦かった。


「それなら彼は佐藤じゃない」彼女は言った。「それは別の人よ。私は彼を好きにならない」


私はしばらく沈黙した。そして手を伸ばし、彼女を引き寄せて抱きしめた。彼女の身体が一瞬強張り、それから力を抜いて、私の胸に寄りかかった。


「十分だ」私は言った。「この答えで十分だ」


彼女は私の肩に顔を埋め、何も言わなかった。しかし私の服を握る彼女の手は、とても強かった。


その夜、私は彼女の部屋に泊まった。彼女が眠った後、私は居間の長椅子に座り、今日のことを頭の中で整理した。吉田は来週、私の推薦を通す。おじい様の秘密を使って道を開ける。結衣はこのことの核心を知っていたが、私が巻き込まれた後で初めて教えた。彼女は私を騙さないが、全てを教えるわけでもない。彼女の「隠さない」には境界がある——自分に関係するまでは、彼女は言わない。


これは裏切りではない。しかし信頼でもない。これは計算だ。彼女は私が知っても去らないと計算し、だから最後まで待って言ったのだ。私が吉田は約束を反故にしないと計算するのと同じように。


私たちは皆、勘定を取る者だ。


携帯が震えた。吉田からの報せだった。「おじい様、明日出発される。木曜日に話を通す」


私は「分かった」と返した。そして鈴木の会話画面を開き、一行打ち込み、長く見つめて、消した。また一行打ち込み、また消した。最後に画面を閉じた。


今は何も調べる必要はない。待つ。


木曜日、吉田が私の名を挙げる。おじい様は沖縄にいる。一週間後に戻る。この一週間の間に、佐々木の会社の内部で手続きが進む。井上も知るだろう、伊藤も知るだろう、知るべき者は皆知るだろう。そしておじい様が戻った時、既に広げられた局面を目の当たりにする。彼はどう選ぶのか? 吉田の公開推薦を却下すれば、吉田と公然と決裂することになる。佐々木の会社に三十年いる古参の臣が、会社の半分の旧市街再開発の案件と、表に出せない秘密の数々を握っている——決裂の代償がどれほどか、おじい様は誰よりもよく知っている。


しかし受け入れれば、私という「外の姓の者」を佐々木の会社の中枢に招き入れることになる。これも代償だ。


吉田はおじい様に選択を迫っている。そして私は待っている。


木曜日の朝、私は家に座り、窓の外を見ていた。川面には霧が立ち、向こう岸の佐々木の建物は上半分しか見えない。携帯はずっと鳴らなかった。


十時、井上から報せが来た。「吉田副社長、本日の会議であなたのお名前を出されました。旧市街再開発の案件には新たな血が必要だ、住宅地産事業部の副部長として推薦したい、と。伊藤さんは無回答。吉田さんの者は賛成しました。会議の記録はおじい様の電子信箱に送られました」


私は返した。「井上副社長、ありがとうございます」


「私に礼は不要です。私は何も言っていませんから」井上の返事は早かった。「小林様、申し上げてよいか迷うことがございますが」


「どうぞ」


「吉田さんがあなたを推すのは、あなたに能力があるからではありません。彼には誰かが必要なのです。あなたがその席に就けば、彼の者です。後日おじい様が清算なさる時、あなたも逃れられません」


「分かっています」


井上からはそれ以上何も来なかった。


私は携帯を置き、背もたれに寄りかかった。吉田の者、おじい様の標的、結衣の刃。どう計算しても、私が前に立つ者だ。しかし私は元から前に立っていた。この席を取ろうと決めた時から、退路はない。


午後、結衣から報せが来た。「聞いたわ。吉田さん、動くのが早いのね」


「どう思う?」


「彼は賭けているの。おじい様が彼と決裂しない方に賭けている。勝てば、あなたは上がる。負ければ、あなたも彼と共に退く」


「あなたは楽観していないのか?」


彼女はしばらく沈黙した。「私は見ているの。おじい様が戻ってきて却下したら、どうするのかを」


「ならば却下させればいい」


「どういう意味?」


「却下は終わりではない。却下はただ全ての人に告げるだけだ——吉田の推薦は否決された、おじい様と古参の臣の亀裂は露わになった、と。その時になれば、立場を選ぶべき者は立場を選ぶ」


彼女は長く返事をしなかった。そして声の記録が届いた。私が開くと、彼女の声はとてもかすかだった。「あなたは最初からこの一手を計算していたのね」


これは問いではなかった。


私は返した。「あなたもだろう」


彼女は否定しなかった。ただ「うん」とだけ返した。


その夜、私は一人で部屋に座っていた。携帯は一晩中静かだった。おじい様は沖縄にいる。どこかの部屋で、松本美月という女と共に過ごしている。吉田は家で、彼の計算が当たるかどうかを待っている。結衣はどこかで、彼女が選んだ者と彼女が選ばなかった者のことを考えている。私も待っている。


一人の老人が、沖縄の日差しの下で決断を下すのを。私の未来について。


窓の外、川の向こうの建物はあのまま高い。しかし私は知っている。それらの建物の影は、もうすぐ描き直される。

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